Word of “X”   作:◯岳◯

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8話 : 針路決定

 

輝かしき王都から脱出するために、船に乗り込んだ後。まあ色々あった。木箱に頭から突っ込んだせいで額から血を流していた傭兵と、足を怪我しているミラの手当をしたり。交易品の中から傷薬になるものを売ってもらって、それを調合して傷口に塗ったりしたり。傭兵の方は、明日ぐらいには治っているだろうけど。

 

船長に対しては、真摯に対応した。急な乗船認めません、それよりも何で追われてたんだコラ尋問するぞゴラァと詰め寄ってくるヒゲ船長に対しては、正直に答えた。「あれー尋問なんかされるとうっかり超ヤバイ機密喋っちゃいそうー………それでも聞きたい?」と。

 

直後、船長は無言のまま去っていった。

 

てーか引きつった顔されたけど何でだろう。僕はただの善意で、正直な話をしただけなのに。あーあー、世知辛いなー、空も海も青くひろいのに、人の心は狭いのなー。

 

「いやいや。軍に追われた奴からあんな笑顔で脅迫されたら引くだろうよ………お前さん、見た目に反して無茶苦茶する奴なのな」

 

疲れた顔でそんなこという傭兵。額の絆創膏が痛々しい、けどあの時の光景が思い出せてちょっと笑える。で、この芸人じみた落ちを見せてくれた傭兵さんだが、名前をアルヴィンというらしい。僕達をたすけてくれた理由は、「その方が金になると思ったから」らしい。正直な所は好感が持てるね。軍部に喧嘩を売るだけの理由にも思えないけど。

 

「お前さんも、だろ?」

 

「まーね。それにしても、奇襲のタイミングは本当に完璧だったよ。腕もいいようだし、なんで傭兵なんかやってんの? その力量なら士官しても良いところまで行きそうなのに」

 

この傭兵ことアルヴィン、見た目は飄々としているけど腕は良いと思う。身体強化の度合いも、強化した上での動きの良さ、後は奇襲のタイミングを見極める状況判断力も優れている。

 

「いや、入らねーさ。俺って縛られるのが嫌いな奴なのよ。それに軍なんて硬いしめんどくさいし、いやーな命令には従わなきゃなんねえし………なあ?」

 

「まあ………それは、分かるような気がするけど」

 

でも何で同意を求めるかな。確かに僕も、誰かに命令されるのは嫌いだ。そういう意味では兵士には向いてないだろう、自覚もしている。まあ、兵士には愛国心が必要だというし。

 

「でも、まあ、働ける人なんでしょ? ああまで良いタイミングで援護してくれたし、情報収集も得意なんだろうね」

 

「まーな。単純な護衛役受けるにしても、情報が大事だろ。魔物も、雇い主もな」

 

アルヴィンの物言いには含むものがあった―――が、確かに同意できる部分はある。事情を隠して依頼する奴なんてザラだし。僕も今まで傭兵みたいな仕事をしたことはあるが、5割は依頼の内容に虚飾を混ぜていた。後で問い詰めると、「知らなかった」の一点張り。特に商人に多かった。あいつら口がうまいし、いつの間にか丸め込まれてしまう。一度、根は正直な商人にそこらへんのレクチャーを受けたが、ああいった世界では騙される方が悪い、とのこと。

 

それで傭兵を怒らせて、逆に命を落としたバカもいるらしいけど。それも、情報収集が足りないからで片付けられる世界だ。前もって傭兵の評判を調査しなかった馬鹿、ということで商人の間からは間抜け扱いされていたとか何とか。

 

でも、アルヴィンという名の傭兵は、聞いたことがないなあ。あのタイミングで助けに来れるからには、腕も頭もかなりのモノなんだろうけど。

 

(いやでも、あの速さはおかしいか?)

 

考えるが、そういった状況になったことがないのでイマイチ分からない。勘の良い奴なら分かるかもしれないけど。それでもまあ、僕達の立場を考えた上で分析すれば分かるのだろう。王都にはとどまれない二人で、次にどうやって逃げるのか。そう考えれば、解答は2つだけだ。

 

街道を突っ切るか、あるいは船で国外に脱出するか。アルヴィンはその賭けに勝った――――ということにしておこう。ここで下手に揉めると、厄介な事になりかねない。裏切ると決まったわけでもない。イマイチ胡散臭いけど、使えるものは使わなければいけない状況だ。でも、油断は禁物である。こういった、悪意をおおっぴらに見せてこない奴は本当に対処に困るのだ。得てして何かを隠している場合が多いが、それを隠すつもりでいるから、発覚がどうしたって遅れる。表向きの関係を続けるのが吉だ。裏切られてもいいように、距離を取って。それに、見たことがないあの武器。研究所でぶちのめしたあの衛兵と同じような武器を使っているのは、きっと無関係ではあるまい。尻尾を出せば即座に捕まえよう。なに、表だけの関係を続けるのは得意だ。伊達に門番ことモーブリアさんから「外面は完璧な詐欺まがいの医学生」とか言われてない。

 

でも、この先どうするのだろうか。アルヴィンにはまだ聞いていないが、正直可能であればこのままついてきてほしい。今のミラは戦力には数えられない。ということは彼女を守りながらの旅になるのだが、それはきつい。研究所のような狭い場所ではない、広い場所で。例えば平原などでは、後ろを取られる可能性が高くなるのだ。マナの強化といえど、万能じゃない。特に背後からの攻撃は防御しにくく、当たり所が悪ければ致命傷になりうる。痛みも凄まじく、思わず悲鳴を上げてしまうほどきついのだ。

 

そんな痛みの危険も、落命の危険もできるだけ回避したい所だが――

 

(でも、どうするかなあ………ん?)

 

そんなこと考えている途中、ミラが甲板に出てきた。無事な方の足と、木材を借りて即興で作った杖に体重をかけて歩いている。

 

「具合はどう?」

 

「まだ痛むが、かなりマシになったよ」

 

「もともとそれほど大きな怪我じゃなかったしね。明日には完治していると思うよ」

 

「それは重畳………って回復はえーな」

 

アルヴィンが驚いている。その理由も分かるけど。自己治癒のスピード速いもんね。マナの量が豊富なせいか、羨ましい限りだ。何というか、見たこと無いぐらいに速い。流石は精霊の主ということかな。

 

そのミラは、アルヴィンに自己紹介をしていた。アルヴィンも同じで、互いに名乗りあう。ミラの方は、今の状態でフルネームを教えるのはまずいと思ったらしい。マクスウェルの名は隠し、ミラとだけ名乗っていた。

 

で、落ち着いた所でこれからどうするのか聞いてみた。ミラはふむ、といい、あの時思いついたと前置いて言う。

 

「ジュードには言ったと思うが、一度精霊の里に………"ニ・アケリア"に帰ろうと思う」

なんでも、これから向う先のア・ジュールに、ミラの故郷であるニ・アケリアは精霊の里と呼ばれる所があるらしい。そこならば四大を再召喚できるかもしれない、とのことだ。ただ、その精霊の里はア・ジュールの奥地にあるので、徒歩で行くならばかなりの距離になるだろう、とか。全く聞いたことがない村だ。しかし、ミラが言う通りにそういった村があるんだろう。それにしても、精霊の里か………そういえばハ・ミルの村でそんな話を聞いたような気がする。で、詳しい場所をミラに聞いてみると、ドンピシャだった。

 

ニ・アケリアは、山奥の村のハ・ミルの更に奥地にある、キジル海瀑を越えた先にあるらしい。

 

「しかし、かなり遠いな。ハ・ミルの更に奥のあそこを抜けるとなれば、ここからじゃ4日はかかるぜ」

 

「徒歩で行くしか無いしね………道中に魔物がいるし、それなりに準備してからの方がいいか」

 

距離についてアルヴィンと話していると、視線を感じた。そっちを向けば、ミラがじっと僕の眼を見つめている。

 

「えっと、僕の顔になにかついてる?」

 

「うむ、眼と鼻と口がついているな」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

聞き返すと、ミラは冗談だと真顔で言った。そして、次に浮かべた表情は――――困惑。

「………ジュード。君はもしかして、私についてくるつもりなのか」

 

「そのつもり、だけど」

 

「何故だ」

 

ミラは、問うてくる。その顔に浮かぶ表情はわかりやすい。

 

―――困惑だ。まるで顔に文字が書かれているかのようだった。

 

(お前が何を考えているのか分からない、ってか)

 

一応の信用は、されているのだろう。しかしどこまで信用していいか、分からないといった具合か。どうしようかなんて、考えることもない。隠すことでもないので、正直に答えることにした。

 

「あの槍を壊したい。あのクソッタレのブツは絶対にぶっ壊さなきゃならんシロモノだと思ってるから」

 

教授の仇、という事もある。だけどそれ以上に、教授の研究成果が軍事転用されていたというのが許せない。あれは、あんな使われ方をされていいものじゃない。それに、自分の研究の一部があの糞ったれな槍に使われているかもしれないとか、冗談でも嫌だ。

 

「あの槍の存在だけは、認められない」

 

「一国と敵対することになっても、か?」

 

誇張ではない、事実だけをミラは突きつけてくる。しかし、問題はそこにはないのだ。夢のこともある、それでも――――

 

「認められないと決めた。なら邪魔する奴は全て、打倒すべき敵だ。例えラ・シュガルを相手にすることになっても、その結論を曲げるつもりはない」

 

「………剛毅なことだ。しかし、私についてくる理由になっていないぞ」

 

「理由ならあるさ。だってあれは僕一人じゃ到底壊せないほど、大きい。今頃は警備も更に強化されているだろうし」

 

だから僕、守る人。あなた、壊す人。告げると、ミラは納得したように頷いた。

 

「協力してくれるのは願ったりだが………辛い旅になるぞ?」

 

「―――"選ぶべき道の前で躊躇うな"。尊敬する師匠の言葉なんだ。そして、その教えは正しいように思うから。それに僕も、自分の事情で動いているだけだって」

 

そりゃあ、何かに振り回されている感はあるけど。昨日のこの時間は、晩御飯を食べながら勉強していたのに一日が経過しただけでこうなるなんて、思ってもいなかった。本当に、今でもちょっと現実とは思えないでいる。だけど、ハウス教授が死んでしまったのは確かだ。そして、絶たれたと思っていた道も、別方向だがわずかながらに残っている。

 

(………四大と会えるなんて思ってもみなかった。彼らがよみがえれば、聞きたいことも聞けるだろうし)

 

霊力野の仕組みや、精霊術を使えない人に関することとか。ともあれ、それとは別として今はミラを守らなきゃいけないんだけど。なんせこのミラ、無防備にすぎる。あの時でも、もうちょっと慎重に行けば何事もなく王都を脱出できたはずだ。今の自分の状況についても、本当に把握できているのか怪しいし。そこで、僕と――――もう一人。

 

「………アルヴィン。ちょっと、頼みたいことがあるんだけど」

 

頭の後ろに手を組んで傍観していたアルヴィンに、事情をぼかして依頼する。内容は単純なもので、ミラに剣を扱う術を。剣で戦う時の基礎を教えて欲しいのだ。

 

「それは………構わねーが、なんでわざわざ俺に?」

 

「だって僕は拳士であって剣士じゃないし。そんな大剣を使いこなせてるアルヴィンなら、きっと出来るでしょ。基本はひと通り理解しているだろうし」

 

見た所、アルヴィンが背負っている大剣はかなり使い込まれていた。こんな大きな剣を長期間使える、ということは間違いなく剣の振り方を知っているに違いない。力だけで使えるような大きさじゃないからな、これ。振る時に刃筋も立てられない剣など、ただのムダに重たい鉄の塊だ。使えないならば、そもそも使わないだろう。きっと違う武器を選んでいるはず。

 

「その年でよくそこまで知ってるな………まあいいか。俺でよければ教えるぜ」

 

「アルヴィンも、すまんな」

 

「俺ァ傭兵だからな。依頼料は坊主から貰えそうだし、報酬が問題なけりゃやるさ。それに、役得だしな」

 

「………役得? ジュードも言っていたが、何のことだ?」

 

「あー、まあ、いや、あはは」

 

誤魔化すように笑うアルヴィン。まあ、気持ちは分かる。

 

(だって剣振ってる時のミラってば、胸がたわわに揺れてらっしゃるもんね!!)

 

視覚攻撃とはああいうのを言うのだろう。落ち着いた今になって改めて見てみるが、これはスゴイ。思わず名前の後に様をつけてしまいそうになるぐらいには。

 

「でも教える時は真面目によろしく」

 

「わかってるさ、これでもプロだからな。でも………正直すごいよな」

 

こぼれ出た本音に、考えないまま頷く。男ならば、黙っていられまい。本能なのである。気づけば僕達は握手していた。

 

「少年も正直者だねえ…………それで、あれを背中で堪能したようだが、感想を一言で頼むぜ?」

 

からかうように問うてくるが、それで顔を赤くするような僕ではない。何故ならば、背負っている途中にこの世の至高を垣間見たが故に。

 

だから、率直に告げた。

 

「この世に楽園があるのなら―――きっと、あの胸の奥に詰まっているのさ」

 

「さらっと詩的な表現だな、オイ」

 

まじ羨ましい、とか素の本音を零しているアルヴィン。いや、その気持ちは分かるよ。緊急事態ゆえ致し方なしのあの事態。だが、副次効果が得られるとか思ってもみなかった。思わず背負った時のあの感触。

 

いや、まじですごかったよあの双丘。

 

「どうしたのだ二人共?」

 

「「何でもないよ(さ)、ミラさん」」

 

あなたのオパーイについて考えていたとか言えません。でも、ミラの首を傾げる様子はちょっと可愛かった。

 

 

 

船が目的地に到着したのは翌日だった。船が到着した場所は世界に数ある海停の一つ、"イラート海停"。ア・ジュールにある港だ。幸いにしてハ・ミルへと続く街道があるので、また船に乗る必要もない。そして、降りてからすぐに特訓が始まった。とは言っても、剣の握り方や振り方、戦闘中に注意すべきことを教えただけなのだが。

 

あとは、リリアルオーブについて。ミラは、今回の旅に出る直前にこれを持たされたようだ。人間の潜在能力を引き出すという、とんでもない道具。戦闘を職に持つ人間であれば、それこそ喉から手が出るほど欲しいというシロモノ。使いこなせれば、それこそ百人力となる貴重品だ。

 

「二人共も、これを持っているのか?」

 

「かなり前にね。修行が終わった後、師匠からプレゼントされた」

 

「俺も、だな」

 

見れば、アルヴィンは一枚目の5層目にまで花弁が開かれている。前はもっと開いていたはずだけどな、とアルヴィンは苦笑するが、まあそれはそうなるかもしれない。このリリアルオーブだが、戦いの中に身を置き続けないと、その効能を保てない。実際の戦闘を行わない、臨戦態勢を保たない、そういった"何もしない"期間が長ければ長いほど、その花弁は少なくなっていくのだ。

 

「その点、お前さんは異常だけどな」

 

「いや、これも修行だし。常在戦場は闘技者のたしなみですよ」

 

「………お前は医学生ではなかったのか? そういえば、私達を治療する時も治療術を使わないでいたが」

 

あー。やっぱり、そういう感想抱くよね。でも、ここで真実言うのはなんか嫌だ。というか、わざわざ説明したくもない。けど、そのままじゃあすまないか。よし、言い訳しよう。

 

「僕、実は精霊術は苦手なんだ。それよりも相手を殴る方が上手だから」

 

「殴る方が得意………それは、なんとなく君らしいな」

 

「……ノーコメントで」

 

まさかそんなに早く納得されるとは思わんかったよ。あと、気を使ってくれてありがとうアルヴィンさん。ていうか納得されてるけど、それはそれで引っかかる。殴る方が得意とか、間違ってないけどそれ何か医学生として致命的じゃないかね。いや、腕っ節が強いって誇れることなんだろうけど、なんだろうこの複雑な感情は。

 

「ふむ、謙遜することはないと思うぞ。対峙したから分かるが、君の体術は見事だった………しかし、最近の医学生は君のように武術を修めているのか?」

 

「うん、割りと普通に。ほら、医術は戦争だって言うじゃない?」

 

「聞いたことはないが………都会では、そうなのか」

 

勉強になった、と、真顔で顎に手を当てて頷くミラさん。いや、冗談なんだけどね。横にいるアルヴィンは、無言で手を横に振っている。ツッコミたければ突っ込めばいいのに。で、このままじゃなんだから、嘘だと説明すると、ミラは驚いたような顔を見せる。

 

「嘘? となると………君は、私に嘘をついたのか」

 

「そうだけど、バラす前に分かるでしょ普通は。あのお綺麗な医学校の中に、僕みたいなのが数百人いると思う?」

 

「それは………嫌だな」

 

「俺も、その意見には同意するぜ」

 

「えー二人共酷くない? 何か言葉の刃が突き刺さるんだけど」

 

涙がちょちょ切れる。まあ、慣れているからすぐに復活できるけど。

 

「いや、私は嘘が嫌いだからな。その意味では、君の方が先に言葉の刃をぶつけてきたのだろう」

 

「普通は冗談だと取ってくれるって………つーかさあミラさん」

 

か、顔が怖いって。何で怒るかなーっつーか自分で言うのも何だが、僕みたいな医学生が他にいるわけないでしょ。いや、本当に自分では言いたくないけど。

 

「ふむ、つまり君は………意地が悪いのだな。それとも、イフリートの一撃に対する意趣返しか?」

 

「そんなつもりは決して。単なる冗談のつもりだったんだけど、ていうかマクスウェルさん、誰かから真面目すぎるって言われたことない?」

 

反応が正直すぎる。ちょっと前まで、ゴロツキの傭兵相手に対し、時にはシモネタのやり取りをしていてこちらとしては。何というか扱いに困るレベルです。一方で、傭兵ことアルヴィンは「イフリート?」とか言いながら顔をしかめている。

 

「そういうのは、とんと言われたことがない。それに………いや、私は………私に対する冗談というものは、あまり聞いたことが無い」

 

また、考え込んだ。それなりに人付き合いがあるような口ぶりだけど、冗談を言われたことがないとは何事か。いや、言わないのか普通に考えて。まあ、マクスウェルといえば、いわゆる1つの信仰対象だもんな。

 

奉じるべきは精霊の主。この世に現界した、偉大なるマクスウェル。リーゼマクシアを創りたまりし君ってか。引っかかるものは多大にあるが、アレか。

 

「ひょっとして、ミラ様と呼んだ方がいいとか?」

 

「いや、やめてくれ」

 

返答は速かった。

 

「その呼び方をされるとあの者を思い出してしまうし―――何より君に様付けで呼ばれるとな。正直、鳥肌が立つ」

 

「あはは、それはひどいなあ」

 

そんな嫌な顔をするなんて――――いいことを聞いてしまった。そう思ってしまうのは、僕の性格が悪いからだろうか。でも、何ていうかこんなに感情を顕にしてくれるなら、それも悪くない。

 

「いや、坊主も複雑な奴だな」

 

ぼそりとアルヴィンが何事かつぶやいているが、聞き取れなかった。それでも、前よりは余程近しいものを感じられる。力が無くなったからか、その圧倒的な雰囲気が消えたからか。少なくとも今のミラ=マクスウェルは、話していて不愉快にならない。四大がなくなって、戸惑っているのもあろうが。

 

だけど、口調は――――ほんの少しだけど、人間味を帯びたような気がする。

昨日、四大を従え。超然としていた時よりは、余程に。

 

 

「ん、何か言ったか?」

 

 

「いや、何も」

 

 

笑顔で答える僕の、その横でアルヴィンが呆れた顔をしていた。

 

 

 


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