えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 見慣れた校舎を歩く。今は球技大会だからだろう、人影があまり見当たらない廊下はとても静かだった。ふと、思う。球技大会のことだ。

 

「何故に野球一択なのだろうか……?」

 

 もっと色々あってもいいと思う。もしかしたらあったのかもしれないが、そんな話は一切耳にしない。戦線メンバーは誰も気にすることがなかった様だが。ヤー。レッツエンジョイベースボール。無理だ。エンジョイする前にバテる自信がある。

 

「オラに、体力を……っ!」

 

 廊下のど真ん中で足を踏ん張って両手を上げる。元気玉ならぬ体力玉。汗臭そうだ。それはもうとても。

 

「貴様、通行の妨げになっているぞ。道を開けろ」

 

「お、直井くん見ーつけたっ」

 

 体勢をそのまま維持しつつ後方からの声に反応すれば、そこには直井くんがいた。さらに、ちょっと視線を後ろに向ければ両手を上げながらこっちを見ている立華さんが控えているのも確認できる。どうやら体力をわけてくれているらしい。さすが生徒会長。

 

「どけ」

 

「オラに体力を」

 

 わけておくんなまし。あ、立華さんはもういいです。そんな目一杯背伸びしなくても大丈夫です。足がプルプルしてる。でも気持ちは受けとっておこうと思います。ありがとう。

 

「くだらないことを――」

 

「ならばいいだろう! 今度はミックミクにしてやる! あのボーカロイドのように!」

 

「――あのボーカロイドのように? ミクのことか……ミクのことかーっ!!」

 

「私の女子力は53万です」

 

「貴様のハートも資産もいただ――おい、止せ」

 

「げっとまにまに」

 

「止せと言っている」

 

 でも後ろの生徒会長さんは嬉しそうな顔してます。この2人はこういう話とかしないのかも。確か直井くんは隠してる的なこと言ってたっけ。バレバレだったらしいけども。

 

「改めてこんちは。ナツメです」

 

「副会長の直井だ。跪け愚民が」

 

「こんにちはナツメ。私は天使じゃないわ」

 

 言ってないです。

 

「貴様は何故こんな所で油を売っているのだ。全校生徒が参加を義務付けられている球技大会が行われているのを知らない訳じゃないだろう?」

 

「運動苦手れす。あと、生徒会って言うか立華さんにお話があって来ました」

 

「却下だ」

 

「実は球技大会が終わったらみんなで打ち上げやりたいねってお話なんだけども」

 

「却下だ」

 

「そうだね、大々的にワーワーやりたいし、とりあえず生徒会の許可もらって来いって仲村さんが」

 

「却下、と言っている」

 

「うん、悲しいけどこれ立華さんに聞いてるのよね」

 

 そんなに睨まないでくだしあ。

 

「で、立華さんはどう? 反対ですか?」

 

「打ち上げだけなら特別な許可はいらないはずよ。目的は何かしら?」

 

「花火やりたい」

 

「残念だけど、火の使用は――」

 

「あぁ、花火が夜空」

 

「――綺麗に咲いてちょっと切なくなるのね。許可するわ」

 

「心からありがとうを叫んでおきます」

 

 立華さんはかっけーんすよ。でもメンマは見つけていませんよ。

 

「だけど、あまり派手なのは許可できないわ。花火ではないけど過去に火が関わった事故があったの」

 

「ん、聞き及んでまする。なのでそこは大丈夫かと」

 

 仲村さん達が自ら起こしてることだし、さすがに二度目はないはず。同じ轍は踏まないお人だと思ってます。仲村さんもかっけーんすよ。

 

「という訳で打ち上げやるよ直井くん!」

 

「勝手にしろ」

 

 何故かやさぐれモードの直井くん。解せぬ。

 

「一緒に花火やろうず」

 

「断る。僕に関わるな」

 

「直井くんと、花火がしたいです……っ!」

 

「諦めろ。試合終了だ」

 

 何というホワイトヘアードデビル。

 

 

 

 その後、直井くんは不満そうな顔を隠すこともせずに一人で早々に去ってしまいました。立華さんは置いてけぼりです。お話しましょうか。球技大会戻りたくないし。

 

「たちばなさんたちばなさんたちばなさん」

 

「何かしら?」

 

「メンマが可愛過ぎて辛い」

 

「わかるわ、その気持ち。クォーター故の日本人離れした可愛い外見。そう、彼女はプリティー。それに加えてあの成長しきれていない幼さの残る言動。そう、彼女はピュア。つまりプリティーピュア。略してプリピュア。2人じゃないけど、2人はプリピュア。ナツメもそう思うでしょう?」

 

「あ、はい」

 

 久しぶりにスイッチが入ったと思ったら、一体何を言っているのだろうかこの人は。と思っていると。

 

「……ナツメ。こんな時に言うのもどうかと思うのだけど、実は貴方に言ってなかったことがあるの」

 

「あ、はい」

 

 急ですね。なんでしょうか。

 

「いいえ、違うわね。貴方だけじゃなかった。これは今まで誰にも言ってなかったことだったわ」

 

 あれ、シリアス? メンマはどこにいったのだろうか。あ、隠れてるのかな。もーいーかーい?

 

「あのね、ナツメ。実は私は……カップリング厨なのっ……!」

 

「うん、もーいーよー」

 

 相変わらずシリアスなんてなかった。僕はメンマを探しに行こうと思います。

 

「ナツメ! お願い……っ!」

 

「そんなことできない」

 

「ナツメっ! 貴方が信じてきたことを、私にも信じさせて……」

 

「これなんて最終回?」

 

「最終回? 何を言っているの?」

 

「なんか受信しただけっぽいのでお気になさらず」

 

 

 閑話休題。

 

 

 立華さんがなんか球技大会の様子を見に行くとかで外に行くと言うので一緒に着いて行きます。ぼちぼち戻らないと日向くんに怒られそうだし。

 

「ところでなんで急にカミングアウトしたの? 急すぎてとても困りました」

 

「それはもちろんメンマのカップリングについて聞いてもらおうと思ったからよ。ナツメはどう思う?」

 

「え、まぁ、そこは」

 

「やっぱりじんたんかしら。王道よね。とてもお似合いだと思う。でもね、ナツメ。他の2人のことも忘れないでほしいの。まずはゆきあつ。亡くなった彼女に扮したり、亡くなってからもずっと想っていたりとどうにもストーカーの気が見え隠れしているけどアレは純愛。履き違えてはいけないわ。そう、彼もまたピュアなのよ。きっとお互いを尊重できるステキなカップルになれると思うの」

 

「お、おう」

 

「そして次にぽっぽ。彼もまたステキな人間よ。大らかで包容力も合ってユニークな人柄。本人はあまり恋愛事とかには興味なさそうだし、イメージ的にもそうなのだけど彼も年頃なわけだし、きっと歳相応な恋愛観は持っているはず。言い方は悪いけど、確かに過去のことで逃げまわっていたわ。でも、最後にはそれも解消された。だから――」

 

「もーいーよー」

 

「かくれんぼがしたいの……?」

 

「なんでもないです」

 

 グランドがとても遠くに思えた。不思議だね。

 

 




こっそりと各話を修正いたしました。
でも特に大きな変化はございませぬ。

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