えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「椎名さん頑張って出塁してね」

 

「ああ。頑張るのはいいが――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「ん、遠慮はいらないので、がつんと痛い目にあわせてやってくだしあ」

 

「そうか。浅はかなり」

 

「ちょっ」

 

 提案したのはそっちなのに、なんてことは頭の隅にでも置いておく。そして意外にも粋な返しをしてくれた椎名さんが両手に持つ小太刀が干将・莫耶に見えてきてしまって困る。まじブロークン。

 

「椎名さんにネタが伝わることに驚いたよ、あたし」

 

「ね。前は伝わらなかったはずなのに」

 

 関根ちゃんと一緒になってそこんとこどーなんでしょうか? と椎名さんに視線を送るも首を傾げられた。きゃわわ。

 

「クール系ピュア忍者っ、キタコレ……っ!」

 

「関根ちゃん、落ち着いて」

 

 そんな感じで適当に話しながら椎名さんから色々お話を聞くと、どうやら仲村さんが大きく関わっているようだった。さすがと言うべきか、それともやはりと言うべきかは正直なんとも言えないラインなのでコメントは控えさせていただく所存です、とも思ったけどもやっぱり言います。さすがです。

 

「今度みんなで一緒にお茶でもしませう」

 

「馳走になろう」

 

「コーヒーとか飲める? やっぱり日本茶とかの方がいい?」

 

「茶を所望する」

 

「ん、じゃあ後でみんなでお茶パーティーしませうパーティー。和菓子用意しなきゃ」

 

「ぱーてぃー。祭りのことだな。是非参加させてもらおう」

 

「むしろ主役です。隣の席は俺と関根ちゃんが予約ね」

 

 主にカタカナ攻めにしようと思います。ついでにTKでも呼ぼうかな。英語わかんないから何言ってるか全然理解できない気がするけども。後は基本的にガルデモのみんなと仲村さん、音無くんと日向くんにって考えたけども、もう球技大会の打ち上げでよくね? って考えに至った。この試合が終わったら仲村さんの所に行って打診してみようと思います。自分で言って悲しくなるけども、別に俺いなくても勝率とか変わらないだろうしこのチーム。

 

「と言う訳で、関根ちゃん」

 

「殿は任せて」

 

 以心伝心。とても良い仲間を持ちました。

 

「椎名」

 

 と、そこで岩沢さんが椎名さんを呼ぶ。なんだ? と首を傾げながら岩沢さんを見る椎名さんに関根ちゃんと一緒にキュンキュンしつつも同じく岩沢さんに視線を送る。どうかしたのでしょうか?

 

「いや、だからアンタの番」

 

 あ、忘れてた。

 

「浅はかだったなり」

 

「二回目なり」

 

 でもちゃんとまっててくれたのでみんないいひとだとおもいました、まる。

 

 

 

 

「でね、関根ちゃん」

 

「なになになっつん」

 

 椎名さんを見送った後に関根ちゃんに声をかける。

 

「さっきからずっと思ってたんだけども、やっぱり人って定期的に構ってあげないとダメだと思うんだ」

 

「急にどしたの?」

 

「入江ちゃんが岩沢さんとずっとくっついてる件」

 

「なん……だと……?」

 

 椎名さんに夢中で気が付いてなかったみたい。

 

「そ、そんな……。みゆきちが、あたしのみゆきちが、岩沢先輩に寝取られた……!」

 

 寝取られたとかまた人聞きの悪いことを。はい、そんな絶望的な表情しないの。女の子なんだからもうちょっと人目気にしなさい。

 

「で、でもっ! でもでもっ! あたしがしーなたんに夢中になってたせいで、みゆきちが……っ!」

 

 しーなたんて。もう一回言おう。しーなたんて。

 

「どうしようなっつん! あたしどうしたらいいのっ!?」

 

「うん、好きにしたらいいんじゃない?」

 

 別に入江ちゃん怒ってないと思うし。

 

「他人事だと思って!」

 

「あれ、関根ちゃんがめんどくさい」

 

「なっつんのバカ! もう知らない!」

 

「サツキちゃん乙」

 

 いいから早く行ってきなさい。うん、行ってくるー。岩沢さんと入江ちゃんに打ち上げのこと言っといてね。なっつんの奢りって言っとく。やめてください。うぃ。

 

 とかなんとかやっていると小気味の良い音が耳に入ってくる。椎名さんだった。宣言通り相手のピッチャーさんを倒した(?)椎名さんは一塁ベースでストップ。先に出塁していた音無くんと日向くんは走った様子はない。どうやら満を持して打順を迎える野田くんを出来る限り最高のシチュエーションで打席に立たせるつもりなのかも知れない。モチベーションコントロールですね、わかります。やるな日向くん。もしかしたら音無くんかもわからないけども。

 

「のだくんのだくんのだくん」

 

「……なんだ?」

 

「満塁だね」

 

「だからなんだ?」

 

「ここでホームランとか胸熱です。音無くんに勝てるかも」

 

「ふん、そもそも負けてなどいない」

 

「仲村さんも惚れちゃうかも」

 

「見ててくれゆりっぺぇー!」

 

 はい、いってらっしゃい。日向くんに向かってサムズアップ。お返事に良い笑顔と同じくサムズアップいただきました。我ながら良い仕事したんじゃないかと思う。

 

「自画自賛ですね!」

 

「ユイにゃんうっさい」

 

 わざわざ隣に来てギャーギャー騒ぐうるさいユイにゃんは華麗に無視して悠然たる態度で打席に佇む野田くんを見守る。実は野田くんってイケメンだよね。性格と言うか、言動でそれを補って余るほど残念な仕様になってるけども。普通にしていれば案外仲村さんも多少は振り向いてくれるんじゃないのだろうか。後で仲村さんに聞いてみよう。

 

 で、ピッチャー第一球、投げました。ボール。ややストライクゾーンから外れてたみたいです。第一打席で初球ホームランを打っている野田くんだから警戒してるのかも知れない。まぁ、野田くんはしっかり見極めていたみたいでピクリとも動かなかったんだけども。

 

 そして第二球。ボール。野田くんはまた動かなかった。続いて三球目。ボール。野田くんは動く気配すら見せていない。

 

「おい」

 

 このままフォアボールで押し出しコースかと言う空気が漂った瞬間、突然相手チームのピッチャーさんに向かって声をかけた野田くん。場が静まった。

 

「真面目にやれ」

 

 手に持ったバットのヘッドをピッチャーさんに向けて静かに言い放った野田くん。スーパーイケメンタイム始まるよー!

 

「先輩、相手のピッチャーってふざけてたんですかね?」

 

「野球には敬遠と言う作戦があってだな」

 

 別にふざけていた訳ではないかと思われ。

 

「つまり野田先輩がアホってことですね!」

 

「単純に打ちたかっただけかと」

 

 主に仲村さんのために。

 

「時にユイにゃん。球技大会終わったら」

 

「あ、打った」

 

「えっ」

 

 ゴメンね野田くん、せっかくの満塁ホームランの瞬間見てなかったよ。つまりスーパーイケメンタイム終了のお知らせです。

 

 


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