えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 三点リードで迎えました二回表。我々チーム日向はイケイケムードのまま攻撃に移ります。バッターは七番、ユイにゃんからです。人一番やる気のある彼女ははたして打ってくれるのでしょうか。少なくとも日向くんは期待していないようですけども。ユイにゃんまじドンマイ。

 

「かかってこいやー!」

 

 打席に立ち、審判の方に向かって構えて叫ぶ。お約束です。

 

「かかってこいやオラー!」

 

 ちゃんとピッチャーの方を向いて仕切り直し。なんとも締まらない二回表の攻撃。岩沢さんとかもうすでに飽きてるっぽいし。あ、違う。この人は最初からだった。

 

「ダメでしたー!」

 

 うん、知ってた。清々しいくらいバットとボールの間が離れたスイングを披露してくれたユイにゃんはあっという間に空振り三振。悔しそうにベンチへと帰ってきた彼女は次のバッターである入江ちゃんに激励を送る。

 

「入江せんぱーい! あたしの仇うってくださいねー! あ、ついでにボールも打ってくださーい!」

 

「ユイにゃんうっさい」

 

「ユイうっさい」

 

 関根ちゃんと気持ちがシンクロしますた。誰ウマなんて言ってあげない。あんま入江ちゃんにプレッシャーかけんな。ただでさえプルプルしてて心配なのに。

 

 なんでじゃー! とかなんとか言ってるユイにゃんを関根ちゃんと二人して無視。入江ちゃんを見守ります。今度入江ちゃんを見守る会とか設立しようかな、関根ちゃんと。

 

「なっつん。みゆきちが可愛過ぎる件について」

 

「激しく同意」

 

「アレはもう、アレだ。罪だよ」

 

「なお本人は無自覚の模様」

 

「ーーギルティ」

 

 真面目な声色で関根ちゃんが有罪判決を下す。入江ちゃんの運命や如何に。

 

「バカなこと言ってないでさっさと準備しろよナツメ。次お前だぞ」

 

 忘れてました(爆)。日向くんに指摘されていそいそと用意する。ヘルメット被ってバット持ってベンチの人たちに見送られてネクストバッターサークルへ向かった。関根ちゃんとユイにゃんが敬礼してたから敬礼し返すのも忘れない。いざ逝かん戦場へ。

 

「と言ってもまだ入江ちゃんの番なんですががが」

 

 またも涙目でガクブルな入江ちゃんが相手だとやはりやり辛いのか、ピッチャーさんの方の顔もなんだか優れない様子。カウントは1ストライク2ボール。入江ちゃんの苦悩はもうちょっとだけ続くんじゃ。

 

「お、あと一球だ。入江ちゃんがんがれ」

 

 審判が告げたストライクコールによってストライクカウントが一つ増えた。チームとしては塁に出て欲しいから悔しがる場面のはずなんだけども、ここにいる俺も含めて味方チームからはそんな様子が伺えない。それもそのはず。多分、今の皆の気持ちは一つになっている。早く楽にしてあげて。入江ちゃんにとってフォアボールとか鬼畜以外の何ものでもないです。入江ちゃんのライフはもうすぐ0よ。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていたら相手のピッチャーさんと目が合った。何やら意味深な顔つきで頷かれたのでこちらもややあってから同様に頷き返す。気持ちが通じたようでちょっと驚き。対戦相手のNPCまで巻き込むとか、入江ちゃんが愛されているようで何よりです。関根ちゃんとしては面白くないかもだけども。

 

 そして告げられるストライクコール。入江ちゃん、お務めご苦労様でした。安堵しながらベンチに戻って行く入江ちゃんと入れ替わりにバッターボックスへと入る。チラリとベンチの様子を伺えば、関根ちゃんに抱きつき頭を撫でられている入江ちゃんと、それを讃えるように囲んでいるチームメイトが見えた。なんとも微笑ましい光景です。さらに、相手のピッチャーさんを見ると、なんともやりきった表情を浮かべてこっちのベンチを見てた。そして不意に顔をこちらに向けたピッチャーさんと目が合う。一仕事終えた男の表情で立てられた親指。あんた男、いや、漢や。対戦相手だろうがNPCだろうが関係無い。サムズアップ。

 

「だがしかし」

 

 俺との勝負は話が別なワケで。所謂、真剣勝負ってヤツです。こちらの気概が届いたのか、相手のピッチャーさんも真剣な眼差しで迎え撃ってくれた。バットを構える。ピッチャーさんがセットポジションに入った。やってやんよぉっ!

 

「ストラーイク!」

 

「ですよね」

 

 俺がバットを振る暇もなくボールはキャッチャーミットに収まった。ど真ん中ですね、わかります。絶好球ぅ! とか、振らなきゃあたらねーぞー! とか。ミートカーソル合わせてー! とか、無理に強振しなくていいよー! とかとか。あの人たちは野球なんてロクにやったことないヤツに何を求めてるのだろうか。あと誰だパワプロ脳。いや、なんとなくわかるけども。

 

 で、第二球目。とりあえず振るだけ振ってみようと思ったのでスイング。

 

「ストライクツー!」

 

「知ってた」

 

 擦りもしないのはご愛嬌。無理ゲーでござる。しかしだからと言ってどうなることもなく、すでに相手のピッチャーさんはセットポジションに。やる気満々ですがなー。ならば仕方ない。

 

「ーーこれはもうリミッターを解除せざるを得ない」

 

 ザワザワし出す味方のベンチに、驚愕の色を浮かべる相手チームのバッテリー。はじめから解除しとけなんて声は聞こえない。聞こえないったら聞こえないんだ。

 

 どよめいた球場。焦る相手に、固唾を飲みながらも見守ってくれる味方。

 

「もう何も、怖くない……っ!」

 

 ピッチャー振りかぶって、投げた!

 

「これぞ秘打法! 花は桜木! 男は岩鬼! グワァラゴワガ」

 

「ストライクスリー!」

 

「あふん」

 

 ダメでした。せめて最後まで言わせて欲しかったです、まる。

 

「走れナツメー!」

 

「えっ」

 

 日向くんの声が聞こえた。走れって。なんで? アウトじゃないの?

 

「振り逃げだバカ! 早く走れバカ!」

 

 ああ、なるほど。そんなルールあったね。

 

「走れっつってんだろバカヤロー!」

 

「バカバカ言い過ぎな件」

 

 いや、走るけども。

 

 

 

「で、まさかのセーフという」

 

 どれだけ後逸したのだろうか、あのキャッチャーさんは。お世辞にも速いとは言えない俺の駆け足でもセーフになってしまったワケです。しかしまさか塁に出ることになろうとは思いもしなかった(爆)。そして日向くん狂喜乱舞。大袈裟な。そんなにダメな子に見えるのだろうか。心外である。で、打順は戻りましてバッターは一番の音無くん。もう疲れたから頑張って俺をベンチに返してくだしあ。

 

 


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