えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 はい、やって来ました。いや、やって来てしまった球技大会当日。戦線本部に集まった球技大会参加メンバーにどこから調達して来たのか、しっかり人数分のグローブと数本のバットを配った仲村さんは気合い十分である。参加しないのに。もう一度言おう。参加しないのに。オマケにもう一度。参加しないのに。

 

「こまけぇこたぁいいんだよっ!!」

 

「好きだね、それ」

 

「最近バリエーションの少なさを嘆いているわ」

 

「どうでもいいです」

 

「そうね。自分で言っておいてなんだけど、私もそう思ったわ」

「奇遇だね」

 

「そうね、奇遇ね」

 

 閑話休題。

 

 戦線本部に仲村さん一人を残し、全員で第一会場である野球場へと向かう。グラウンドとは別に野球場があるってちょっと贅沢な世界だね。そして、途中で遊佐ちゃんがオペレーターの仕事があるとか言って一人で屋上へ向かい、何故かごく自然な動作でその後を追おうとした岩沢さんを日向くんが頑張って止めてた。ギターを弾きに行こうとしたらしい。岩沢さんマジ岩沢さん。

 

「で、どこのチームから行くの?」

 

「まぁ、どこのチームでもいいような気もするけどな」

 

 俺の素朴な疑問に続いたのは音無くん。激しく同意だけども、なんか言わなきゃいけない義務感が。何言ってんだお前、と視線をいくつも受け取ったけどそのまま後ろにポイした。

 

「いや、実質受け取ってないだろ、それ」

 

「ノンノンノン。一度受け取ってからの、ポイ。一応受け取ってはいるのだよ、ワト無くん」

 

「誰だワト無って」

 

「音ソン、あ、音スンくん」

 

 ソンとスン、どっちが正しいんだろうな。確かスンが多数派だったかと。そうなのか? うん、確か。まぁ、どっちでもいいな。そうだね、どっちでもいいね。

 

 とかなんとか言ってるうちに高松くんのチームが先陣を切ってゲリラ参戦を試みる。またの名を乱入とも言う。何か色々と単語並べて理屈っぽく参加しようとしてるけどはたして上手くいくのかって、あ、脱いだ。一体高松くんは何に訴えかけているのだろうか。しかし参加は認められたらしい。恐るべし着痩せ体質。

 

「着痩せは関係無いだろ」

 

 と音無くん。ですよね。

 

「おー! ひさ子先輩見っけー!」

 

 ユイにゃんがひさ子ちゃんを発見。守備につくのだろうか、グローブ片手に歩く後ろ姿を確認しました。姿を見ないと思ったら、そう言えば高松くんのチームだったんだっけ。すっかり忘れてた。

 

「かっ飛ばせー! ひ! さ! 子!」

 

「バッターをですね、わかります」

 

 高松くんチームは後攻。ひさ子ちゃんのポジションはショートです。

 

「いやきっとひさ子先輩なら校舎すらかっ飛ばしますよー!」

 

「きっとひさ子ちゃんならやってくれる。わくわく」

 

「わ、わ、先輩! ひさ子先輩が物凄い形相でこっち見てます!」

 

「睨んでるとも言う。でもわくわく」

 

 そうとしか言わないな、とは音無くんのお言葉。あれ、なんかひさ子ちゃんのとこだけ空間歪んでね? 気のせいだと思いたい。あとが恐いや。

 

「そしていつの間にか竹山くんチーム、通称チームクライスト(笑)が行方不明に」

 

 どこに行ったのやら。存在感がなゲフンゲフン。なんでもないです。

 

「あっち行ったよー」

 

 サンクスです、関根ちゃん。

 

「向こうでも試合やるんだね」

 

「みたいだねー」

 

 関根ちゃんが示した方向に向かって目を凝らせば、大山くんや松下五段を率いた竹山くんが審判と相手チームを相手に交渉中。高松くんと違って真面目に理詰めできる人だからなんだかんだ理由付けて参加するんだろうなーと思う。さすが天才、改め変態ハッカー。でもハッカー関係ないね。で、だ。

 

「ひなたくんひなたくんひなたくん」

 

「…………」

 

「日向くんが無視する。キャプテンがチームの輪を乱すとはなんとも許し難い」

 

 そうだそうだー! とユイにゃんの援護をもらったけども、日向くんはお返事くれない。ふむ、何やら様子がおかしい。視線で音無くんに尋ねてみるも、首を横に振られた。知らない、と。

 

「日向くん」

 

 返事はない。

 

「ひなっちー」

 

 またも返事はない。どうしたものか。

 

「ふっふっふっ。ここはユイにゃんの出番ですね!」

 

「あ、面倒臭そうなんで結構です」

 

「なーんーでー! ここはユイにゃんの見せ場でしょー!」

 

「じゃあ、例えば。ユイにゃんはどうするつもりだったの?」

 

「まずはこのバットをですねー」

 

「音無くん、よろしくー」

 

「最近気付いたけどユイにゃんの扱いが雑過ぎんだよテメーはー!」

 

 今更気付いたのかこの子。それはそうとバットで背中グリグリしないでほしいです。そして、そんな俺たちを華麗にスルーした音無くんが日向くんの肩に手を置きます。

 

「……えっ、ああ、悪い。どうした?」

 

「それはこっちの台詞だ。今日のお前、変だぞ」

 

 そうだそうだー。ユイにゃんと一緒に抗議の声をあげるも無視された。カナシス。

 

「あー、いや、そんなことないぜ。いつも通りだよ」

 

「……お前、消えるのか?」

 

 何を突然、とも思ったけども、確かに言われてみればそんな気がしなくもない。何と言うか、言葉では表し辛いのだけども、雰囲気が何時もより儚く見える。もしかしたら、この球技大会の結果次第では日向くんは消えてしまうのかも知れない。しかし。

 

「ゆいにゃんゆいにゃんゆいにゃん」

 

「なんですかなんですかなんですか」

 

「これだけの人数巻き込んでおいて、一人だけ満足して消えそうな人がいる件」

 

「先輩……! 阻止が、したいです……!」

 

「よく言った。さすがユイにゃん。今日は日向くんを要チェックや」

 

 密かに燃える俺とユイにゃん。後で音無くんとか野田くんとか椎名さんとか岩沢さんとか関根ちゃんとか入江ちゃんとかも巻き込もうと思います。要は全員ですね、わかります。張りきって企画しなくては。

 

「やってやんよ!」

 

「やんよー!」

 

 俺とユイにゃんの言葉に反応した日向くんが言います。

 

「お、おお、二人ともやる気だな! 俺も負けてらんないぜ!」

 

 なんかやる気のベクトルが違う気もするけども、適当に話を合わせておきました。あ、でもなんか急にめんどくさくなってきた。日向くんの件は仲村さんに相談してみようかな。一番手っ取り早そうだし。リーダーさまさまですね。こんな時ばっかり。

 

 おっと、ぼちぼち参加交渉のようです。レッツゴー日向くん。いったってー。

 

 


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