えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 食堂での新たな出会い。その瞬間、俺の胸にまるで電流が走ったかような感覚がなんて展開には残念ながらならず、普通に三人で合席してうどんすすってた。素うどんうまー。

 

「岩沢さん、七味とってくだしあ」

 

「ん」

 

「うん、コレ醤油だね。そっちの赤いヤツが欲しいなー。ああ、違う違う。それソース。確かに醤油よりは赤みあるけども、うどんにソースは無理。うん、ノールックで掴めるのはスゴイけども、できればちゃんと確認してから指定したものをとって下さい」

 

 最終的に渡されたラー油を少しだけうどんに入れた。食べられなくはないけども、やっぱり入れなくてもいいと思う。ついでに悔しいから隣の肉うどんにも少し入れてやった。足踏まれた。

 

「話をしてもいいかしら?」

 

 目の前の席には先ほどのリボンの少女。仲村さんというらしい。彼女の前にはラー油を入れられそうなものはない。食事はもう済んでしまっているそうな。ちくしょう。

 

「食べながらになりますけど構いませんね!」

 

「ここでダメって言ったらどうするのかしら。構わないけど」

 

 短い返事と呆れた様なため息を頂戴した。何故だろう。第一印象は良くないのかもしれない。掴みを失敗した様です。

 

「岩沢さん、なんでこんなヤツ拾ってきたの?」

 

 こんなて。本人目の前にしてこんなて。

 

「面白そうだったから」

 

「コレは面白いんじゃなくって変って言うのよ。元の場所に戻して来なさい」

 

「ちょっと待て」

 

 あまりにもアレな扱いなので口を挟まざるを得ない。はい、そこー。岩沢さんも渋々立ち上がらないで。戻して来ようとしないで。大人しくうどんすすっててお願いだから。

 

「何よ? どうせ私が世話することになるのよ。毎日エサやったり、散歩したり。そんなの嫌よ」

 

「どこのお母さんですか?」

 

「誰が母さんかっ!」

 

「ノリいいね」

 

「それほどでもないわ」

 

 2人してちょっと満足。思ったより話せそうな人だった。向こうも向こうで先程の印象が少しだけ崩れたのか柔和な顔つきで口を開く。

 

「とりあえず言っておこうかしら。ようこそ、死後の世界へ。何か質問とかある? 私に答えられる範囲なら答えてあげるわよ」

 

 視線から鑑みるに岩沢さんからある程度は聞いているんだろう的な感じな物言い。はっきりと言葉にしなくても伝わるし、表情って大事なことだと思う。でも何より話聞いてくれない誰かさんと違って会話がスムーズに進行できそうで嬉しい限りです。

 

「うどんとラー油のコラボレーションについてどう思いますか?」

 

「すごく……食べたくないです……」

 

「実は可もなく不可もなくだったりします」

 

「でもナンセンスよね。ナンセンス。やっぱりうどんには七味でしょ。鉄板だしもはや常識と言っても過言ではないわ!」

 

 バンッと手の平をテーブルへと振り下ろした仲村さんは、そうよね岩沢さんとラー油をよこした張本人に確認作業を行った。あてつけか何かだろうか。

 

「ん? ああ、ほら」

 

「いや、別に私ラー油とってとか一言も言ってないんだけど。差し出されても困るわ。入れるものもないし。飲めって? 飲めってか? 一体何の罰ゲームよ」

 

「……?」

 

「私には岩沢さんがそんな不思議そうな顔して首をかしげる理由がサッパリわからないわ」

 

 もうヤダこの娘と崩れる仲村さんにそっと水を差し出した。お疲れ様です。

 

「あら、ありがと」

 

「隠し味にラー油を入れてみました」

 

「微塵も隠れてないのに隠し味とは奥が深いわね……」

 

 俺はこの人アホだな、と思った。

 

「ゆりはアホだな」

 

 一方、岩沢さんは口にした。コップが宙を舞ったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

「ところでナツメくん。なんでそんなに制服が汚れてるの? まるで転げ回りでもしたかの様に見えるのだけど」

 

「ええ、まぁ、屋上で少々エクストリームしまして」

 

 コップが宙を舞い岩沢さんが頭をさすりながら用があるからと言って退場して行った後、軽い自己紹介してから仲村さんと雑談をすることにした。あと、岩沢さんがちょっとだけ涙目だったのは見なかったことにしようと思う。優しさって大切だよね。話を戻すけど、仲村さんは聞けば何やらよくわからんことをしている戦線のリーダーだとかなんとか。すごいね。何がすごいのかもわからないけども。

 

「戦線に入ってくれるのなら新しい制服支給するけど? 」

 

「セーラー服はちょっと……」

 

「誰がセーラー服支給するっつった」

 

 戦線メンバーの男子用制服はブレザータイプらしい。

 

「ブレザーを羽織ってプリーツスカート姿の男子が拳銃片手に戦ってるの? 色んな意味で怖いね」

 

 あまりお近付きになりたくないです。

 

「女子用の制服から離れなさい」

 

 怒られちった。

 

「入れば綺麗な制服くれるの?」

 

「ええ、ちゃんと支給するわ。そうね、今ならオマケにアホな男子たちも付けてもいい」

 

「アホはいらね」

 

「ですよね」

 

 不良債権の押し付けいくない。

 

「あとは、ああ、消えない方法も教えるわ」

 

 うーん、それは知りたいかも。まぁ、ぶっちゃけ抽象的過ぎて『消える』の意味が今いち掴み切れてないけども知っておいて損はないだろうし。あと、何にしろ消えるのはなんかヤダし。

 

「まぁ、無理強いはしないけどね。アナタ、はっきり言って戦力にはならなそうだし」

 

「聞き捨てならない。数々の武器を使いこなし、無数の敵を駆逐してきたこの俺を侮辱するのか」

 

「ゲームの話なんて聞いてないわ」

 

「なぜバレた」

 

 G級むつかしいです。

 

「で、どうする? 戦線に入ってくれるのなら歓迎はするわよ」

 

「戦力にならないのに? お荷物なのに?」

 

「戦えなくてもできることはある。何より仲間が増えるのは喜ばしいことなの」

 

「やだイケメン」

 

 この人は本当に同年代の女子なのだろうか。はなはだ疑問である。でも、まぁ、仲間とか友達とかはやっぱりほしいよね。どこぞの魔法少女も独りぼっちは寂しいもんなって言ってたし。

 

「参加させていただきたく候」

 

「――そう。これからよろしくねナツメくん。死んだ世界戦線はアナタを歓迎するわ」

 

 今この時を持って俺は死んだ世界戦線、通称SSSに参加することになった。これから先、どうなることやら。それはきっと、神のみぞ知る……。

 

 

 

「ところで俺は何すればいいの?」

 

「雑用全般」

 

「ちょ」

 

 シリアス展開かと思った? 残念! シリアル展開でした!

 

 


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