えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 放課後楽しみだねー。そうだな。鬼やりたい。俺は逃げたいな。捕まえてやんよ! 無理、お前運動苦手だろ。ですよね。

 

「ただいまー。立華さんも参加するってさ」

 

 本部に着くなりそう言ったら怪訝な目をされた。なぜに。

 

「立華さんって誰かしら?」

 

 ああ、そうか。と仲村さんのセリフに納得がいった。皆も知らなかったのね。

 

「天使さんの名前。音無くんが誘導して聞きだした。やり手です」

 

「いや、普通に聞いただけなんだけど」

 

 ネタバレ早い。

 

「へぇ、案外普通の名前なのね。思わぬ収穫だわ。ご苦労様」

 

 何か考えるように口元に手を当てた仲村さん。

 

「とりあえず放課後に下駄箱に来てもらう方向で話しますた」

 

「そう。じゃあそれまでは各自自由にしてもらって構わないわ。ルール説明は開始前に行うこととする。以上。解散」

 

 はい帰った帰ったーとばかりにヒラヒラ手を振る仲村さん。あっさりと解散しました。

 

 

 

「割とあっさり了解してくれたね。立華さん。校舎内全力疾走フラグ立ってるのに」

 

 本部から追い出されて行くとこも無いので、音無くんと二人で自動販売機へと向かう。

 

「校舎内でやるのか?」

 

「ん、仲村さんが言ってたよ。それに外は部活で使ってるだろうし、中の方が面白いかと思われ」

 

「そう言えば言ってた気がするな」

 

「まぁ、校舎内走りまわる行為は模範的じゃないし、その方が立華さんも止めに来るかと」

 

「……なるほど」

 

「ところで音無くん何飲むの? あ、わかった。コーヒー?  コーヒーでしょ? コーヒーだよね? このコーヒージャンキーめ。もうカフェインと結婚すればいいよ」

 

「お前の結婚相手は素うどんだな」

 

「残念。すでに素うどんは俺の隣で寝てます。毎食イチャイチャしてます」

 

「汁物と寝るとベットが大変なことになりそうだ」

 

「ヤダ卑猥」

 

「その発想は無かった」

 

 到着して飲み物購入。オレンジジュースうまうま。

 

「記憶の方はどうだ? 戻ったか?」

 

「全然。音無くんは?」

 

「同じく進展はない」

 

 そう言えば、戦線きっての記憶無しコンビです。今気が付いた。

 

「記憶戻るといいねー」

 

「お前もな」

 

 そうだねーとか言い合いながら和む。記憶に関してはお互いあまり焦ってません。それこそ時間は腐るほどある訳だし、そのうち戻るんじゃね? と二人で話したのは結構前だった気がする。

 

「俺、記憶戻ったら結婚するんだ」

 

「素うどんとか。祝儀でかき揚げ包んでやる」

 

「浮気を促すとか音無くんサイテー」

 

「基準がわからん」

 

「素うどんは素うどんであり素うどんだから素うどんは素うどんなのだよ素うどん」

 

「なるほど、わからん」

 

「ですよね」

 

 俺もわかんない。

 

「話戻すけど、多分立華は鬼だよな」

 

「そだね。そうなると仲村さんは確実に逃げる方」

 

「ん? 待てよ。戦線メンバーは全員逃げる方の可能性も……?」

 

「さすがにそれはないかと。相手が生徒会全員ならまだしも」

 

「だよな。さすがにそこまでしないよな」

 

「うん。しないと思うよ」

 

 そうやって笑いあってたんですけど、何気なく言ったことってたまに当たるよね。

 

 

 

「なぜ僕まで……」

 

 不満そうに顔を歪める直井副会長を含む生徒会役員さんたちが下駄箱でたむろしてました。これは驚き。

 

「たちばなさんたちばなさんたちばなさん」

 

「何かしら」

 

「いっぱいいるね。どゆこと?」

 

「せっかくだし皆でやった方が楽しいかと思ったの。いけなかったかしら?」

 

 立華さんと二人して呆然と立ち尽くしていた仲村さんを見る。

 

「……やってくれるわね」

 

 ん?

 

「ははぁん、なるほど。なるほどね。いいわ。わかったわ。そっちがそのつもりならやってやろうじゃない……」

 

 んん?

 

「 全 面 戦 争 よ 」

 

「どうしてそうなった」

 

「説明しましょう。どうも、遊佐です」

 

 任せた。

 

「任されました。要するに、生徒会が総力戦を望むのであれば、我々死んだ世界戦線もやぶさかではない。つまり、生徒会と死んだ世界戦線の威信を賭けたハイパー鬼ごっこをしようじゃないか、とゆりっぺさんは言っています」

 

「おお、わかりやすい」

 

「しかし、あまり捻る余地がありませんでした。遊佐です」

 

「ドンマイ。ナツメです」

 

「遊佐です」

 

 しかし、副会長さん以外は皆やる気です。案外ノリが良いのね生徒会。

 

「ルール説明!」

 

 声高らかに宣言する仲村さん。

 

「基本的に既存の鬼ごっこのルールに沿って行うわ! 制限時間は3時間! 時間内に生徒会チームが我々戦線チームを全員捕まえればそっちの勝ち! そして我々が逃げ切ればこっちの勝ちよ! それから行動範囲も絞らせてもらうわ! 学習棟内限定! これ絶対!」

 

「却下だ。校舎内を走り回るなんて行為を見す見す許す訳がないだろう」

 

 絶対零度の副会長からのお達し。ですよね。横で立華さんも頷いております。

 

「そしてさらにエキスパートルール追加ぁ!」

 

 こいつ聞いてねぇ。おそらく全員が思った。皮肉にも死んだ世界戦線メンバー(仲村さんを除く)と生徒会勢の心が初めて一つになった瞬間である。

 

「アナタ達、つまり鬼は私達にタッチする際に『デュクシ』と宣言すること! 出なければタッチは無効よ! そして私達はタッチされた際に『これが世界の選択か……』と嘆きながら呟きなさい! 以上!」

 

 あちこちからすでに嘆きの声が聞こえる。そこ、着いて行く人間違えたかなとか言わないの。

 

「ふざけたことを……!」

 

 そう言って一歩にじり寄る副会長さんを宥め、代わりに一歩前に出たのは会長さん。つまり立華さん。そしてそんな立華さんに相対するのは我らがリーダー仲村さん。

 

「あら? ルールに何にか不満でもあるのかしら?」

 

 挑発的な態度である。

 

「ええ、そうね。申し訳ないけれど」

 

 淡々とした態度である。

 

「言ってごらんなさい」

 

 態度はなおも変わらず。

 

「じゃあ遠慮なく言わせてもらうわ」

 

 一瞬の静寂。誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。そして。

 

「私は『デュクシ』よりも『メメタァ』を推奨するわ」

 

「!?」

 

「そしてさらにその宣言に対しては『このド畜生がァーッ!』もしくは『何をするだァーッ』あたりが妥当だと思うのだけど」

 

 おお……! とか言いながら周りがざわつき始める。

 

「やるじゃない……!」

 

「光栄だわ。それで、採用はしてくれるのかしら?」

 

「いいわ。先の二つに今の三つを加える。その中から好きなものを各々がチョイスしてちょうだい」

 

 これでいいかしら? 構わないわ。交渉成立ね。そうね、有意義な交渉だったわ。とか。

 

「校舎内走るのには触れないのね立華さん」

 

 間もなくハイパー鬼ごっこスタートです。

 

 


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