えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「裏メニュー?」

 

 本部での作戦会議と言う名の単なるティータイム中に投げ入れられた一つの単語を音無くんが目ざとく拾った。

 

「ええ、あるらしいわよ」

 

 投げた張本人である仲村さんが紅茶の入ったカップをソーサーに置きながら答えた。らしいと言うことはまだ確認が取れていないのだろうか。遊佐ちゃんに視線だけで聞いてみる。ぶいサインが返ってきた。遊佐ちゃんきゃわわ。

 

「俺も噂だけは聞いたことあんなー」

 

 お茶請けのクッキーを手で弄びながら日向くんが続く。曰く、この天上学園の食堂には裏メニューなるものが存在しているらしい。どうにも信憑性に欠けるが、このNPCだらけの世界で火の無いところに煙は立たないだろうとかなんとか。なるほどなるほど。

 

「特に重要な案件じゃないから、調査してないのよねー」

 

 まぁ、確かに。仲村さんの発言に思わず頷く。しかし、ここで遊佐ちゃんがポツリと。

 

「その件に関しましては松下五段を筆頭に男子メンバー数人が独断で調査を進めている様です」

 

「へぇ、知らなかったわ。ギルティ」

 

 ひでぇ。

 

「それくらい別に良いじゃねーかよ」

 

「わかってないわね、日向くん。言わば私たちは組織なのよ? 個人プレイは控えてもらわないと」

 

 もっともらしいことを言ってる。でも。

 

「本音は?」

 

「気分よ」

 

「ですよね」

 

 ええ、わかってました。

 

 

 

 で、食堂にやってきました。音無くんと日向くんの三人で。

 

「本当に調べるのか?」

 

 あまり乗り気でない音無くん。

 

「リーダーの命令とあっちゃなぁ」

 

 やるしかねーだろとぼやく日向くん。

 

「まぁ、情報は松下五段たちからもらってるし、なんとかなる、のかな? なるといいね」

 

 正確に言うと、情報はもらったのではなく仲村さんが松下五段たちから取り上げた。奪ったとも言う。それを押し付けられ、調査引き継ぎのサイン。しかし、泣く泣く調査結果をこちらに引き渡した松下五段たちからは非難の視線どころか、後は頼んだ、がんばれ。とちょっとした激励をもらってしまった。結構行き詰まっていたらしい。

 

「情報っつってもだな……」

 

 日向くんが託されたメモ用紙を見る。そこにはいくつかの検証結果が書かれていた。

 

 ・まかないではない

 ・大盛りの類ではない(検証済み)

 ・NPCは裏メニューを知らない

 

「本当にあるのかも疑わしいぜ……」

 

 どうしたものか。三人で頭を捻る。

 

「とりあえず、何か頼んでみないか?」

 

 音無くんの提案。そうだな、と乗ったのが日向くんで、お腹空いてないお、と断ったのが俺。だって、さっきクッキー食べたし。小食なのです。

 

「ナツメ。これは任務だ。オペレーションだ。俺たちに拒否権は存在しない。お前も食うんだ」

 

「うん、あっち座ってるね」

 

 うだうだ言ってる日向くんを無視して適当に席を取る。と言っても今は授業中だから席はガラガラなんだけど。そして、ややあって二人が手にトレーを持ってやってきた。

 

「何頼んだの?」

 

「俺はカレーライス。日向はラーメンと素うどん」

 

「よく食べるね、日向くん」

 

「残念だったなナツメ。コレはお前のだ。ああ、礼ならいい。食券もいらない。お前はただ食うだけで良いんだ。さぁ、お前も食え」

 

「マジか」

 

 目の前に置かれた素うどん。仕方なしに箸を持つ。

 

「それと、念のためにカウンターにいたおばちゃんにも聞いてみたけど、裏メニューなんて無いってさ」

 

 席に着いた日向くんがぼやく。

 

「NPCは知らないんだっけ。おばちゃんも含まれてたのかも」

 

「ああ、多分な。きっと教師たちも知らない。となると噂の出所、大分限られてくるよなー」

 

「死んだ人間。戦線メンバーって線が有力?」

 

「だよなー」

 

 言ってはみたものの、とてもそうは思えなかった。他の二人も同じようで、納得のいっていない表情を浮かべている。同じ戦線に所属する仲間がこんなことを隠す理由がない。それにしてもお腹キツイ。

 

「音無くんにあげる。カレーうどんにでもしちゃいなよ」

 

「食いかけじゃないか。いらない」

 

 食いかけじゃなかったら良いのだろうか。

 

「ん? カレーうどん……?」

 

 日向くんの何かに引っかかったらしい。音無くんと二人で料理を差し出した。

 

「いらねーよ! あと、お前ら持ってる食券全部出せ」

 

「カツアゲはんたーい」

 

「良いから出せ」

 

 怒られたのでしぶしぶ並べる。

 

「見事に素うどんしかねーのな……」

 

「岩沢さんとかひさ子ちゃんが交換してくれるものでつい」

 

「ついじゃねーだろ。音無は?」

 

「俺はコレだけだ」

 

 カレーライス、ラーメン、オムライスとか結構バリエーションに富んでます。

 

「カレーうどんは、ないよな」

 

 そっと二人で料理を差し出す。

 

「だからいらねーって! 食いたい訳じゃありませんから!」

 

 じゃあなんなのさ。

 

「思い出したんだ。前にカレーうどん食ってたヤツを見たことがある。でも、カレーうどんの食券は今まで一度も見たことがない」

 

 それはおかしい。と言うことで三人で券売機を確認しに行くことに。料理は頑張って完食しました。お腹苦しいです。

 

「俺、券売機使ったこと無い」

 

「俺も無いな」

 

 券売機ビギナーな俺と音無くん。すぐに食券もらえたしねー。

 

「俺も暫く使ってねーよ。消えるかもしんねーしなー。うん、やっぱりカレーうどんはないな」

 

 券売機に目を向けながら日向くんが答える。券売機での食券の購入は正規の手順がどうとかで消える可能性があるらしい。忘れてた。

 

「ここ、見てみろよ」

 

 日向くんの言葉に俺と音無くんがなんだなんだと券売機を覗きこむ。そこには。

 

「カレーライスと、カレー(単品)……?」

 

 何のために? と思ってたら日向くんがカレー(単品)を購入。音無くんがお前、消えるのか……? と呟いた。

 

「一回くらいなら大丈夫だろ。それよりナツメ。これと素うどんの食券を一緒に持って行ってみてくれ」

 

「ヤダ」

 

 食券を渡して行ってもらいました。

 

 

 

 

「思った通りだぜ」

 

 そう言う日向くんはトレーに乗ったカレーうどんをテーブルに置いた。

 

「どういうことだ?」

 

「組み合わせだ」

 

 む?

 

「特定の食券を組み合わせることでこうした料理が出てくるってことだよ。多分組み合わせは他にもあるぜ」

 

 なるほど。

 

「これが裏メニューってこと?」

 

「多分なー。なんか拍子抜けだな」

 

 でもこれは要検証になるのかな。食券が自由に手に入らない戦線メンバーには長い道のりになりそうだった。

 

 


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