グラウンドにて。
「来い音無!」
「行くぞ日向!」
やる気なバッター日向くんに対するピッチャーは同じくやる気な音無くん。元気な赤青コンビ。
「…………」
高松くん。ボディビルダー顔負けのポージング決めてないで服を着よう。ポジションはファースト。グローブと上裸のコンビネーションは結構シュール。
「……ふん」
セカンド。野田くん。百歩譲ってグローブはしてなくてもいいからハルバート離せ。たまには離せ。
「バッチこーいってか」
やる気あるんだかないんだかよくわからないのはふーにゃんこと藤巻くん。サード。片時も離さない長ドスは一種のトレードマークらしい。けして野田くんとの差別化とかじゃない。多分。ところで両手ふさがってるね。
ショートはTK。一旦もちつけ。あと英語わかんない。
「今日も良い日だ。肉うどんがうまい」
ここは食堂じゃないのにそんなことは関係ねぇ! とばかりに肉うどんをすする松下五段。ポジションはセンター。
「飛んで来ませんように。飛んで来ませんように……」
必死になって何かに願っているのは大山くん。とりあえず目は開けた方がいいと思う。ポジションはレフト。
「だるい。まじダルビッシュ」
んで、俺ライト。運動苦手れす。
それから、キャッチャー及び審判はその辺歩いてたNPCの男子生徒を起用。案外乗り気でした。
「しまってこー!」
音無くんの掛け声にバラバラながらもそれぞれが返事。今いちしまってないけど、審判のNPCが開戦を告げる。ん? NPCの審判か? まぁ、どっちでも同じだね。とりあえずプレイボール。
「皆で野球でござるの巻」
お送りしますのは死んだ世界戦線男子メンバー+αでござる。帰りたーい。
「が、しかしだがしかし。どうしてこうなった」
遡ること三十分程。いつもの如く暇を持て余し、ニートよろしく自宅警備ならぬ本部警備に精を出そうとしていたらいきなり日向くん、松下五段、TKに拉致されて、気が付いたらグローブを持たされてここに立たされていた。うん、つまりどういうことだってばよ。
「ナツメー。ぼさっとしてんなよー」
ピッチャーマウンドの音無くんから声が飛んできた。手をあげて大きな声で発言。ターイム。審判に認められたので小走りで音無くんの元へ。
「いきなりどうした?」
「帰りたい」
「お前な……。これは常日頃から外に出ないで女子と喋ってばっかのお前のための企画らしいぞ?」
「本音は?」
「……昨日、日向がパワプロでゆりに惨敗した。それはもう目も当てられない程に」
「憂さ晴らしですか」
「そうとも言う。あとは、たまには男子だけで遊ぶのも良いんじゃないかって」
「ん、なるほど」
「おまえはああでも言わないと来なそうだしな」
「そんなこと……あるかも」
「まぁ、今日ぐらいはアイツに付き合ってやってくれ」
バッターボックスを見れば、なげぇだの早くしろだのギャアギャア騒いでいる日向くんが。慰めてみましょうそうしましょう。
「ねぇねぇ女の子にパワプロで惨敗したみたいだけど、今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」
「うるせーよ! 傷抉んな!」
あれま、怒られちった。でも挫けない。
「まさかとは思うけど、アレンジチームとか使ってないよね?」
「つつつつつ使う訳ねねねーだろ。何言ってんだよバカだなー!」
使ったみたいでした。仲村さんの使ったチームも気になる所だけど、あの人はどのチームを使っても強そうだ。
「ドンマイ! 日向くんマジでドンマイ!」
「うるせーっつってんだろ!?」
投球して無いのに乱闘騒ぎ手前でした。早々に守備位置に戻りましょうそうしましょう。
で、気を取り直して、音無くんがボールを投げる。気のせいか日向くんと目が合った。こっちに打つ気かもしれない。打った。セカンド強襲。欠伸をしていた野田くんの鳩尾を強襲。野田くんノックアウト。退場です。審判が無情に告げた。
高松くんが野田くんをベンチに寝かせたら、再びプレイボール。セカンドには大山くんを置き、外野は右中間に俺、左中間に松下五段の外野二人体制。守備範囲広がってもーたがなー。
そして三度目のプレイボール。
「だっしゃあぁぁぁぁっ!」
音無くんから放たれたボールを真芯で捉えた日向くんの雄叫び! 打ち返されたボールはセカンドの顎を強襲! 大山くんノックアウト。退場です。審判が無情にも告げる。
再びセカンドを失った守備陣営はサード、ショートを向かってやや右寄りに。ファーストを左寄りに配置することでどうにか誤魔化すことに成功。よし、プレイボール。
「WRYYYYYYYY!」
どこのDIO様なのだろうか。三球目のやや低めのボールを綺麗にはじき返した日向くん。ボールは高松くんの下腹部を強襲。さすがの筋肉ダルマもそこは鍛えられなかったらしい。高松くんノックアウト。退場です。無情な審判が告げた。
「ってやってられるかぁぁっ! なんだこのデスゲーム!」
藤巻くんがキレた。
「デースボールってか? ハハッ、面白いこというじゃねーか」
爽やかに返した日向くん。やかましい。
「言ってる場合じゃねぇだろ! 打つ度に人数減ってるじゃねぇか!」
「たまたまだって。大げさなんだよ」
何故かとっても良い笑顔でした。
んで、また守備位置いじる。さっきから右寄りのポジションが危ねぇのにそんなとこ守れるか! 俺は自分のポジションを譲らねぇ! と藤巻くんは頑ななのでショートよりに。それに対し男を見せたTKをセカンドよりに配置する。俺と松下五段は変わらずです。プレイボール。
もはや物言わぬピッチングマシーンと化している音無くんが投げる。素人目にもわかる程の絶好球だ。ホームランもあり得るかなーなんて思った。
「死ねぇぇぇぇっ!」
もはや何も言うまい。スポーツマンシップなどクソ食らえとばかりに日向くんが打ったボールが強襲したのは藤巻くん。まぁ、なんかフラグっぽかったしね。藤巻くんノックアウト。ゲームセット。審判が短くコールした。
でもって、大分人数も減っていたので審判の指示に従い野球はやめて皆でいつも通りのお喋りモードへ突入。ちなみに退場者たちは放置しようと言うのが総意。別に酷くなんてないよね。寝てるのが悪い。
「で、日向くんのストレスは解消されたの?」
「おう。気分爽快だぜ!」
なんて会話があったりなかったり。