えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「劇をやります」

 

 は? と本部にいる全員の声が重なった。

 

「劇をやります」

 

 いつもの定位置に座り、どこぞの指令よろしく顔の前で手を組み合わせた仲村さんが同じ抑揚でもう一度告げた。

 

 珍しく戦線メンバーとして呼び出しを受けたかと思ったら、この有様である。隣を見れば珍しくマヌケな表情を浮かべたひさ子ちゃんがいた。指差して笑ってやった。蹴られた。

 

「題目はロミオとジェリエット。この場にいるメンバーは全員参加。練習は三十分後に開始。拒否権は無し。以上」

 

「……質問、いいか?」

 

 急すぎる超展開にいまだ困惑しつつもおずおずといった様子で手をあげたのは、めでたくも先日戦線に加入したばかりの音無くん。仲村さん曰く、そこそこの順応性らしい。期待の新人ですね、俺と違って。

 

「許可する」

 

「なんで、劇?」

 

「こまけぇこたぁいいんだよ!!」

 

 どこぞのAAとばかりに手を振った仲村さんに代わり説明をしたのは遊佐ちゃんだった。

 

「今回のオペレーション『プレイ・バイ・スリーエス』は、はっきり申し上げまして今後のオペレーションの成功率を上げるためのブラフにすぎません。普段は戦ったり演奏しかできない様なアホたちでも実はこんなこともできるという意外性や手札の多さを天使に見せつけ、今後の妨害活動に対する支障を誘うという狙いがあります」

 

「それがなんで劇なんだよ。他のでもよかったんじゃねーの?」

 

 日向くんが仲村さんに疑問をぶつける。まぁ、正論でござる。皆そう思ってるだろうし。

 

「こまけぇこたぁいいんだよ!!」

 

 説明する気が皆無のリーダー様である。遊佐ちゃん頼んだ。あなただけが頼りです。

 

「劇には複数の役割が存在します。監督、脚本家、役者、衣装や音響、照明。細かく分ければさらに増えるうえに、それぞれにはそれ相応の技量が必要となってきます。要するに基本的にアホでド低能な戦線メンバーがそれを見事にこなして意外性をアピールしようという魂胆です」

 

 なるほど……! すげぇ、さすがゆりっぺだぜ。とか呟きが聞こえてくる。めっちゃ貶されてますがそこはスルーですか。そうですか。

 

「はいはーい! 質問です! しつもーん!」

 

 ユイにゃんがビシッと手を真上に伸ばして発言許可を得ようとする。もう喋ってるけども。そして仲村さんは無視した。ひでぇ。

 

「許可します」

 

 遊佐ちゃんが救いの手を差し伸べた。よかったねユイにゃん。

 

「配役とかはどうするんですかー? ユイにゃんヒロイン希望!」

 

「残念ながら時間が惜しいため、配役を含めた役割はこちらですでに決めてあります。一度全員に台本を配りますので各自目を通しておいて下さい」

 

 ぶーたれるユイにゃんを無視しつつ、遊佐ちゃんに台本を配るお手伝いをお願いされたため適当に配り歩くことに。まずは近くにいたガルデモの四人。

 

「ほい」

 

「ん、サンキュ」

 

 さすが岩沢さん動じてない。話し聞いてなかった可能性も捨てきれないけども。

 

「そぉい」

 

「投げんなバカ。つーかなんかあたし達もボロクソに言われてた気がすんだけど」

 

 ひさ子ちゃんの気のせいです。基本的にそう言うことはすぐ言わないとダメなんですよね。これ鉄則。

 

「関根ちゃんパース!」

 

「ヘイヘイカモーン! なっつんカモーン!」

 

 関根ちゃんは元気。無駄に元気。

 

「はい、入江ちゃんの」

 

「ありがとー」

 

 入江ちゃんは癒し。異論は認めない。

 

 くるりと見回し、まだ台本貰ってない人達を発見。突撃します。

 

「大山くん台本いかがですか!」

 

「え、あ、い、いただきます!」

 

 人の声に釣られて声が大きくなる人っているよね。

 

「藤巻くん、通称ふーにゃんにもプレゼント」

 

「ンだよその呼び方。おい、ひさ子笑ってんじゃねぇ!」

 

 うわははははっ、ナイスだナツメ! 変だった? 変つーか似合わねー! だははははっ。ひさ子ちゃんがとても楽しそうです。

 

「高松くんにも、ほい」

 

「ありがとうございます」

 

 すんなり受け取って台本を読み始めた高松くんが何故かブレザーを脱ぎ始めたので何も見なかったことにしてそっとその場を離れた。きっと正しい判断。

 

「全員に行き渡った様ですね。集合時間は先程ゆりっぺさんが言った通りに。場所は体育館。各自、遅れないように行動して下さい。では解散」

 

 遊佐ちゃんの号令で皆がぞろぞろと本部を出て行く。仲村さんのいる意味が有ったのか激しく疑問なのですががが。

 

「こまけぇこたぁいいんだよ!!」

 

「ですよね」

 

 で、皆が出てった後、本部に残ったのは俺と仲村さんと遊佐ちゃんの三人。

 

「で、お二人に質問です。主に仲村さん」

 

「あら、何かしら。ナツメくん」

 

 ニコッとわざとらしい笑みを浮かべた仲村さんが答えた。

 

「本音は?」

 

「暇つぶしよ」

 

 即答しやがった。なんか清々しく思えてしまう不思議。

 

「あとはコレを付けたかっただけだったりもするわ」

 

「超監督て。それなんて涼宮さん?」

 

「あたしね、萌えってけっこう重要なことだと思うのよね」

 

「今のやり取りに萌えるポイントなんてあったっけ? とても疑問です」

 

 遊佐ちゃんが台本を持ち上げた。超監督はほっといてとりあえず見ろってことらしい。

 

「あれま、割とまともに役割振ってあるね。チャ―さんまでいるし」

 

 監督兼脚本兼演出:ゆり

 大道具兼小道具:チャ―、ギルド勢

 音響:岩沢、ひさ子

 照明:遊佐

 衣装:椎名

 

「私を何だと思っているのかしら」

 

「照明と衣装は一人で大丈夫なの?」

 

「話聞きなさいよ」

 

 遊佐ちゃんが無表情のままサムズアップ。大丈夫だそうです。

 

「念のために他の戦線メンバーにも有志で協力を仰ぐつもりよ」

 

「ん? あれ? 俺の名前がないお」

 

「あるわよ。ちゃんと見なさい」

 

 そう言って指差された場所には。

 

 ロミオ:ナツメ

 

「嘘だと言ってよバーニィ……」

 

「事実よ!」

 

「嫌でござる! 絶対に嫌でござる!」

 

「言ったはずよ。拒否権は無い、と」

 

「だが断る!」

 

「はっきりと言うのね。男らしくてステキよ。だが無意味だ」

 

「ファッ!?」

 

 勝てる気がしません。

 

「くやしいのう。くやしいのう。どうも、遊佐です」

 

 遊佐ちゃんうっさい。

 

 なんてやってたら、日向くんをはじめ、配役に対して物申したい人たちが雪崩のように押し掛けてきた。しかも、仲村さんの暇つぶしだということもバレてしまい、結局劇自体が中止になりましたとさ。

 

「ちなみにヒロイン、つまりジュリエットは大山君だったわ」

 

「ちょ、誰得」

 

 


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