とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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第2章 三沢塾篇
7話 スキルアウト


8月8日・昼

 

第7学区・路地裏

 

 

 

「ちくしょー!何なんだよ!こいつら!」

 

叫びながら銃を撃っているのは浜面仕上。

この学区のスキルアウトを束ねるグループのNo.2だ。

 

「落ち着け、浜面。喚いたところで始まらん」

 

銃を撃ちながらも、あくまで冷静に浜面をたしなめるのは、彼らのリーダー・駒場利徳だ。

フランケンシュタインのような顔だが、心優しい人物である。

 

「でもよぉ、駒場のリーダー。これで落ち着けってのは無理があるだろ」

 

大口径のマグナムを3点バーストさせながら、リーダーに物申すのは言うのは服部半蔵だ。

そして、彼ら3人の後ろには、同じように銃を撃っているスキルアウトたち。

 

ここまで大規模な銃撃となれば警備員でも驚きそうなものだが、彼らの目の前には、もっと驚くべき光景が広がっていた。

 

グールの群れだ。

 

本来オカルトとは無縁な学園都市─いかに路地裏と言っても、その一部であることに違いはない─に、ホラー映画からそのまま飛び出して来たような、グールの群れが現れたのだ。

 

「こいつら、頭が吹き飛ぶまで撃たねえと止まりやがらねえ。まるで映画のゾンビみてえだ」

 

当然、グールなど知らない─もしくは実在するとは思っていない─スキルアウトたちはパニックである。

それでも、アジトに立て篭もり、あまつさえ進行を妨げられているのは、駒場のリーダーシップのなせる業だろう。

それでも長く持ちそうはない。弾薬には限りがあるし、もし尽きれば、みな我先にと逃げ出すだろう。それに、対するグールたちは続々と溢れてくる。まるで無限に発生し続けているかのようだ。

 

「夢なら早く覚めてくれ」 

 

浜面のもう何度目かわからない呟きは、無数の銃声にかき消されていく。

 

 

 

 

同時刻

 

第10学区

 

 

 

「終わりだ!」

 

かけ声とともに、上条は吸血鬼の顔面に拳を叩きつけ、そのまま脳みそを押しつぶした。

同時に、辺りを埋め尽くしていたグールが灰になる。

 

『一体どうなってるんだ?』

 

『学園都市での吸血鬼及びグールの大量発生。こんなことは前代未聞だ。生き残った吸血鬼が全部、この街に集まってるって言われても、今なら信じるな』

 

『路地裏はスキルアウトが衛星からの監視を避けるために光を閉ざしてるから、吸血鬼にしてみれば絶好の狩り場になってる。このままじゃスキルアウトは皆グールにされちまうぞ』

 

『落ち着け、当麻。もうほとんどの吸血鬼は殺した。残るは第7学区に何匹かいるだけだ。勿論、グールは数に入れてないがな』

 

『じゃあ、取りあえず行くか』

 

そうして上条は駆け出した。

 

 

 

 

数分後

 

第7学区・スキルアウトのアジト

 

 

 

どうにか持ちこたえていた駒場たちであったが、とうとう防御を破られてしまった。

グールがアジト内になだれ込み、スキルアウトたちの阿鼻叫喚と銃声が空間を満たす。

 

悪運尽きたか、真っ先に捕まったのは浜面だった。

今にも噛まれるかと思われたその時、1人の乱入者が現れた。

 

「すごいパーンチ!」

 

「ギャーーー!!!」

 

突然の暴風─みたいなもの─によってグールたちが蹴散らされた─浜面は巻き添え─。衝撃に耐え切れなかったのか、そのまま灰になる─浜面は灰に埋もれたが、どうにか生還します─。

 

スキルアウトたちがアジトの入口を一斉に見つめると、そこには拳を前に突き出して立つ1人の男。

 

「これしきのことでやられるとは、根性無しどもが!」

 

白ランに旭日旗Tシャツ、そして鉢巻き。いかにも不良グループのリーダーといった格好だが、彼はスキルアウトではない。

 

「この“第7位(ナンバーセブン)”・削板軍覇が全員の根性を入れ直してやる!」

 

「第7位だと!?おい、おま…」

 

「親玉はあっちか!」

 

駒場が話し掛けるが、全く気にも止めず、削板は指差した方向へ文字通り飛んでいった。

 

「駒場のリーダー!」

 

「ああ。まさか超能力者に助けられるとはな」

 

そう呟く駒場の顔は心なしか明るかった。

他のスキルアウトたちは、助かったことに安堵し、溜め息と歓声を上げている。

 

 

「誰か助けてくれ~」

 

浜面が掘り出されるのはもう少し先である。

 

 

 

アジトの近くの路地裏

 

 

「お前らみたいな吸血鬼が、なんで学園都市に集まってるんだ?」

 

この一帯のグールを操っていたと思しき吸血鬼を睨み付けながら、上条は問い掛ける。

 

「はあ?お前、俺らと同類のくせに気付いてないのか?血の臭いに引き寄せられたに決まってんだろ。とびきり美味そうな臭いがしたんだよ、この街からな」

 

「俺は何にも感じねぇぞ」

 

「ああ。今は止まってる。だが、ここ何日か途切れ途切れにするんだよ」

 

「そうか」

 

「で?お前は俺に何の用だ?まさか、その質問だけじゃないだろ?」

 

「いや大したことじゃねぇよ」

 

「あ?」

 

上条は瞬間移動のごとき動きで吸血鬼に近づき、そのまま右手を胸の中心に突き立てた。

 

「今、済んだよ」

 

逃げるどころか、腱一本動かす暇もなく、吸血鬼は灰となった。

 

『なあ。“美味い血”ってどういうことだと思う?』

 

『さあな。処女や童貞の血は美味いし、聖人みたいに強い力を持つ人間の血も美味いが…』

 

『確かに、神裂のは美味かったな。でも、この街の壁を越えてまで吸いにくるほどじゃないよな』

 

『ああ。ひょっとしたら吸血衝動を駆り立てるような魔術や超能力、もしくはそんな体質の人間が現れたのかも知れない』

 

『つまり、わかんないってことだよな』

 

『仕方ないだろ。マスターの記憶の中にないんじゃ、お手上げだよ』

 

『結局は自分で確かめるしかないか…』

 

上条がさっきの吸血鬼の遺した言葉について考えていると、そんな悩みをド派手に吹き飛ばして、あの男が現れた。

 

「すごいパーンチ!」

 

「うおっ!」

 

パキーンッ!

 

削板の挨拶替わりの攻撃を、とっさに幻想殺しで防ぐ。

初めての体験に若干驚く削板だったが、そんなことでは臆しはしない。

 

「この削板軍覇の“念動砲弾(アタッククラッシュ)”を消すとは、なかなかの根性だ!」

 

『こりゃまた、暑苦しいのが来たな』

 

『全くだ』

 

「だが、弱い連中に人形をけしかけるような腐った根性は、この俺が叩き直してやる!」

 

「待て待て。それは俺がやったんじゃ…」

 

「問答無用!」

 

「えぇ~っ!」

 

ドーンッ!

 

パキーンッ!

 

「聞けよ、おい!」

 

「むっ!さっきよりも強くしたが、まだ通じないとは…」

 

「お~い!聞こえてますか?」

 

「こうなれば、こっちも全力でいくぞ!」

 

「だから聞けって!」

 

「超すごいパーンチ!!!」

 

ドカーンッ!

 

「だから効かねえよ!って、瓦礫が!ギャー!不幸だー!」

 

攻撃自体は防げたが、衝動で崩落したビルに押しつぶされる上条。

吸血鬼になっても通常運転な彼であった。

 

「ん?1㎞先から女の子の悲鳴が!『だいたい、だいじょうぶ』だと!?なんて気丈な!素晴らしい根性だ!今行くぞ!」

 

どこからかヒーローを呼ぶ声を聞きつけて飛んでいく削板。

こちらも通常運転である。

 

 

 

 

数分後

 

 

 

「ちくしょー。なんだったんだ?あいつ。人の話もろくにきかねぇで」

 

瓦礫から這い出した上条は、路地裏を歩きながら毒づいていた。

勿論、ビルの瓦礫程度では死なない、というか傷一つ残さない彼なのだが。

 

「よう。相変わらず不幸そうだな、カミやん」

 

路地裏から出ると、そこには彼の同級生がいた。

金髪グラサン、そしてアロハシャツという悪目立ちする格好。

デルタフォースの一角・土御門元春だ。

 

「よう、土御門か。今、忙しいから遊びの誘いならパスだぞ」

 

「連れないぜい、カミやん。禁書目録と戦ってる時に、血を吐きながら“人払い”をして、皆を避難させた、影の功労者にかける言葉はないのかにゃー?」

 

「へいへい。能力開発受けてるのに魔術使ってご苦労様でした。で?もう知ってたとは言え、俺に魔術の話題を振ったってことは、何か本題があるんじゃないのか?」

 

「まあな」

 

そう言うと土御門の顔から笑みが消え、仕事用の表情が浮かぶ。

 

「このところの吸血鬼騒ぎについての話だ」

 

「何か知ってるのか?」

 

「当たり前だ。俺は多角スパイだぞ。だが、今回は警告だけだ」

 

「何?」

 

「何も教えないってことだ。もうすでに必要悪の教会が動いてる。手を出すことはない。それに、吸血鬼がこの件に首を突っ込むのは、リスクが高すぎる」

 

「つまり、黙って見てろってことか?」

 

「その通りだ。別に誰かに頼まれた訳じゃないんだ、関わるな」

 

「そうか…」

 

上条はそこで1度、言葉を切る。

そして、真っ直ぐに土御門を見つめて言い放った。

 

「俺は今回も関わるぞ、土御門」

 

「何?」

 

「俺は、いつも誰かに頼まれたから行動する訳じゃない。自分でやりたいと思うから行動するんだ。今回だって、俺が見てないところで誰かが不幸になってるんだろ?だったら俺は首を突っ込む。その結果、俺がどうなろうとも、だ」

 

それを聞くと、土御門はやれやれといった様子で肩をすくめて言った。

 

「カミやんなら、そう言ってくれると思ってたぜい。だから言っただろ?俺に出来るのは『警告』だけだ。兎に角、気をつけるようににゃー」

 

それだけ言うと、土御門は上条の元から去っていった。

 

上条も路地裏から離れて歩き出す。

 

『面倒くさい奴だな』

 

『多角スパイなんて難しい立場にいるんだ。あいつにも色々あるんだろうさ』

 

『そう言うもんかね~』

 

土御門の警告を受けてなお、呑気にジェーンと話す上条。

 

しかし、次の瞬間、彼の目が意思に反して真っ赤に染まる。

 

「ぐっ…」

 

今まで感じたことのないほど強力な吸血衝動によって、力が無理やり覚醒させられたのだ。

 

思わず、自分の体を抱えてうずくまる上条。

そうでもしないと、理性が振り切れて駆け出してしまいそうだった。

 

しばらく、そのまま理性と本能の戦いを強いられていた上条だったが、やがて衝動はおさまった。

 

『“美味い血”ってのは、これのことか…』

 

『だろうな。私たちでさえ、この為体だ。あいつら、下級の連中なら壁の外からでも飛んでくるだろうさ』

 

『それにしても何なんだ?ホント。急に来て、急におさまるなんて…』

 

『お前も言ってただろ。“自分で確かめるしかない”さ』

 

『だよな。じゃあ、行くか』

 

『ああ』

 

 

こうして、物語は次の段階へと進む。


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