とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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4話 聖人

7月20日・夜

 

 

上条とインデックスはファミレスにいた。

 

ニコニコと嬉しそうなインデックス。

涙目で「不幸だ」と呟く上条。

苦笑いの店員。

そして、有り得ないほど長いレシート。

 

どういう状況かは言わずもがなだろう。

 

 

その帰り道

 

 

「うっぷ。さすがにお腹いっぱいかも」

 

「そのおかげで上条さんの財布に暮らしてらした諭吉さんがお引っ越しされたんだけどな。不幸だ…」

 

『おい、当麻。あれで良かったのか?』

 

『あぁ、ジェーンか。良かったも何も、奢ってやると言った手前、もう食べるなと言えないだろ』

 

『そっちじゃなくて、あのステイルとかいう魔術師の方だよ。お前、気絶させただけでそのまま放置してきたじゃないか。案の定、ファミレスに行く前に見た時は、逃げたのか回収されたのかして、もういなかった』

 

『殺すつもりはなかったからな。あれ以外にやりようがないだろ?』

 

『そこだよ。なんで殺さなかった?インデックスを守るんなら殺した方が良かっただろ』

 

『そんなことしたらステイルが不幸になるじゃないか。俺はヒーローじゃないんだよ。それに悪役だって、いつまでも悪役でいなきゃいけない理由もないだろ?』

 

『どうせ、そんなことを言うんだろうとは思ってたがな。まぁ、お前がいいと言うんだからいいだろう。ただ、魔法名を名乗った相手に手を抜いて戦うってのはどうなんだ?』

 

『俺は善人でもないからな』

 

『それも言うと思ってたよ。じゃあ、次の質問だ。インデックスに追っ手と戦ったことを教えないのか?』

 

『あぁ、教えない。心配させたくないからな』

 

『ったく』

 

(お前は充分にヒーローで善人だよ、当麻)

 

最後の思いを口に出すようなことはしないジェーンであった。

 

 

 

同時刻

 

窓のないビル

 

 

文字通りこのビルには窓も扉もない。大能力者(LEVEL4)相当の空間移動能力者(テレポーター)がいなければ出入りすることもできない史上最硬の要塞だ。

 

そんなビルの中に、赤い液体で満たされた巨大な円筒器があった。

 

その中に浮かぶ、緑色の手術衣姿の人影。

 

それは「人間」としか表現しようのないものだった。

 

男のようにも女のようにも見える。

大人にも子供にも見える。

囚人にも聖人にも見える。

「人間」として全ての可能性を手に入れたのか、それとも全ての可能性を捨て去ったのか。

どちらにせよ「人間」という言葉以上に彼─ということに取りあえずはしておこうか─を表現するのに相応しい言葉はないだろう。

 

そんな彼は顔に微笑を浮かべながら愉快そうに、誰にともなく─というより誰もいない─話し始めた。

 

「やはりステイル=マグヌスごときでは太刀打ち出来ないか。予想通りだ。仮に吸血鬼としての力がなくとも“幻想殺し(イマジンブレイカー)”があれば充分に勝てただろう。だが、本番はここからだ。次の相手は東洋の聖人。さあ。吸血鬼としての本領を見せてもらおうか、上条当麻」

 

 

 

これまた同時刻

 

学園都市内のどこか

 

 

「うっ…」

 

苦しそうな呻き声と共に、ルーンの魔術師・ステイル=マグヌスは目を覚ました。

 

「起きましたか、ステイル」

 

声のする方を見ると、彼の同僚がいた。

長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、腰には愛刀・七天七刀という奇抜な格好の日本人女性─

 

「神裂か…」

 

─東洋の聖人こと神裂火織だ。

 

「ええ。倒れていたところを回収しました。負傷は左頬に痣がある程度でしたが、一応、回復魔術を施しておきました。一体、誰にやられたのですか?あなたほどの魔術師が」

 

「さあね?普通の学生にしか見えなかったんだけど、僕の炎剣をかき消して、助走なしで5mほどの高さまで跳びあがる、なんてとんでもない曲芸を披露してくれたよ。あれが能力者ってやつなのかな」

 

「超能力は1人につき1つしかないという話でしたが…。まあ、いいでしょう。それより、何故この街の学生と交戦するような事態になったのですか?」

 

「単純な話だ。そいつが、今インデックスを匿ってるんだよ。つまり、少し前の僕たちと同じ立場というわけさ」

 

「そういうことでしたか…。しかし、我々には、もうあまり時間がありません」

 

「君が出る、ということかい?それは」

 

「ええ。念のため、何者なのか調べてから行くつもりですが」

 

 

こうして夜は更けていく。

 

 

 

7月21日・夜

 

 

昨日、ステイルという魔術師と交戦した上条は、報復があると考えて1日中警戒していたが、結局なにもないままに、また1日が過ぎようとしている。

 

『今日は来ねぇのかな?魔術師』

 

『そうとも限らない。彼らも私たちと同様、闇の住人なんだ。本格的に動き出すのは夜中からだよ』

 

『何にしろ、来るなら来るで早くしてほしいもんだ』

 

『ん?別にお前が焦る理由もないだろ?こっちはイギリス清教が迎えを寄越すまでインデックスを渡さなければいいだけなんだから』

 

『確かにそうなんだけどな。それにどっちかって言えば、俺が待ってるのもそれだ。でも、今のところは全然来ないだろ?とにかく、俺は早く片を付けたいんだよ』

 

『だから一体何を焦ってるんだ?』

 

『このままインデックスを置いといたら、食費の所為で上条さんは破産なんですよ!』

 

『そんな理由か…』

 

『“そんな理由”だと!?貧乏学生の上条さんにとってこれがどれほど大変なことなのか、ずっと一緒にいるんだからわかるだろ!』

 

『はいはいそうですね』

 

『流された!?』

 

緊張感のかけらもなく頭の中で漫才を繰り広げる上条とジェーンであった。

因みに、今インデックスは風呂に入っているところであり、部屋の中にはいない。

 

そんな時、吸血鬼としての本能がこの学生寮で起こる異変を感じとった。

 

『人の気配がなくなってる?』

 

『どうやら人払いの結界が張られたらしいな。つまり…』

 

『お出ましってことか』

 

そう結論付けた上条は、インデックスに気付かれないように外に出る。

もし、ステイルが来た場合、室内戦では大惨事確定だからだ。主に上条の部屋の家具家電が…。

もし、まだ見ぬ2人目が来るとしてもステイル並みの力があると考えた方がいいので、とにかく戦闘は屋外で、それもインデックスから遠すぎない場所で、というのが上条とジェーンが話しあった結果出した結論である。

そして、上条は寮から少し離れた、それでいてインデックスの気配を感じられる位置の、開けた場所に出た。

 

 

(調べた結果、彼は無能力者ということでしたが、一体どういうことなのでしょう?)

 

そんな上条の様子を、8.0の視力を使って遠方から見る神裂は悩んでいた。

 

(意図的に情報が隠されているということでしょうか?)

 

今日の朝、ステイルを倒したという学生について知るために資料を取り寄せた。

資料が届いたのは昼だったのだが、その内容にはステイル共々驚かされた。

 

 

上条当麻 男子 高校一年生

能力:“LEVEL0”

 

 

何の能力も持たない一般学生が魔術師、それもステイルほどの実力者を倒したという話を、そのまま鵜呑みにする方がどうかしている。

おそらくは何かしらの事情で隠蔽されているのだろうが、だからと言って自力で調べるような時間はない。

 

そうして、疑問を残したまま現在に至るわけである。

 

(開けた場所でじっとしているということは、やはりこちらの動きに気付いたと考えるべきなのでしょうね。しかし、目的はあくまでインデックスの“保護”です。取りあえず話し合い、それでわかる相手ならば良し。戦うのはそれが失敗してからです。では、そろそろ行きますか)

 

 

上条はしばらくじっと待っていたが、こちらに向かってくる人影に気付いた。

 

「あんた、ステイルの仲間か?」

 

「はい。神裂火織と申します」

 

「俺は上条当麻だ」

 

「ええ、知っていますよ。神浄の討魔。良い真名ですね」

 

「そりゃ、どうも」

 

『「知っていますよ」か…。俺のこと調べてきたってことかな』

 

『だろうな。今日1日動きがなかったのはそういうわけだろう。だが問題ないだろう。お前のことを書庫(バンク)とかのデータで見たところで意味がない』

 

「率直に言います。魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」

 

「彼女ってのはインデックスのことだよな?」

 

「勿論そうです」

 

「“保護”ねぇ。あんたの仲間は端っから喧嘩腰だったけどな」

 

「それについては彼の落ち度だったと言えるでしょう。しかし、こちらにも事情があったとだけは言っておきます」

 

「そうかよ。でもなぁ、女の子1人を寄ってたかって追い回すような連中にインデックスを渡すつもりはないぞ」

 

上条は右足を半歩下げ、腰を落として構えをとる。

 

「そうですか。仕方ありませんね。それならばこちらも相応の態度で応じるとしましょう」

 

そう言うと神裂は七天七刀に手を掛ける。

 

「魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」

 

瞬間、まったく同時に7本の斬撃が上条に襲いかかる…が、まわりの地面を切り裂いただけで上条には当たらない。

 

「すげぇな。刀抜いたところが見えなかったぞ」

 

「私の七天七刀が織り成す七閃の斬撃速度は一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。普通の人間には見えなくて当然です。しかし、当てるつもりがないと察知して回避も防御もしなかったあなたには少々驚きました」

 

「“普通の人間”ねぇ…」

 

「もう一度問います。魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが。あぁ、今度は当てますよ」

 

再び上条に七閃の斬撃が迫る。

 

まず回避不可能の攻撃だ。調整しているので少し血が出る程度で済むだろうが、それでも確実に当たるだろう。

神裂はそう思っていた。しかし、それは大きな誤りであった。

 

上条は彼女の言う“普通の人間”とは大いに異なるものであることを彼女はこれから思い知らされる。

 

「よっと」

 

「なっ!?」

 

上条は軽くステップを踏むようにして動いて、七閃を全てかわしてみせた。

いや、それだけではなかった。

 

「速すぎて見えない居合い抜きに見せかけて、本当は7本のワイヤーによる同時攻撃か」

 

そう言う上条の左手から血が滴っている。攻撃を受けたのではない。では何故か?

 

「素手でワイヤーを掴んだ!?」

 

そう。回避したのち、左手で1本掴んでみせたのだ。

 

「子供騙しだな、神裂よぉ」

 

「くっ…」

 

「今度はこっちから行くぜ!」

 

言うと同時に上条は神裂目掛けて飛び込んだ。

しかし、聖人・神裂火織にしてみれば欠伸が出る速度だった…が。

 

「ぐはっ…」

 

上条の拳が神裂をとらえた。

 

(加速した!?)

 

神裂は突っ込んで来た上条を余裕をもって避けたのだが、その瞬間、上条は加速して神裂に殴りかかったのだ。

それも、神裂がかわせないほどにまで加速して。

 

「俺のこと甘く見すぎだ」

 

「どうやら、そのようですね」

 

(出来れば名乗りたくはありませんでしたが…)

 

「Salvare000─救われぬ者に救いの手を─!」

 

「ようやく本気か。いいぜ、かかって来いよ」

 

「もう、どうなっても知りませんよ。魔法名を名乗ったからには全力でやらせて頂きます。…七閃!」

 

三度、上条はワイヤーに襲われるが、全てくぐり抜け神裂に向かう。武器を持たず、魔術も使えない上条は、とにかく相手に近づかないと勝ち目がない。

 

しかし、神裂も馬鹿ではなかった、効かないとわかっている攻撃を考えなしに出すほどには。

 

「唯閃!」

 

今度こそ本当に刀を抜いて斬りかかる。

しかも唯閃は、神裂の聖人としての究極の技だ。速度・威力とも申し分ないどころか、人間相手にはお釣りがくる、“神を裂く”ほどの攻撃だ。

そして、七閃をかわさせることで敵を確実に仕留めるというのが七天七刀の真髄である。

 

だが、今度こそ神裂は驚愕した。

 

上条は横一文字の斬撃をブリッジする要領でかわし、足で七天七刀の刀身を蹴り上げた。そして、そのまま後方に一回転して体勢を立て直し、がら空きになっている神裂の腹に拳を突き刺した。

 

明らかに人間の動きではない。それどころか聖人の中でも今の動きができる者は何人いるだろうか。

 

神裂は取りあえず上条から距離をとるため後ろに大きく跳んだ。

 

「神裂、お前ひょっとして聖人なのか?」

 

上条は追いかけるかわりに問い掛ける。

 

「そんなことまで知っていましたか…。その通りです。私は世界に20人といない聖人のうちの1人です。それ故に戦闘能力は人間の比ではないはずなのですが、あなたは何者なのですか?」

 

神裂も上条に対して最大の疑問を投げかける。

だが、上条が真面目に答えるはずもない。

 

「ただの不幸な男子高校生だよ」

 

「答える気はないようですね」

 

「まあな。そんなことより、お前はどうするんだ?もう勝負は見えただろ?」

 

上条は「手を引け」と言外に示す。

しかし、神裂には譲れない理由があった。

 

「私は、こんなところで負けるわけにはいかないのです」

 

そう言って七天七刀を振るい、上条に迫った。

 

 

その後の展開は言うまでもないだろう。

 

最終的に神裂は倒れ、上条は無傷に等しい状態だった。




神裂戦終了です。上条さんの戦闘力上がってるので原作とは真逆の展開です。

どうでもいいですが、ストライク・ザ・ブラッドの古城と上条って似てる気がする。
これって俺だけ?

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