とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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37話 巣立ち

9月18日

 

 

 

エンデュミオン・ライブ会場

 

 

 

「何だったんだ!さっきの揺れは!」

 

「大丈夫なのか!」

 

「怖いよ~」

 

「オリオン号みたいになるんじゃないだろうな!」

 

「早く退けよ!」

 

「とっとと下ろせ!」

 

「宇宙に放り出されるなんてごめんだぞ!」

 

さっきまでの歓声は鳴りを潜め、観客たちの怒号と悲鳴が場を支配していた。

 

「落ち着いて下さい」

 

「我々の誘導に従ってお進み下さい」

 

係員たちの必死の誘導も彼らには届いていない。

 

全員の脳内に、3年前の事故が思い起こされていた。

そして“奇蹟”は2回も続けて起こらないと誰もが思っていた。

 

 

そんな中、彼らの耳に“奇蹟”の歌声が聞こえてきた。

 

 

「明日晴れるかな。空を見る~♪」

 

ARISAが歌っていた。

伴奏も照明もない中で、顔に微笑みを湛えたまま、その口から“奇蹟”を奏でる。

 

観客たちの心に彼女の思いが染み渡った。

 

 

「落ち着いてお進み下さい」

 

誘導に従い、全員が避難を開始する。

 

 

 

「くっ…」

 

観客たちが避難していくのとは反対側の通路で、シャットアウラ=セクウェンツィアは頭痛を訴えていた。

 

3年前の事故による後遺症で、脳に障害を持っている彼女とって“奇蹟の歌声”もただの煩わしい雑音と変わりなかった。

 

「殺してやる…」

 

それでも彼女は歩みを止めない。

 

もう何度目かわからない台詞を吐きながら、鳴護アリサを目指して進む。

 

当麻の出現によってレディリーの殺害が叶わなくなった今、彼女の頭の中はもう1人を殺すことで占められていた。

父親の尊厳を踏みにじった“89人目”を殺すことで占められていた。

 

 

「アンタ何やってんのよ?」

 

「貴様は…」

 

そんな彼女の前に、地下駐車場で彼女を助けた少女が現れた。

 

「御坂美琴…」

 

「昨日のこと、黒子たちに言わないでくれてありがとね」

 

美琴はひとまずシャットアウラに礼を述べる。

 

しかし、シャットアウラの方には美琴とお喋りするつもりなど欠片もなかった。

 

「そこを退け…」

 

「何で?ていうか、大分辛そうだけど、大丈夫なの?」

 

「うるさい。貴様には関係のないことだ」

 

「ハア…。こっちは急いでるからアンタと言い合ってる暇はないってのに…」

 

「だったら素直にそこを通せ」

 

「行かせないわよ。何か、アンタ危なそうだし」

 

「なら!」

 

シャットアウラが拳銃を構える。

 

右手は壁につけているため左手1本だが、彼女の腕前ならば外しはしないだろう。

まして、かなりの近距離だ。

 

「ちょっと、ちょっと、いきなり物騒なもの向けないでよ」

 

美琴の言葉には耳を貸さず、シャットアウラは引き金を絞る。

 

バンッという音が響き、美琴へ向けて鉛玉が飛び出した。

 

「ったく、危ないわね」

 

しかし、弾丸は美琴の身体まで届かなかった。

 

美琴の顔の前で静止している。アレイスターが当麻の超電磁砲を止めた時と同じように。

 

「何故だ…」

 

苦虫を100匹纏めて噛み潰したような顔で、シャットアウラは美琴へ恨み言を吐く。

 

「何故、貴様らは私の邪魔をする!一体、何の権利があって私の前に立っているんだ!」

 

美琴の対応はクールだった。

 

「そんなこと言われてもわかんないわよ。だいたい、アンタの事情なんて、これっぽっちも私は知らないんだから」

 

「だったら退けと言ってるだろ!」

 

「もう。これじゃ、話し合いどころじゃないじゃない。ハア…、仕方ないか…」

 

そう言うと、美琴は自身の影に手を翳した。

それに呼応して何かが飛び出し、美琴の手に収まる。

 

何か?

リモコンだ。

 

「ぽちっと」

 

美琴はシャットアウラにリモコンを向けてボタンを押した。

 

「うぅ…、アイツの能力かと思うとやっぱり気持ち悪いわね…」

 

「何をした?」

 

「アンタの頭の中、読んだのよ」

 

「なっ!」

 

リモコンを影の中に戻しながら、事も無げに言った美琴に、シャットアウラは言葉を失う。

 

「それにしても…」

 

対して、美琴は嘆息するように声を発した。

 

「あんたバカァ?」

 

「何だと!」

 

「アリサを殺してお父さんが喜ぶとでも思ってんの?」

 

「うるさい!そんなこと関係ない!」

 

「周りがみんな“もうダメだ”って諦めてる中で、お父さん1人で頑張って、みんなを助けたんじゃないの?アンタを助けたんじゃないの?」

 

「それをアイツらが踏みにじったんだ!だから私は!」

 

「それを“奇蹟”って呼ぶんじゃないの?最後まで諦めなかったお父さんが“奇蹟”を起こしたんじゃないの?」

 

「違う!“奇蹟”なんてものじゃない!父さんは…」

 

「それを否定するってことは、アンタ自身がお父さんを否定するってことじゃないの?」

 

「黙れ!お前になんかわからないんだ!」

 

「お父さんの想いに娘のアンタが答えなくてどうすんのよ。3年前の“奇蹟”を否定するってことは、あの日頑張ったお父さんをもう1回殺しちゃうことだって何でわからんないのよ!」

 

「黙れ黙れ黙れ!」

 

「ほんっとに分からず屋ね、アンタ!」

 

「これ以上、私の邪魔をするなら貴様も容赦しないぞ!」

 

 

バンッバンッバンッ

 

 

シャットアウラが拳銃を撃つ。

 

「当たんないわよ、そんなんじゃ」

 

しかし、弾は美琴を掠めただけだった。

微動だにしない美琴に、シャットアウラの弾が当たらなかった。

 

「この!」

 

ならばと、シャットアウラがペレットを転がす。

 

だが、美琴の方が速かった。

 

「いいわよ、シャットアウラ。アンタの情けない幻想を…」

 

シャットアウラに肉迫した美琴が右拳を握り締める。

 

「ぶち殺す!」

 

そのまま顔面を捉えた拳を振り抜いた。

シャットアウラの身体が後方へ倒れる。

 

「フゥ…。アイツとおんなじことするのも疲れるわね」

 

美琴はシャットアウラを見て嘆息した。

 

 

「わぁ!お姉様、カッコイイ!ってミサカはミサカはピョンピョン跳ねながらお姉様に拍手を送ってみたり」

 

「なっ!」

 

そんな美琴を物陰から見ていた人物が2人。

 

「アンタたち、いつからいたの!」

 

打ち止めと御坂妹だ。

 

「大丈夫ですよ、お姉様。ミサカたちはたった今ここに来たばかりです…」

 

「そっか、よかった…」

 

「…とミサカは実は“あんたバカァ?”のところから見ていたという真実を隠します」

 

「最初から見てたんかい!」

 

「うん!もうミサカネットワークで全個体に伝わってるよってミサカはミサカは報告してみる」

 

「ち、ちょっと…」

 

「残念ながら映像も音声ももう消せませんよ、とミサカは暗に諦めろと告げてみます」

 

「うぅ…」

 

「その幻想をぶち殺す(笑)」

 

「言わないで!」

 

この後、感動的なお別れシーンの前に、散々イジられた美琴であった。

 

 

 

冥土帰しの病院

 

 

 

「あれ?ここどこ?」

 

レディリー=タングルロードは霞んだ意識の中、誰かに手を引かれて歩いていた。

 

「起きた?」

 

「姫神秋沙…」

 

「ここは病院。とても腕のいい先生がいる。上条くんがあなたと私を飛ばした。説明はこれだけ」

 

「何でそんなこと…」

 

「先生に聞くといい。きっと私よりも上手く説明してくれるはず」

 

そう言うと、姫神は扉に手を掛けてスライドさせた。

 

「先生。患者さん連れてきた」

 

「うん。ご苦労様だね」

 

カエル顔の医者が中で待っていた。

 

「さてと…。君の事情はだいたい聞いてるね。彼からは君に関して2つのことを頼まれてる」

 

レディリーに座るように促しながら、冥土帰しは説明を始める。

空気を読んだ姫神は一礼した後、部屋から出た。

 

「まず1つ目。これは簡単。君の身体に異常がないか診てほしいと。これは医者の本分だね」

 

そう言いながら、右手の人差し指を立てる。

 

「そして2つ目。これがなかなか厄介なんだがね」

 

中指を立てつつ、冥土帰しは口元を軽く歪めた。

 

「君に新しい“顔”と“身分”をと言われてるね。どちらも君がこれから生きていく上で必要なことだね」

 

「生きる?馬鹿言わないでよ。私はこれからすぐにでも…」

 

「医者の目の前で“死ぬ”なんて言葉を軽々しく使わないでほしいね」

 

そう言った冥土帰しの身体が一回り大きくなったように、レディリーは感じた。

 

「言っておくがね。もし君が手首を切ろうが、身投げしようが、医者として僕が助けてみせるね。自殺なんて僕の目が黒いうちはさせないよ」

 

「何で、どいつもこいつも…」

 

「それは君がまだ“生きる喜び”を知らない“子供”だからだね」

 

「子供?私が?アンタの10倍以上生きてる私が子供?」

 

「その通りだね。君は1000年も生きてきたと言うが、それはただの“生”の積み重ねだ。ただ経験を積み重ねてきたに過ぎない。そんなのは生きていることにはならないね。君はまだ何も知らない子供だよ」

 

「…じゃあ、これからどうしろってのよ?」

 

「それは君が決めることだね。そうじゃないと意味がない」

 

「くっ…」

 

レディリーが俯く。

膝の上で拳を握り締めて小刻みに震える。

 

「どうする?生きてみたいと思うかい?」

 

「そうね…」

 

レディリーが顔を上げ、冥土帰しを真っ直ぐに見つめる。

 

「お願い…します…」

 

彼女は泣いていた。

 

1000年に及ぶ悪夢が終わりを告げ、漸く彼女の“人生”が始まりを迎えた瞬間だった。

 

 

 

エンデュミオン・ライブ会場

 

 

 

「また歩き出す。未来へ~♪」

 

観客がいなくなった会場で、鳴護アリサは歌った。

 

 

パチパチパチパチパチパチ

 

 

そんな時、誰もいないはずの客席から拍手が聞こえた。

 

「いやあ、いい歌だったよ、アリサちゃん」

 

「か、上条さんに御坂さん!何やってるんですか!」

 

「何を言ってるんです?アリサさんの歌を聴きに来たに決まってるじゃないですか」

 

「あっ、ありがとうございます。わざわざ…じゃなくて!何で避難してないんですか!」

 

「だって勿体ないじゃない。せっかく歌ってるのにお客さんがいないなんてねえ」

 

「うんうん。お陰で独り占めだ」

 

「あらあら、それを言うなら4人占めではありませんか?旅掛さん」

 

「ああ、それもそうですね。ハハハ」

 

「ちょっと!和んでないで避難して下さいよ!」

 

「ああ、そうだった」

 

「もうすっかり忘れてたわね」

 

「アリサさんの歌が素敵でしたからね」

 

他の観客が血相を変えて逃げ出したというのに、この4人組はどこまでもマイペースである。

 

しかし突然、4人の表情が強張った。

 

「当麻!」

「当麻さん!」

「美琴!」

「美琴ちゃん!」

 

ガタッと音を立てて椅子から立ち上がり、口々に子供の名前を呼ぶ。

 

「母さん!」

 

「ええ、聞こえました」

 

「そちらもですか?」

 

「ということは御坂さんも?」

 

「ええ」

 

「よし、行きましょう!」

 

「はい!」

 

端から聞いたら何のことかわからない会話を済ませた後、一斉にエンデュミオンの奥へと走っていった。

 

「ええっ!そっちは避難経路じゃ…ってみんな聞いてないよ~。もう、しょうがない!」

 

1人だけ残されたアリサも彼らの後を追いかける。

 

 

 

エンデュミオン・展望室

 

 

 

「父さん、母さん、久しぶり」

 

上条・御坂一行が、他の人間には聞こえない声によって導かれた先に、彼らの子供たちが待っていた。

 

「当麻…」

 

「当麻さん…。心配しましたよ」

 

「ごめん」

 

「美琴ちゃん…」

 

「うん、久しぶり。ママ、パパ」

 

取りあえず再会の挨拶は済ませた。

ここからが本番である。

 

「あのさ…、話があるんだ…」

 

「私も…。聴いて」

 

当麻が切り出し、美琴も言葉を添える。

 

「何だ?」

 

子供との再会で緩んでいた親たちの表情が再び強ばる。

 

「俺たち…」

 

当麻が苦しそうに言葉を紡ぐ。

 

「もう会えないんだ…」

 

「何だって!」

 

「それは美琴も同じなのか?」

 

美琴は首肯する。

 

「そんな…」

 

「当麻さん、どういうことですか?」

 

「ごめん…」

 

当麻は母親からの質問に首を左右に振る。

 

「言えない」

 

「一体何があったんだ?」

 

「それも言えない」

 

「おい、当麻!」

 

「刀夜さん、落ち着いて」

 

声をあげた刀夜を詩菜が宥める。

 

「当麻さん、どういうことか説明して下さい。私たちは親なんですよ。当麻さんがいなくなったと聞いてどれだけ心配したと思ってるんです?」

 

「ごめん…」

 

当麻は謝りこそすれ、詩菜からの質問に答えようとはしなかった。

 

「美琴…」

 

「何?パパ」

 

「どういうことか、お前も教えてはくれないのか?」

 

「うん。言えないの…」

 

親と子の話し合いは平行線を辿り始めようとしていた。

 

 

『あの日の涙は~♪』

 

そんな時、彼らの耳に歌が聞こえてきた。

 

 

(私が行っても邪魔になるだけだよね…)

 

鳴護アリサは、部屋の外から彼らを見ていた。

 

この件に関しては完全に部外者である彼女は、部外者であるなりに、彼らの手助けをする。

彼らのために“奇蹟”を奏でる。

 

 

「歌か…」

 

そんな彼女の歌が、別の人間の心も溶かす。

 

「いいものだな…」

 

シャットアウラは虚空を眺めつつ、認識できないはずの歌に耳を傾ける。

 

脳の機能が回復したのだろうか?

わからない。

しかし何故か、彼女は美琴のお陰であるような気がした。

 

(父さん…、私は…)

 

 

 

「アリサちゃんか…」

 

(味なことしてくれちゃって…)

 

「ねえ、美琴ちゃん…」

 

美鈴は母親として覚悟を決めた。

 

「私はもう止めないわ。そんな顔をしてる時の美琴ちゃんは何を言っても変わらないって知ってるから…」

 

「ママ…」

 

「でも1つだけ聞かせて」

 

「うん。何?」

 

「当麻くんとどこまでいったの?」

 

「カァ…」

 

美琴の顔が真っ赤に染め上がる。

 

「このシリアスな場面に何てこと聞いてんのよ!このバカ親!」

 

「あら~、大事なことよ」

 

美琴をからかうように、美鈴は平然と嘯いた。

 

「ふふふ。ねえ、刀夜さん?」

 

「ああ、わかってるよ、母さん。なあ、当麻…」

 

「父さん…」

 

「お前が学園都市に入る前のことを覚えてるか?」

 

「“疫病神”の話か?」

 

「ああ」

 

“疫病神”。

不幸を呼び寄せる当麻の渾名。

 

「覚えているならいい。その上で聞く。はっきり答えてくれ」

 

刀夜の眼光が当麻を射抜く。

一切の嘘が許されない質問だ。

 

「お前は今、幸せか?」

 

刀夜が尋ねる。

 

お前はあれから変われたのか?と。

お前の周りはあれから変わったのか?と。

 

「俺は…」

 

当麻はしばし目を瞑る。

そしてはっきり答えた。

 

「今も相変わらず“不幸”だよ」

 

「当麻…」

 

「この街に来てからも変わってない。不良に絡まれることもあるし、強盗に巻き込まれることもある。今年の春休みには路地裏で女に噛みつかれたし、夏休みと2学期の最初には何回も死にかけた」

 

ミナに不死の呪いを植えられた。

禁書目録から竜王の殺息を受けた。

一方通行に心臓を破られた。

司教には十字架で生き埋めにされた。

学園都市の暗部に右腕を切り落とされた。

ローマ正教からの刺客に襲われた。

大天使と戦った。

“神の如き者”の力を振るう敵も現れた。

史上最高の魔術師の計画に巻き込まれた。

 

誰がこんな生活を“幸せ”だと言えるだろうか?

 

「でもな…」

 

しかし、そこから当麻は続ける。

 

「俺が“不幸”だったお陰で助けられたヤツらがいるんだよ」

 

ミナは笑って最期を迎えた。

インデックスの呪いは解かれた。

妹達には生きる道が開かれた。

学園都市の崩壊を阻止できた。

アレイスターの計画を終わらせた。

 

美琴と出会えた。

 

「惨めったらしい“幸せ”なんざ要らねえ!そんなもんなくたって俺は“不幸”になんか負けねえ!だから、こんなにみんなを“幸せ”にできるんだ。俺は“不幸”だから“幸せ”なんだよ!」

 

当麻は両親に言い放つ。

お前たちの息子はもう大丈夫だと。

もう充分に気持ちは受け取ったと。

 

「そうか…。ハハハ、心配なんてする必要はなかったのか。父さんの独りよがりだったな。そこまで言われたらもう引き止められないよ。なあ、母さん?」

 

「はい」

 

「当麻。お前は進むと決めた道を進め。子供を見送るのも親の務めだ」

 

「おお」

 

 

「当麻くん…」

 

そこで、旅掛が当麻の名を呼ぶ。

 

「はい」

 

当麻は緊張した声を返した。

 

「我々は君に大事な娘を預けることになるな?」

 

「そうですね」

 

「だから1つだけ質問に答えてくれ」

 

旅掛は幾度となく繰り返してきた問いを当麻に発する。

 

「世界に足りないものは何だと思う?」

 

対して、当麻は悩まずに返した。

 

「笑顔、じゃないですかね」

 

「そうか…」

 

旅掛は笑う。

満足だった。

娘を任せられる男だと当麻を認めた。

 

「美琴を任せたよ、当麻くん」

 

「はい」

 

かくして親子の別れは済んだ。

 

子の巣立ちを止める者はもういない。

 

 

「じゃあな、父さんも母さんも元気で」

 

「パパとママもね」

 

「お前の方こそな」

 

「あんまりケガしないで下さいね」

 

「当麻くんとお幸せに~」

 

「アンタは最後の最後までそれか!」

 

「当麻くん、くれぐれも」

 

「わかってます」

 

それだけ言うと、当麻がパチッと指を鳴らした。

 

次の瞬間、4人が立っていたのは地上だった。

 

「行ってしまったか」

 

「そうですね」

 

「子供って親がいないところでも成長するものねえ」

 

「寂しくなるな…」

 

そう言う彼らは、4人とも笑っていた。

 

我が子の巣立ちだ。

子供が泣かないのに、親が泣く訳にもいかない。

 

 

 

エンデュミオン・地下

 

『先輩、頼みます』

 

「随分と待たせてくれたけど?」

 

雲川芹亜は、爆砕ボルトの前で携帯電話を耳に当てていた。

 

『すいません』

 

「まあ、君の頼みなら仕方ないけど。じゃあね、上条くん。もう会えなくなるとは寂しいけど」

 

そう言って彼女は携帯を切り、悲しみを弾き飛ばすような大声で叫んだ。

 

「仕事だ、ナンバーセブン!」

 

「おっしゃー!」

 

彼女の声に応えるのは削板軍覇。

 

「超すごいパーンチ!」

 

ドカンと轟音が響き渡り、最後のボルトが吹き飛んだ。

 

 

エンデュミオンが地表から離れる。

不死の少女の墓標となるはずだった“バベルの塔”が消えてなくなった。

 

 

 

エンデュミオン・展望室

 

 

 

「終わったわね」

 

「ああ」

 

「壊しちゃってよかったの?」

 

「レディリーの悪夢の象徴だからな。それに、他の魔術師たちが奪いに来たら大変だし」

 

「そうね」

 

「そろそろ行くか?」

 

「まだ待って。もうちょっと地球見てたい」

 

「そうかよ。確かに綺麗だな」

 

「むぅ~」

 

「え?何をむくれてるんでせう?」

 

「別に~」

 

「ああ!もう!わかったよ!」

 

当麻がツンツン頭をガシガシと掻いてから美琴に向き直る。

 

「お前の方が綺麗だよ、美琴」

 

「えへへ。よろしい。じゃあ、行こっか?」

 

「本当にそれだけのためだったんだな…」

 

「何か言った?」

 

「何も」

 

当麻と美琴は手を繋ぐ。

 

「これから長いぞ」

 

「うん、わかってる。でも当麻を選んだこと後悔したりしない」

 

「そうか。よし、行こう!」

 

シュンッという音だけを残して2人の姿が消える。

 

 

“上条当麻”と“御坂美琴”

“幻想殺し”と“超電磁砲”

“ハディート”と“ヌイト”

“最強の吸血鬼”と“血の伴侶”

“神浄討魔”と“躬叉…いや、“神浄命”

 

彼らの長い旅が始まった。

 

行く先もない、でも歩みは止めない。

 

そんな永い旅が…。




最初に投稿した時、上手くいかなかったらしく、文章が途中で切れていました。
あがってすぐに読まれた方々にお詫び申し上げます。

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