とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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35話 帰還

9月18日

 

 

 

エンデュミオン・地上部

 

 

 

今日はエンデュミオンの開業日であるため、入り口は人々でごった返していた。

 

「いやあ、すごい人集りですな」

 

そんな中にいたお馴染みの4人組。

 

「宇宙エレベーターの完成披露ですから当然と言えば当然ですね」

 

上条刀夜、上条詩菜、御坂旅掛、御坂美鈴。

 

「それにしてもアリサちゃんのコンサート楽しみだわ」

 

これからARISAのコンサートへ向かうところだ。

 

「そうですね。我々の分のチケットまで取って頂いて、ありがとうございます」

 

「いやいや、お気になさらず。何本か電話を掛けただけですから」

 

チケットは旅掛が用意した。

コネを使いまくってどうにか4枚確保したらしい。

 

 

 

そんな彼らが宇宙へと上がった直後、シャットアウラ=セクウェンツィアも宇宙へ行こうとしていた。

 

「私が行った後は、誰も上へ上がるな」

 

「はっ!」

 

黒鴉部隊の部下に指示を下し、シャットアウラはエンデュミオンの上部へ向かう。

 

(殺してやる…)

 

確固たる殺意を胸に秘め、“奇蹟”の“元凶”の居場所へ向かう。

 

 

 

第23学区・飛行場

 

 

 

「じゃ~ん!バリスティック・スライダー!」

 

土御門元春は、お気に入りのおもちゃの自慢でもするかのように、とある航空機を披露していた。

 

「時期主力宇宙輸送機関コンペで、宇宙エレベーターに敗れた不遇の機体ぜよ」

 

そして彼の説明を聴く女性がいた。

 

「これに乗って行けと言うのはわかりました。しかし…」

 

神裂火織だ。

だが、ここにいるのは彼女1人ではなかった。

 

「わーい、飛行機だー、ってミサカはミサカはピョンピョン跳ねてみたり」

 

「跳ねては危ないと何度言えばわかるのですか、とミサカは物分かりの悪い上位個体を窘めます」

 

「何故、彼女たちがここにいるのですか!」

 

打ち止めと、御坂妹ことミサカ10032号がいた。

 

「ポニーテールのお姉ちゃん、はじめまして、ってミサカはミサカは挨拶してみる」

 

「これはご丁寧に…ではなく!何故?そもそも彼女は御坂美琴ではないのですか?」

 

「妹です。そして、そこにいる幼女は末っ子です、とミサカは端的に述べます」

 

「幼女じゃないもん、ってミサカはミサカは憤慨してみる!」

 

「早く説明しなさい、土御門!」

 

神裂は取りあえず、訳知りであろう土御門を問い質した。

 

「にゃ~。それは妹ちゃんたちに直接聞いた方が良いんだぜい」

 

「実は…」

 

土御門に促された御坂妹が話し出す。

 

「昨日、ARISAのライブが行われたショッピングモールより、“御坂美琴”お姉様の電磁波が探知されました」

 

ミサカネットワークの真価ここにあり、とでも言わんばかりの特ダネだ。

つまり、御坂美琴がその場にいたということである。

 

しかし…

 

「…は?」

 

科学オンチの権化たる東洋の聖人・神裂火織には、さっぱり何のことかわからなかった。

 

「…ああ、忘れてたにゃ~。ねーちん、つまりだな…」

 

ピンポンパ~ン

土御門先生のわかりやすい電撃使いについてのじゅぎょ~。

 

 

 

数分後

 

 

 

「つまり、御坂美琴があの場にいた、と?」

 

「これだけわからせるのが精一杯だったにゃ~」

 

「しかし何故、それであなたたちが宇宙へ行くという話になるのですか?」

 

「考えてもみて下さい。10日間、行方を眩ませていたお姉様が、突如ARISAのライブが行われている場所に現れたのですよ、とミサカは“自分で考えろよ”という本音を隠します」

 

「今、何か失礼な言葉が…」

 

「気のせいです」

 

「つまりな、ねーちん…」

 

「お姉様は…」

 

「ARISAのファンなんだにゃー」

「ARISAのファンなのです」

「ARISAのファンなんだ」

 

「はい?」

 

3人同時に言い切られ、神裂は思わず聞き返す。

 

「土御門、真面目な話ではなかったのですか?」

 

「大真面目だにゃ~」

 

そう言いつつ、土御門は神裂に近づいて耳打ちする。

 

「もちろん冗談だぜい。あの2人も真に受けちゃあいない」

 

神裂もヒソヒソと言葉を返す。

 

「では何故?」

 

「取りあえず、鳴護アリサとの因果関係があるとは思ってるし、実際そうなんだろう」

 

「鳴護アリサとレディリー=タングルロードに関する問題に干渉しようとしていると?」

 

「当たり前だにゃ~。多分、カミやんと一緒なんだぜい」

 

「上条当麻…」

 

「カミやんが、可愛い女の子が困ってるのをほっとく訳ないにゃ~。行ったら会えるかも知れないぜい。アイツらが会いたいのは御坂美琴だけどにゃ~」

 

「わかりました」

 

「行くのか?」

 

「はい。彼がいるかも知れないと言うのなら」

 

「よし!決まりだな」

 

土御門は神裂から離れ、妹達の方を向いた。

 

「出発だにゃー!」

 

 

 

とある高校

 

 

 

土御門が神裂たちを見送っていた頃、小萌のクラスで騒ぎが起きていた。

 

「それでは、グスン、先生の、グスン、化学の、グスン、授業を、グスン、始めるのです、グスン」

 

小萌が泣いていたのだ。

 

「小萌先生、一体何があったんですか!」

 

真っ先に青髪ピアスが質問する。

 

「うぅ…、何でもないのですよ」

 

小萌はそう言うが、何かあったのは明らかだ。

そうでなければ、まるで卒業式で教え子を送り出した後のように泣いているはずがない。

 

(生徒ちゃんとお別れするのは辛いのです…。でもでも、これも先生の大事なお仕事なのです)

 

さて、小萌に何があったのだろうか?

 

 

 

エンデュミオン・展望室

 

 

 

窓から覗けば、真っ青な地球が望める展望室。

そんな場所で、鳴護アリサは膝を両手で抱えて宙に浮かんでいた。

 

「私のために歌ってくれないかしら?あなたの奇蹟の歌を」

 

そんな彼女にレディリーが話し掛ける。

 

「ただし、断れば集まった観客は全員死ぬことになるけどね」

 

アリサは思案するようにしばらく目を閉じる。

 

(上条さん、御坂さん、私に力を…)

 

オーディションに受かったことを喜んでくれた彼らを思い出していた。

 

そして、決意を込めた声で言い放った。

 

「私、歌います!」

 

レディリーが面白がるように口元を歪める。

 

「あなたのためにじゃない。純粋に私の歌を楽しんでくれる人たちのために、今も会場で待ってくれてるみんなのために。あなたが何を企んでいても、それを上回る“奇蹟”の歌を!」

 

それを聞き終えると、レディリーは部屋から去っていった。

 

 

 

宇宙空間・エンデュミオンの近く

 

 

 

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

 

 

バリスティック・スライダー内部にけたたましく警報音が鳴っていた。

 

「わあ!ってミサカはミサカは超ビックリ!」

 

「どうやら、エンデュミオンに搭載されているアンチデブリミサイルにロックオンされたようですね、とミサカは分析します。何か武装は?」

 

御坂妹の問いに、モニターの向こうから土御門が答える。

 

『あるぜい』

 

しかし、何やら悪巧みでもしているようなニヤニヤとした笑いを浮かべているのが不安である。

 

『出番だぜい、ねーちん!』

 

やっぱり、不安は的中した。

 

 

「土御門め…。覚えておきなさい」

 

恨み事を吐きつつも、神裂は機外へ出て宇宙空間に身を晒す。

 

普通なら死ぬが、聖人である彼女は問題にしない。

 

「Salvare000─救われぬ者に救いの手を─!」

 

魔法名を宣言すると、機体を蹴ってミサイル陣へと突撃する。

 

「はあ!」

 

気合いと共に、抜きはなった七天七刀とワイヤーでミサイルを次々に撃墜していく。

 

第1波を殲滅し、一端機体の上に戻る。

 

そこへ第2波攻撃が放たれた。

 

「面倒ですね!」

 

神裂の身体が再び跳躍の構えをとる。

 

その時、1本の光線がミサイル陣を薙ぎ払った。

 

「なっ!」

 

驚いた彼女は自身の横に目を遣る。

 

「おっす、神裂」

 

ツンツン頭の少年が宙に浮かんでいた。

 

 

 

エンデュミオン・地上部

 

 

 

「クソッ!このままじゃジリ貧じゃん!」

 

エンデュミオン内部へと突入しようとした警備員部隊だったが、入り口の前に陣取ったロボットに足止めを食っていた。

 

「何とか入れませんの?」

 

仮説本部のテントの下には、超電磁砲組の姿も見てとれる。

 

「無茶言うな!」

 

そう言う間にも、ロボットは雨あられと弾丸や砲弾を飛ばしてきている。

 

「こうなったら、私の能力で…」

 

「やめろ!飛んだ先で各個撃破されてお仕舞いじゃん!」

 

「くっ…」

 

その時、辺りに凄まじい音が響き渡った。

同時に、目を灼かんばかりの閃光が溢れる。

 

「何だ?」

 

その場にいた全員が、光が発せられる中心、すなわちロボットがいた方へと目を向ける。

 

ロボットは爆砕し、付近には焦げたような跡がこびりついていた。

 

そして、その中心部分が光が収まるにつれて露わとなる。

 

「お姉様!」

「御坂さん!」

「御坂!」

 

そこには、シャンパンゴールドの髪を振り乱した少女が立っていた。


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