とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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第1章 禁書目録篇
3話 魔導書図書館


『ところで当麻』

 

『ん?』

 

『ベランダに誰かいるぞ』

 

『何だって!?』

 

『いや、気づけよ!吸血鬼なんだから人の気配には敏感はずだぞ?』

 

『あぁ、言われてみればそんな気がしないでもない…かも?』

 

『私が感じていることは、お前も感じるんだから、もっと気を付ければ分かるだろうに…』

 

『さて、じゃあベランダに誰がいるのか確認するとしますか』

 

『流すなよ。っておい!そんな不用心にいきなり開けるな!』

 

ジェーンが心配して止めるのも気にせずにベランダに出る上条。そこには謎の「白いもの」が…。

 

『あれ?俺、布団干してたっけ?』

 

『いや。あれは…』

 

白いものをよく見てると、どうやら服のようである。それも学園都市ではまず見ることのない修道服。フードの下からは綺麗な銀髪が覗いている。

 

『…人間だぞ』

 

「…ぉ」

 

『あ!起きたみたいだ』

 

「おーい。大丈夫か?」

 

「お腹すいた」

 

「え?」

 

「お腹すいたって言ってるんだよ」

 

「目覚めて第一声がそれかよ!」

 

 

吸血鬼・上条当麻の家にはまともな食糧はないので、取りあえずベランダからやって来たシスターには防災用の乾パンで我慢してもらった。

その際、停電による冷蔵庫の故障で輸血パックのストックが全滅していることを知った上条は「不幸だ」といつも通り呟いた。

 

 

「うぅ~。乾パンだけじゃ物足りないかも」

 

「贅沢言うな」

 

「冷蔵庫には何も入ってないの?」

 

「食える物はな。ところで何でうちのベランダに干されてたんだ?」

 

「干されてたんじゃないよ。落ちたんだよ。ホントは隣の建物に飛び移るつもりだったんだけど失敗しちゃって」

 

「飛び移るって。自殺志願者ですか?」

 

「違うもん!私は神の教えに忠実なシスターだから命を粗末にしたりしないんだよ!」

 

「じゃあ何で?」

 

「仕方なかったんだよ。追われてたからね」

 

「追われてた?誰に?何で?」

 

「魔術結社だよ。名前までは分からないけど。狙いは私が持ってる魔導書だと思う」

 

「魔導書だって?手ぶらに見えるけど?」

 

「ちゃんと持ってるんだよ!10万3000冊の魔導書!」

 

「なんですと!?」

 

『なぁジェーン。10万3000冊って…』

 

『あぁ。私も驚いてるよ。だがアレ以外にはないだろう』

 

『こんな子供に…』

 

「な、なぁ。お前、名前なんていうんだ?」

 

「あっ!そういえばまだ名乗ってなかったね。私の名前はインデックスっていうんだよ」

 

『残念ながらアタリらしいぞ?当麻』

 

「魔法名はDedicatus545。“献身的な子羊は強者の知識を守る”って意味だね」

 

『こいつは禁書目録。10万3000冊の魔導書の知識を全て記憶している、イギリス清教の魔導書図書館だ』

 

『それにしたって何でこんな科学サイドのド真ん中にいるんだ?』

 

「ねぇ、ちょっと」

 

『さっき追われてるって言っていたじゃないか』

 

『魔術結社から逃げるために学園都市に逃げ込んだってことか?』

 

「聞いてるのかな?」

 

『多分そういうことだろ。この街の警備は何だかんだ言ってザルだからな。簡単に入れただろうさ』

 

『でもザル過ぎて追っ手もついて来ちまった、と』

 

「無視はヒドいんだよ!」

 

『だが、イギリス清教と学園都市は同盟関係のハズだ。何故ほったらかしになっているんだ?そこだけが解せない。保護して送り返せば恩を売れるだろうに』

 

『ん~。難しいことは分からないけど、取りあえず助けるっきゃねぇだろ』

 

「ねぇっば!」

 

『またそれか…。お前は人間やめても人助けが好きだな。若干イカレてるとも取れるぞ、ここまで来ると』

 

『俺は偽善使いだからな』

 

「うぅ~。難しい顔して黙ったまま、完全無視なんだよ。こうなったら…」

 

『相手は教会の人間だから吸血鬼だとバレないように気をつけろよ』

 

『分かってるって』

 

ガブッ!

 

「ギャー!痛い痛い痛い!」

 

「ようやく反応したんだよ!まったく、目の前にいる人を無視なんてヒドいんだよ!」

 

インデックスに頭を噛まれた上条は叫びながらも、必死に彼女を押しのけた、右手で。

 

パーンッ!

 

「「『えっ?』」」

 

あまりのことに3人同時にマヌケな声をあげてしまう(1人は声出てないけど)。

インデックスの修道服が吹き飛んだのだ。下着を着けていないため全身が露わになる。

みるみるうちにインデックスの顔が羞恥で赤く染まっていく。

 

「あ~、ええっと…」

 

「見ないでー!」

 

ガブッ!

 

再び上条の頭に噛みつくインデックス。

 

「不幸だー!」

 

 

数分後

 

 

「出来たー」

 

布団を被って修道服をどうにか繕おうとあくせくやっていたインデックスだったが、どうやら何とかなったらしく声をあげた。

 

が、

 

「着るの?そのアイアンメイデン」

 

バラバラの修道服を安全ピンで留めただけという斬新なスタイルになってしまっている。

 

「まぁ、そんなことはさて置いてな、インd…」

 

「そんなこと!?私のこと裸にしておいて“そんなこと”で済ますつもりなのかな?とうま」

 

「うっ…」

 

どうにか話題を逸らそうとする上条だったが失敗だったらしい。

 

「悪かったよ。でもしょうがないだろ?破けちまったもんはさ。まさかそれが霊装だなんて思わなかったんだよ。言ってくれたら俺も触らないように気を付けたけどさ」

 

「それはつまり、私の所為だと言いたいのかな?とうまは。いくら不思議な力が右手に備わってるからって許されることじゃないんだよ」

 

「違う違う!そんなつもりはなかったんだ。ただ、修道服のことより、これからどうするか考えた方がいいんじゃないかって思っただけだ。追われてるんだろ?」

 

「う~ん。それは確かに正論かも」

 

「だろ!そこでだ。俺はこれから病院に行かなきゃいけないんだ。お前、ここで大人しく待ってられるか?」

 

因みに病院に行く目的は血液の確保である。このまま血を飲まなかったらインデックスを襲いかねないからだ。

 

「ううん。いいよ。すぐに出て行くから」

 

「それはダメだ。また襲われたらどうすんだよ?」

 

「教会に行けば保護してもらえると思うから大丈夫だよ。それに、ここにいたら迷惑かけちゃうし、この修道服の魔力で探査魔術を掛けてるみたいだから」

 

「それなら尚更ここにいろよ。危ないじゃねぇか」

 

「じゃあ私と一緒に地獄の底までついて来てくれる?」

 

インデックスは上条を見つめながら笑顔でそう言った。

普通なら迷うところであろうが吸血鬼・上条当麻は迷わない。

 

「あぁ!ついて行ってやるよ。地獄の底でも神の国でも、お前を守ってやるよ」

 

(こんなことを今さっき出会った相手に言ってしまえるって、一体こいつの頭はどうなってんだ?というか、この台詞プロポーズみたいだな。また、フラグ立てるつもりかよ、天然ジゴロめ)

 

何やらジェーンが物言いたそうだが、上条はまったく気付いていない。

 

「ホントに?」

 

「あぁ」

 

「ホントにホントに?」

 

「あぁ、ホントにホントだ」

 

「ふっ…」

 

「ふ?」

 

「ふえーん!」

 

突然インデックスは上条の胸に飛び込んで泣き出した。

 

「えぇっ!何故泣くのでせう?上条さんが何か言ってはいけないことを言いましたか?」

 

(何でこんな鈍感野郎にどいつもこいつも惚れるんだろう?まったく、少しは女心をわかるようになれよ、いい加減に!)

 

またジェーンが黒いことを考えているが…あれ?ちょっと嫉妬混ざってない?これ。

 

「違うもん。嬉しいんだもん」

 

見知らぬ敵にずっと追い回され、ボロボロになっていた心に上条の優しさが響いたのだろう。

その後しばらく上条の部屋からは幼女の泣き声が聞こえていた。

このことがまた、あらぬ誤解を生むことになるのだが、それはまた違うお話である。

 

ビクッ!

 

「い、今なにか不幸な出来事が起こるような予感が…」

 

 

約30分後

 

 

現在、上条は学生寮へ向けて走っている。

 

 

あの後、決して部屋から出ないようにとインデックスに言いつけて病院へ向かった。

 

ぶっちゃけ限界が近かった。

真夏の太陽で体力の消耗がいつもより激しく、何より目の前には幼気な少女である。

吸血衝動をどうにか抑え込んでいたが、あれ以上インデックスと2人きりの状況が続いたらマズいことになっていたかも知れない。

追われているインデックスを1人で部屋に残してきたのは、そういうワケだ。

 

カエル顔の医者から輸血パックを貰い、早速牙を突き立てて1パック空にした。

そして、当面の分のストックと冷却用のクーラーボックスを受け取った。

やけに準備がいいと思えば、停電があったのでこうなるかも知れないと思ってあらかじめ用意していたらしい。

 

 

こうして現在にいたる。

 

すると、もう少しで学生寮に到着するというところで怪しい人物を発見した。

真っ黒の神父服に身を包んだ、身長2mほどの男。肩まで伸びた真っ赤な髪、右目の下にはバーコードのような刺青、十指全てにゴテゴテした指輪をはめ、耳には大量のピアスがつけられている。近づくと香水の匂いまでした。

 

この男を怪しいと言わずして何と言う。

 

上条は確信した。この男は魔術師だ。

そして、学園都市には何人もいないであろう魔術師が偶然、インデックスがいる場所の近くにいることなどまず有り得ない。

 

(こいつがインデックスの追っ手か…)

 

上条は肩から提げたクーラーボックスを道の端に置き、怪しい男に近づいていった。

 

「おい!お前!」

 

「ん?何かな?こう見えても僕は忙しくてね。君のような学生の相手をしている暇はないんだよ」

 

「インデックスを狙っているのはお前か?」

 

「ッ!そうか!アレが何故、学生寮なんかにいるのかと不思議に思ってたんだよ。君が匿っていたのか」

 

「その言葉は肯定と取るぜ、魔術師」

 

「ほう。こちら側のことを知っているのか。アレから聞いたんだな。残念だよ。これで君も殺さないといけなくなった。それさえなければ生かしておいてあげても良かったんだけどね」

 

「ごちゃごちゃうるせぇよ!取りあえず、お前なんかにはインデックスは渡さない」

 

上条の言葉に対して、ふっと小さな嘲笑で返したあと、男は唐突に告げた。

 

「ステイル=マグヌス、と名乗りたいところだけど、ここはFortis931と言っておこうか」

 

「魔法名か…」

 

「そう。よく知っているね。でも、本来の意味とは少し違う。僕にとってこれは“殺し名”かな」

 

そう言ったステイルは間髪入れずに魔術を発動させる。

 

「炎よ、巨人に苦痛の贈り物を!」

 

ステイルの手から生まれた炎剣が上条の体に襲いかかる。

 

 

パキーンッ!

 

乾いた音が鳴ったかと思うと、跡形もなく炎剣は消え去った。

 

「何!?」

 

ステイルの顔に動揺の色が浮かぶ。

 

「ぬるすぎるぞ!魔術師!」

 

上条は手を止めたステイルに一直線で迫る。

我に返ったステイルは、手持ちのルーンのカードを辺り一面にバラ撒き、早口で詠唱を開始する。

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ。それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ!」

 

撒かれたカードの上から炎の巨人が出現する。

 

「魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

 

どうにか間に合ったとはいえ、仕込みが充分ではなかったためか、3000℃には達していない、不完全なものである。

しかし、それでも人を焼き殺すには充分であった。

充分なハズだった。

 

パキーンッ!

 

突っ込んで来た上条が右手を振るい、魔女狩りの王を消す。

 

しかし、一瞬で復活した。

一端立ち止まり、魔女狩りの王を見据える上条。

再び右手で消すが、またもや復活する。

 

その様子を見ていたステイルは効果があったと見て、やや余裕を取り戻した。

ところが、それは長く続かなかった。

 

「カードの方を潰さないとダメみたいだな、こいつは。でもそれより、術者を仕留めた方が早いか」

 

上条はそう呟くと、なんと、跳躍して魔女狩りの王を楽々と跳び越えてステイルの目の前に着地した。

人間の身長を上回る魔女狩りの王を助走もろくにしないで跳び越えたのだ。

これを見たステイルは慌てて後ずさるが遅すぎた。

 

「お前がこれ以上インデックスを傷つけようっていうんなら、まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!」

 

上条の右ストレートがステイルの顔面に突き刺さり、そのまま意識を刈り取った。

 

 

この時、ステイルがもう少し冷静だったなら気付いたかも知れない。

 

上条の瞳が赤く輝いていたことに。




はい!
インデックスとの出会いからステイル戦まで書くことが出来ました。
戦闘シーンの描写がつたないのはご容赦下さい。

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