とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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第7章 最終決戦篇
25話 伴侶


9月3日

 

 

 

「…き……い…こ……か」

 

“闇に沈んだ”上条の耳に人間の声が聞こえてきた。

 

(誰か呼んでる?)

 

ぼうっとした意識の中でそんなことを考えた。

しかし、もう上条の意識は戻らない。

今はギリギリのところで、体の制御を捨てるほどのところで、どうにか抑えている吸血衝動だが、あと僅かで最後に残った意識もなくなる。

 

つまり、ぼうっと物を考えることも出来なくなったら“終わり”だ。

 

 

フィアンマと“神の力”を瞬殺した上条の“光の剣”。

地獄の底から最強の堕天使の力を引っ張り出してくる大魔術だ。

代償として吸血鬼の、無限とまで言われるほどに大量の“生命力(マナ)”が空っぽになる。

 

 

事ここにいたって、吸血衝動を抑えることは不可能だ。

せめて、沈んだ意識の中で僅かだけでも抵抗を…

 

 

「起きなさいよ!このバカ!」

 

ビリビリッ!

 

「うぉぉ!?」

 

 

…と、いう訳にはいかないようだ。

 

電撃娘に叩き起こされてしまった。

 

「人のこと無視すんのも大概にしなさいよ」

 

 

 

冥土帰しの病院

 

 

 

「良かったのかい?」

 

御坂美琴を送り出したことについてステイルが問い掛ける。

 

「上条当麻と吸血鬼について全て語ってしまったようだけど、彼女は科学サイドの人間だよ」

 

「構いません。彼女の上条当麻への思いは本物です。我々に止める権利はありません。まして我々はここから一歩も出られません。彼女の背を押すのが筋というものでしょう」

 

 

上条によって飛ばされた必要悪の教会のメンバーは誰もこの病院から出られない。

インデックスが首を振ったからにはどうしょうもなかった。

必要悪の教会からの応援を呼びはしたが、到着まではまだ時がかかる。

 

『上条当麻…』

 

そんな時、誰からともなく漏れた言葉を美琴の耳が拾い上げた。

 

『アンタたち、アイツのこと知ってるの?教えて!お願い!』

 

美琴の必死さに圧されて、上条と吸血鬼について教えた神裂だった。

 

『御坂美琴、彼のことをよろしくお願いします』

 

『御坂さん、上条さんを助けてあげて下さい』

 

『みこと!とうまを助けて』

 

皆の思いを託された美琴は上条の元へ駆けていった。

 

 

「そろそろ、みことが着いたころかも…」

 

玄関扉にへばりつくような体勢のインデックスがポツリと言った。

 

「そうですね。戦闘音も止みましたし、きっと大丈夫ですよ」

 

インデックスに続いて五和も言う。

 

しかし2人とも表情は明るくない。

 

(何故、結界がまだ解かれないのか?)

 

誰もが胸の内に持つ疑問だったが、この場で言葉に出来る者はいなかった。

 

 

 

「御坂…。何で…」

 

「記憶なら戻ってるわよ。後、吸血鬼とか魔術とかのことも全部聞いてる」

 

「じゃあ…」

 

“尚更、何で来たのか?”と上条は言いたかったのだが、口から出てきたのは低い呻き声だけだった。

 

「ぐあっ…」

 

「ねえ!大丈夫なの?敵はやっつけたんじゃないの?」

 

「御坂、離れろ…」

 

心配そうに話す美琴を自分から遠ざけようとする上条。

もう本当に限界だった。このまま美琴を吸ってしまいかねない程に。

衝動がいつ理性を食い尽くすか知れたものではなかった。

 

「嫌よ。絶対に離れない。やっと見つけたんだから。もう2度と放さないんだから」

 

しかし、美琴が離れる気配は微塵もなかった。

 

その時、突然上条の様子が変わった。

 

「血が足りないんだよ」

 

「え?」

 

『おい、ジェーン!何考えてんだ!』

 

『五月蠅い。黙ってろ』

 

「アンタ誰?」

 

上条の豹変ぶりに驚いた美琴が問う。

 

「操車場で会っただろ」

 

その一言で充分だった。美琴は一瞬で記憶を探り当てる。

 

「アンタあの時の…」

 

「思い出したか?そんなことより血だ。大技出した所為で血が足りないんだよ」

 

「血?じ、じゃあ私のを…」

 

美琴は制服のボタンを数個外してはだけさせ、首筋が見えるようにする。

 

「ダメだ…」

 

その時、また上条の様子が変わった。

 

『身体の制御を私から取り戻したか』

 

『限界が近いのはお互い様だからな』

 

「戻った…。何で?私の血じゃダメなの?」

 

「聞いてないのか?お前まで吸血鬼になるんだぞ」

 

上条が考えているのはその一点だけだった。

 

「それって…」

 

「いいか?御坂。今の俺は血を吸いたくて吸いたくて仕方ねえんだ。だから兎に角離れてくれ。出来るだけ遠くまで逃げてくれ」

 

「でも…」

 

「もう意識がもたないんだ。このままだと、一番近くにいるお前の血を吸っちまう。だから…」

 

「私がいなかったらどうなるのよ」

 

美琴が上条の言葉を遮る。

 

「私がいてもいなくても“吸血衝動”ってのは変わらないんじゃないの?私がいなかったら誰の血を吸うのよ」

 

「それは…」

 

「手当たり次第に近くにいる人間襲うつもり?」

 

「う…」

 

上条が押し黙る。

 

“そうだ”と答える訳にはいかない。だが、美琴の言う通りだった。

ここで美琴を逃がしたら、違う人間が上条に吸われることになる。

 

「ほら!」

 

美琴が上条の身体を抱きかかえて起こす。

丁度、2人の頭が隣に来る形となった。

 

「御坂…」

 

「私はいいのよ。アンタがいなかったら、私は8月21日に死ぬつもりだったんだから」

 

美琴が上条の耳に息をかけるように呟く。

 

「でも…」

 

「それに!」

 

それでも渋る上条に美琴は叫ぶ。

顔をリンゴのように染め上げて、心に秘めた思いをぶちまける。

 

「私はアンタのことが好きなのよ!」

 

美琴は、まるで100mを全力疾走したかのように、ハァハァと息を切らせている。

 

「御坂…」

 

「だから、アンタと一緒にいたいのよ」

 

美琴はそう言うと、上条の頬を両手で挟み、唇を奪った。

 

上条は自分の中で何かが崩れたような気がした。

 

「私の血を吸って“当麻”」

 

美琴の言葉に導かれるまま、上条は美琴の首筋に牙を突き立てた。

 

 

 

窓のないビル

 

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

アレイスター=クロウリーが、普段の冷静な表情をかなぐり捨てて、哄笑をあげていた。

 

平時の彼を知る者が見れば、間違いなく自分の目を疑うだろう。

 

「さあ!これで最終ステージだ!面倒な計画などはもう必要ない!」

 

この場には誰も、エイワスすらいないというのに、アレイスターは大声で叫ぶ。

 

「後は最後に残った邪魔者を…」

 

楽しそうに話していたアレイスターが、そこで“おや”と、幾らか落ち着いた声で言った。

しかし、すぐに頬を吊り上げてまた笑う。

 

「“彼女”まで消えてくれるのか。本当に面倒なことがなくなってしまったな」

 

 

 

「御坂…」

 

アレイスターが高笑いをあげている頃、上条は腕の中で眠っている少女を見下ろしていた。

 

いや“少女”というのは間違いかも知れない。

 

“御坂美琴”は“上条当麻”を追いかけて“人間”の道から外れてしまった。

 

目を覚ました時には、完全に吸血鬼となっているだろう。

それも、上条当麻と、いや“ミナ=ハーカー”と同格の強力な吸血鬼に。

 

「痛ッ!」

 

『ウジウジ悩むなよ、男だろ』

 

その時、上条の頭に強烈な痛みが走った。

 

そして、ジェーンの言葉と共に、頭から“光の粒”が飛び出し、上条の目の前に収束して人間の形を成した。

 

金髪金眼、真っ白な肌、真っ赤なドレス。

もう誰かお気づきだろう。

 

「ジェーンか?」

 

「まあな」

 

「お前、出てこられるのかよ」

 

「そう自由に出来る訳じゃない。“最後”に1回だけ出られるようにしておいたんだよ」

 

「最後?」

 

何故か上条は嫌な予感がした。

 

「ああ、私は今から“消える”からな」

 

「は?」

 

(今、何て言った?)

 

「いやな。端から、そういうつもりだったんだよ。お前が“眷属”・“伴侶”を見つけるまでは見守っていようってな」

 

「お、おい。ジェーン、お前…」

 

「“ジェーン”か…。適当に付けただけだったんだが、我ながらピッタリの名前だったかもな」

 

“なあ、当麻”と彼女は続ける。

 

「あっちじゃ、身元が分からない死体をそう呼ぶんだよ。“知識”は私と同じなんだから知ってるだろ?」

 

「何…言ってんだよ…」

 

「お前は馬鹿だけど、いざって時の頭の回りは速いんだから、もう気づいてるんじゃないのか?」

 

当惑する上条を前にしつつも、彼女は言葉を止めなかった。

 

「私は“ミナ=ハーカー”。史上最強の吸血鬼の眷属にして、元・世界最強の吸血鬼。今年の春にお前に噛みついて“不死の呪い”を植え付けた女だよ」

 

上条は、ヴェントのハンマーで頭を殴られたような衝動を感じた。

 

しばし、静寂が場を支配する。

 

「フッ」

 

沈黙に耐えかねたのか、“ジェーン”改め“ミナ”は自嘲気味な表情を浮かべて上条から視線を外して空を見た。

 

「我ながら未練たらしいもんだと思うよ。死にたいからお前を“噛んだ”のに、お前とあのまま別れるのが惜しかったんだ」

 

「本当にミナなのか?」

 

「今更、嘘ついてどうするってんだ?」

 

「な、なあ…」

 

「ストップだ。“何で?”とか聞くなよ。散々“ジェーン”として語り明かしただろ?それは。もう最後なんだ。もっと違うこと話そう、当麻」

 

「じゃあ…。話し方はそっちが素なのか?」

 

「ハハッ。そうそう、そういう馬鹿話がしたいんだ。答えはYESだ。“君”とか“~かい”とか、気取った話し方は苦手だよ。気持ち悪い。“お前”とか“~なのか”とかの方が性に合ってる」

 

「どうりで春休みとは思いっきりキャラが変わってるんですね…」

 

「初対面のイケメンにはカッコつけて話しかけなきゃな、やっぱり。お前、結構タイプだったからな」

 

「またまた~。上条さんがモテないのは自分が一番わかってますのことよ」

 

「…急に、このまま逝くのが不安になってきたよ。この朴念仁…」

 

「ひどッ!」

 

「美琴は苦労しそうだな。ハァ。浮気するなよ」

 

「しねえよ!」

 

「お前の場合、気づかないうちにやってそうだから心配なんだよ…」

 

「だから上条さんに振り向いてくれるような女性なんて…」

 

「我はこの世界の闇を統べる者なり。神の教えに背き、十…」

 

「わぁー!何、“光を掲げる者の剣”出そうとしてるんだよ!」

 

「すまんな。つい、腹が立って…。お前なら平気だろ、このくらい」

 

「“幻想殺し”があったらな!」

 

しんみりした雰囲気から、いつの間にか見事な夫婦漫才になっている2人。

5ヶ月も同じ頭の中で暮らせば、息もピッタリである。

 

そんな時、ミナの身体が光を放ち始めた。

 

「そろそろか…」

 

「お別れか。寂しいな」

 

「まあ、そう言うな。この5ヶ月間、楽しかったよ」

 

「“先に行って待ってる”とか、お決まりの台詞はないのでせうか?」

 

「ないよ。あの世は信じてない、というか、あってほしくないな」

 

「初耳だな。何でだ?」

 

「あの“おっさん”にまた会うなんて、絶対にごめんだからな!」

 

「“おっさん”ねえ…」

 

「まあ、エイブラハムとなら会ってみるのもいいけどな。お前と似ていい男だったよ」

 

「だから上条さんは…」

 

「我はこの…」

 

「何でもありません!」

 

「よろしい」

 

光が徐々に増し、ミナの身体が空気に溶けるように透けていく。

そんな中、彼女は笑みを崩さなかった。

 

「じゃあな、当麻。美琴を大事にしろよ。アイツはなかなかいい女だ」

 

「わかってるよ」

 

「それから、私みたいにはなってくれるなよ。お前はいつまでも“偽善使い(フォックスワード)”の上条当麻でいてくれ」

 

「ああ」

 

「最後にお前と会えて良かったよ」

 

それが彼女の最後の言葉だった。

 

ミナ=ハーカーは光となってこの世界から消え去った。

 

 

 

願わくば、彼女の魂があの世などに逝くことのないように。

そして、“彼”との再会がなせれぬように。




拙い文章をお許し下さい。
こういう話を書くのは向いてないと身に染みました。

美琴とのカップリング=血の契約が成立。
ジェーンの正体判明、別離。
取りあえずは、これだけの話でした。

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