とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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24話 天使と悪魔

9月3日

 

 

 

冥土帰しの病院・打ち止めの病室

 

 

 

「もう逃がさないわよ」

 

記憶を取り戻した美琴が呟く。

そして、いざ行かん!とばかりに立ち上がるも、その場に倒れてしまった。

 

「お姉様!」

 

呼びかける声には応えない。気絶しているようだ。

 

「脳に負荷がかかりましたから、しばらくは休まれた方がよろしいです」

 

心配する妹達に星は、相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべながら答えた。

 

「それでは、自分はこれで失礼します」

 

「ありがとうございました、ミサカ10032号はミサカたちを代表してお礼を言います」

 

「ありがとね、ってミサカはミサカはお礼を言ってみたり」

 

「礼など要りません。自分は仕事をしただけです」

 

御坂妹と打ち止めに礼を言われた星はジュラルミンケースを持って病室から出ていった。

 

 

 

「上条当麻、心配しましたよ」

 

「神裂か。他の皆も来てくれたんだな」

 

上条VS神の右席の戦闘が起こった場所に、先ほどまで五和の病室にいた必要悪の教会のメンバーが集まっていた。

神の右席を回収する任務…にかこつけて上条に会いに来たのだ。

 

一応、ヴェントとテッラは拘束してはいるのだが、誰もそっちは気にしていないようだ。

 

「上条さん、良かったです」

 

「私はとうまを信じてたんだよ」

 

「上条当麻、お前さんはやはりいい男なのよな」

 

因みに五和も来ている。

 

 

『看病してもらうという作戦はどうするのよな。撃たれたのは大変なことだが利用しない手はないのよな』

 

などと建宮は言っていたのだが、五和はじっとしていることが出来なかった。

 

 

「何はともあれひとまずは一件落着だな。アックアがどっか行っちまったけど」

 

「現在捜索中です。しかし、仮に発見出来なくとも、2人は確保できていますから問題ないでしょう」

 

「そんなもんなのか?」

 

「そんなもんだにゃー。さて、真面目な話なんてここまでだぜい。どうせアックアは見つからないだろうから、2人を拘束した時点でお仕事は終了だにゃー。今日こそはねーちんがカミやんを…」

 

カチッ

 

「ね、ねーちん。ただの冗談だにゃー。そんなすぐに七天七刀に手なんて伸ばすもんじゃないぜい」

 

「先ほどの病室の一件ではまだ懲りていませんでしたか」

 

「待て待てねーちん。俺が、イギリスで右も左もわからなかった頃のねーちんを助けたことを忘れたのか?」

 

「た、確かにそれは…」

 

「フフン。わかったらとっとと堕天使エロメイドにやるんだにゃー」

 

「それとこれとは…」

 

顔を真っ赤にした神裂に土御門は耳打ちする。

 

「きっとカミやんも喜ぶと思うぜい。どうするんだ?ねーちん。恩人2人にいっぺんに恩を返せるチャンスだにゃー」

 

「上条当麻が…喜ぶ…」

 

さっきまでの赤い顔はどこへやら、神裂が思い詰めたような表情でブツブツ言い始めた。

 

(このまま、ねーちんが堕天使エロメイドセットを着れば、カミやんはどんな顔するかにゃー)

 

見事に、嘘つき蝙蝠・土御門元春の掌で踊らされている。

 

 

「とうま、とうま。どこかにケガしてたりしないのかな?」

 

「そうです。上条さん。本当に大丈夫ですか?私が看病して差し上げますよ」

 

一方、“看病される”から“看病する”へ作戦を変えたらしい、インデックスと五和は上条に猛アタックしていた。

吸血鬼だから血を飲みさえすれば、ケガも病気もしないということは忘れているようだ。

 

 

(何。この人たち…)

 

そして彼らを見る姫神は当惑していた。

 

(みんな上条くんの女友達?違う。私と同じで気づいてもらえないだけで、みんな上条くんのことが好きなんだ)

 

上条を振り向かせるのは至難の業だと再認識した姫神であった。

 

(大丈夫。私には彼を“助けた”というアドバンテージが…)

 

 

 

窓のないビル

 

 

 

現在、このビルには誰も来ていない。

故に、ここにはアレイスター=クロウリーただ1人…ではなかった。

くだんのビーカーが空っぽである。

 

アレイスター=クロウリーが窓のないビルにいなかった。

 

そこに1人の人間が現れる。

瞬間移動のように突然現れた。

 

白衣、黒縁眼鏡、ゴツいジュラルミンケース。

美琴に星九朗と名乗った科学者だった。

 

「おかえり。君がここを出るとは珍しいね」

 

その彼に、これまた突然現れたエイワスが話し掛ける。

 

「出られるのだから偶には出るさ」

 

「ところでいつまでその姿でいる気だい?」

 

「フッ」

 

エイワスの言葉に僅かな笑いを漏らす─これはいつもの胡散臭い笑みではなく人間味のあるものだった─と“星九朗”の身体が光り出し変形を始めた。

 

光が収まった時、その場に立って、いや浮いていたのは…

 

「おかえり。“アレイスター”」

 

学園都市の統括理事長・アレイスター=クロウリーその人だった。

 

「ローマまで行ったり、記憶を呼び醒ます装置を作ったりとご苦労なことだね」

 

「いよいよ大詰めなのでね。仕上げくらいは自分の手でやるさ」

 

「君にそんな拘りがあったとは。知らなかったよ」

 

「まさか。それが最も確実だからさ」

 

「そうだろうね。君の考えていることくらいは、私にも何とはなしにわかるさ」

 

“しかしね”と言ってエイワスは続ける。

 

「私にはとても成功するとは思えないのだが」

 

「ミナ=ハーカーのお陰でかなり進んだと同時に、彼女の所為でかなり狂ってしまったからね。1700年かけるつもりだったのが、もう最終局面だ」

 

「そして、これを逃せば1700年かけても修復は不可能。随分と揺らいだものだね」

 

「やはり“吸血鬼”などというイレギュラーを入れたのは失敗だったか。尤も、私は最後に失敗するつもりはないがね」

 

「私にはどうもわからないね。こんなことではどうしようもないだろう」

 

「そこが私とあなたの違いさ。私は未だに“人間”だからね」

 

「そうかい」

 

アレイスターの“計画(プラン)”が、良くも悪くも1つの結果を出そうとしていた。

 

 

 

「何だ?あれ」

 

上条当麻一行は全員が空を見上げていた。

 

少し離れた場所から、天に向かって光の柱が伸びている。そして、徐々にその輝きを増していた。

 

 

『さっきから上条さんの不幸センサーがけたたましく鳴っているのですが』

 

『奇遇だな、私のもだ。こりゃヤバいのが来るぞ』

 

『不幸だ…』

 

『しっかりやれよ。輸血パックはまだ残ってるから多少の無理もきかせられるだろ』

 

 

上条がジェーンと話している間にも、光の柱は輝きを増し続けていた。

中心部分が太ってきたように思える。

 

「何が起こってるのよな?」

 

建宮の問いに答えられる者はここにはいない。

 

その時だった。

一瞬で光の柱が中心部分に収束し、巨大な球体を形作った。

目を灼かんばかりの光線が辺りにバラ撒かれる。

 

「見るな!」

 

誰ともなく叫んだが、もう既に全員が目を覆っていた。

しかし、上条に至っては目を覆う左腕が焦げ始めている。

 

「聖属性のものってことかよ!あの中身は!」

 

上条がそう言った数秒後、光は引いていった。

 

全員が光の来た方向へと視線を送る。

 

そこには、人間のようで人間ではない者がいた。

 

人型だが、身体は真っ白、ところどころに葉脈のような金色の線が入っている。

そして何よりも目を引くのは頭の上だ。

光り輝く輪があった。

 

「天使…」

 

誰かが言った。

 

その通り、正解だ。

 

彼らが目にしているのは天使。

“この世界”とは身体が合わないためか不完全だが、間違いなく“天使”そのものである。

 

 

誰もが茫然自失で立ちすくんでいると、彼女─天使は両性だが─が、上条たちに手を向けた。

 

「mlv敵qbjozg認ct識fhy」

 

彼女がひどくノイズが入った声を発した。

その瞬間、上条たちの足元が吹き飛んだ。

 

「うおー!」

 

耐えられたのは人間ではない上条だけだった。

魔術師たちは全員倒れ込んでいる。皆、重傷どころか死にかけだ。

 

「“治れ”」

 

上条は回復魔術を発動させる。

全員をカバーできるほどに大きな魔法陣が地面に現れ、倒れた仲間たちに“生命力(マナ)”の供給を始める。

 

普通ならこんな単純な魔術では傷が治ることなど有り得ないが、吸血鬼の膨大なマナがそれを可能にする。

 

みるみるうちに傷が治っていった。

 

「何だったんだい?今のは」

 

起きて早々にステイルが口を開いた。

 

「何って“天使”だよ」

 

堅い表情の上条がステイルに答えた。

 

「どっかの馬鹿が召還したみたいだな」

 

「天使を召還?はっ!馬鹿を言うなよ、吸血鬼。そんなこと出来るはずが…」

 

「とうまの言う通りかも」

 

「インデックス?君まで何を…」

 

「“レメゲトン”だよな、インデックス」

 

「うん。あれなら悪魔から天使まで、好きなものを使役できるんだよ。少なくともそういう触れ込みの魔導書であることは間違いないね」

 

「そんな物を研究する魔術師がいたら間違いなく抹殺されるだろう。天使を使役するなんて…」

 

「確かにね。詳しく調べないと、いくら魔導書に載ってたところで魔術は使えないから」

 

「悪魔を召還するのは出来るぞ。俺が、というかミナが使い魔を出すのは“それ”だったからな。まあ、何にしてもヤバいな。あれ“本物”だぞ」

 

その場の全員が息を呑んだ。

彼らは皆─上条と姫神以外─十字教徒だ。

天使の素晴らしさも知っているが、恐ろしさも知っている。

神話の時代より、幾つの文明が“あれ”に破壊されてきただろうか。

 

そして、目の前で空中に佇む彼女は彼らに問答無用で攻撃してきた。

敵だと思わなければならない。

 

人間と天使で勝負になるだろうか?

否だ。

 

「全員、下がってください」

 

しかし、神裂火織は刀を抜いた。

 

「女教皇様!?」

 

「すぐに退いて下さい。時間を稼ぐくらいのことは出来るはずです」

 

そう告げると、神裂は七天七刀を構えて天使に向かって…

 

「ちょっと待つのよな」

 

…いこうとしたところで建宮に止められた。

 

「我ら天草式十字凄教は常に女教皇様と共にあるものなのよな。そうだろ?お前ら」

 

「おー!」

 

「あなたたちは…」

 

天草式のメンバーも全員が武器を手に神裂の周りに集まった。

 

「まったく、しょうがないね」

 

ステイルは煙草に火をつけて悪態をつきながらも、ルーンのカードを懐から取り出した。

 

「かおりにばっかりいいかっこはさせないんだよ」

 

インデックスも退くつもりはないようだ。

 

「じゃあ、みんな頑張るんだぜい」

 

土御門だけはそそくさと去っていった。

仕方ない。彼にはこの街に大切なものがあるのだ。

それに、一緒に姫神を連れていったので“逃げた”とも言えないだろう。

 

 

これで、天使VS聖人・多角宗教融合型宗派・ルーンの魔術師・禁書目録という構図が出来上がった。

 

 

その時、この場にいたもう1人の“人外”が口を開いた。

 

「俺が1人でやる。さがってろ」

 

「上条当麻…」

 

「人間の出番じゃねえって言ってんだよ」

 

「何を…」

 

言い募ろうとする神裂たちに耳を貸さず、上条は術式を唱える。

 

「式を3から11に変更して物質を飛ばせ。空間を走らせて着地点の物は壊せ。その先は十字架を掲げた牢獄だ。誰も出られない洞穴だ。壁は壊せない。出口は入口に変わる。相反の法則を繋ぎ合わせて実行せよ」

 

次の瞬間、神裂たちは冥土帰しの病院にいた。

 

「上条当麻!」

 

叫ぶが答える声はない。

 

「たった1人でやるつもりか…」

 

「そんなことはさせません!」

 

神裂はすぐに出口に向かう。

しかし外に出た瞬間にUターンして戻って来てしまった。

 

「出られないように結界が張られてるんだよ」

 

「インデックス、解けませんか?」

 

インデックスは首を横に振った。

 

「ダメなんだよ。私の知らない物が混ぜてあるみたい」

 

一方通行の知識を有する上条が、インデックス対策に術式に科学の原理を混ぜ合わせておいたのだ。

 

「また見守ることしか出来ないとは…」

 

 

 

「さて、邪魔は消えたことだし、始めようか?」

 

神裂たちを病院に閉じ込めた上条は天使に向き直って挑発するように言った。

 

「lvn待frgw」

 

しかし天使はまだ動かない。

そんな時、上条の後ろから声がした。

 

「たった1人でやるつもりであるか?吸血鬼」

 

「生贄にされて死んだのかと思ってたよ、アックア」

 

満身創痍ではあれ、確かに生きている後方のアックアがそこにいた。

 

「生贄にされたところまではその通りである。しかし…」

 

「“聖母の慈悲”で死ななかったか。便利だな」

 

「お見通しであるか」

 

「で。“後方”が生贄なんだから、“あれ”ってやっぱり…」

 

「“神の力・ガブリエル”である。“召還した馬鹿”は右方のフィアンマである」

 

「わかった。それじゃ、お前も逃げた方がいいぞ。この先の病院がオススメだ。結界張って外壁強くしといたから」

 

「必要悪の教会との鉢合わせは避けたいところである。そんなことより…」

 

アックアは上条に向けて手を差し出した。

まだ塞がっていない傷から血が流れている。

 

「フィアンマの情報である。飲め」

 

「いいのか?他にも大事なものが入ってるだろ?」

 

「良いのである。自分は貴様に大天使を託す。これくらいのことはするのである」

 

「そうか、わかった。ありがたく飲ませてもらうよ。聖人の血は美味いしな」

 

そう言って上条はアックアの血を舐めた。

 

「はぁー。フィアンマってのは、また常識外れのやつなんだな…」

 

「うむ。気をつけるのである」

 

アックアはそう言うと上条に背を向けた。

その時、上条がアックアの背中に手を当てた。

 

「何を!?」

 

思わず身を離すアックアだったが、上条は害意を持ってはいなかった。

傷がみるみるうちに塞がっていく。

 

「マナを送っといた。すぐに全快すると思うぞ」

 

「自分が何をしたのか忘れたのであるか?」

 

「いい奴そうだったからな。ただし、1つだけ言うこと聞いてくれ」

 

「何であるか?」

 

「この辺に術式かけて人が寄らないようにしてくれ。飛びっきり強いの頼むぜ」

 

「フッ。任せるのである。幸運をな“上条当麻”」

 

「お前もな“ウィリアム=オルウェル”」

 

今度こそ、吸血鬼・上条当麻と後方のアックア─本名・ウィリアム=オルウェル─は離れた。

 

 

「ent鬼wp始cg」

 

「よし。今度こそ始めようか」

 

天使の声に反応して上条が言う。

姫神が持ってきたクーラーボックスをそのまま影に取り込んで血液を補給する。これでしばらくは大丈夫な筈だ。

 

「来い!」

 

上条が声をあげると、彼の影から次々と“黒いもの”が飛び出す。

 

犬、猫、狐、馬、烏、蛇、蟲とメジャーなところは全て押さえた、使い魔たちのオールスターだ。

 

「相手は大天使だ。今日だけは遠慮なしに暴れていいぞ!」

 

「WRYYYYYYYY!!!!」

 

普段は幻想殺しの所為で出番がない使い魔たちのテンションは最高潮のようだ。上げすぎてかけ声がおかしくなってる。

 

「mjp魔agtl討tnvj」

 

大天使が何か口走った後、彼女の周りに水が集まり翼を形作った。

そして“水翼”が使い魔たちに襲いかかる。

 

「遅い遅い!」

 

当たればひとたまりもなさそうだが、余裕の声をあげつつ、悪魔たちは躱す。

 

「我らが王の御名において怨敵を誅殺すべし!」

 

お返しとばかりに、編隊飛行で術式を描いた烏たちがガブリエルを攻撃する。

嘴から殺人光線が飛び出すが、ガブリエルは壁のようなものを作って防御した。

 

「悪魔の王。地の底に縛りつけられし怨みを今こそ晴らさん。我が身を伝いて御使を討て!」

 

「性質が異なる二者。相反するもの。交わらないもの。交わりし今、我が敵となりき。我が業を以て退けん!」

 

「俺は蛇だ。狡猾な蛇だ。人間に知を与え地に落とした蛇だ。大天使が何だ。撃ち落としてやる」

 

「主の命令だ。面倒くさいが地の底から出て働こう。早く帰りたいんだ。敵は死んでくれ」

 

「素晴らしいな。久しくなかった楽しい闘争の臭いがする。次はいつかわからない。今のうちに楽しもう」

 

「光を掲げる者から底の底まで、我が左手に力を宿せ。天使を殺す術を我に授けよ!」

 

それを見ていた使い魔たちが次々に詠唱をして大天使を攻撃する。

手を休めるつもりも出し惜しみもないようだ。

 

それは上条とて同じことだった。

 

「一から十二の使徒よ。これは人を守る戦だから力を貸せ。地の底にいる悪魔の王よ。これは大天使を狩る戦だから力を貸せ。森羅万象、万物照応。法則を乱す者を排除するために我に怨敵を討たせたまえ」

 

数十もの魔術攻撃がガブリエルを襲う。

同時に数十の悪魔たちが物理攻撃をせんと襲いかかる。

 

「hldw愚vja」

 

しかし、その程度のことでは大天使は落とせない。

遠距離攻撃は弾き返され、近づいた悪魔たちは吹き飛ばされた。

 

次いで“火の矢”が辺り一面に降り注ぐ。

 

「“神戮”!」

 

「“一掃”か!」

 

“神戮”、またの名を“一掃”。

ソドムとゴモラを滅ぼした攻撃だ。

 

1本がミサイル並みの破壊力であるそれは、地表を引き剥がさんばかりに使い魔たちのいる場所を灼いた。

 

「おら!」

 

しかし、それを黙って見ている上条ではない。

背中から“白翼”を出し、刹那よりも短い時間でガブリエルに肉迫する。

そのまま翼でガブリエルを薙いだ。

 

これにはたまらずガブリエルも数百mほど飛ばされる。

 

そこへ使い魔たちが機関銃のごとく魔術を叩き込んだ。

数本が障壁を抜けてガブリエルに直撃する。

 

「tnjp弱jtm祓a」

 

だが、殆ど効いてはいないようだった。

 

今度は逆にガブリエルが上条に肉迫して掴まえる。

 

当然、白翼で再び薙ぎ払うが、その前に魔術を流し込まれて身体が塵になった。

 

「マスター!」

 

「心配するな!続けろ!」

 

だが、即座に身体を再生させる。

 

「“竜王の殺息(ドラゴンブレス)”」

 

そして、幻想殺しも一方通行も止められなかった攻撃を放つ。

 

「elr竜yoa悪gl」

 

ガブリエルは竜王の殺息を真正面から受け止める。

 

しかし、防御するのはそれだけで限界だったようだ。

使い魔たちが攻撃が次々と直撃する。

数発ならば何ともないが数十、数百の魔術を受け、とうとうガブリエルの胸に穴を穿った。

 

 

その時、パンと手を叩く音がした。

 

 

「そこまでだ。折角、呼び出した天使を壊されては困る」

 

見ると、赤い服を着た男が立っていた。

 

「右方のフィアンマ!」

 

上条の表情が強張る。

幻想殺しを持たない彼には、大天使よりも余程相性が悪い敵だ。

 

「この辺で退場しろ、吸血鬼。右腕だけは俺様が有効に使ってやる」

 

そう言うとフィアンマは上条に“聖なる右”を振るおうとする。

 

「行け!」

 

その寸前、上条に命じられた使い魔たちがフィアンマに襲いかかる。

同時に上条は左手首を噛み切り、流れた血で地面に魔法陣を描き始めた。

 

「面倒なことを」

 

事も無げに言ったフィアンマは、右腕を振るい使い魔たちを全滅させる。

 

「諦めろ」

 

上条に告げるフィアンマだったが、その頭上から“紅蓮の槍”が落ちてきた。

当たる前に右腕を振るい掻き消す。

 

「グレゴリオの聖歌隊か。時間稼ぎには豪華なものだな」

 

フィアンマが上条に話し掛けた時、上条は魔法陣を描き終えた。

 

「聖なる右に対抗できると思っているのか?」

 

言いつつ右腕を振るう。

 

「我はこの世界の闇を統べる者なり。神の教えに背き、十字架を避けて生きる。我が成すは破壊。我がもたらすは絶望。日陰より創造主に逆らいて、恵みを伝える者を食らう。かつて3分の1の軍勢を従え、神の国を滅ぼさんと戦った英雄。神の如き者により堕とされし天使よ。我が左手に剣を持たせ。今こそ叛逆の烽火を上げん」

 

一息で詠唱した上条は、フィアンマが右腕を振るうのに合わせ、左腕を振り下ろした。

 

上条の左腕に眩いばかりの閃光が宿る。

 

ドカンと凄まじい音をたてて、左腕から伸びた光が地面に着いた。

 

「“光を掲げる者(ルシフェル)”の力か…」

 

呆然と呟くフィアンマ。

彼の右腕は、上条の“光の剣”によって切り落とされていた。

“聖なる右”をなくした彼に上条と戦う力は最早なかった。

 

「そうだ。“神の如き者”と“光を掲げる者”の何千年ぶりかの再戦ってわけだ」

 

「それなら結果は出ていただろう。俺様が、神の如き者が勝利する筈だ」

 

「お前は人間で、俺は人外だった。力を扱い切れる分、俺の方が強かったんだろうよ。まあ、賭けだったんだけどな。肝心なところで不幸じゃなくて良かったよ」

 

そう言う上条だったが、フィアンマが気絶していることに気づいた。

“剣”を振るって、ガブリエルを消滅させる。使役者であるフィアンマの意識がないためか動かなかった。

 

そして“剣”を消すと、上条はその場に倒れ込んだ。

 

『“光を掲げる者”の力なんて引っ張り出すもんじゃないな。もう駄目だ。血がない』

 

『天使を一太刀で消しちまうような力だからな。負荷だって相応だろ』

 

『これで吸血衝動はもう抑えられないな。輸血パック開けてもどうにもならない』

 

『そうだな。お前はグールみたいに血を求めるようになる。何人か吸うまで元には戻れない。でも、右方に対抗するにはこれくらいのことは必要だったよ』

 

『やっちまったな』

 

『ああ。でも私は言ってやるぞ。“よくやったよ、当麻”。これで世界中がお前の敵になるかも知れない。でも私はお前のこと褒めてやるよ。間違いなく最善だった』

 

『ありがとう、ジェーン』

 

そして、上条当麻の意識は闇に沈んでいった。




神の右席との戦い終了です。
前回に引き続き文字数多めでした。

言わなくてもわかってる人も多いとは思いますが、アレイ“スター=クロウ”リーだから、星九朗です。

次の章でアレイスターの計画の内容が明らかになります。
まあ、ベタなところにしておくつもりです。

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