とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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13話 超能力者vs吸血鬼

8月21日・夜

 

第10学区・操車場

 

 

 

「どォいうつもりだァ?」

 

一方通行は当惑していた。

 

実験に突然の乱入者があった。

驚くべきことに、その乱入者は自分の反射を破った。

破れるのは右腕のみだったようだが、運動能力が尋常ではない彼は自分を圧倒した。

しかし、風を操ることで、今度は逆に自分が彼を圧倒し始めた。

そして、自分の攻撃が彼の急所を捉えて、彼を地に倒した。

 

ここまではいい。

 

多少のイレギュラーこそあれ、自分は彼より強かったということだ。

 

しかし、彼は起きあがった。

 

何か気に障る言葉が聞こえた気がしたが、それは無視しよう。

 

そして、彼は切り札であるはずの右腕を自ら落とした。

 

何がどうなっているのかわからない。

 

 

それは一方通行だけではなかった。

 

 

「どうして…」

 

御坂美琴も同様に悩んでいた。

 

いつも自分をイラつかせた彼の右手。

それは一方通行をも打ち破れるものだった。

 

それを見せつけられて歓喜した。

 

彼なら一方通行を倒してくれる。

そう確信した。

 

しかし、一方通行はやはり強かった。

 

彼は地に倒された。

 

駆け寄ろうとしたが妹に止められた。

振り切ろうともしたが、彼女の表情を見てやめた。

 

そんな時、彼は起きあがった。

 

だが、様子がおかしかった。

 

いつもとは違う言葉遣い。

いつもとは違う表情。

 

そして、彼は切り札であるはずの右腕を自ら落とした。

 

どうなっているのかわからない。

 

 

敵同士である2人が奇しくも同じ言葉を頭に浮かべた時、上条が動いた。

 

 

パチンとフィンガースキップの音が操車場に響く。

 

キーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキーキー

 

それを合図に、どこからともなく大量の蝙蝠が現れた。

彼らは一斉に上条の元に集まり、彼の体を覆い隠した。

 

それ程、間を置かずに蝙蝠たちは飛び去っていき、上条の体が再び露わになる。

 

しかし、そこにいたのは上条ではなかった。

 

眩しいほどに鮮やかな金髪金眼。

息を呑むほどに艶やかな真っ赤なドレス。

透き通るほどに美しい白い肌。

 

見る者が見れば気付いただろう。

彼、いや彼女の姿は、かつて最強と謳われた女吸血鬼・ミナ=ハーカー、そのままであった。

 

 

「Black Dogs!」

 

上条、いやジェーンが叫ぶと、彼女の影から、真っ黒な犬が現れた。

彼女の使い魔である地獄の黒犬たちだ。

それも10匹以上も。

 

「あの白モヤシを殺れ」

 

「Ma'am,yes ma'am! My master!」

 

ジェーンの命令で一方通行に襲いかかる。

 

 

「なめてンじゃねェぞ!三下がァ!」

 

あまりの出来事に呆然としていた一方通行だったが、自分に矛先が向いたことで態度を一変させる。

 

踊りかかってきた犬たちを反射で迎撃する。

 

普通の攻撃よりも奥に入ってきた感じがしたが、それでも弾き返すことには成功した。

 

 

「へぇ。そんな攻撃でも返せるのか」

 

対するジェーンは余裕たっぷりな笑顔を崩さない。

 

犬を“あちら側”へ返すと、左手を空に向けて掲げる。

そして、左手を一方通行の方へ振り下ろした。

 

背筋にゾクリとした感触が走った一方通行は後ろに跳び退く。

 

一瞬遅れて、紅蓮の槍が彼の立っていた場所を焼いた。

 

 

ローマ正教の最終兵器・グレゴリオの聖歌隊。

1人の人間には絶対に扱えない代物だが、数百の生命を蓄えた彼女には造作もなく使える。

 

 

「何だよ、かわすなよ、最強。ご自慢の反射はどうした?」

 

操車場にクレーターを作った彼女は平然と問い掛ける。

 

「何なンだよ、今のは!?」

 

自分の反射を突き破りかねない攻撃を受けた一方通行は、彼女の問い掛けを無視して叫ぶ。

 

「それじゃあ、今度はこれで行くか」

 

まるで一方通行の叫びなど聞こえていないようにジェーンは呟く。

 

すると、彼女の前に見覚えのある魔法陣が現れた。

それも嫌な思い出の部類に入る“あれ”が。

 

「竜王の殺息」

 

ジェーンの言葉と共に、魔法陣から光の柱が飛び出し、真っ直ぐ一方通行に向かった。

 

「うおォォォォォォ!」

 

正体不明の光の柱に両手を当てて迎撃を試みる一方通行だったが、あまりの質量に押し切られそうになる。

実際、掌が焦げ始めてきた。

 

(俺は死ぬのか?こンなところで)

 

そんな考えが一方通行の脳内を支配する。

 

銃を前にしても、戦車を前にしても、軍隊を前にしても、感じることのなかった死への恐怖を、一方通行が初めて感じた瞬間だった。

 

 

(力が争いを呼ぶのなら、戦う気も起きなくなる程の絶対的な存在になればいい。そうすれば…)

 

一方通行は実験を始めた時のことを思い出す。

 

強すぎる力を持ってしまった彼は他人を傷つけた。

そこにいるだけで他人を傷つけた。

相手の悪意を反射して他人を傷つけた。

 

だから“無敵”を目指した。

誰も悪意さえ向けないような存在になりたかった。

 

だから妹達を殺した。

 

あの頃は自分が最強だと信じて疑わなかった。

 

(何なンだよ、こいつは?)

 

だが、今、彼の目の前には化物がいた。

 

彼女は、今、一歩として動かずに、自分のことを死の淵まで追い込んでいる。

 

(嫌だ)

 

彼は拒絶する。

 

(死にたくない。嫌だ。死ぬのは嫌だ)

 

初めて感じた死への恐怖を、彼は拒絶する。

 

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)

 

そんな思いが彼の頭を埋め尽くす。

 

 

「ihbf殺wq」

 

一方通行が理解不能な言葉を呟いたかと思うと、彼の背中から謎の“黒いもの”が吹き出す。

まるで翼のようなそれは、ジェーンの放った竜王の殺息を押し返す。

 

それを見てジェーンは嗤った。

 

「何だ、やれば出来るんじゃないか!」

 

心底、愉快そうに叫んだ彼女は竜王の殺息を放つのをやめた。

 

「rnvg滅lafxq屠ksl」

 

「よっと!」

 

理解できない言葉と共に飛んでくる“黒翼”を軽くかわすと、後ろへ跳ぶ。

 

「さあ!遊ぼうじゃないか!」

 

ジェーンがそう言うと、彼女の影から何かが溢れ出した。

 

真っ赤に染まったそれはまるで濁流のようだったが、中には人間のように見えるものが蠢いている。

その濁流は一方通行へと向かった。

 

「etvkgj河yofp死a」

 

当然、黒翼が防御するが、物量が圧倒的だった。

掻き消されながらも、徐々に一方通行に近づいていく。

 

そして、とうとう一方通行を飲み込まんばかりにまで肉迫した。

 

その時、再び一方通行の体に異変が起こった。

 

黒かった翼がみるみるうちに、白く変わり、頭の上には光を放つ輪が現れる。

 

神々しく輝く“白翼”はあっという間に“濁流”を掻き消した。

 

「はあァァァァァァァァ!」

 

一方通行の言葉が、僅かながら人間性を取り戻したが、その姿はまるで“天使”のようだ。

 

「フフフフフフッ!ハハハハハハッ!」

 

それを見たジェーンは、先ほどにも増して高い哄笑をあげる。

 

「いいね!最高だよ、一方通行!白モヤシなんて言って悪かった。2度言うまいよ」

 

そして、目を真っ赤に染め上げ、牙を尖らせた彼女は一方通行へ飛びかかろと、足に力を込める。

 

が、

 

その瞬間、ぐらりと彼女の体が傾く。

 

「何だよ、もうか。これから面白くなるって時なのに…」

 

元は“空腹”な状態から始まったのだ。少々、遊びが過ぎたというところだろう。

 

「しょうがないか。このまま理性が飛んでいってもつまらない」

 

そう呟くと、再び一方通行を見つめる。

 

「じゃあな。久しぶりに楽しめたよ、一方通行」

 

そう言うとジェーンの影の形が変わる。

 

いきなり膨れ上がったかと思えば、一方通行を“白翼”ごと飲み込んだ。

 

 

「おいおい、今度は何なンですか?」

 

突如、暗闇を飲まれた一方通行はそう呟いた。

 

“黒翼”を出していた時は意識が飛んでいるような状態だったが、“白翼”を出してからは多少意識が戻っている。

 

先ほどから壁─と呼べるかも怪しいが─に“白翼”をぶつけているのだが一向に手応えがない。

 

すると、突然周りに無数の目が現れた。

四方八方から、ギロリと彼を睨みつけている。

 

「どォなってやがンだァ?」

 

彼の呟きは反響することもなく消えていく。

 

そして、次に現れたのは口だった。

たった1つだけ現れた、巨大なそれは彼に近づいてくる。

 

何故かはわからないが、一方通行にははっきりとわかった。

 

“あれからは逃げられない”と。

 

彼は“白翼”をしまう。頭の輪も消えた。

そして最後にこう呟いた。

 

「何やってンだ?俺」

 

そして、一方通行は食われた。

 

 

ジェーンは影を元に戻す。

一方通行がいた場所には、もう誰もいなかった。

 

「ふぅ、童貞の血は格別だな。それにLEVEL5の第1位なんて、人並み外れた力があるんだから当然か」

 

彼女の顔は満足そうだった。

 

 

「あ…あぁ…」

 

「ん?」

 

言葉にもなっていない声を聞きつけて、ジェーンはそちらに顔を向ける。

 

「アンタ、一体…」

 

御坂美琴だ。

かなりビビっているようだが、最後まで見届けたらしい。

隣にいる御坂妹も、普段は全く変わらない表情を僅かに強ばらせながらもジェーンを見ている。

普通の女子中学生なら卒倒しそうなシーンもかなりあったが、この2人は相当気が強いらしい。

 

「ああ、お前か。すまん、途中からすっかり忘れてたよ」

 

そんな美琴に対して、いつものように軽い口調で話し掛けるジェーン。

 

「取りあえず一方通行は殺したぞ。これで実験は中止される。よかったな」

 

「アンタは…」

 

「私か?心配しなくても当麻とは違うものだよ。あいつはこんなことはしない。敵だろうが殺したりはしない。まあ、そんなことはいいだろう。私は帰らせてもらうぞ」

 

そう言うと、彼女は上条の右腕を拾う。

瞬間、鍍金が剥がれるように上条当麻の身体が現れる。

 

「あ、待っ…」

 

「じゃあな」

 

美琴が止めようとするのも聞かず、ジェーンは飛んでいってしまった。

 

 

「アンタ、一体何者なのよ?」

 

美琴は呆然と呟いた。

 

「お姉様…」

 

そんな彼女に話し掛ける声があった。

御坂妹ことミサカ10032号が美琴を見ている。

 

「アンタ…」

 

そこで美琴は考えを切り替えた。

 

(そうよ!しっかりしなくちゃ!だって私は姉なんだから!)

 

そして、目の前にいる“妹”に手を差し出す。

 

「行こっか」

 

「あの…」

 

「いいから来なさいよ」

 

それは、奇しくも昨日と同じ台詞だった。

しかし、昨日の暗い顔はなかった。

そして美琴はこう続けた。

 

「アンタは私の妹でしょ」

 

その言葉を聞いて10032号は手を伸ばす。

 

「はい、お姉様」

 

“姉”の手をとった彼女の顔は、ほんの少しだけ笑っているように見えた。




絶対能力者進化計画篇終了です。

超能力者vs吸血鬼なんてタイトルですが、完璧にワンサイドゲームになってしまいました。
今回の目標は吸血鬼の全力を書くということでしたのでしょうがないですよね?
一方通行ファンの皆様にはごめんなさいです。

次からは前にも言ったようにオリジナル展開になります。
と言っても原作を下敷きにするのでそこまでオリジナル要素は強くないです。どうしても出したいキャラもいるので…。

それでは、次回からよろしくお願いします。

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