とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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11話 妹達

8月21日・夕方

 

 

 

「よう!また会ったな、御坂妹」

 

御坂妹(命名・上条)が、研究所の外に出ると、昨日出会ったツンツン頭の少年がいた。

「また会った」などと言っているが、おそらく待ち伏せていたのだろう。

 

「さて、警備員に電話を…」

 

「ストーップ!」

 

「何でしょう?昨日、警告は済ませたはずですが、とミサカはポケットに手を伸ばします」

 

「あの後、俺はちゃんと家に帰った。お前のことを尾けたりなんてしてない」

 

一応、事実である。

あの後、上条は寮に戻り、臭いだけの追跡に専念した。なかなか難しいのだが、そう離れた場所にまでは行かなかったので、こうして場所を特定できたのだ。

 

だから、御坂妹との約束は守っている。一応は。

 

「では何故ここがわかったのですか?とミサカは当然の疑問を口にします」

 

「それは…。ええっと…」

 

しかし、こう問われると返答に困ってしまう上条であった。

言い訳くらい考えとけよ!

 

そんな時、横の茂みからニャ~という鳴き声がした。

 

「おお!子猫か!?可愛いな!」

 

これ幸いとばかりに、子猫に話題を変えようとする上条。

普通なら失敗して、お決まりのフレーズを叫ぶことになるのだが、どうやら御坂妹は猫好きだったらしい。

上条などそっちのけで、猫を見つめている。

 

「子猫…」

 

彼女は“姉”と“姉”との思い出に、思いを馳せていたのだが、そんなことは知る由もない上条であった。

 

 

その後、幻想殺しで御坂妹の電磁波─美琴同様、“電撃使い(エレクトロマスター)”である彼女は常に帯びている。これを猫は嫌うらしい─を封じて、猫を抱っこさせてやったところ、とても懐いた。より正確に言うと、子猫は御坂妹に、御坂妹は上条にとても懐いた。

 

それから2人と1匹─御坂妹に“いぬ”と名付けられた─で遊びに行った。

ゲームセンターに行き─御坂妹は“ゲコ太”なるカエルのマスコットにご執心だった─、買い食いをし─ひよこ型のお菓子を食べると、本物だと思っていた御坂妹から電撃をくらった─、その他、色々なところに行った。

 

そうこうしているうちに、陽が暮れてきた。

 

『おい、当麻。最初の目的を忘れてないか?』

 

『ん?実験ってのが何なのか調べるんだろ。だから、こうして心を開いてくれるように上条さんはですね…』

 

『さっきの研究所にカチコミかけた方が早いだろ』

 

『上条さんは乱暴なやり方は好みませんのことよ』

 

『はあ。毎度のことだが、お前は優しいが甘すぎる。吸血鬼の力を無闇に振るわないのはいいが、いざって時には躊躇わないでくれよ、頼むから』

 

『わかってるさ』

 

(いや、お前には無理だよ。このままじゃな)

 

上条の返答を聞いても安心しないジェーンであった。

 

 

「喉が渇きました、とミサカは暗にジュースをねだります」

 

考え事をする上条に、御坂妹─今日1日で随分と図々しくなった─が話し掛けてきた。

 

「ん?ジュースか?ええっと、自販機は…」

 

「あそこです、とミサカは指差します」

 

「どこだ…って遠いな!」

 

「ざっと500m先でしょうか。頑張って下さい、とミサカは励まします」

 

「はあ、不幸だ」

 

と言いつつ、それでも行くのが上条当麻という男である。

 

しかし、この判断は大間違いだった。

 

5枚連続で100円玉が吐き出されるという更なる不幸を乗り越えた上条が、元いたところに戻ってみると、御坂妹はおらず、いぬだけが脇の茂みにうずくまっていた。

 

慌てて、臭いを辿って追いかける。

 

少し離れた路地裏へと続いていたが、近づくと、より強い臭いが漂ってきた。まるで、血が撒き散らされているような。

 

頭に浮かぶ、最悪のシチュエーションを必死に打ち消しながら路地裏を覗いた上条が見たのは、想像以上に凄惨な有様だった。

 

 

吹き飛んだゴーグル、血に染まった制服、そして何より、体が弾けたのかと思うほどに原型を留めていない、少女の死体。

それでも、残った顔とシャンパンゴールドの髪が、これが誰なのか、いや誰であったのかを、憎たらしいほど如実に示している。

 

 

しかし、上条の予想の斜め上を行く事態がさらに起こった。

 

数十人─見えないところにはもっといるのだろうが─の御坂妹が曲がり角の向こう側から現れたのだ。

 

「御坂…妹?」

 

「はい、とミサカは肯定します」

 

「お前らは…」

 

上条の声が震えている。無理からぬことだろう。こんな状況に陥れば動揺もする。

 

「お前らは一体…」

 

「我々は“妹達(シスターズ)”」

 

対する御坂妹の声はいつも通り単調だった。

 

「御坂美琴お姉様のDNAから作られた、体細胞クローンです」

 

「クローン…。一体…、一体実験って何なんだ!?」

 

「ZXC741ASD852QWE963'」

 

「くっ…。またかよ」

 

思わず叫ぶ上条に対して、またもやパスの認証を要求する御坂妹。

 

「こうなったら、こんなことしでかした野郎を見つけ出して、問いただしてやる!」

 

『無理だな』

 

『何?』

 

新たに行動目標を定めて気合いを入れる上条だったが、思わぬところから待ったがかかった。

 

『血の臭いが続いてない』

 

『嘘だろ。こんな殺し方で、返り血浴びてないってのかよ』

 

『信じられないが、事実だよ』

 

上条の驚きも尤もである。

辺り一面、地面も壁も血の海なのに、犯人に返り血が1滴もかかっていないなどと、ドラマに出てくるマヌケな刑事でも思わないだろう。

 

しかし、吸血鬼である上条が後を追えない以上は確実だった。

“この”御坂妹を殺した犯人は返り血を浴びなかったのだ。

 

 

ガサゴソという作業音に反応して、上条は思考の渦の中から帰還した。

見ると、妹達が死体と血痕の後片付けをしているところだった。

 

「実験のサポートってこのことかよ…」

 

苦々しく上条が呟くが、この場にいる誰も相手をしない。

 

『当麻』

 

いや、1人いることにはいるのだが“この場”という言葉は相応しくないだろう。彼女はいつでも上条の中にいるのだから。

 

『なんだ?ジェーン』

 

『研究所だ』

 

『研究所?』

 

『そう。“あの”御坂妹が昨日帰って、今日出てきた研究所』

 

『そうか!そこなら…』

 

『実験とやらのデータもちゃんとあるだろうさ』

 

『よし!』

 

やることを決めると後は早かった。

 

路地裏から飛び出し、人外な速度で研究所へと駆ける。

 

 

 

 

数分後

 

 

 

上条は例の研究所に到着した。

 

迷うことなく、玄関から侵入する。

 

すると、いきなり身体が炎に包まれた。

 

「おいおい。噂の侵入者ってのはこんなに弱かったのかよ?“アイテム”から逃げきったとか言ってなかったか?あの研究者たち」

 

“発火能力者(パイロキネシスト)”と思しき少年が奥から現れて、つまらなそうに呟いた。

 

パキーンッ!

 

しかし、そんな余裕をかましている場合ではなかったようだ。

彼の炎がかき消され、中から無傷の少年が現れる。

 

「冗談だろ!?俺の炎が…」

 

「ごちゃごちゃ、うるせぇ!」

 

モブなオリキャラは引っ込んでろと言わんばかりに、上条が右手を顔面に叩きつける。

一撃で意識が飛んでしまったようだ。ピクリとも動かない。

 

気絶したことを確認すると、すぐに奥へと足を進める。

 

その後も3人の能力者─いずれも大能力者クラス─が、上条を止めるべく現れたが、時間稼ぎもろくに出来ずに、全員沈められた。

 

そして、迷いながらも、1時間もしないうちに、上条は研究所の最奥部まで辿り着いた─途中、数人の研究者と擦れ違ったが、襲ってこないので無視した─。

 

上条を出迎えたのは、情けなくもビクビクと足を震えさせる中年の男性科学者だった。

 

「くそっ!自腹切って“暗部”を雇ったってのに、屁のつっぱりにもならないじゃないか!」

 

“暗部”とは、学園都市の公に出来ないような仕事を請け負う者たちのことだ。

この街の性質上、そのうちの多くは少年少女で、尚且つ能力者である。

暗部に入る理由は、人それぞれだが、大多数は望まずして入っているという一点では一致を見るだろう。

 

そんな、普段の上条ならば聞き漏らすはずもない単語が出て来たが、今の上条の耳には届かない。完璧に冷静さを欠いていた。

 

 

「おい!」

 

「ひぃっ!」

 

上条は今にも失禁しそうな研究者ににじり寄ると、睨みつけながら、こう言った。

 

「死にたくなかったら、シスターズに関する資料を全部出せ」

 

「は、はいっ!」

 

勿論はったりなのだが、効果抜群だったようだ。

研究者は、ほんの数分で全ての資料をプリントアウトして、上条に差し出した。

 

それまでは“シスターズ”の漢字表記さえ知らなかった上条が、遂に彼女たちの全貌を捉える。

 

 

資料にはこうあった。

 

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“妹達”を運用した“絶対能力者(LEVEL6)”への進化法

 

学園都市には7人の“超能力者(LEVEL5)”が存在するが、“樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)”の予測演算の結果、まだ見ぬ“絶対能力者”へ辿り着けるものは第1位・“一方通行(アクセラレータ)”1名のみと判明した。

 

この被験者に通常の“時間割り(カリキュラム)”を施した場合、“絶対能力者”に到達するには250年もの歳月を要する。

 

我々はこの“250年法”を保留とし、実戦による能力の成長促進を検討した。

 

特定の戦場を用意し、シナリオ通りに戦闘を進める事で成長の方向性を操作する。

 

予測演算の結果、128種類の戦場を用意し、“超電磁砲”を128回殺害する事で“絶対能力者”に進化する事が判明した。

 

しかし、“超電磁砲”を複数確保するのは不可能である為、過去に凍結された“超電磁砲量産(レディオノイズ)計画”の“妹達”を流用してこれに代える事にする。

 

武装した“妹達”を大量に投入する事で性能差を埋める事とし2万体の“妹達”との戦闘シナリオをもって、“絶対能力者”への進化を達成する。

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