とある吸血の上条当麻   作:Lucas

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第3章 絶対能力者進化計画篇
10話 自販機


8月20日・昼

 

第7学区

 

 

 

「あち~」

 

ツンツン頭の男子高校生が、クーラーボックスを肩に提げながら歩いていた。

 

太陽の光をいっぱい浴びて元気なさげである。

当然だ。彼は吸血鬼なのだから。

 

今日も、輸血パックを病院に取りに行く必要さえなければ、1日中ずっと家にいるつもりだったのだ。

 

そんな彼が、ふらふらしながら、近道すべく公園を通りかかると…。

 

 

「チェイサー!」

 

自動販売機に蹴りをいれている女子中学生・御坂美琴を見かけた。

正確に言うと、さっきの蹴りは“常盤台中学内伝・おばあちゃん式ななめ45度からの打撃による故障機械再生法”なのだが、流石の吸血鬼もそんなことは知らない。

 

知り合いなので、取りあえず挨拶しておく。

 

「おっす、ビリビリ」

 

「ビリビリ言うな!」

 

ビリビリッ!

 

パキーンッ!

 

条件反射的に、飛んできた電撃を右手で防ぐ。

 

「私には御坂美琴って名前があるって言ってんでしょうが!」

 

「わかったよ。危ないから、いきなりビリビリするな。あと、自販機にはちゃんと金入れろよ」

 

「アンタにはどうせ効かないじゃない!それに、こいつには前に1万円飲まれたんだからいいのよ!」

 

「そういう問題じゃねぇだろ」

 

どうやら、上条へも自販機へも接し方は変えないようだ。

 

(こいつ、本当にお嬢様なのか?)

 

上条が、何度目か分からない疑問を頭に浮かべていると…。

 

「お姉様~」

 

「げっ!」

 

後ろから、常盤台中学の制服を着た、ツインテールの女子が走ってきた。

 

 

上条を見た途端に顔色を変えた。

 

「お、お姉様…。そんな…。本当に…」

 

「ん?」

 

「殿方と逢引きを~!!!」

 

「なっ!」

 

美琴が驚きの声を漏らすが、ツインテールの少女は止まらない。

 

突然、上条の目の前に瞬間移動すると、彼の手を取って言った。

 

「はじめまして、殿方さん。私、お姉様の露払いにして、唯一無二のパートナー・白井黒子と申します。もし、お姉様にちょっかい出そうというのなら、まず私を通して頂きませんと…」

 

突然、女の子に手を取られ、上条は吸血衝動が来ないように、必死に気を落ち着けるが、黒子は違う意味に取ったらしい。

 

「あらあら、この程度のことでどぎまぎなされるなんて」

 

そして美琴に向き直り、言い放った。

 

「浮気性の危険がありましてよ!」

 

さっきから、顔を真っ赤にして俯いていた美琴だったが、この一言で何かが振り切れたらしい。

 

「ア・ン・タ・に・は」

 

バチバチと体中から紫電が迸る。

 

「このヘンテコが私の彼氏に見えんのかーーー!!!」

 

ドーンと小規模な雷が落ちるが、瞬間移動で街灯の上まで逃げた黒子は、全く別のことを考えていた。

 

(本来ならば、とっととあの類人猿にはご退場頂いて、お姉様をエスコートしてさしあげるところですが、ここままウブなままだと将来、お姉様に変な虫がつくやもしてません。その点、あの人畜無害そうなお猿さんならば心配いらないでしょう。それに…)

 

黒子は美琴に微笑を向けながら、決して聞こえない声で呟いた。

 

「元気になられたようですね、お姉様」

 

最近、美琴の無断外出・無断外泊が続き、しかも日が経つにつれて元気をなくしていく美琴に、心配を募らせていた黒子だったが、この様子を見る限り、もう大丈夫なようである。

 

 

「こら~!黒子!下りてきなさい」

 

対する美琴は黒子に向かって叫び続けていた。

 

(私は別にこんな奴のことなんて、何とも思ってないんだから)

 

ツンデレとは難儀なものである。

 

 

「それでは、私はこの辺で失礼いたしますが、くれぐれも一線だけは越えぬように。それでは、お姉様」

 

それだけ言うと、シュンという音とともに、黒子は瞬間移動でどこかに消えてしまった。

 

 

残されたのは、顔を真っ赤にした美琴と、きょとんとした表情の上条である。

 

「へ~。テレポーターとか初めて見た」

 

相も変わらず鈍感な上条は、黒子の言葉を聞いても、なお美琴の気持ちには露ほども気づいていなかった。

とは言え、まだ美琴も自分の気持ちが何なのかには気づいていない状態なのだが。

 

 

そんな時、再び美琴を呼ぶ声がした。

 

「お姉様」

 

「またかよ」

 

美琴より速く反応した上条が振り向くと、そこには美琴と瓜二つだが額に軍用ゴーグルをつけた少女がいた。

 

「増えた!?御坂2号!?」

 

「妹です、とミサカは答えます」

 

「ええっと、御坂の妹で一人称が“ミサカ”なの?ややこしくないか?」

 

「ミサカの名前はミサカですが、とミサカは言い張ります」

 

「ひょっとして御坂ミサカ?いや、そんな訳ないよな」

 

上条と御坂妹(仮)が話していると、突然美琴が声をあげた。

 

「アンタ一体!」

 

あまりの剣幕に上条がたじろぐ。

 

「こんなところで何やってんのよ?」

 

幾分柔らかくはなったが、それでもまだ詰問調で美琴が問う。

 

「“何”と言われたら研修中です、とミサカは答えます」

 

それを聞くと、美琴の顔をに深い影が差した。

 

「お~い、妹。色々話したいこともあるし、こっち来ようか」

 

口先だけは明るく美琴が誘う。どうやら上条には聞かせたくないらしい。

 

「いえ、ミサカにもスケジュールが…」

 

「いいから!来なさい」

 

有無を言わさず、美琴は妹を引っ張って行った。

 

 

『複雑なご家庭なのかな?』

 

『それだけには見えないな』

 

疑問を残しつつも、家路を急ぐ上条であった。

 

 

寮のすぐ近くまで来たころ、考え事の所為か、彼は足元のボールに気付かず、思いっきりすっ転んでしまった。

 

「いてて。不幸だ」

 

『今回は単に不注意なだけだろ』

 

 

「何をしているのですか…」

 

そんな時、話し掛ける声が聞こえたので首を回すと、シャンパンゴールドの髪に常盤台中学の制服、そして額には軍用ゴーグルという格好の少女がいた。

 

「と、ミサカは問い掛けます」

 

(御坂?)

 

一瞬、御坂美琴かと思った彼だが、そのとき一陣の風が吹き、少女のスカートを浮かせる。

 

(青白のストライプ…。あれ?さっき自販機蹴ってた時は短パン履いてたよな)

 

「ああ。お前、妹の方か。てっきり御坂かと思ったよ。本当にそっくりだな」

 

『なんてところで見分けをつけてるんだ!?お前は!ゴーグルがあるだろ、ゴーグルが!』

 

「はい、とミサカは肯定します。ところで、何をしているのですか?とミサカは再度問い掛けます」

 

「今から家に帰るとこだよ」

 

「では、その大きなクーラーボックスは何なのですか?とミサカは新たな疑問をぶつけます」

 

「内緒だ」

 

そう言うと上条は立ち上がり、クーラーボックスを提げ直す。

 

「それじゃあ、またな、御坂妹」

 

「さようなら、とミサカは別れの挨拶をします」

 

 

そうして彼女と別れた上条は、大急ぎで寮の部屋に戻り、荷物を置くと、またとって返した。

 

『なあ、ジェーン。感じたよな?』

 

『ああ、もちろんだ』

 

『『あいつから血の臭いがした』』

 

それも明らかに自分の血ではない。外側から浴びたようであった。

きれいに洗い流されてこそいたが、吸血鬼である上条にははっきりわかった。

 

それに加えて、先ほどの姉妹間の会話だ。明らかに美琴の様子はおかしかった。とても“複雑なご家庭”という言葉では済ませられないほどに。

 

 

御坂妹を見つけるのに、それほど時間はかからなかった。1度嗅いだ血の臭いを逃すような上条ではない。

 

そして、吸血鬼の運動性能と視力を駆使して尾行する。並みの視力ならば遥か前方の点としか、御坂妹を認識できない距離からだ。

ひょっとしたら、スパイである土御門ですら、尾けられていると気付かないかもしれない。

 

そうしてしばらく尾行してみたが、特に怪しい行動はなかった。いや、なさすぎたと言うべきかも知れない。

どこかの店に入るわけでも、家に帰るわけでもなく、御坂妹は只管に街を歩き続けた。

そのまま夕暮れ時になり、家路を急ぐ人々で通りが混み合ってきた。

 

その時、不意に御坂妹の動きが変わった。

いきなり走り出したかと思うと、見通しの利かない路地裏に入っていく。

臭いだけでは心許ないので、仕方なく上条も路地裏に入る。

 

しかし、その先で御坂妹は上条を待っていた。

 

「幼気な少女の後を尾けるとは、あなたは俗に言う変質者なのですか?とミサカは不安に満ちた顔で変質者(仮)に問い掛けます」

 

「ちげぇよ!変質者(仮)ってなんだ!それに、表情なんてちっとも変わってないだろうが!」

 

突然の変質者認定に、当初の目的も忘れてツッコむ上条。

 

しかし、コメディパートはここまでだったようだ。

 

 

「あなたの所為でミサカは今回の“実験”のサポートという大事な務めを果たせませんでした、とミサカは文句を言います」

 

「実験?」

 

気になる単語を聞き取り、御坂妹に聞き返す。

 

「はい。実験です」

 

そのまま返されたので、さらに追及する。

 

「その実験ってのは何なんだ?何をするものなんだ?」

 

「ZXC741ASD852QWE963'」

 

「は?」

 

「今のパスをレコード出来ないということは、あなたはやはり実験の関係者ではないのですね。よって情報は明かせません、とミサカは主張します」

 

「ちっ!」

 

『実験か…。例の血の臭いと関係あると思うか?ジェーン』

 

『多分そうだろう。それに、よく見てみると、こいつは一挙手一投足が一般人とは別物だ。まるで軍人みたいだよ』

 

『軍人?じゃあ、尾行に気付いたのも…』

 

『そういう訓練を受けてるってことなんだろうな。どうやら、また面倒な厄介事に首を突っ込んでしまったらしいぞ』

 

『はあ、不幸だ』

 

頭の中で嘆息する上条だったが、頭の中で会話をしていたのは彼だけではなかった。

 

『あなたの情報のお陰で助かりました。危うく、無関係な一般人を巻き込んでしまうところでした、と“10032号”は“10031号”に感謝を述べます』

 

『礼には及びません。最悪“第10030次実験”の失敗もあり得る事態だったのですから“妹達(シスターズ)”全員の共通の危機だったと言えるでしょう、と“10031号”は分析します』

 

『それにしても、彼は一体何者なのでしょうか?と“13577号”は疑問を提示します』

 

『どうやらお姉様のお知り合いのようですが、それ以上の情報は皆無ですね、と“10289号”は現状を確認します』

 

『書庫での検索が完了しました。彼の名前は上条当麻。ごくごく平凡な無能力者の男子高校生のようです、と“18523号”は報告します』

 

『彼は大した情報を持っているようではありませんし、報告通り無能力者ならば、最悪の場合は我々だけでも排除することは可能でしょう。脅威になり得るとは思えません、と“17378号”は意見を述べます』

 

『そうですね。では、反対意見もないようですので上条当麻のことは放置するという方針でいきます、と“10032号”は結論を纏めます』

 

御坂妹も上条と同じく脳内で、他人と話していた。

そして、そこでの議論で決めた通りに彼女は行動する。

 

「それでは、そろそろ失礼します、とミサカは暇を告げます」

 

「あっ、おい!ちょっとま…」

 

「もし、これ以上付いて来るのであれば、警備員に通報しますよ、とミサカは警告します」

 

「うっ!」

 

上条の言葉を遮り、御坂妹は殺し文句を告げる。これでは上条は─というより誰も─付いてはいけないだろう。

 

「わかったよ。それじゃあな」

 

諦めた様子の上条は、別れを告げると路地裏から出ていった。

 

「ふぅ~。危ないところでしたが、どうにかなりました。さて、早く“研究所”に帰りましょう、とミサカは一人言ちます」

 

上条の背中を見送った御坂妹もその場を後にした。

 

いつの間にか陽はすっかり傾いていた。

 

 

 

 

同時刻

 

窓のないビル

 

 

 

「フフフ。予定通りだ。危うく、もう実験場に辿り着いてしまうのではないかとひやひやしたが、“計画”に狂いはない」

 

統括理事長・アレイスター=クロウリーは今日もビーカーの中でほくそ笑んでいた。

 

「相変わらず趣味が悪いな、アレイスター」

 

そんな彼に話し掛ける人物がいた。

 

「貴様のその笑いを見てると反吐が出る」

 

言葉汚く自らの雇い主の1人を罵ったのは、必要悪の教会の陰陽師、兼学園都市のスパイ、兼その他さまさまな組織に雇われる多角スパイ・土御門元春だ。

 

「そう言うな、土御門。“とあるイレギュラー”のお陰で、“計画”がかなり早く進行しているのだ。私とて上機嫌にもなるさ」

 

「その為に“滞空回線(アンダーライン)”まで使って、自ら幻想殺しの観察か。余程、“計画”とやらにとって重要なんだろうな」

 

滞空回線とは、学園都市内に5000万機以上も散布されているナノサイズ─正確には70nm─のシリコン塊のことだ。それらは収集した情報を相互に共有し、巨大なネットワークを築いている。

アレイスターが学園都市内での情報収集をする際の要を担っているものだ。

 

「さて、どうだろうな」

 

当然のことのように、アレイスターは土御門の質問をはぐらかす。実際答える義務はないし、土御門とて素直に話す情報を鵜呑みにするつもりはなかった。

 

その後、十字教勢力の動向を一通り報告し終えた土御門は帰っていき、アレイスターが1人残された。

 

そして、こう呟いた。

 

「“重要”か…。そんな言葉では足りんよ。あれが無ければ、我が“計画”は成就し得ない。そして“彼女”もな…」

 

その後、しばらくアレイスターの笑い声が空間に響いていた。

 

彼の言う“彼女”とは誰のことか?

この疑問に答えられる人間は彼自身のみである。




絶対能力者進化計画篇スタートです(^^)/

妹達の検体番号は適当にふっただけなので、気にしないでください。

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