魔導剣史リリカルアート・オンライン   作:銀猫

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#4 デイブレイク1st

「はぁぁぁ!!」

 

「クッ!!」

 

 

ヴィータがアイゼンでスバルへと殴りかかった。一方のスバルは強固なバリアアでガードするも足元に書かれていたラインから押し出されてしまった。

 

 

「バリアの強度自体は悪くないな、けどまだ体が出来上がってないな…」

 

 

バリアが強固と言ってもバリアごと押し出されては意味がない。剣士の剣が強くても使い手の筋力が低くては意味がないのと同じように。

 

そのため、バリアで守りながらそれを受けきるための下半身の筋力や体重移動が必要だった。

 

 

 

「とにかく反復練習だな、もう一度行くぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

一方エリオとキャロはスバルやティアナとは違いまだまだ子供なのだ。筋力的なものは女性とは言えスバルに大きく劣るため、踏ん張れる筋力よりも避けれる技術が優先される。

 

 

 

今はフェイトがお手本でサーチャーから放たれる光線を避けているが、それでも結構な技術がいる。

 

 

 

「すごい…!」

 

 

軽く避けてるように見えるが、結構周囲からの光線が多くよく見てないと当たってしまう。

するとフェイトはひとつため息をついて、別の場所で訓練をしているキリトをみた。

 

 

「けど、キリトのアレは…異常だよね」

 

 

そのキリトは今現在、エリオとキャロが使用している回避訓練の装置のようなものを使用していた。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

違うところは『空中』で『上下左右』から『ビームが射出』されてながら、『ターゲットを切っている』ことだ。

 

 

ALOフォームはデバイスが飛行の方のコントロールをするため、その操作と共にソードスキルを発動させる訓練をしているらしいのだが、もはや訓練ではない状況だった。

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 

どこぞのロボットアニメよろしくの戦場のような目が眩むほどの光の嵐の中、驚異的な反射神経でよけるキリトに3人は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

そしてその様子をフェイトたちとは別のところで見ているティアナとなのはも呆然としていた。

 

 

「…うん、キリト君はいろいろとおかしいね」

 

「…そうですね」

 

 

ビームをかすめながらキリトは再びターゲットを切った。そんな様子を見ながらそう言って2人は再び二丁拳銃の射的訓練へと戻った。

 

 

 

「いいっすねぇ、若い連中は」

 

 

訓練が一望できる高台にいたシグナムにヴァイスがそう言いながらやってきた。

 

 

「ああ、まだ荒削りな分、今後の伸びが楽しみだ」

 

「参加しないので?」

 

 

ヴァイスがそう言いながらコーヒー缶をシグナムへと渡した。

受け取ったシグナムは缶を開けて一口飲んで残念そうに首を振った。

 

 

「近代ベルカ式とは勝手も違うし、剣を振るうだけの私が教えてやれることもない」

 

「そうっすね…銃や拳と剣は全く違いますから…剣といえば、この前の4人は?」

 

 

―武装隊:訓練場―

 

 

「うぉら!!」

 

《アキサザメ》

 

 

「ぐおぉぉぉ!!!」

 

クラインの刀を受けきれず、吹き飛ばされる試験員。

 

 

 

 

「はぁ!!」

 

《ストリーク》

 

 

「ぐげぇ!!」

 

 

アスナの素早い突きに、対応しきれずクリーンヒットしてカエルが潰れた時のような声をだす試験員。

 

 

 

 

「ピナ!」

 

「ピュア!!」

 

《クロス・エッジ》

 

 

「げぶぁ!!」

 

 

ピナに翻弄され、使い魔である鳥と共にシリカのダガーで沈む試験員。

 

 

 

 

「………………なんでや」

 

 

 

結果を見てはやては頭を抱えた。この前のキリトの件があったためか、はやてが推薦人となったと聞いた武装隊は訓練生ではなくすでに実践経験を踏んでいる隊員を送り込んできた、はず――

 

 

 

「なんで、圧倒してるんや」

 

 

だが、そんなことを知らないクライン、アスナ、シリカはキリトほどではないが相手をボコボコにして勝利した。アスナに至っては相手が受けきることができないほどの速度で攻撃して完封したのだ。

 

シリカは危なげなく、だがそれでも経験を踏んでいる相手に見事に対応していた。

 

この結果に武装隊の隊長も呆然としていた。

 

 

 

そんな中、次はシノンの試験だった。

 

 

 

「(狙撃試験は800m先の相手を狙撃…やけど…)」

 

 

訓練場に現れたシノンはその相手との距離を見てため息をついた。

 

 

「たったこれだけ?」

 

「…は?」

 

 

 

確かに2Kmとか狙撃しているシノンにとっては近すぎる。だが担当魔道士はただの強がりと判断したのか、そのまま試験を開始させた。

 

狙撃銃は展開してもいいが、その場に置くか背中に携えるのがルールだった。

 

相手は見た感じどちらかというと中距離型の狙撃銃を待機状態で握っていた。シノンは愛銃ヘカートを背中に携えていた。

 

 

 

「…へカート、サポートなしでいい、ちょうどいい気晴らしになるわ」

 

《了解》

 

 

「では、試験開始!」

 

 

 

シノンは背中にある自身のデバイスであるへカートを構えるとそのまま引き金を引いた。そしてそれがセットアップしている最中の相手にヒット、吹き飛んだ――その一連の流れは約6秒

 

 

 

「「………………え?」」

 

 

 

命中したため、終了の表示が開始の表示に重なって表示されるというありえない状況。

誰ももう終わったことに気づいてないほど一瞬だった。

 

 

―デバイスルーム―

 

 

「それにしても、ユイちゃんはデバイスのAIなんてよくわかるね」

 

 

今現在ユイとシャーリーはキリトのエリシュデータに搭載したALOフォームの改良と他の4人のALOフォームの作成を行っていた。

 

ただし、ALOフォームの根本的なシステムはシャーリーでもわからないため、ユイが作っているのだ。

 

 

「…あれ?」

 

「どうかしたの?」

 

 

シノンのデバイス『ヘカート』のデータを表示していたユイは首を傾げていた。

 

 

 

「このへカートに搭載されているデータ…SAOのデータと違います」

 

「え?」

 

 

気になることだが、よくよく考えてみればシノンはSAOに参加していない。理由は不明だがキリト達のデバイスはSAOのデータがもとになっている。参加してない彼女がGGOのデータを元になっていても不思議ではない。それにGGOの『狙撃手シノン』の姿だった。

 

つまり、ヘカートに搭載されているのはSAOフォームやALOフォームではなく――

 

 

「――GGOフォーム」

 

 

直接GGOに関わっているわけではないため、データを見たことがないがそうとしか考えられない。

『圏内』のシステムは同一だが、それ以外のシステムは見たことがなくユイはお手上げだった。

 

 

 

―食堂―

 

 

「なんか、お疲れですね…」

 

 

試験を終えて4人とともに戻ってきたはやてだったが、お昼時の食堂でぐったりしていた。

時折、「なんでやぁ~」「んなもんチートやぁ~」「ビーターやぁ~」というような声が聞こえる。

 

 

 

「う~ん…」

 

「リインちゃん、どうかしたんですか?」

 

 

そんなはやてを遠目から見て、唸っていたのは彼女のユニゾンデバイスであるリインフォースⅡだった。

そしてそんな悩めるデバイスに同じような妖精がやってきた。

 

 

「あ、ユイちゃん…」

 

 

一応彼女は4機の『ALOフォーム』の作成に一区切りつけて休憩に来たのだ。

実を言うとこの2人は似たような存在でさらに精神的な年齢も同じだったため仲が良かったのだ。

 

 

「実は…はやてちゃんが元気がなくて…」

 

「…どうやら何かに悩んでいたり、後悔している感じですね」

 

 

さすが元メンタルカウンセラー用のAIのユイははやてがどうして元気がないのか正確に分析することができた。だがその内容まで理解することができない。

 

それが自分の母やその仲間のせいでメンタルがボコボコにされていたということは知る由もない。

 

 

「こういう場合は好きなものを食べるのがいいんですよ!」

 

「好きなもの…」

 

 

 

 

 

「そういう時は、甘いものがいいんだよ」

 

 

結局どうすればいいのかわからなくなった2人はユイの母親でもあるアスナの下へとやってきた。

ちなみにアスナは今現在、食堂の厨房で自分の世界にはない見知らぬ食材を使った料理の研究をしていた。

 

 

「甘いもの…」

 

「クス、今からキャラメルミルクを作るんだけど一緒に作る?」

 

 

何を作ろうか悩んでいるリインにアスナがそう聞いた。少し考えたが自分の知ってる料理だとレパートーが少なく、さらに今の状態だとまともに作ることもできないため、リインは頷いた。

 

 

 

 

―訓練所―

 

 

すでに時刻は午後のデスクワークへと移行していたため、正規職員ではないキリトたちが訓練場を貸切にすることができた。ちなみにアスナはリインとユイとキャラメルミルクを作っている最中だった。

 

 

 

「スターバースト…!!」

 

「ちょ、そりゃセコイぜ!!」

 

 

戻ってきて早々、キリトが訓練していると聞いてアスナを除いた3人がそれならばと、まだ動き足りないので訓練に参加したのだ。

 

そして模擬戦をしているキリトとクラインだったが、二刀流であの構えをしているとクラインがそ74層のボスの戦いでキリトが繰り出した技を思い出して青い顔をしながら距離をとった。

 

 

 

「逃げるな!!」

 

「無茶言うな!!」

 

 

流石にSAOで実力者の一人と数えられるクラインでもキリトの速度の攻撃を刀一本で受け止めるのは無理だった。しかもその技は74層の削られていたとは言えボスを一撃で倒すほどの威力があるのだ。

 

 

 

そんな殺伐とした訓練とは裏腹にサポート要員のシリカとシノンは少し静かだった。

 

 

「…………?」

 

 

キャロの持ち物であった召喚などの魔法についての本を日陰で読んでいたシリカとそんな彼女が背もたれにしている木に寝転がって寝ているフリードとピナ。

フリードはキャロがデスクワークの時は基本的に自由だが、最近はどこかの木の下で昼寝するのが日課だった。主にキリトの影響で

 

 

そんな時、ふとシリカは顔を上げた。そして本を仕舞うとピナとフリードを起こさないように立ち上がり歩いた。

 

 

 

「どうかしたんですか?」

 

 

 

声をかけたのは少し離れたところで狙撃訓練をしているはずのシノンだった。

だが彼女は何か書かれた紙とにらめっこをしていた。

 

 

「ティアナがくれたものなんだけど…魔力弾をデバイスで打ち出すためにカートリッジってのが必要って書いてあるのにヘカートにはないのよ」

 

《うむ、我の構造にはそのようなものは存在しない》

 

 

確かにシリカがリニアレールの中で見たティアナのデバイス、クロスミラージュにはリボルバー拳銃のように中折開けることができ、弾丸みたいなのを積み込む動作があった。

だが、シノンのヘカートはどういうわけかそんな動作をすることなく弾丸を発射できる。

 

 

 

「ヴァリアブルシュートっていう魔法を撃とうとしてるんだけど、これじゃあね…」

 

「…あれ?」

 

 

そこでシリカがひとつ気になったことがあった。先ほど読んだ本の中にはAMFを突破する方法はヴァリアブルシュートが有効と確かに書かれていた。だが――

 

 

 

「シノンさん、ちょっと試してみてもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後のデスクワークから午後の訓練の時間へと変わった。そのためフォワード陣と隊長達は訓練所へやって来たのだが――

 

 

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

「クロスファイアー…シュート!!」

 

 

 

訓練場上空に40個ほど配置されたガジェットⅠ型だが、シノンの掛け声一つで彼女の周囲に展開していた弾丸がまっすぐ飛び、全て爆散した。

その手には弾薬を撃ちだして白い煙を銃口から上げるヘカートがあった。

 

 

 

「…え、なに、今の…」

 

「まさか…ヴァリアブルシュートをクロスファイアーシュートで撃ちだしたの…!?」

 

 

スバルたちが呆然としてる中、銃を使うティアナは驚きの表情で分析するがそれをやるには果てしないほどの高度な魔法が必要になることを知っていた。

 

 

「あ…ちょっと違うんです」

 

 

そしてシノンのサポートでコンソールを操作していたシリカは少し苦笑い気味に笑っていた。

 

 

「ティアナさんからもらった紙に書いてあったカートリッジシステムってのが私たちのデバイスにないんです」

 

「え?でも…シノンさんは銃ですよね…」

 

 

たしかにそうだ。銃に魔力を込めて放つ場合、その手間を省くためにカートリッジシステムを採用されているのだ。それこそカートリッジに込められた魔力を弾へと変えて放つように。

 

 

「それで気になったんですけど…シノンさん、ヴァリアブルシュートをせずにガジェットを破壊してたんですよ」

 

「「……あ!」」

 

 

それを聞いてなのはとフェイトは思い出した。シノンがリニアレールでサポートするとき、2kmほどの超狙撃だったのにAMFを関係なく貫通し、破壊できたのだ。

 

たしかに遠くなればなるほどAMFは効果が低くなる。だが超狙撃をする場合、魔力は移動する距離に比例して威力が下がる上にガジェットに近づくとAMFの効果でかき消されてしまうのだ。

 

 

「それでシノンさんが思い出したのは、へカートには魔力で作られた『弾倉』を装填してるって」

 

「弾倉!?」

 

 

他のメンバーは何がすごいのかわかってないが、やはりガンナーのティアナはわかっているようだった。

ティアナのように単発式にカートリッジを装填しないで弾倉で装填する場合、容量の問題で本物の銃弾と同じように真っすぐにしか飛ばなくなり追尾誘導などの付加を行うことができないのだ。

 

 

「もしかしてと思って試してみたら…シノンさんの弾丸が全部AMF関係なく飛ぶんです」

 

「…もしかして…稀少能力(レアスキル)…!?」

 

 

「なによ、そのレアスキルって」

 

 

すでに上空に展開したガジェットをただのガラクタの雨へと変えたシノンは少しふてぶてしそうに聞いた。

 

 

「その名のとおり、普通の人が持たない能力……ティアナ、シノンにデバイス貸してみて」

 

 

言われたようにクロスミラージュを受け取ったシノンはすぐに生み出されたガジェットへ向かって銃を向けた。

 

 

 

「…普通の銃と比べて軽いわね」

 

「じゃあ、お願いね」

 

 

行動レベルを0にしてるガジェットはAMFを生み出すだけの機械となっている。そしてシノンはクロスミラージュの引き金を引いた。

 

 

 

 

「!」

 

 

 

ドォンと響いた鈍い銃声にシリカ以外が耳を塞いでいる。リボルバーで発泡する時と変わりがないその音に耳鳴りがするのだ。

銃の概念を持っていたシリカだったが、シノンのへカートはGGOで出来る限り銃声を出さないカスタマイズをしていることを聞いたことがあった。

 

そのため、おそらくそう言ったカスタマイズがされてないクロスミラージュだと銃声が響くと思ったシリカはあらかじめ耳を塞いでいたため、音はそれほど響いてないのだ。

 

 

「な、、、に、、、、いまの、おと」

 

「みみなりが…」

 

「きゅくる~」

 

「ふりーど!」

 

 

 

一番耳がいいフリードに至っては目を回して気絶していた。一方耳鳴りをしながらもなのはとシグナム、ヴィータ、ティアナはガジェットを見た。

 

 

「「「「!!」」」」

 

 

そこには見事に真ん中に風穴が空いているガジェットがあった。ほどなくバチバチとショートしたガジェットは爆散した。

 

 

 

「…多分、シノンの能力はデバイスの銃を本物と同じようにする力だと思う」

 

 

なのはが耳鳴りを我慢しながらシノンのレアスキルについてそう見解した。

試しにティアナがシノンのヘカートを重そうに持ち上げ、引き金を引いたが普通の魔力弾がまっすぐ発射されるだけでAMFに直撃した弾丸は威力を落としてボディを凹ますほどの威力になった。

 

これでなのはの見解が確立されるものとなった。

 

 

 

 

「………皮肉なものね」

 

 

【朝田さんには、力がある】

 

 

 

あの日、シノンのアパートでシュピーゲルこと友人だった新川恭二の言った言葉だった。

あの第3回BoB大会の後、死銃事件の――

 

 

「…っ…!!」

 

 

その時のことを思い出したシノンは少し身震いをした。あの日のことを忘れたわけではない。

だが、思い出したのだ。恭二の壊れた感情を向けられたとき、彼の目――

 

 

「シノンさん?」

 

「!」

 

 

顔が死人のように真っ白になったシノンの顔を心配そうにシリカが覗き込んでいた。

同じように他のメンバーも心配そうに見ていたが出来る限り明るく保ってシノンは「疲れた」と言って部屋に戻った。

 

 

 

 

 

―エントランスホール―

 

 

「…はぁ」

 

『主、元気がないようですが…』

 

 

 

シノンの首にかかってるドッグタグが明滅すると音声が聞こえた。それが彼女のデバイスである『ヘカート』の待機状態だ。

 

 

「…嫌なことを思い出してね」

 

「第三回大会優勝者がしおらしいな」

 

「!」

 

 

その言葉に彼女が振り返ると、そこには――

 

 

「………………」

 

「……何引いてるんだ?」

 

 

カウボーイがいた。

 

テンガロンハットを被り、その隙間から長い髪を一つにまとめている髪型、スカーフを首に巻いて――

 

 

うん、カウボーイだ。というよりもバリアジャケットだとしてもなかなか奇抜な格好だ。

 

 

 

引いているシノンに大してカウボーイは少しため息をついていた。

 

 

「…あなたは何者?」

 

「おいおい…俺を忘れたか? 何度も俺を狙ってたのによ?」

 

 

 

狙ってたというとGGOだろう。たまに集団(スコードロン)を組んではPKをしていたがそうなれば当てはまる人物は多くいて――

 

 

 

「…ん?」

 

 

いや待って、とシノンは自分に言い聞かせた。この姿――どこかで見たことがあった。GGOは廃坑した地球が舞台、その中で様々な格好をしている奴がいた。

隠密スキルを上げるためにマントを羽織るものがいれば接近してショットガンで倒すために軽装といった格好の者――

 

シノンはどちらかというと隠密スキルを上げるために

 

だが、その中にも今みたいな――

 

 

 

「…もしかしてあなた…ウェス?」

 

「お、ご名答。やっと思い出したか」

 

 

プレイヤーネーム『ウェス』

GGOでは名の知れた男だった。シノンが参加したBoBの過去の大会にも参戦し、本戦まで上り詰めるほどの腕前だ。そのスタイルはまさにウエスタンと言え、おそらく彼が1VS1で対峙した場合、負けることはないといってもよかった。

 

ちなみにシノンとキリトが同時優勝した第三回は何かの用事で未参加のようだった。

 

 

 

 

「なんで…六課(こんなところ)にいるのよ」

 

「いろいろあって俺は今、【脅威対策室】って対テロ鎮圧部隊に所属してるんだが、数日前のリニアレールの乗っ取りに関してウチの上司が話を聞きたいって連れてこられたんだけど…」

 

 

そこまで言ってウェスは神妙な面持ちになった。それにシノンも何かただならぬことが発生したのかと身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぐれた」

 

「…は?」

 

 

目の前の男は何真剣な表情で言ってるんだろうか。

 

 

「いや、だからはぐれた。ちょっと向こうであった爆発を見てたらいなくなってな…」

 

「(…私のクロスファイアーか)」

 

 

指差した方向は訓練所の方だ。クロスファイアーシュートで空に浮かんでいるガジェットを破壊したときに気を取られておいて行かれたらしい。

 

 

「はぁ…(そういえば、こういう奴だったわね…)」

 

 

 

 

初めてスコードロンでシノンが倒せなかった相手がウェスだった。どうやってか、シノンのスコープ内からウェスは消えたのだ。辺りを捜索しても見つかないため、そのままスコードロンは街に戻って解散した。

 

その後、待ち構えているかのように立っていたウェスにシノンは身構えたがその時、彼から驚きの声が発せられた。

 

 

「すごい狙撃だな」

 

「……は?」

 

 

PKを貶すわけでもなく、純粋にシノンの狙撃の腕を褒めているウェス。シノンはそんな彼が訳がわからなかった。

 

 

「ちょっと、つい10分前まで命狙ってた相手を褒めてどうするのよ?」

 

「ん? 別にどうもしないけど?」

 

 

 

その時彼女は本能的に悟った―――コイツは天然(バカ)

 

その後、戦場で見かけるたびにシノンは狙撃を試みるが、ウェスは消えて街に戻るとあれこれアドバイスをしてくれるのだ。

 

 

だが、それが的確だったためかシノンは腕利きの狙撃手になることができたのだ。

 

 

 

「ウェス」

 

「あ、隊長!」

 

 

隊長と呼ばれた男がシノンの背後に立っていた。が――

 

 

「(……………テロリスト?)」

 

 

エギルよりも体が大きい褐色肌、さらに歴戦の傷跡なのかいたるところに切られたり火傷したあとが残っているスキンヘッドの男性。

 

どちらかというとこの人がテロリストのように見えた。

 

 

「この…」

 

「「?」」

 

 

「どぁほうが!!!」

 

「ゲヴァ!!?」

 

 

するとウェスの脳天に鈍い拳骨が落ちた。ウェスの頭の上を星がくるくる回ってるのは気のせいだろうか。

 

 

「何よその部署で迷子になってるんだ!!」

 

「だぁ、、、、て、、、いきなり爆発、、すれば・・・・」

 

 

「で、なに迷子になって可愛い子ナンパしてるんだ!?」

 

 

「かっ!?」

 

 

面と向かって可愛いと言われたことがないため、シノンは顔が真っ赤になり何か言いたいが何も頭の中に浮かばなかった。

 

 

「シノンは、、、友達、で、、、、」

 

「は? 漂流者のお前の友達がいるわけないだろうが!!」

 

 

もう一度拳骨が落ちそうになるのにサーっと顔が青くなるウェス。

痛い頭を抑えながら助けを求めるかのようにシノンを見た。

 

 

「シ、シノン、友達、だよな、、、」

 

 

「……腐れ縁よ」

 

 

なんとか拳骨が落ちることは回避されたようだ。

 

 

―部隊長室―

 

 

「ん?」

 

 

 

少しばかり驚異対策室の分隊長がリニアレールの一件の詳細を教えて欲しいとやってきたため、その時指示を出していたグリフィスと共に会議室に行って戻ってくると机の上に牛乳のような飲み物が置かれていた。

 

 

「なんや、これ。リインにしてはでかいやろうし…」

 

 

コップは普通の人用のものでリインにとっては風呂ほどの大きさだ。

すると机の上に置き手紙が置いてあった。

 

 

『お疲れ様です! リインより』

 

「…ふふ、ありがとうな」

 

 

 

その日はやての飲んだキャラメルミルクは今まで口にしたどの飲み物よりも甘かった。

 

 

―キリト・アスナの自室―

 

 

「へえ、キャラメルミルクか…」

 

「はい!一生懸命作りました!」

 

 

 

訓練(という名のシグナムとの決闘)を終えたキリトが部屋に戻るとそこにはなぜかいつも以上にニコニコしているアスナと、危なげない手つきでお盆と湯気が立ち上っているキャラメルミルクを持つユイがいた。

 

 

「昔、スグも俺も大好きだったけどお爺ちゃんが飲ませてくれなかったんだよな…」

 

「それって厳しかったってあの?」

 

 

一度聞いたキリトの祖父の話。とにかく厳しい人で、キリトと直葉に剣道を教えた人だった。

 

すると一息吹いて少し冷ましたキャラメルミルクを飲んだキリトははぁ~っと幸せそうに笑った。

 

 

「ありがとうな、ユイ。美味しいよ」

 

 

 

こうして、民間委託魔道士達の一日は過ぎていく――

 

 

To be continued →

 

 




今年最後の更新です。
ユイ「長いようで短かった2013年でしたね」

さて、今回の解説等ですが、まあキリトの時はちょっと長めだったけど特に何事もなく4人は民間委託になりました。
ユイ「あっさりと…」
長くしても正直シリカぐらいしか苦戦しそうにないから。
で、ある意味のんびりと過ごす民間委託メンバーを描こうとして無理だった…
ユイ「GGOフォームやその他のことがありましたからね…日常編としてはいろいろと新しいことが出てきたような…」
これはまだ導入編のようだった…

ユイ「ちなみにあのウェスという人は?」
そうだな、キャラ紹介

ウェス
投稿者:カイナさん
年齢:19(大学一年生)
性別:男
デバイス:???
VRMMO:GGO(ガンゲイルオンライン)
容姿:黒髪を長く伸ばし後ろで一本にまとめている長身、瞳の色は黒。
服装:テンガロンハットとボロイスカーフをトレードマークにした所謂ウエスタンスタイル
詳細:キリトたちと同じくある時ミッドチルダに飛ばされた一人。『脅威対策室』でGGOで培った経験をもとにブリーフィングでは中心人物となっている。
同じくGGO経験者であるシノンとは知り合いだがどっちかといえば対人スコードロンとその標的という関係に近い。頭脳明晰で、性格はクールぶっているがどこか抜けており若干天然気味、本質的にはお人好しであり度々狙ってくるシノンにも戦場以外ではわだかまりなく接していた。
その結果シノンが【氷の狙撃手】と呼ばれるまでに腕を上げることができた。
実は第二回Bobでは本戦へと進める実力者。第三回は本人の都合で未参加。

記念すべきこの作品の投稿キャラの一人目
本元の作品があるサイトとこちらでも活動しているカイナさんの投稿…なんだかんだでいろいろと長い付き合いだったりする。直接的なことは少ないけど…


ユイ「デバイス名が不明なのは?」
まあ、そこらへんまだ情報公開には早いかなと思うところは伏せるから。
ちなみにこの作品はキリアスとなのユー以外はほとんどがオリキャラとのカップリンクになりそうです。
ユイ「というとウェスさんはシノンさんの?」
いや、まだ明確な決定はしてないね。現段階では第一候補だけどほかに魅力的なキャラやぴったりな組み合わせが浮かんできたらそっちになるかもしれない。

ちなみにオリキャラに関して2つほど申し上げたいことがある。
ユイ「どうしたんですか?」
まあ、私の不注意ですがオリキャラを2人以上にするのは募集人数が少ない場合と、本元ではそう言ってたんですがこっちでそう通達するのを忘れてました。
ユイ「本元だと3人だけでしたからね…」
で、予想外に来て有頂天になってたら2人目の投稿をする方がいらっしゃって…そのキャラも魅力的で「No」とは言えずに【2人まで】とさせてもらったんです。
ただ、そしたら「あ、じゃあ俺も」という風に…今現在受け付けた人数は12人で単純に20人近くになってしまうんです。
ユイ「自業自得ですね…」
流石に20人近くのオリキャラをすべてコントロールするのは私の腕からして不可能に近いです…
だから今更ですが【2人投稿された方は片方、もしくは両方の出番が1人投稿された方よりも極端に少なくなる可能性がある】ということにさせてもらいます…

それともう一つ。多分ほとんどのキャラには「ホテルぐらい」「六課襲撃」といった具合に大体の登場の目安を立てていましたが…ホテル編の話の構想を作ってるとオリキャラが連続で登場したらいろいろと混乱する可能性があると思います。
ユイ「そうですね…今回のウェスさんはともかく、他のキャラがずらっと並んでましたら間違いを起こすかもしれませんね…」
そう、どうしようかと悩みながらこの話の改訂をしていたらふと思いついたんです。
若干のネタバレをするとこの次の話、そしてそこから展開するその次の話で重要な部分に突入するので日常編的なものはキャラの人数的にホテル編後になりそうだと思ってたんですが、次回からオリキャラが多く入ったので何人かオリキャラの登場するサイドストーリーを作ることにしました。
ユイ「オリキャラ登場の…?」
例えば街に出たキリトが困っていたオリキャラ(ホテル登場予定)と出会って…で、いざ本編であるホテルでキリトと再会して「あ、お前はあの時の!」というふうにすれば登場の手間を減らせると思います。

それに関してもしも登場時のシュチュエーションで希望があったりするのならメッセージ・もしくは活動報告の【アンケート2】で書き込んでください。
ユイ「そういえば、アンケート2ってありましたね」
あまり書き込まれてないし、有効活用することにします。

それともともとの予定で2話後に地球編になるんですが…そこでオリキャラは一部を除いて登場できないので、まあウェスも二話の間に少し登場するんですが、地球編だと出番なしなので同じような状態になると思います。
ユイ「一部というと…?」
六課に入ったオリキャラ…まあ【地雷を踏む少女】ぐらいしか登場できないので…
ユイ「なんですかその二つ名!?」
行き当たりばったりで特大の地雷を踏み抜いてしまったんですね。行き当たりばったりで
ユイ「二回言いました!?それに行き当たりばったりで!?」
この作品は大筋以外行き当たりばったりです。例えば今回のウェスが隊長に殴られるあたりやシノンがなぜかレアスキルを持ってるところとか
ユイ「一番大事なところですよね!?」

ついでに今回の単語説明

・SAOフォーム
キリト・アスナ・クライン・シリカの基本的なフォーム。接近特化型でソードスキルのオート発動や筋力といったステータスが上がる。また、体術スキルも発動することができる。ウィークポイントとして地上でしか戦えない。

・ALOフォーム
ユイ(ナビゲーションピクシー時)の基本的なフォーム。飛行を可能にし、ALOの魔法も発動することができる。
ただし一人一人飛行に癖があるため、別々のプログラムが必要となる。
ウィークポイントとしてソードスキルを発動するにはスキルと同じ動きをしなければならない。

・GGOフォーム
シノン・ウェスの基本的なフォーム。狙撃・銃撃を可能にし、索敵スキルや隠密スキルが発生する。
またある程度の狙撃にデバイスが補助を加えることができる。
ウィークポイントとしてソードスキル、魔法が発動できない。

・シノンのレアスキル
彼女が銃型デバイスを使用すると必ず魔力が弾丸と同じようにまっすぐ飛び、フィールド系魔法の効果を受け付けない。
また、その場合本物の銃と同じように銃声がする。

こんなものかな…今度用語集とオリキャラ集でも作っておくかな。
ユイ「それぞれにウィークポイントがあるんですね」
まあ、それぞれの長所と短所を考えた結果ですね。とは言ってもALOフォームだとOSSと同じ動きでソードスキルを発動することもできるし、GGOフォームで魔法を撃つこともないだろうし…キリトぐらいしか光剣使わないだろうし

ユイ「ALOフォームの癖とは?」
んー、まあ、翼がそれぞれ違うとでも思ってくれたらいいかな?特にSAOからのデータ引き継ぎメンバーは特徴的ということで。
ユイ「そういえば、パパは一度データをリセットした…」
だから今回のリニアに間に合ったんだけどね。同じような理由でシノンもすぐに出てくると思う。
確かシノンもGGOのデータをコンバートせずに新しいアカウントで作った的なことをどこかで見たから。

さて、今回のアンケートは結構長めに募集します。
ユイ「長め?」
早いうちに募集をかけようと思ってた内容がある。

『SAOメンバーは自分の世界に戻るか否か』

ユイ「戻らない…こともあるんですか?」
ありえる。選択肢は

1.戻る(その場合、二度とミッドチルダに戻ってこれない)
2.戻らない(自分たちの世界に戻ることができない)
3.行き来できる

以上の3つ、今回は1つのみの回答になります。
そしてこれの締切は…まあ、未定。頃合を見て通達します。
正直に言うとこの三つのどれでもエンディングを迎えれるからルートでそれぞれ作るのもいいかもしれないんだけどね…

あ、それとアンケート1の続編希望は募集終了します。こちらでもやることにしましたので。

ついでですが、『シノンのレアスキル』の名前でいいのがあれば送ってください。
今現在考えてるのは【幻惑の弾丸(ファントムバレット)】なんですけど…この名前、別のところで使いたいんですよね…

では次回からサイドストーリー編お楽しみに

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