魔導剣史リリカルアート・オンライン   作:銀猫

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とりあえず、もう一話投稿して様子見をすることにしました。

前回のあらすじ

異世界『ミッドチルダ』に飛ばされたキリトとユイ。
保護された『機動六課』で働くことにしたキリトだが、『SAO』時代のソードスキルを駆使した結果、最大難易度の訓練システムをクリアしてしまった。


第一章―時空管理局とプレイヤー―
#1 仮初の二刀流


「フリ~ド~!!」

 

 

午後の訓練開始前、竜召喚士であるキャロは自身の使役龍であるフリードを探していた。いつもならキャロと行動するか、部屋にいるかのどちらかだが見当たらないのだ。

 

 

「もう…どこに…あれ?」

 

 

視界の端っこ、屋外休憩所の木の下に白い何かが見えた。

 

 

「あれは…」

 

 

トテトテとキャロがそれに近づいた。予想通り、フリードだった。

 

 

「フリード、こんなところで…」

 

「……すぅ…すぅ…」

 

「きゅう…きゅう…」

 

 

フリードは今日から機動六課に加わることとなったキリトの上で寝ていた。だがキリトはフリードを重そうにしておらず、それどころか快適そうにしていた。

 

 

「……起こしたほうがいいのかな…あ、そういえばシャーリーさんが探してたし……キリトさん、起きてください。キリトさん!」

 

 

「うぅ…ん……シリカ……???」

 

 

寝ぼけているのか、誰かと間違えているようだった。眠そうに目をこすって、数回瞬きをすると間違いに気づいたようだった。

 

 

「あ、えっと…キャロだっけ?」

 

「あ、はい。さっきシャーリーさんが呼んでましたよ。あとすいません、フリードが…」

 

 

そう言うとキリトは自分の腹の上にフリードが寝ていることに気づいた。

それに苦笑いしながら優しくフリードを抱き上げるとキャロに渡した。

 

 

「大丈夫だ、逆にいつものように寝れたよ」

 

「(いつものように…?)」

 

 

どういうことなのかわからなかったが、既にキリトはデバイスルームへと歩き出していたため、聞くことは叶わなかった。

 

 

―デバイスルーム―

 

「失礼します」

 

「あ、来たね」

 

 

暇だったのか、シャーリーは近くにいたボブカットの金髪の女性とガールズトークで話していたようだった。

 

 

「えっと…」

 

「私はシャマル、ここでは一応医務官をしてるわ」

 

「ちょっとデバイスを作るにあたってリンカーコアを調べる必要があるからね」

 

 

リンカーコアについて知らないキリトは首をかしげていた。それに思い出したようにシャーリーはどういうものなのかの説明を始めた。

 

 

「魔導師が魔法を使うにあたって必要になる魔力源みたなものよ。ストレージなら勝手にほかの人が使用しないようにあらかじめ使用者のリンカーコアを登録してある程度のロックをかけておくの。特に戦闘用のデバイスはね」

 

「はー、つまり認証システムの登録ってことか。わかった。で、どうすれば?」

 

「あ、そのままでいいわよ」

 

 

そう言うとシャマルの指にはめた指輪が光りだした。それと同時にキリトの体から何かが抜けるような気だるさが襲いかかった。それに比例して胸のあたりからビー玉のようなものが抜け出した。

 

 

「イメージ通り、真っ黒ね」

 

「はい、測定完了です」

 

 

ふっとリンカーコアが消えるとキリトの気だるさがなくなった。

直ぐにシャーリーは測定データをもとにデバイスを作るようだ。

 

 

―訓練場―

 

 

「こら、スバル!! 前に出すぎ!!」

 

「あ、ごめん!!」

 

 

ティアナを司令塔にほかの3人へガジェット破壊の指示を出しているがスバルが突っ込み過ぎでエリオが孤立してしまう。

 

 

「う~ん、ティアナの指示はいいけど、まだ統率が取れてないかな…」

 

「けど、逆にエリオとキャロは指示待ちって感じかな…もう少し自分で考えて行動させたほうがいいね」

 

「へー、スバルはファイターなのか…」

 

「「え?」」

 

 

あまり聞きなれない声に振り返ると、そこには普段着のキリトが訓練を見ていた。首からはエリュシデータが同じように訓練の様子を見ているようだった。

 

 

「あ、そうだ。さっき説明できなかったけどこの人はフェイトちゃん。私とはやてちゃんの友達」

 

「そういえば…自己紹介してなかったね…フェイト・T・ハラウオンです。よろしくね、和人」

 

「できればキリトって呼んで欲しいな。仲間内からだとそっちのほうで呼ばれてるから」

 

 

そう言ってるとブザーが鳴った。どうやらスバルが突っ込みすぎてシュミレーションでは戦闘不能になってしまったようだ。

 

 

「あちゃ~…スバル、突っ込みすぎたね」

 

「ねえ、キリトはさっきの見ててどう思う?」

 

 

フェイトは一応あの最大難易度をクリアしたキリトの映像を見たのでキリトの実力はある程度理解している。

 

 

「そうだな…なんていうか、それぞれの役割がまだはっきりしてない感じがするな」

 

「え?でもポジションは…」

 

「いや、ポジションなんて決めてもいざという時は違う動きをしなきゃならない時があるだろ?

今みたいに近くにガジェットがバックアップの2人のところに来たけど本来ガード要員の2人は離れた位置にいるし、後方援護組だけだと難しいんじゃないかな」

 

 

これはキリトの経験則だった。第75層でのスカルリーパー戦でタンクの防御力もその素早さにはついていけず、意味をなさなかった。そのため俊敏さと防御力を兼ね備えたヒースクリフと素早さと反射を持っていたキリトとアスナで守ることになった。

 

 

「あとは経験や個々のスキルかな。ティアナは周りをよく見てるから気づいてるかもしれないけど、スバルのやってることってただの特攻だからな…持ち前の持久力と筋力でゴリ押してるけど、同じことをエリオがやったらすぐにやられるだろうし…それとキャロとエリオはティアナからの指示で動いてるからその分、行動が遅れてるな」

 

「(すごいね、たった一回でここまで分かるなんて…)」

 

 

かつて彼の所属したギルドでも教える立場だったためか、ある程度の教導はできるようだった。

 

 

「ねえ、キリトってこういうふうに誰かに教えてたりしたの?」

 

「…昔、な。っと、そろそろユイを起こして飯に連れて行く」

 

 

確かに時間を見れば、もう夕食時だった。

そしてその姿を見送ったフェイトは少し、悲しそうな顔をしていた。

 

 

「ねえ、なのは。キリトって何かあったのかな…」

 

「どう…だろうね。SAOってキリト君の世界のゲームが関係あるみたいだけど…」

 

「けど…ただのゲームだよね」

 

 

『たかだかゲーム』その概念がある限り、キリトが何に苦しんでいるか理解することはできなかった。

 

 

 

―食堂―

 

 

「ユイ、何が食べたい?」

 

「パパと同じなのがいい」

 

 

それを聞いて以前にも聞いたことがあるセリフだと思って苦笑いしながらキリトはなぜかある日本食の天丼を注文した。

 

 

「ユイ、先に席を取っておいてくれないか?」

 

「わかりました!」

 

 

トテトテと走っていくその少女に周囲の人は微笑ましく見ており、同時にキリトのことをパパと呼んでいたことに疑問を思っていた。

 

 

「えっと…ユイは…」

 

「パパ~!」

 

 

手を振るユイの席にはほかにエリオやキャロがいた。どうやら4人席で相席になるようだったがこれから共に生活する相手なので一緒になるのもいいと思った。

 

 

「エリオ、キャロ、ここいいか?」

 

「大丈夫です」

 

 

どこか事務的にエリオは答えた。同じようにキャロは頷いていたが、フリードはキャロの席の横で専用の皿でご飯を食べてた顔を上げた喜んでいるようだった。

 

 

「あれ、フリードが懐いてる…」

 

「そういえばパパはピナにも懐かれていましたね」

 

「ピナ?」

 

 

聞いたことのない名前に2人は首をかしげていた。

懐かれている事実に苦笑いしながらキリトは説明した。

 

 

「仲間のシリカが使役してる使い魔のドラゴンだよ。ちょうどフリードぐらいの大きさなんだ」

 

「私以外にドラゴンを…?」

 

 

同じような力を持つ人がいることにキャロは少なからず驚いているようだった。

 

 

「昔から犬やら猫やらに懐かれてたな…」

 

「羨ましいです…」

 

 

言ってるようにキャロはキラキラした目でキリトを見ていた。彼女とて小さな動物やそういったものは大好きのようだった。

 

 

「そういえば、キリトさんの仲間ってどんな人がいるんですか?」

 

「ん? そうだな…まず一番に世話になったのはエギルだな。多分、付き合いは一番長くて何回も助けてもらったな…あの時も」

 

SAOの第一層のフロアボス戦で出会ってからは何かと世話になった。ALOに捕らわれたアスナの情報はエギルから渡されたものだった。それに二刀流のスキルアップやアイテム管理などを全て頼んでいた。

 

 

「次にはクライン…かな。いつも趣味の悪いバンダナを巻いているが、腕は確かだ。それに…俺のことを信じてくれてたし…」

 

 

SAOで一番最初に出会ったのがクラインだった。だが、そのクラインをキリトは見捨ててしまった。

しかしそのあと再会したクラインはそのことは責めることはせず、それどころかギルドという仲間に入っていたことを喜んでいた。

 

 

「で、リズ…昔、エリュシデータと対をなすダークリパルサーって剣を作ってもらったんだが、折っちまってな…スゲー怒られたな…」

 

SAOがなぜ75層で攻略された結末を聞いて「ダークリパルサーは私の思いだったのにぃぃぃ!!」と言ってメイスでぶん殴ってきた。

 

 

「それとシリカ。2人と同じぐらいの歳でさっき言ったみたいにピナって龍を連れてるな。前にいろいろあって兄のように慕ってくるんだよな…」

 

 

ピナを蘇らせるために手を貸したことで兄のように慕ってくるシリカ。その姿が昔の直葉に重なってしまうらしい。

 

 

「で、シノン。まだ出会ってそれほど経ってないが人の気持ちをよくわかってるいいやつだよ」

 

 

似ている――洞窟で怯えてる彼女の姿が自分とSAOの呪いから逃れられない自分と。そして自分と違うのはそれを受け止めて、前に歩き出したことだ。

 

 

「それとスグ、ゲームだとリーファって名乗ってるな。俺の妹だよ」

 

「妹さんいるんですか?」

 

 

子供ということだからなのか、エリオもキャロも兄弟という存在に憧れているようだった。

 

 

「ああ、と言っても正確にはいとこ…だけどな」

 

「え?」

 

 

どういうことなのかエリオもキャロも分からない様子だった。

それにキリトは少し笑っていた。

 

 

「で、最後に…アスナだな」

 

「ママです!」

 

 

 

ユイの言葉でその人がキリトにとって大切な人だということがわかった。

それにキリトは「そうだな」とユイの頭を撫でて微笑んでいた。

 

 

「俺の大切な人で、誰よりも強くて優しいな…」

 

「へぇ…会ってみたいです」

 

 

キャロはそう感激したように言った。どうやらキリトの仲間たちに興味があるようだった。エリオも同様のようだった。

 

―夜:キリトの部屋―

 

 

キリトとユイ、2人のために用意された部屋はツインベットだったがユイは基本的にキリトかアスナと一緒に寝る。そのためか一人用には少し大きいベットにキリトとユイが一緒に寝ていた。

 

 

「こうして寝ると、ママを助けるためにALOを旅したことを思い出します」

 

「そう…だな。もうずっと3人で寝てたから何だか懐かしいな」

 

 

夕方に少し寝たが、流石に身体的な年齢は10歳ぐらいのユイはこの時間まで起きてるのは無理だったようで直ぐに目がトロンとしてきた。

 

 

「ふふ…お休み、ユイ」

 

 

―翌日:部隊長室―

 

 

「おー、来たな」

 

 

昨日と同じようにナビゲーションピクシーの姿になったユイを肩に乗せてキリトがやってきた。

 

するとはやては手紙のようなものをキリトの前に出した。

 

 

「民間委託魔導師の採用試験が決まったわ。明後日…キリト君は戦闘の補助員としての採用やから測定と実技のみになるわ。用意された同じタイプの本局魔道士と戦うことになるわ」

 

「同じタイプってことは、剣士ってことか?」

 

 

となるとキリトは負ける気がしなかった。流石に「絶剣」と呼ばれたユウキや「神聖剣」ヒースクリフのレベルならどうなるかわからないが、そこまで強い相手が来るとは思えなかった。

 

 

「ああ、そうや。キリト君が頼んどったストレージやけど型枠だけならできたそうや」

 

「型枠?」

 

「待機モードにはまだなれないけど、剣の形にできたそうや。試運転を兼ねて訓練所でちいっと試してみてや。今日の訓練は昼からやし」

 

 

―訓練所―

 

 

ソード型デバイスを持ったキリトはその握り具合を確かめていた。

その横ではデバイスに細かな調整と機能について説明をしているシャーリーがいた。

 

 

「スペックは基本的にエリュシデータに似せてます」

 

「けど…なんか軽いな…」

 

 

同じ重さだと言われても何故かエリュシデータよりも軽い感覚が否めなかった。

刃渡りや硬さもできる限り合わせているようなので多少の無理もできるそうだが。

 

 

「これで大丈夫です。ではテストプレイとしてガジェットを――」

 

「私と戦え」

 

 

 

訓練のプログラムを起動させようとしたシャーリーを止めたのはなぜか騎士のような格好をしていたシグナムだった。

 

 

「またですか…」

 

「また?」

 

「シグナムさんは強い相手がいると戦いを挑むんですよ…」

 

 

それを聞いたキリトはALOでデュエルをしたユージーン将軍を思い浮かべた。

彼もおそらくだが、戦闘狂(バトルジャンキー)だった。

 

―廃墟―

 

昨日の廃墟と同じステージに設定された訓練所にシグナムとキリトが対峙していた。ちなみにキリトの背中にはエリュシデータと例のデバイスが鞘に収まってある。

 

 

「準備はいいか?」

 

「いつでも」

 

 

シグナムはレヴァンティンというアームドデバイスを構えキリトはエリュシデータはそのままで先ほど渡されたデバイスのみ抜いた。

 

 

「…貴様の言う二刀流はやらないのか?」

 

「まずはコイツに慣れることからだ。やっぱり違う剣だと違和感がな…」

 

 

どうしてもダークリパルサーと比べてしまい、違和感を拭いきれなかった。

そのため、ある程度ソードスキルを発動させてその違和感を払拭しようというのだ。

 

 

『では、行きます…Ready go!!』

 

 

「!!」

 

シャーリーの合図とともに、まずシグナムが接近してきた。スピード的には早いほうだが、反応速度がSAOで1番だったキリトにとって受け流せないスピードではなかった。

 

 

「ほう、今の攻撃を流すとは…」

 

「(けど、剣技はクライン以上だ…!!)」

 

 

アスナほど速くはないが、一撃が重くて全部受けきるというのも難しい感じだ。

 

 

「エリュシデータ、サポート頼む!!」

 

《オーライ バーチカル・アーク》

 

 

緑色の光がデバイスに灯ると、斜めに切りつけ、その後V字になるように切り上げた。

 

 

 

「これしき…!!」

 

 

受け止めようとレヴァンティンで受け止めたシグナムだったが、予想外の威力に弾かれてしまった。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

レヴァンティンを弾かれ、無防備となったシグナムの胸部へ向かってキリトは突進しながら突きを繰り出した。

 

 

 

「クッ…!!」

 

 

間一髪、それを避けるもシグナムの胸部の鎧に一線の傷が入った。

が、次にシグナムがキリトを見たとき、黄色い光をまとったデバイスが迫っていた。

 

 

「シャープネイル!!」

 

「ッ!!」

 

 

連続で繰り出されるキリトのソードスキル、だがシグナムはその中で僅かな『硬直時間』があることを見抜いていた。

 

 

「(どこかで大技を繰り出すはずだ…そうなれば、硬直時間も…!!)」

 

 

「はぁっ!!」

 

 

とても重いジェットエンジンのような音と共にキリトは強烈な突きを繰り出した。

 

 

「(ここだ!)」

 

「なっ!?」

 

 

キリトの放った『ヴォーパル・ストライク』に合わせて、シグナムも素早い突きを繰り出した。互いに交差した突きは互いにヒットし、お互いの体を吹き飛ばした。

 

 

 

「っぁ…!! まさか……ここで…!!」

 

「クッ…予想外に…強力な突きだな…!!」

 

 

お互いに一息入れて再び構えた。が、すぐにキリトはデバイスを左手で握ると右手でエリュシデータを構えた。

 

 

「やっと本気になったか…!!」

 

「ああ、もう調整とかそいうことは終わりだ」

 

 

ここから、本当の戦いが始まる。そう思ったシャーリーはすぐさまキリトの今現在のデータを表示した。ここからキリトが放つ『二刀流』のソードスキル。

 

それが、彼の本当の姿だからだ。

 

 

「レヴァンティン、カートリッジロード!!」

 

「!!」

 

 

銃のように、レヴァンティンから薬莢がはじき出された。それと同時にキリトはレヴァンティンの力が上がったことがわかった。

 

 

「ここからは、私も本気だ」

 

《Schlangeform》

 

 

レヴァンティンの刃がいくつもの節に別れ、蛇腹剣へと変貌した。そして彼女はそれを頭上に振りかぶると横一線に切り出した。

 

 

「飛竜一閃!!」

 

 

「クッ!!」

 

 

咄嗟にデバイスとエリュシデータでそれを受け止めるも、まるでハンマーで吹き飛ばされたかのような衝撃がキリトに襲い掛かった。

 

 

「(だけど…!!)」

 

 

キリトは弾き飛ばされながらも受身をとって立ち上がった。

 

それを見たシグナムは蛇腹状の刃を元に戻した。

 

 

 

「…思ったよりもタフだな」

 

「ダメージディーラーなんだよ、食らって立ち止まってたらゲームオーバー、だ!!」

 

 

「!?」

 

 

そう言ってキリトは一瞬でシグナムとの間合いを詰めた。

目の前にキリトが現れたことにシグナムは何が起こったのか理解できなかったようだ。

 

 

「スターバースト…!!」

 

 

「ッ!!」

 

 

キリトの口走った言葉、おそらく今から行う技の名前なんだろう。

だが、とてつもない恐怖に襲われて咄嗟にレヴァンティンで斬りかかった、が――

 

 

「ストリームッ!!」

 

「グッ!?」

 

 

斬りかかったレヴァンティンをエリュシデータで防ぎ、続けてデバイスでシグナムに斬りかかった。初めてまともに食らったダメージが、なぜかシグナムの体に妙な違和感を与えた。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「ッ、あ、ぐぎ!!!」

 

 

ただ、ひたすら――斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る

 

 

「このっ…!!」

 

 

はじかれたレヴァンティンをその勢いのままキリトに斬りかかった。

 

だが、それをキリトはよけなかった。

 

 

「ッあああああああああああああああああ!!!!」

 

「なっ!?」

 

 

そして、ダメージを受けながらまだ切りかかってくるキリト。

スターバースト・ストリームは防御を捨て、攻撃のみを行なう諸刃の剣。だが苦し紛れに放った単調な攻撃は全くもって無意味だった。

 

 

「これでっ…!?」

 

 

最後の一撃、デバイスで繰り出そうとした突きだったが、ダークリパルサーの時とは違う謎の違和感が左手に掛かった。

 

 

《マスター! これ以上は――!》

 

「ここだ!!」

 

 

キリトがためらった一瞬、シグナムは振りかざしているデバイスを弾いて後ろに飛んだ。まだ慣れない武器の所為かダメージが少なかったのだ。

 

 

「流石だな…!!?」

 

「あ…あ、ああ…!!」

 

 

どうもキリトの様子がおかしい。よく見ると彼の持っているデバイスの剣先が折れてしまっていた。だがそれを見て、キリトは震えていた。

 

 

「キリト…どうした…?」

 

「あっ…アス…!!」

 

 

シグナムの問いかけもキリトの耳には入ってないようだった。だれかの名前を必死に独り言のようにつぶやいていた。

奥歯がガチガチ震え、何かを掴むかのように手が震えていた。

 

「おい、キリト!! おい!!」

 

 

「ッ!? 、あ、シグ…ナム……」

 

 

ようやく正気を取り戻したキリトは手元に残ってるデバイスだったものをもう一度見た。先ほどのように取り乱すこともないが、やはりどこか怯えているようだった。

 

 

「どうしたんだ、顔色がわるぞ」

 

「…悪い…ちょっと…休んでくる」

 

 

 

そう言うとキリトは壊れたデバイスを握ったままおぼつかない足取りで訓練所をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかここまでとは…」

 

 

あのあと、生気が抜けたような雰囲気になったキリトからデバイスを回収したシャーリーはデバイスの破損状況を見ていた。

 

 

「大破以上のレベル…なんとか修理できるかな…けどだったら、なんでエリュシデータは無事なの…」

 

『それは私にもわかりません。ですが、マスター・キリトは過去にも私と対になる剣を失っています。その剣もプレイヤーメイドで作られたものでした』

 

「ってことは…ほぼ私たちで作るのは無理ってことなのかな…」

 

 

ある意味デバイス制作ではプライドがあるシャーリーは作れないということに少しダメージがあったようだ。

 

 

「うう…」

 

《ミス・シャーリー?》

 

 

折れたデバイスをじっと見ていたシャーリーは徐々に涙目になった。

 

 

―キリト・ユイの部屋―

 

 

「………………」

 

キリトはシャーリーに折れたデバイスを返却すると足早に部屋に戻った。そしてベットに転がって天井を眺めていた。

 

 

「パパ、もしかして75層の…」

 

「そう…だな。ユイは知ってたな」

 

 

SAOのサーバーの情報を全て持っているユイはサーバーが初期化されるその時までのデータを記録していた。

 

SAOのアインクラッド75層の『魔王』ヒースクリフとの一騎打ち。その戦いで二刀流最上位ソードスキル『ジ・イクリプス』を発動するもダークリパルサーを折り、そのカウンターで受けるはずだった一撃をその身を犠牲に――

 

 

「思い…出したから……アスナを…守れなかった時を…」

 

 

自分の腕の中でポリゴンの欠片となる愛する少女、その場に残されたひと振りのレイピア。

 

その光景があの時、デバイスが折れたキリトの目の前でフラッシュバックした。

 

 

「忘れたらいけないけど、思い出したくない…な…」

 

 

―訓練所―

 

 

「シャーリーのデバイスでも?」

 

 

昼からの訓練の傍ら、アップを始めたフォワードを尻目になのはに先ほどの模擬戦の結末を話していたシグナム。

だが、彼女はシャーリーの作ったデバイスが折れたことに驚いていた。

 

 

「ああ、見たところキリトの放った技に耐え切れなかったようだ。あのシャーリーの作ったデバイスが折れるとは私でも予想外だが…」

 

 

シャーリーの腕を知っている2人はそのことに驚きを隠せなかった。

 

それは本人でもそうらしく、先ほどバルディッシュのメンテを頼みにデバイスルームへ向かったフェイトは真っ白な灰になったシャーリーを見たらしい。

 

「けど…キリト君の試験って確か明後日だよね…」

 

 

―夜―

 

 

 

「きぃ~りぃ~とぉ~さぁ~ん~……」

 

「うおぉ!?」

 

 

食事に行こうとしていたキリトとユイにまるで地の底から響くような声を出したのはずっとデバイスの修理・補強・強化を行っていたシャーリーだった。

 

だが疲れたというよりもなにか人として大事なものを砕かれたように生気がなかった。

 

 

 

「修理おわりましたぁ~……あと待機モードもぉ……ああ…エリュシデータのメンテもぉ…」

 

「あ、ああ…おお疲れ…」

 

 

一枚のカード状になったデバイスと宝石状のエリュシデータを受けてるとシャーリーはトボトボと去っていった。

 

その姿はまるで人を求めているゾンビだった。

 

 

 

「なんだか大事なインゴットで錬成を失敗したリズさんみたいですね…」

 

「ああ…」

 

 

―食堂―

 

「じゃあ、ユイ。席取り頼むな」

 

「わかりました!」

 

 

昨日と同じように先に席を確保に向かったユイを見送ってキリトはカレーを2つ頼んだ。

 

 

「パパ~!」

 

「おう」

 

 

 

昨日と同じテーブルで待つユイの他にスバルとティアナがいた。

 

 

 

 

 

「キリトさんってユイちゃん以外に兄弟いるんですか?」

 

 

食事をしてほどなくスバルがそう聞いた。そして、やはりというべきかユイが娘ではなく妹として認識しているようだった。

 

 

「妹がいるな、それとユイは妹じゃない。娘だ」

 

「「(見た感じほぼ同い年なのに…)」」

 

 

キリトの見た目がスバルとティアナにとてほぼ同じ歳ぐらいだった。

 

 

「へぇ…妹…」

 

「そういえば、私もティアも妹だね」

 

 

ふとスバルがつぶやいた言葉にキリトは少し驚いていた。

 

 

「へぇ、2人には兄か姉が?」

 

「あ…」

 

 

どういうわけか、スバルは「しまった」というというようにバツが悪そうに顔を顰めた。

キリトはその意味を直ぐに知った。

 

 

「スバルには姉がいて、私には兄が『いたわ』」

 

「え…あ…」

 

 

 

その言葉の意味はすぐにわかった。自らの失言で場の空気が悪くなったのを感じたスバルはティアナに謝ろうとしようとするが、だがそんな空気でもないとわかっているため言い出せず、オロオロしていた。

 

 

「…悪い」

 

 

だが、スバルの代わりに謝ったのはキリトだった。心配層にユイが見上げているがその謝罪にスバルとティアナが驚いていた。

 

 

 

「い、いや、キリトのせいじゃないよ! 私が――」

 

「そうよ、そのバカスバルの所為よ」

 

 

面と言われると少なからずダメージがあったのか、ショボーンと小さくなってしまったスバル。

それからしばらく、カチャカチャと食器とスプーンがぶつかる音しかそのテーブルは聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ほどなく、全員の食事が終わりキリトはユイと自分の皿を返却に持っていった。

 

 

 

すると思い出したようにスバルはユイを見た。

 

 

 

「そういえば、ユイちゃんってなんでキリトのことをパパって呼ぶの? 妹じゃないの?」

 

「私は昔、パパに助けてもらったんです。ママとパパは『作られた』私のことを娘だと言ってくれたんです」

 

 

 

『作られた』 その言葉にスバルの瞳が揺れたが、そのことに気づいたのはティアナしかいなかった。

 

 

 

「ユイ~、行くぞ~!」

 

 

 

嬉しそうにキリトと共に歩くユイを、スバルは少し悲しそうに見ていた。

 

To be continued →




プロローグのみでは流石に判断しにくいかと思ってもう一話投稿してみました。
ユイ「ということは、ここでやるかどうか揺れているということですか?」
ん~、まあ、そんな感じだね。ただやっぱりアンケートをメインとして考えてるからそこら辺どうしようかなって。まあ、手探り的な感じかな。

というわけで第一話『仮初の二刀流』いかがでしたか?
ユイ「なぜ仮初というタイトルを?」
まだ二刀流は早いかなって。それとこの作品、『トラウマ』や『苦悩』といったものが多く出てくる予定なので。
キリトにとってのトラウマは『75層でアスナを守れなかった』ということかなと思い。その直前、ダークリパルサーが折れたからデバイスが折れたことによってそのトラウマが蘇ったみたいな感じ。
ユイ「私はそのことを知ってるんですか?」
一応、SAOの出来事は一通り知ってるということで。圏内事件やその他のこともモニタリングして、アイテム化してからはアスナ目線のことなら知ってます。

そして久しぶりに戦闘描写を書いたな…
ユイ「いつもならほかの作品のカードゲーム書いてますからね。過去にも書いたことがあるんですか?」
3~4年ぐらい前に書いてたんだよな…その作品は打ち切りにしてしまったけど

今回の作品について言うことは…
ユイ「パパが訓練の時に誰かに教えたという感じことがありましたけど…」
ああ…あれは『月夜の黒猫団』の時のイメージだね。一番戦いなれていたキリトが司令塔として指示を出してという経験がある感じで。
ほかにもMMOとかでそういうのに慣れてそうだから。

今回のアンケートというか、募集的なものが…
ユイ「募集?」
自分の作品の大前提として、作品を投稿する理由が『読んだ反応を見るのが楽しい』からってのがあるんです。批評や不評でも読んでくれたからまたやってみようと思う、って感じなんです。
ユイ「なるほど」
それで、感想・感想を投稿してもらいたい、ならどうするかと思って思いついたのがストーリーの募集ですね。
ユイ「ストーリーの募集?」
メインはともかく、小話やサブストーリー…例えばキリトとアスナが休日にデートに行ったとき、こんなアクシデントが、とかそういうネタを募集しようと思います。
全部完璧に反映、ってのは無理ですが少なからず使っていくつもりです。
一応それをアンケート2で募集しますので、なにか「これは!」ってものがあるのならそこかメッセージで投稿してみてください。
それと、アンケート1はまだ募集してますので…

それといまさらな質問があるんですが…
ユイ「どうしたんですか?」
原作名を『魔法少女リリカルなのは』にしてるんですけど、これってどっちなんだろうって
ユイ「『ソードアート・オンライン』のキャラであるパパたちが『魔法少女リリカルなのは』の世界に入ったお話ですからね…」
一応、ストーリーよりな理由で『魔法少女リリカルなのは』に設定しましたが、『ソードアート・オンライン』の方が検索しやすいのなら、変更します。

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