魔導剣史リリカルアート・オンライン   作:銀猫

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カイル過去編(お知らせあり)

 

「邪魔だ」

 

「む、いきなりなんですか!」

 

 

SAO中層域。比較的レベリングにもってこいの森林ダンジョンでフードを深くかぶり刀を持つ少女、ヒノメとピナという青い龍をテイムしているシリカは散策がてらレベル上げに勤しんでいた。

 

 

だが、そんな時、横から割り込んできたプレイヤーがポップしてきたMobへと斬りかかった。

割り込んできた事にわびを入れることもせず、ただ冷たく睨んでくるプレイヤーにシリカは食いかかった。

 

 

「シリカ、関わらないほうがいいよ。こう言う人は」

 

「あ? 喧嘩売ってるのか?」

 

 

ヒノメがシリカを宥めると逆にそのプレイヤーが食いかかった来た。まさに一色触発の気配にピナはオロオロしていた。

 

 

「よせ、カイル。ツレがすまないな」

 

「どういうつもりだ、アーヴァイン」

 

 

割り込んできたのは優しそうに中年プレイヤーだった。どうやらそのカイルという少年プレイヤーと組んでいるようだが振り回されているようだ。

 

 

「カイル、さすがに今は君が悪い。この2人がレベリングしてたんだろ」

 

「うるせぇ!」

 

 

吼えたあと、カイルはダンジョンの奥へと進んでしまった。

その後ろ姿を睨むように見るシリカとヒノメ、そしてため息をつくアーヴァイン。

 

 

 

「やれやれ…昔はあんな子じゃなかったのにな…」

 

「…リアルでの知り合いなんですか?」

 

 

すこしタブーにかかるかもしれないが、シリカがそう聞いた。それにアーヴァインは少し失言したという表情になって少し離れたMobを斬りかかるカイルを見た。

 

 

「あいつは、俺のリアルの親友の子でね。赤ん坊の頃から知ってるんだ。本当はこのゲームをあいつの父親とやるはずだったんだがあの子の方がデス・ゲームに囚われてね…まあ、彼は俺をただのおせっかいなプレイヤーとだけ思ってるんだろうけどな」

 

「あの、その刀は…」

 

 

ヒノメはアーヴァインの持つ刀を見た。噂には聞いたが、実際に見るのは初めてのある種の『魔剣』とその刀がそっくりだった。

 

 

「君の思ってるとおり、魔剣・紅桜だ。刀なのに剣とはおかしなものだけどね」

 

 

魔剣とはゲーム中に一本しかないという武器だ。よくある「鉄の剣」とは違い、ちゃんとした名称と魔剣の名を持つ武器で同じ武器は二つとしてないのだ。その中で刀のカテゴリでは紅桜しか情報が流れてないのだ。

 

 

「どこでそれを…」

 

「48層の妖刀の魔工房っていうクエストだ」

 

 

そのクエストは情報屋に流れて数日でクリアされたものだ。ヒノメもクエストをやろうかと情報を集めだした段階で誰かがクリアしたと聞いていた。

 

 

「…見たところ君も刀使いだね」

 

「…ええ、魔剣についてほかに知ってることはないですか?」

 

 

フードを深くかぶり直したヒノメの腰にはミスリル・ブレードという刀が携えている。攻略組みの刀使いのトップであるクラインよりも劣るが、それでも十分上位に位置する武器である。

 

その身なりにアーヴァインは考えた。彼としてはカイルも刀使いで、【時雨】という高スキルのモノだったが魔剣クラスにしたら一歩劣るぐらいのを振っていた。

 

 

「魔剣は情報すら出回らないけど、何か分かったら教えるよ」

 

 

そう言ってアーヴァインはヒノメにフレンド申請を送った。彼女としてはあまり人と関わるの、しかも異性とはフレンドはあまり結びたくはなかったが背に腹は代えられないと申請した。

 

 

 

―二日後―

 

 

「……」

 

「…シ…リカ…?」

 

 

レベリングの待ち合わせ場所にいたヒノメはやってきたシリカを見てなんだか気まずかった。VRMMOでは心の表情は止めることができない。例えば、泣くほどの出来事があって我慢しようと思っても泣いてしまったり、笑いをこらえたくても堪えられないことがある。

そう、例えば今のシリカのように不機嫌な表情を我慢できなかったり――

 

 

 

「どうかしたの」

 

「どうしたと思う」

 

 

あ、これはダメだ。直感でヒノメはそう思った。ピナもオロオロとしており、落ち着きがなかった。

 

 

「なにかあったの?」

 

「………あのヤンキーと取っ組み合い」

 

 

ヤンキー、と聞いて少し考えて出てきたのは先日出会ったカイルのことだった。しかし、シリカは他人のことを尊重する性格だ。いくらカイルが突っかかってきてもそんなことになるとは思えなかった。

 

 

「どうしてまた…」

 

「あいつが『ピナがいないと何もできない半人前』ってバカにしたのよ」

 

 

それを聞いて何となく理解した。彼女はピナのことをすごく大切にしている。聞いた話だと初対面の攻略組の黒の剣士(ビーター)のキリトに協力してもらって今の彼女では難易度が高い復活クエストをこなすほどだ。

 

 

「アーヴァインさんは? 注意しなかったの?」

 

「いなかった。アイツと会う前に気になることがあるって他の層に向かった」

 

 

おそらくアーヴァインがいればそんなことにもならなかっただろうが、とにかく当初の予定のレベリングで気分転換することにした。

 

 

一方

 

 

「はぁ…カイル、なんでそう他人を嫌うんだ?」

 

「お前には関係ないだろ」

 

戻ってきて事情を知ったアーヴァインはカイルに注意をするが、彼は聞く耳を持たずに先日のレベリングで手に入れた不必要な素材アイテムなどの整理をしていた。

 

 

「そんなわがまま言う子には、この情報は教えれないな」

 

「あ?」

 

 

そう言ってアーヴァインは情報屋が扱うペーパーアイテムの名前をカイルに見せた。それを見てカイルの眼がこれでもかというほど開いた。

 

 

【魔剣クラス武器・刀(不確定情報)】

 

 

「刀の魔剣…情報…!!」

 

「そ、知り合いが手にした情報で不確定ながらかなり信憑度が高いんだが、そういう君にはこれはこなせないね」

 

 

アイテムを収めたアーヴァインに睨むようにカイルは見るとトレード画面から彼の持つ所持金をすべてアーヴァインへ渡す交渉を行った。

 

 

「これでその情報を買う、文句はあるか?」

 

「君には宝の持ち腐れになる情報だよ、これ」

 

 

交渉を拒否してアーヴァインはため息をついた。しかし、アーヴァインは皮肉などは言うとしても今の言葉の意味は分からなかった。カイルは十分に紅桜ほどの刀を扱うほどのステータスがある。

しかし、彼では持ち腐れになるとどいうことか。

 

 

「このクエストの条件が3人の刀使い、それと竜をテイムしてるプレイヤーの協力が必要なんだ」

 

「………………」

 

 

竜は希少価値が高いMobでテイムするにしても成体となった竜は敵対するアルゴリズムしか組まれてない。そして幼体の竜は通常で遭遇する確率は数%にも満たない。

 

 

「さて、ここで問題。今現在竜のテイムに成功してるプレイヤーは何人かな?」

 

 

遭遇したという情報は聞くが、成功したという情報は一度も聞いたことがない。そして、カイル自身、テイムされた竜は一人しか見たことがなかった。

 

 

「まさか、あいつに謝れっていうのか?」

 

「そ。嫌ならこれはあの子と一緒にいた刀使いの子に渡すから。今現在わかってるのはあの子だけだろうし。ヒノメって子にも連絡が取れる」

 

 

確かにそうだ。カイルは元々フレンド登録は強制的にアーヴァインが結んだぐらいで他に誰もいない。刀使いもアーヴァインと先日のヒノメ以外関わりがない。

 

ヒノメやシリカの友好関係がどうなってるのかは分からないが、少なくとも2人の刀使いを誘うのぐらいは簡単だろう。

 

魔剣を取るか、それとも彼女たちに対するプライドか――

 

 

 

「で、こういうわけなんですね」

 

明らかに不機嫌ながらも謝罪の言葉を述べたカイルを怪訝な顔で見ているシリカと横でため息をつくヒノメ。アーヴァインから魔剣についての情報があると聞いてやってきたらカイルからの謝罪の流れまで聞いてどういうことなのかやっとわかった。

 

 

「けど、私は協力するとしてもヒノメのため、魔剣が欲しいから協力してくれって言われてもこっちにメリットがないのならリスクが高いです」

 

「………まあ、そうだな」

 

 

確かにシリカの言う通り、いがみ合う相手に協力するメリットはない。アーヴァインもそこは理解しているようだったが、一つの解決策があった。

 

 

「チャンスを両方に与えるってのはどうだ?」

 

「どういうことだ?」

 

 

アーヴァインが持ち帰った情報、それによると魔剣習得のためのクエストはとあるドラゴンの討伐だった。

 

設定だと、そのドラゴンはNPCと戦って巣穴に戻ったという。だがそのNPCが使用していた魔剣が体に突き刺さったままで、NPCは既に息を引き取ったという。

そのNPCの娘がクエストの依頼主でドラゴン討伐と引き換えに刀を譲ってくれると。

 

 

「まあ、実質的なLAボーナスだと俺は予測してる。だから手にしたやつが好きにできるってのでどうだ?」

 

「私は異論はない」

 

「…足引っ張らなかったら協力してもいいぜ」

 

 

一応刀使いである2人の同意でシリカも賛同した。それを確認したアーヴァインは3人に見える様に情報を公開した。

 

 

「場所は47層。依頼主までは俺が案内するそっから先はやってみないとわからないが、受諾条件で竜のテイマーが一人と、場所が狭いらしくて3人の刀使いしか認められてない」

 

「47層…」

 

 

聞いたところによると鉱石素材のアイテムが多く取れる鉱山地帯だということだ。おそらく鉱石ハンマーやメイジなどの打撃系の武器使いが欲しいところだが、メンバーは限られているため難しいところだ。

 

―47層―

 

「……………」

 

「……………」

 

 

ずっとムスッとしているシリカ、そして我が物顔で敵を倒すカイル。そんな2人を後ろから見てため息をつくとヒノメ。

 

 

「…大丈夫なんですかね、こんなパーティで」

 

「まあ、なるようになるさ」

 

 

なんとまあ呑気にそう言っているだが、ヒノメはとにかく心配だった。現在はカイルを先頭にシリカを守るかのように陣形を汲んで進んでいるが先ほどからカイルは後ろのペースなんて関係なしに進んでいるのだ。

 

 

「まあ、あいつを悪く思わんでくれ。根はいい奴なんだ」

 

「…『俺の知ってる本当のアイツは』ってことですか?」

 

 

カイルのペースについていくことをやめたシリカはの言葉に皮肉っぽく聞いた。それには肩をすくめると持っていた紙に目を落とした。

 

 

「俺が聞いた話だと、カイルは元々内気な性格で友達が少なかったらしい。それで自分を変えたいと思ってアイツから先にSAOをやらせてもらったんだ。だが、最初らへんの層でこの世界でできた初めての友達にMPKに巻き込まれて人間不信になったらしい」

 

「MPKに…」

 

 

信じている人が裏切るのは精神的に来ることはシリカも知っている。彼女もタイタンズハントというオレンジギルドのリーダーに狙われていたことがあるからだ。

 

 

「アイツはまだ15歳、人の黒い心に触れるのは早すぎたんだ」

 

 

―NPC村―

 

「では、よろしくお願いします」

 

村で唯一の狩人の家で少し疲れた表情の女性に見送られてアーヴァインはクエスト受諾をした。

話を聞いたらドラゴンは成体のダイモンドドラゴンというドラゴンだ。

 

 

「ダイモンドドラゴンか…本来なら55層のMobだ」

 

体は青いクリスタルのようなダイヤで覆われており、それこそハンマーやメイジで装甲並みに硬い外皮を剥ぎ取って討伐するMobだ。

 

既に攻略は59層と60層突入という大きな場面を迎えようとしている。そのためダイモンドドラゴンの攻略法については情報があったが、あくまでそれは最善のパーティを組めたらの話だ。

 

刀使い3人にダガー使いという少数ではどのようにすればいいのかもわからない。

 

 

「取り敢えず結晶はすぐに使えるようにしておいて危険になったらすぐに街に戻ろう。その時に落ち合うのは…そうだな、48層のリンダースのリズベット武具店の前にしよう」

 

「へーへー」

 

 

話半分でカイルはポップしてきたMobを切りかかるカイル。それにため息をつきながらもヒノメはシリカの護衛をしっかりとこなしていた。

 

 

 

そして、できる限り消費アイテム等を温存した状態で目的の場所までやってきた。

 

 

「ここですか?」

 

だだっ広い広場、だが以前フロアボス討伐に参加したことがあるカイルはここがボス戦場に見えた。すると4人のいるあたりが一気に暗くなった。

 

 

「えっ」

 

「上だ!!」

 

 

アーヴァインの言葉に見上げるとそこには本来ここにいるはずのないダイモンドドラゴンが飛行していた。クエストの話の通り、ところどころ砕けてヒビが入っている。その首には魔剣のような刀が突き刺さっていた。

 

 

「あいつか…」

 

 

ダイモンドドラゴンは4人――というよりも、ピナに気づいたようで旋回すると広場へと降り立った。どうやらピナを捕食して回復するようだ。一部のドラゴン族種のMOBはそのような機能があるというのをヒノメは情報屋から聞いたことがあった。

 

 

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「ちょ、カイル!!」

 

 

前もっての打ち合わせとは違って、カイルが突っ込んだ。だが、ダイモンドドラゴンの表面に軽い傷をつけるだけではじかれてしまった。よっぽどの切れ味の武器か打撃系の武器じゃないと有効打を与えることができないのだ。

 

 

 

「カイル、上だァ!!」

 

「っ!!」

 

 

飛び上がって、空中で身動きが取れないカイルに向かってダイモンドドラゴンは叩きつけるように腕を振るった。とっさに刀でガードするも、そのまま地面に砂煙を巻き起こしながらカイルは転がった。

 

 

「がっ、くっ…!!」

 

「カバー!!」

 

 

 

急いでヒノメとアーヴァインはダイモンドドラゴンのヘイトを稼いで意識をこっちに向けさせ用とする。一方シリカのダガーではダメージを与えることができないため回復役へと回るしかなかった。

 

 

「ピナ!」

 

「ピュイ!」

 

 

ピナのヒールブレスで徐々にだがカイルのHPが回復してきた。さらにカイルは持っていたポーションで一気にレッドゾーンからイエローへと戻った。

 

 

「ゴウ・マジンケン!!」

 

「ゲッセンコウ!!」

 

 

「くそっ…!!」

 

 

 

ヒノメとアーヴァインの攻撃で体の水晶が更に一部欠けた。だがHPゲージはまだ全開の5本から4本へとなりかけているぐらいだった。

 

それに悪態をつくカイルはまだHPが半分も回復してないのに立ち上がって前衛へと回ろうとした。

 

 

「ちょ、まだ回復しないと!!」

 

「うるせぇ!!」

 

 

カイルは時雨を持ち、再び駆け出した。だが、なんにも声をかけてない為か、ヒノメが攻撃しようとするところに割り込む形へとなった。

 

 

「なっ」

 

「うおおおおおおおお!!!!!」

 

 

無理やり割り込んで来たせいでヒノメはソードスキルの光が離散して空中で無防備になってしまった。一方カイルは刀を振るうがそれはダイモンドドラゴンの体にはじかれてしまった。

 

 

『GAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!』

 

 

「ちっ!!」

 

「きゃっ!!」

 

 

空中に浮かぶカイルとヒノメに向かってダイモンドドラゴンは尻尾で薙ぎ払った。先ほどよりもダメージはないが、二人はガードの上から吹き飛ばされて転がった。

 

 

「ヒノメ!!」

 

 

近くに転がったヒノメにシリカは急いで近づくと回復結晶を取り出してそれを使用しようとした。ヒノメも持っていたポーションを口にした。

 

 

「よこせ!」

 

「あっ、ちょっと!!」

 

 

カイルはシリカから回復結晶を奪うと、なんとそれを自分に使った。シリカはそれを咎めようとする前にカイルはまた走り出した。

 

 

「なんなのよ、アイツ…」

 

「シリカ?」

 

「勝手なことをして…それでヒノメが死んだらどうするのよ…!!」

 

 

過去にピナを失いかけたシリカはその痛みをよく知っている。そう、あのロザリアと同じように自分から大切なモノを奪う――

 

 

「ちっ、おい、回復しろ!!」

 

「………」

 

 

「何ぼさっとして――!?」

 

 

再び特攻によりHPがイエローゲージとレッドゲージの境目まで減少したカイルはバックアップ要員だったシリカに回復を要求するが、彼女は腰からダガーを抜くとそれをカイルへと向けていた。

 

 

「嫌だ」

 

「はぁっ!? 嫌だじゃねぇよ、やれよ!!」

 

「死にたがりを治療する気はない! あ、アーヴァインさん!」

 

 

シリカは少し距離をとって回復をしようとするアーヴァインへと向かおうとした。だが、その右手をカイルが掴んだ。ギリギリと音がなりそうなほど強く握っているが、それとMobからのダメージ量と比べると微々たるものだ。痛みなんて感じないように怪訝な表情でカイルを見た。

 

 

「なに?」

 

「いいから、回復しろ!!」

 

「…気づいてないの…?」

 

「あ?」

 

 

カイルの返事を聞くことをせずにシリカはアーヴァインの回復へと向かおうとするが、彼はもう駆け出しており、代わりに下がったヒノメの回復をしていた。

 

一方ダイモンドドラゴンの体力ゲージが3本へと減っていた。その影響で第二状態である上空へ飛び上がってからのブレスのために距離をとっていた。

 

 

「…なんなんだよ…あいつ…」

 

「来るぞ!!」

 

 

アーヴァインの言葉の通り、一定の距離からダイモンドドラゴンが一気に広場へと向かってブレスをしてきた。シリカはヒノメの背後に隠れるようにして、ヒノメは衝撃を受け流すソードスキルの構えをして、アーヴァインもカイルを庇うかのように構えている。

 

 

『GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!』

 

「くっ――」

 

「か、回復!!」

 

「うっ――」

 

「ピュウ!!」

 

 

 

一気にHPが削られる中、シリカとピナがヒノメとアーヴァインを回復していた。だが、そんな中カイルだけは別のことをしていた。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「えっ!?」

 

 

跳躍スキルで、空を旋回するダイモンドドラゴンの背中、カイルは時雨を突き刺してしがみついていた。

 

確かに跳躍スキルにある程度振っていれば空を飛ぶMobの背中に乗ることは可能だが、それでも無茶苦茶だった。

 

 

 

「あのバカ!!」

 

「無茶よ!!」

 

 

アーヴァインとヒノメは常識では考えられない行動にそう言ってるが、カイルはそのまま刀を引き抜くとなんとダイモンドドラゴンの首へと向かった。そう、彼はダイモンドドラゴンを倒すのではなく、魔剣を引き抜こうとしてるのだ。

 

 

「あっ―――!!」

 

 

だが、ジェットコースターのように乱暴に動くダイモンドドラゴンに流石にしがみつくのは無理だったのか、空中に放り出されてしまった。高さも然ることながら、空中では身動きができない。そういうアルゴリズムが組まれていたのか、ダイモンドドラゴンは旋回すると大きな口を開いてカイルを飲み込もうとしている。

 

 

 

「うっ、うわあああああああああああああああ!!!!」

 

 

「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ――――!!!」

 

 

 

その光景を想像したシリカは悲鳴を上げて顔を覆った。目をつぶって喰われそうになるカイルから目をそらした。だが、その視界端にはほかの3人のHPゲージがある。それはおそらく、今にでもカイル(Kyle)という名前のゲージが消えるだろう。

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

「・・・あれ?」

 

 

いつまでたっても何の変化も無い。それに再び空を見上げるとカイルは【浮かんで】いた

 

 

「へっ?」

 

「た、助かった…」

 

 

ヒノメにどういうことなのか聞く前にその原因が分かった。浮かんでいると言うよりも徐々に下がってきていた。それでカイルの背中に青い翼があるのが見えた。だが、それはカイルの背中と言うよりもその背中にいる何かから生えていた。

 

 

 

「ピュイ!」

 

「ピナ!」

 

 

そう、ピナだ。落下するカイルを空中で受け止めて浮遊してるのだった。おかげでダイモンドドラゴンの捕食から逃れたようだ。

 

 

「シリカ、ヒノメ、ドラゴンのほうを頼んでもいいかな?」

 

「…あなたは?」

 

「ちょっとな」

 

 

そう言ってるうちにカイルは地面へと降り立った。一方ダイモンドドラゴンも空を2回ほど旋回して降り立ってきた。

 

 

「なんで…なんで勝てない!」

 

「カイル!!」

 

 

少し怒気を含んでカイルの名前を叫ぶように呼んだアーヴァイン。一方、カイルは相変わらずの様子でアイテム欄から回復アイテムを出そうとしているようだった。

 

 

「なんだ」

 

「なんだ、じゃない。言ったはずだろ、協力するって。さっきからお前は自分勝手にやってる、役割分担、コール、リカバリー、セオリー、全部だ。もう少しは節度を守れ!」

 

「そんなの、俺の勝手だろ。魔剣を取るには仲良しこよしでやる意味なんて――」

 

 

その刹那、カイルの体が浮かんだ。いや、吹き飛んだと言ったほうがいいだろう。

何が起こったのかカイルにもわかってない。だが、分かることがひとつ。

 

 

 

アーヴァインに殴られたのだ。

 

 

 

「この、バカが!!お前、自分が何をしてるの分かってるのか!?その勝手な行動がコペルとか言うプレイヤーにされたのとなんら変わりないんだよ!!」

 

「おれ、が…?」

 

 

殴られた影響か、少し冷静になったカイルがその言葉の意味を考えていた。かつてニューピーを狙ったMPK、偶然にもシリカの恩人でもあるキリトも関わったそのプレイヤー、コペル。

 

 

 

「カイル、お前は人を信じられなくなって大切なもを見失ってる。それがわからないなら下がっていてくれ」

 

「俺…が…」

 

 

「二人とも、来ます!!」

 

 

 

シリカの言葉の通り、再びダイヤモンドドラゴンは空へと飛び上がって広場へブレスを撃とうとしていた。それを見たアーヴァインだが、ヒノメとシリカが離れすぎていることに気づいた。どうやら距離をとってヘイトを稼ごうとしていた所為なのか、ヒノメの防御が間に合いそうに無かった。

 

 

「ヒノメ、こっちは任せろ!!」

 

 

だが、幸いなことにアーヴァインだと何とか間に合いそうだった。防御系のスキルは前もって構えてないと成功する確率が低くなる。そうなるとアーヴァインがシリカを守るほうが生存確率が高い。

 

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい…」

 

 

あんな巨体のドラゴンと対峙したことが無いシリカは若干涙目だが、何とか受け答えした。体力も前もってポーションを使用していたのか8割ほど残っている。これだと守ることは出来るだろう。

 

 

 

「ピュイ!」

 

 

だが、そんな時ピナだけが気づいたこと。それはカイルはただ突っ立ってるだけだった。さっきのアーヴァインの言葉が、自分の大嫌いなMPKと同じだと面と向かって言われたよっぽどショックだったのか、呆然としていたのだ。

 

 

「カイル!!」

 

「えっ、シリカ!?」

 

 

既にダイヤモンドドラゴンは広場へ向かって下降し始めている。1度発動した防御スキルは解除することが出来ず、動くことが出来ない。だから、アーヴァインとヒノメはただ無謀にカイルを助けようとするシリカを見ることしか出来なかった。

 

 

「カイル、しっかりして、カイル!!」

 

「…し…りか…?」

 

 

受け答えもままならないカイル。そして広場にダイヤモンドドラゴンのブレスが広場の中央へと降り注ぎ、砂煙が巻き起こった。

 

 

 

 

「シリカァァァァ!!!!」

 

 

「くっ、カイル!!」

 

 

防御スキルで緩和されたとはいえ、HPがレッドラインまで削られた2人は回復することもしないで姿が見えない2人を探していた。

 

 

「ピュイ!!」

 

 

「!」

 

「そっちか!!」

 

 

ピナの声に誘われるかのよう二2人がそこへと向かった。そこには無残にも横たわる2人。おそらく現実だったら来ている衣服も曝け出している顔や腕に無数の傷がついているであろう2人。HPゲージがラグで徐々に削られていくなか、ヒノメは慌てたように回復結晶を取り出そうとしている。

 

アーヴァインは睨むかのよう二そのゲージを見ていた。そこでとまれ、これ以上削れるなと願いながら――

 

 

 

「うっ…」

 

「あ…れ…」

 

 

ゲージが――止まった。それもほんの少し、表示にすると1Bitと言っても過言ではないほどに。まるでここで軽い風に吹かれた砂にダメージを受けるとしたらそこで死んでしまうほどに。

 

 

「ヒ、ヒール!ヒール!!ヒール!!!ヒー――」

 

「ヒノメ、もういいから…」

 

 

必要以上に回復をかけようとするヒノメに苦笑いをしながらシリカが起き上がった。彼女の言うとおり、HPゲージは既にグリーンまで回復している。ついでにカイルのHPもイエローまで回復していた。

 

 

 

「大丈夫か、カイル?」

 

「なんで…俺を…」

 

「なんでって…なんでだろうね?気がついたら、体が勝手に動いてて……」

 

 

「ピュイィ!!」

 

 

話し合ってる暇ない、というようにピナが声を上げた。現に広場には再びダイヤモンドドラゴンが降り立っていて、咆哮をあげて4人に攻撃を与えようとしていた。

 

 

「…まあ、理由、いらないよね?誰かを助けるなんて」

 

「!」

 

 

 

ドラゴンに向かおうとしているシリカの言葉に、ハッとしたのはカイルだった。

 

確かに、そうだった。人を騙すのも、人を陥れるのも何かの理由がある。あのコペルもきっと――外に出たくて、それで自分を嵌めたのだろう。

 

そして、その被害者になりかけた自分は全ての人間がそうだと思っていたのだ。自分の敵だと、自分を嵌めようとしてると。

 

 

だが、違うのだ。アーヴァインが言っていた「大切なもの」それがなんなのかわかった気がした。それは一番簡単で、一番難しいことだった。

 

 

 

「そ…っか……」

 

 

 

 

 

一方、回復した3人はそれぞれバラバラの方向からドラゴンに攻撃して、ヘイトを稼ぎながら戦っている。だが、先ほどの一件で既にポーションも回復結晶も使い切りそうだったのだ。

 

 

 

「くっ…」

 

「まずいかもな…」

 

 

焦燥の色が浮かび始めた3人。だが、不運なことにドラゴンの攻撃――尻尾によるなぎ払いにシリカが気づくのが一歩遅れた。

 

 

「シリカ、危ない!!」

 

「えっ――」

 

 

ヒノメの声にヒノメは吹き飛ばされ――ではなく、その場に転がった。尻尾の下の唯一の回避エリア、そこに転がり込むようにカイルが飛びついたのだ。

 

 

「カイル…」

 

「…ごめん、シリカ」

 

 

先程までの高圧的な言葉ではない、優しい言葉。声も少しか細い感じがするが、おそらくそれが本当の『カイル』なのだろう。

 

時雨を抜いて、まっすぐとダイヤモンドドラゴンへと向けたカイル。

 

 

「スイッチ!!」

 

 

そう叫んで、カイルは駆け出した。その声に、アーヴァインは嬉しそうにバックステップで距離をとった。あのカイルが、人と関わらないように殻に閉じこもっていたカイルが連携プレイをやろうとしてるのだ。

 

 

『GYIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

ゴウ・マジンケンでダイヤモンドドラゴンの体へとダメージを与えたカイル。これで体力ゲージが残り1本となった。

 

 

「カバー!!」

 

 

次にアーヴァインが死角から攻撃して距離を取るカイルのサポートをした。

それとは反対側、刀を足の罅へと突き刺したヒノメ。

 

一方シリカのもとへと戻ったカイルはピナのヒールブレスで少しHPを回復させた。

 

 

 

「…なんだ、一緒になれば弱いんじゃないですか」

 

「うん、一緒に、ね?」

 

 

そう若干の皮肉が混ざったような言葉にカイルは楽しそうに頷いた。このように笑うのはいつ以来だろうか、そう思いながらHPがグリーンへとなるとカイルは再び駆け出した。

 

 

 

「カイル、足の罅を狙ってください! そこならダメージが入る!!」

 

「分かりました!!」

 

 

ちょうどよく、足の罅が近くにあったためそこに刀を突き刺した。それにダイヤモンドドラゴンは悲鳴を上げるようにして更にHPゲージを削った。

 

 

「これなら…!!」

 

「いや、離れろ!!」

 

 

アーヴァインの言葉を確認する前にカイルが刀を引き抜いて距離をとった。それと同時に、ダイヤモンドドラゴンが空へと飛び上がった。しかし、ダイヤモンドドラゴンが突撃するのはHPバーが一本減ったとき、既に最後のバーへとなっており、それは考えにくい。

 

 

「何をするつもりだ…」

 

「……!」

 

 

飛び上がったダイヤモンドドラゴンは、豆粒に見えるほど離れ、そしてそこから広場へと向かって急接近してきた。

 

鉱石で出来たその体が高速で地面に向かう姿はまるで隕石そのものだった。

 

そう、考えられることは唯一つ。

 

 

「広場をクレーターにするつもりか…!!」

 

「って、ここに逃げる場所なんてありませんよ!!」

 

 

他のドラゴン種でもある突撃攻撃。だが、それは『ガード不能』攻撃であり防御スキルでどうにかなるものではない。普通なら物陰に隠れるのだが、それがここには存在しない。

噂によるとソードスキルで相殺できることもないらしいが、そんなテクニックを4人が保持してるわけでもない。

 

カイルは片膝をつき、時雨を地面に突き刺して肩で息をしながら必死に考えていた。4人が生き残る方法を、4人で生きて帰る方法を。

 

 

 

シリカも3人に回復道具を使用しながら手持ちの中から結晶で帰還することも視野に考えていた。

 

だが、それには一つ問題がある。

 

 

 

 

用意してあった転移結晶が3つしかないのだ。

 

 

 

 

ダイヤモンドドラゴンのブレス攻撃には付属効果が存在する。

それはダメージを受けたプレイヤーの持ち物を確率的にフィールドにばらまく、もしくは消滅させるというものだった。先ほどカイルと、庇ったシリカの2人の持ち物から結晶が消滅し、予備も存在してない。

 

 

つまり、誰かが一人この地から出ることができないのだ。

 

 

「…カイル、2人を守れ」

 

「えっ」

 

「アーヴァイン、さん?」

 

 

大気が震え、もう間もなく攻撃が来るであろう中、どこか冷静にアーヴァインは腰にある紅桜を地面に突き刺すとカイルの時雨を手に取った。パーティを組んでいるメンバーの武器は一時的に手にすることで使用可能となる。

 

だが、カイルの武器、それも魔剣よりステータスが劣る武器を手に何をしようとしているのか――

 

 

 

「こんな結果になって、あいつに顔向けできねぇな」

 

「…おじさん…?」

 

 

おそらく、現実世界でそう呼んでいたのだろう。その言葉に一瞬アーヴァインの動きが止まるが、時雨を手にして構えたそれは刀の最上級にして最強と言われるソードスキルの構えだった。

 

だがこのソードスキルは威力、スピードは申し分ないのだが攻撃範囲とタイミングの問題で使いどころが難しいのが難点だ。

 

 

「(いえ、でも…あの技ならドラゴンの突撃攻撃に合わせられる…)」

 

 

ヒノメの思っている通り、突撃攻撃に合わせとなるとタイミングの問題になるだけだ。ただ直線でやってくる敵に対して発動するだけでいいのだから。

 

 

しかし、そうなると――

 

 

 

「や、やめてください…おじさん…!!」

 

「カイル…?」

 

「そ、そうです!!なにを…どうなるのか、わかってるんですよね…!!」

 

 

突撃攻撃を相殺とはいえ、それをやるアーヴァンにノーダメージとなることはない。良くてHPがレッドライン、悪かったら――共倒れとなる。

 

 

「ああ、わかってる。だからこそ俺がやるしかないんだ」

 

「それは、僕が…貴方の親友の息子だから、ですか?」

 

 

そう伏し目がちに聞いたカイル。だが、アーヴァインは口元を緩ませると首を横に振った。確かにそれも一因かもしれない――いや、それが一因だったのだろう。

 

 

 

「信じられねぇかもしれないが、俺は既に死んでるんだよ」

 

 

「えっ……?」

 

 

何を言ってるのか、わからなかった。この世界ではHPが0になれば現実でも死亡する。

そうなったと、目の前の男は語っているのだ。だが、それなら目の前でこのゲームをプレイする男は誰なのか。

 

 

 

「残留思念っていうのか?最初は俺が死んだのは気のせいかと思ったが、石碑にあった俺の名前が消されてたからな…その直後ぐらいにカイルに出会って、分かったんだ。だから俺は生きてるってな」

 

 

ダイヤモンドドラゴンが既にゴゴゴォォォという空気を震わせる振動と音を4人に与えるほどの距離まで近づいていた。だが、それに慌てるほどの余裕がなかった。アーヴァインの言葉がそれ以上に衝撃的で、そして切なくて。

 

 

 

「泣き虫のお前が何もかもに絶望して、そしてひたすら戦う姿を見て、カイルの殻を破る手伝いをするのが……アーヴァインとして…俺としての、生きた証として死ぬことができなかった」

 

「アーヴァイン、さん…!!」

 

「悪いな、シリカ、ヒノメ。こんなおっさんの最後のわがままに巻き込んじまって。だから、礼を言わせてくれ、この俺に最後の役目を与えてくれて、ありがとうってな」

 

 

 

既に、声も届かないほどの轟音が響き渡っていた。だが、その中でもアーヴァインの声が透き通るように聞こえていた。目前にまで迫った、ダイヤモンドドラゴン

 

 

一つ、息を吐いたアーヴァインは目を閉じて、居合抜きの構えから横に一閃振った。

 

 

「行くぞ!!」

 

「アーヴァインさん!!」

 

 

ダイヤモンドドラゴンとの距離が縮まった。そのアーヴァインの後ろに3人が固まっていた。なぜだかわからないが、ここが一番安心できた、アーヴァインが守れる範囲、そこがまるで攻撃が来ない安全地帯のようだった。

 

 

 

「これが、俺の最期――!!」

 

『GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!』

 

 

 

刹那――ダイヤモンドドラゴンがアーヴァインの間合いに入った、瞬間。

居合の構えから横に一閃振った。それだけで時雨は悲鳴を上げ、空気が裂ける音が広場を包み込んだ。だが、まだダイヤモンドドラゴンの攻撃は止まらない。

 

 

「ジュウハ――ゴウショウザン!!」

 

『GYIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

 

横の一閃からの切り上げ、そしてダイヤモンドドラゴンとぶつかり合う時雨。激しい金属音とともに駆け抜ける衝撃波。

 

 

「「「うわあああああああああ!!!!」」」

 

 

カイルを先頭にシリカとヒノメがダメージがない衝撃に悲鳴を上げていた。そう、ダメージが一切ない。

それはアーヴァインの攻撃による相殺によるものだった。

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

最後の雄叫び、それにハモるかのように甲高い音と共に砕け散る時雨。

 

 

『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!??』

 

 

ダイヤモンドドラゴンの額が砕け、HPゲージが完全に消滅した。だが、それはアーヴァインも例外ではなく、HPゲージも完全に消えると同時に彼の体が吹き飛んだ。2回ほどバウンドして、カイルの目の前に転がった。

 

 

「アーヴァインさん!!」

 

 

急いで駆け寄るシリカとカイン。ヒノメはチラリとダイヤモンドドラゴンを見るが、その巨体は額の罅から徐々に全体を崩壊させるまでに至っており、彼女が手を下すまでもなかった。

 

 

「これで、俺はこの世界から完全に消滅する…」

 

「アーヴァイン…さん…」

 

 

「…泣き虫は、相変わらずだな、カイル」

 

 

そう言って笑うアーヴァインだがその体は光に包まれていた。何度も見てきた、消滅までのタイムラグだった。

 

彼の手を取って、カイルは涙を流している。

 

 

「悪いな、カイル。最後にお前の刀折っちまって」

 

「ううん…いいんですよ…アーヴァインさんに、最後に使ってもらって…時雨も幸せだったと思います…」

 

 

刀に感情なんてあるわけはない。だが、時雨は本当はジュウハゴウショウザンの横の一閃の時点で砕けてもおかしくはなかったのだ。あのような技を使って無事な方がおかしいのに、それを最後まで耐え切ったのだ。

 

 

「ラストアタックは…ヒノメに譲渡する。巻き込んじまって悪かったな…」

 

 

「いえ…」

 

 

「カイル、お前にはその…紅桜を渡す。長い間、使ってきたからわかる。それはお前が持ってこその力だ」

 

 

「アーヴァインさん…」

 

 

おそらく、はじめからこのつもりだったのだろう。ラストアタックをヒノメに渡し、自分の魔剣をカイルに譲渡する。この時を、この瞬間をSAOで生きている刀使いに託すために、最初から自分の命は投げ売るつもりだったのだ。

 

 

「悪いな、シリカ…お前だけには何もなくて…それと、最後に一つ、頼みたい」

 

「なん…ですか…?」

 

 

今にも泣きそうなシリカ。彼女とアーヴァインは出会ってそれほど経ってないが、キリトぐらいに親しく、そして大切仲間と認識していたのだ。彼の言葉をそのまま借りるとすると『13歳で人の死に触れるのは早すぎたんだ』

 

 

「カイルを頼む。こいつ、しっかりしてる割には案外おっちょこちょいで泣き虫なところがあるからな、支えてやってくれないか?」

 

 

 

その言葉にシリカは涙を流して頷いた。VRMMOの世界では感情を押さえ込むことができない。だから彼女は心の底から泣いてるのだ、アーヴァンの消滅に。

 

その姿に満足したのか、目を閉じて、呟くように口を動かした。

 

 

「カイル…シリカ…ヒノメ…お前達なら生き残れる、俺はお前達の無限の可能性を信じている」

 

 

それが、最期の言葉だった。

 

 

 

 

 

この日からSAO内で2人の刀の魔剣使いが現れることとなった。

 

 

『飛燕残華』という魔剣を振り、中層エリアでドラゴンテイマーである『シリカ』と共に他のプレイヤーを癒す存在となる『ヒノメ』。

 

 

そして、かつてはアーヴァインという『SAOの世界に生きた男性』を支えた魔剣『紅桜』を携え、攻略組のバックアッパーとして活躍するプレイヤー『カイル』

 

 

この3人が、後にミッドチルダという異界の地で、アーヴァインの魂を心に再び戦いに身を投じるのは、そう遠くない未来の話だった。




長らくお待たせしてしまいまして申し訳ない
ユイ「年内と言っていたのに…」
そんなゴミを見る目で見ないでください!!

ユイ「今回はカイルさんの過去編ですね」
前々からやると言ってましたからね。

ただ、この作品はしばらく更新停止しようかと思います。
ユイ「えっ?」
書いても書いてもなんか納得がいかなくて…基本的にストックなどを作るスタイルで投稿をしてるのですが、それすら間に合わない状況で、次回投稿が完全に未定です。
ユイ「作品は続くんですか?」
打ち切りに近いけど、少しずつ作っていくつもりです。
正直に言うと、この組み合わせ自分ぐらいの器じゃ受け止めきれないレベルだったかもしれないと後悔してる。
一応宣言していたのはやろうと思って、今回はちょっと無理やりですが書き上げました。

作中説明をすると、カイルの過去、ヒノメやシリカとの出会いですね。
ユイ「というよりも、元々は別の方の武器でしたんですか…」
この話の原案はカイルの投稿者であるウィングゼロさんからのをいろいろ変更した感じですね。
先に言った描写等の問題で結構変わってしまいましたが…

ユイ「それにしても、荒んでいたんですね…」
本当なら本編でシリカの危機とかでこの人格が出現する、という設定だったんですが、それすらも出せるかどうかという…

そして何気なく魔剣となってしまった飛燕残華
ユイ「なぜ…?」
原案からアーヴァインが紅桜を持っていたので、その流れで飛燕残華も魔剣となりました。

ユイ「そのアーヴァインさんという方は?」
オリキャラの関係者です。
カイルの父親の親友で本来はカイルではなく、父親の方とSAOをプレイする予定だったのですがカイルがデス・ゲームに囚われてしまう。
後にカイルの存在を知って探すが、ゲームオーバーになってしまう。
しかし、ゲームのバグで残留思念としてSAOに漂っていた。
ユイ「フェアリー・ダンス編におけるヒースクリスさんみたいなものですね」

さて、次の投稿がいつになるか未定で、続くかどうかもわかりません。
もし続いたら、その時は感想・コメントをよろしくお願いします。

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