「ぅぅん…ん?」
どこかの倉庫の中、そこにはパッツンショートヘアーでナイスバディな少女が横たわっていた。
そして目を覚まして辺りを見回すと一言いった。
「…早く寝なきゃ」
「いや、そこは慌てろよ」
夢の中だと解釈して再び寝ようとした少女に近くに座っていた少年はそうツッコミを入れた。
―ミッド技術開発ホール―
一通りの試したいことを終えたウェスはカイルを連れてシュミレーターを後にした。ちなみにシノンは彼とはあまり関わりたくないのか、それを見ることなくエリオとキャロを連れてほかの施設へと向かった。
「パパかっこよかったです!」
「ありがとうな、ユイ」
観客席でテストを見ていたユイはそう嬉しそうに言った。そういえば、と思いだしたのはキリトがこの世界でユイの前で戦うのは最初のガジェットに襲われたのとその後のなのはの間違えて最大難易度に設定した腕試ししかなかったのだ。ALOフォームで戦うのを見るのは初めてだった。
「さてと、キリト君。私とシグナムさんはちょっと責任者の人と打ち合わせがあるからあとは自由にしてね」
そういうとなのはとシグナムはともにそのシュミレーターの責任者のところへ向かった。これで残っているのはキリトとアスナ、そしてユイだった。
「さて、どうする?」
「そうだな…ユイ、何か見たいものあるか?」
アスナもキリトも特に行きたい場所がないのでユイの希望を聞いてみた。ユイは持っていたパンフレットからある場所を指し示した。
「ここに行ってみたいです!」
「…はははは」
そこはデバイスの技術向上のための体験エリアだった。シャーリーに触発されたのか、徐々にメカオタになりつつある娘にキリトは乾いた笑みを浮かべた。
そしてキリトとアスナが手をつないでユイがキリト肩車する姿はまさに家族そのものだった。
その幸せな時間が――唐突に崩れた
ヴィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!
「「「!!!!?」」」
あたりに響き割った警報ベル。それに3人以外にも周囲にいた人は何事かと足を止めた。
ほどなく、アナウンス用のスピーカーからノイズが走った。
『ザッ…お知らせします!ただいま、正面入口付近にて未確認生命体が確認されました!!特徴は20mほどの巨体の召喚獣のような姿で、警備員が負傷しました!!第一級警戒態勢で施設内にいる魔導師は迎撃に向かってください、また、非局員の方は施設奥の避難シェルターまで、非戦闘員は避難誘導をお願いします!!繰り返し――』
「第一級警戒態勢…!!」
それはよほど切羽詰った状況ということだ。そのアナウンスに非局員である見学者や一般客はパニックになりながら施設の奥へと向かった。
だがキリトはできる限り冷静にユイを下ろすと彼女をアスナに預けた。
「アスナ、ユイを頼む」
「キリト君は?」
「ここからALOフォームで現場に向かう、アスナは多分避難した人がパニックになってるから落ち着かせてくれ」
確かにこのままだよシェルター内で暴徒が出現する可能性もあった。過去にボス攻略中にパニックになった隊員を落ち着かせることが多々あったアスナならなんとかできるかもしれなかった。
「パパ…気をつけてください」
「大丈夫、すぐに戻ってくるからな。エリュシデータ!!」
一言声をかけてスプリガンの姿になったキリトは2人の方へ振り向かずに正面入口へと向かった。
―室内戦想定シュミレーター―
「――し――もし――」
「…っ…?」
「もし、もし?」
少女に襲撃され、気を失っていたティアナが目を覚ますとそこには見覚えのない少女と少年。
数回瞬きして意識を覚醒させると、すぐに頭の中で何があったのか理解した。
「あいつは、あいつはどこ!?」
「ちょ、落ち着いてください」
「ここにはほかに誰もいなかったぞ」
宥める少女に少年の説明でティアナは唇を噛み締めた。まるで赤子を相手にするかのような、子供の遊びといったふうな戦い方をした謎の少女。少なくとも目の前の彼女とは体格も声も違うため逃げられたのだろう。
「…あんたたちは?」
「俺は真雲慧雷」
「あ、私は桐ヶ谷直葉」
2人の自己紹介だが、その名前に聞き覚えが――いや、何か聞いたことがあるような。
「…桐ヶ谷…? どっかで聞いたような…って、それよりも…クロスミラージュ、どういう状況?」
《今から20分ほど前に第一級警戒態勢が発令され、非戦闘員は避難を開始してます》
あたりが騒がしいため、クロスミラージュに呼びかけるとそう帰ってきた。その言葉にティアナは目を丸くした。第一級警戒態勢は緊急事態の中では最上位に当たる発令だ。つまり、なにか切羽詰まってるようなことになったというわけだ。
「あんたたちは避難しないの?」
「いや、避難ってか…」
「俺たち、10分ぐらい前にそこの倉庫で目を覚ましてな。ここがどこなのかもわからないんだよ」
それを聞いて2人がキリトたちと同じ漂流者だということを理解した。正直すぐにでも非常事態が起こってる場所に向かいたいが局員として漂流者の保護もやらなければならない。
「…2人とも、避難所に誘導するわ。ついてきて」
―避難所―
「化物が、化物がいたのよ!!もうダメよ!!」
「落ち着いてください!」
例の化物を目撃した女性職員が錯乱していた。それはボス戦で死の危険に遭遇したプレイヤーとは比にならないほどにだ。
普段、そういう危険などに遭遇しないので無理もないが、これでは手がつけれない。何よりも、一人が錯乱すると伝染するかのようにそれが拡がっていくのが危惧されるのだが、これでは手のつけようがない。
「っ…」
「大丈夫です、すぐにパパたちが倒してくれますから」
不幸にも校外学習できた小学生ぐらいの子供はユイが見ているが、目に見えて震えているため長くは持たないだろう。
「ミュージックスタート!!」
「「「「「「――はっ?」」」」」
そんな緊迫した空気の中、どこか場違いな合図が入った。アコースティックギターを引いて、どこかバラード調でありながら元気が出る曲。
それを弾いていたのは肩に雀のような鳥を乗せ、どこかラフで有りながらきっちりした男性だった。しかし、なかなか心に響くというべき曲で、パニックは収まってきた。
全員がそれを聞き入ってて、静かになったのを見計らってそれを引いていた男性がアスナの方をちらっと見た。
「…! 皆さん、落ち着いてください! 今、この施設及び周囲の部隊が対応しています! もう少しの辛抱ですから、ここにいてください!」
「というわけだ。待っている間、暇な時間が続くと思うから、ちょっとした余興だ。聞いてくれるか!」
落ち着いた避難者にアスナの声が届いたのか、パニックは収まった。それに気分転換と言わんばかりの男性の言葉に、幼い子供などは「は~い!」と答えたがもう一度ギターを鳴らした男性は再び聞いた。
「声が小さいぞ! 聞いてくれるか!!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
今度は、大きな返事が聞こえた。
―正面入口―
「クッソ!!」
「下がれ、下がれ!!」
100人切りシュミレーターは出入口付近だったため、一番先にクラインが到達した。周囲に戦闘の跡が見えることからもうその目標がすぐ近くにいると感じたクラインはすぐにカラクレナイをセットアップさせた。
「大丈夫か!?」
「ッ…増援か…あんた、ベルカか…ッ…奴に近づけないんだ…!!」
そう言って近くにいた、一応の指揮者は苦虫を噛んだように、そして絶望したように目標の生物を睨んだ。
《BOBORUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!》
そいつは近くの事務ビルからのそりと現れると2人に気づいたようだ。体長は約20mといったところで巨大な人型だが顔が3つもあり、4つの腕と剣が握られていた。そして、分かることが『最悪のMob』だということだった。
「なっ……邪神…!?」
「知ってるのか!?」
情報がない中の戦闘で不安しかなかった指揮者だが、クラインの口走った言葉に振り返った。
それにクラインは一応距離を取るように間を空けながら説明した。
「俺たちの世界のゲームに出てくるモンスターだ……ん?」
クラインが目を凝らすと、その邪神には体力ゲージが存在していた。見えにくいが、よくよく思い出したら『ラグナロク』の時に見た邪神も体力ゲージが見えにくくて、位置によっては見えなかった邪神もいた。
「体力ゲージ…つっことは、あれはを削れば倒せるのか…!?」
「だが、近づくことすらままならないんだっ…!!」
指揮官の言うとおり、槍や拳で攻撃を与えようと近づいた魔導師は片っ端から邪神のひと振りで吹き飛ばされている。
しかし、ここで指をくわえてみていることもできない。クラインはカラクレナイを抜いた。
「しかし、どうするか…ALOフォームはキリトしかできないし、機動力が足りな過ぎるな…」
《優秀なタンクが数人いればですね》
カラクレナイの言葉も最もで、おそらく邪神の強さは74層のグリームアイズよりも強いステータスだろう。
スカルクリーパーより素早さと攻撃力がないとは言え、驚異はその巨体の耐久力と攻撃範囲だ。ベルカ式の戦術を取る魔道士なら自分の間合いに入る前に吹き飛ばされてしまう。
「お前、風林火山のマスターか?」
「んあ?」
風林火山について知ってるのはSAO生還者しかいない、そして振り返るとそこには重装備な鎧に身を包んだ騎士――キョウがいた。
一方のクラインも彼のことは攻略の際に顔を合わしていることもあり知っていた。
「血盟騎士団のタンク…ちょうどいい。あいつの攻撃捌けるか?」
そう言って指さした邪神。残念ながらキョウはALOプレイヤーではないためからその姿を見て「SAOのフロアボスか?」と言っていたが、なぎ払う攻撃を見て顔を引き締めた。
「今いるタンクは何人だ?」
「オメェ一人…人手が足りないなら俺やほかのやつでもやるつもりだ」
「クライン!!」
タイミングよく、キリトが空から襲来してきた。地面に着地してすぐに邪神をみてキリトは苦い顔をした。あの時、トンキーの逆襲でやっと倒すことができた邪神がここに居るのだから無理もない。
「黒の剣士もいるのか…って、まさか、アスナさんもっ!?」
「…キョウ、邪神の攻撃を捌くのに何人必要だ?」
かつてのある理由のため、若干のライバル視されていたこともあるが、キョウの実力は本物で、邪神攻略には必要不可欠のため無視できなかった。
「あーっと…そうだな」
そう言ってキョウは邪神の動きを入念に確認した。払い、振り落とし、そして巨大な体を使った押しつぶし。基本的な攻撃はこの3つのみ。そして今現在の状況――攻撃によって瓦礫と化した建物の残骸が所何処にあり、身を隠すには十分な死角。
「4人、ってところだな。機動力のあるやつ2人…一人は
「つっても、ALOフォームになれるのはキリトしかいないんだよな…」
「なら、私がやろう」
そう言って降り立ったのはシグナムだった。しかし、近くになのはが見当たらない。
それに気付いたシグナムは「避難が遅れたものの救出に向かった」と説明した。たしかにこれほどまでにパニックになっているのなら逃げ遅れたり、身動きが取れない人もいてもおかしくはなかった。
「じゃあ、タンク変わり…スバルかヴィータがいればよかったんだが…」
「いねぇ奴頼ってもしょうがねぇだろ、一人は俺がやる」
クラインなら攻撃を受け止めずに受け流すことができるだろう。だがそうなるともう一人、フロントアタッカーがいればいいのだが、今現在も暴れている邪神に手いっぱいで探す暇さえない。
「っと、来た。おい、こっちだ!」
するとキョウはどこかに向かって手を振っていた。増援の魔導師の中から一人、白髪の腰まであるロングヘアに左目を眼帯で隠した美しい女性だった。
「どうした、キョウ」
「今から俺たちでやつの攻撃を捌く、手伝ってくれ」
「ちょ、待て。誰だ?」
確かにクラインはその女性に見覚えがない。キョウが頼るとなると相当の腕前のタンクだろうが、ここまでの外見で見覚えがないのはおかしかった。SAOだと外見データはそのまま反映されるため、リズのようなカスタマイズでもここまでの外見を隠せることはできないはずだった。
「私はレイ。レイ・N(ノリアス)・クロフォード。言っておくが男だ」
「「「――男ォ!?」」」
自己紹介にシグナムを含めて3人とも驚いていた。少なくとも、見た目がアスナやなのはを初めとした女性陣よりも女性なのだ。
だが、指揮官の魔導師はその名前を聞いて怪訝そうな顔をした。
「レイ…『歩くロストロギア』か…ッ…!!」
「!」
その通り名を聞いてシグナムもハッとしたように反応した。一方のキリトとクラインは顔を見合わせている。
「お前、その言葉を取り消せ!!」
「っ…断る!!誰が好き好んでこんな化け物と共闘するかっ!?」
一気にあしらうように冷たい反応をした指揮官だが、周囲を剣で囲まれてしまった。キリトの二刀にクラインとシグナム、3人とも何も合図もないが、同時に剣を抜いたのだ。
「おいおい、クライン。またいつもの武士道精神か?」
「それを言うならお前こそ、いつものお人よしか?」
「無駄口をたたくな」
三人とも軽い反応で会話してるようだが、その剣先はすべて指揮官へと向かっていた。
「で、どうする、キリト」
「VRMMOならキックしてるが…リアルじゃできないからな」
「なななな何のつもりだっ!?」
尋常じゃないキリトとクラインの殺気に指揮官はとうとう泡を吹いて倒れてしまった。
「…どういうつもりだ?」
「別に、ただ…汚れ役を誰かがやってるのが気に入らなかっただけだ」
キリトはSAO時代にビーターとして、テストプレイヤーを守るために汚れ役を引き受けたのだ。一方のクラインも同様で、他人を尊重する武士道精神の影響かそういった行為を見過ごせなかったようだ。
そしてシグナムは、キリトやクライン達が知らない自身の出生の秘密によるものだろう。
「…まあ、いいか。とりあえずレイとクライン、それとシグナムさんでタゲを取って俺とキリトでカバー、その隙にほかのやつに側面からの攻撃できるようにサポートを心掛けてください!」
キョウの指示に3人とも自分の持ち場へと駈け出した。が、ただ一人。シグナムだけは邪神を見て呟いた。
「…タゲとはなんだ?」
※ターゲットです
―避難所―
「次の一曲行くぜぇ!!」
「「「「イェア!!!」」」」
男性――SAOではクロスと呼ばれていた漂流者の言葉に観客となった避難者は盛り上がった。
それを遠目に見ているのはアスナとユイだった。
「クロスさんがいてくれてよかったですね」
「ええ…」
クロス・K
SAOでは珍しい吟遊詩人のように様々なエリアを渡り歩いてプレイヤーを元気づけた人物でキリトを始めとして人のつながりが最も多いプレイヤーとも言われている。
そんな彼もミッドチルダに飛ばされていたようで、偶然、この避難所がパニックになってると聞いてやってきたというわけだ。
取り敢えず、今彼の歌声に聞き入ってる避難者がもう一度パニックになる可能性は低いため、アスナも出入口付近へと向かうことにした。
「ユイちゃんはここにいてね」
「…ママ、これを」
そう言ってユイが取り出したのは透明なキューブのようなものだった。
「これは?」
「ちょっとした秘密兵器です。ただ、まだ試作段階で何が起こるのかわからないので気を付けて使ってください」
それが何なのかわからないが、ユイはこれを使う時が来ると予想してアスナに預けた。なら、それに応える必要がある。
そう思ったアスナはユイの頬に軽いキスをするとランベントライトを持ち、地面を駆け出した。
―中央噴水前―
第一級警戒態勢の通達が出てすぐにウェスとカイルの2人は脅威対策室のベアに緊急事態だと伝えると現場へと向かった。いや、向かって『いた』
「ウェスさん、ALOはやったことありますか?」
「? ないが、どうした?」
急にそんなことを聞かれてウェスは疑問に思った。するとカイルはこの襲撃の現況、そして出入り口付近にいた人から聞いた情報で『ラグナロク』で消滅した邪神ではないかと予想していることを説明した。
「なるほどな…邪神…ね」
「…僕は戦ったことがないですけど、おそらくはALO史上最強のMobだと思います」
人から聞いた話だが、それはあのスカルクリーパーと同レベルのMobだ。それがいるのなら、現場で対応している魔導師は無事ではない。
そんな心配をしている2人は前方に人影を発見した。
おそらくはカイルよりも年が上のような少女――それをみて2人は立ち止った。
「大丈夫か? ここは危険――」
「ウェスさん!!」
とっさにカイルはウェスを押しのけて倒れた。そして、カイルの体をかすめるようにしてナイフのような小さい剣が噴水の装飾に突き刺さった。
「へぇ…やっぱり姿を変えててもわかるのね」
そう言ってニヤリと恐ろしい笑みを浮かべた少女は自分の腕に嵌めていたリストバンドにキスを落とした。
それに反応してか、そのリストバンド型のデバイスが起動した。
「ペイン」
≪Set up≫
一言つぶやいただけ、彼女が姿が紫色のローブへと変わり、綺麗だった黒髪も薄い紫に染まった。その姿は先ほど、ティアナの意識を刈り取った謎の少女だった。
それはカイルにはSAOをクリアして一番会いたくて、そして二度と会いたくなかった相手
「第一層のボス部屋以来ね…ずっと、あなたを殺したかった…!!」
フードの奥、嬉しそうに笑う少女。それにカイルは紅桜を抜いた。横にいたウェスもただ事ではないことを理解し、二丁の拳銃を抜いた。
「もう、SAOは終わった…戦う必要なんてないんですよ!!」
「! (SAO生還者!?)」
その言葉にウェスは驚いた。SAOというと今のVRMMOを確立したあのデスゲームのことだった。それにカイルと、目の前の少女が参加していたことになる。
「私はあの日からずっと待っていた…あなたを殺すのを…!!」
「レッドプレイヤー…か?」
ウェスは噂程度なら知っているが、デスゲームで行われていたプレイヤーキル。遠回りに言い換えるのならば『人殺し』のレッテルを付けられているプレイヤー。
「ふふふ…久しぶりね、――ウェス」
「――!?」
そのフードの奥に見える笑みに、なぜかウェスは恐怖した。口元をニヤリと歪めて闇のような妖艶の笑い方、それをどこかで見ているはずだった。
「なぜ俺の名前を知ってる…!?」
パワーグリフォンを構えたウェスは少し震えていた。過去に、まだ彼が『無挙動射撃』の名を手にする前、初めてのGGOでPKに遭ったときに似た感覚が襲いかかった。
「残念だけど、今はあなたじゃないのよ。だから、『これ』と遊んでてね」
「…こr―――!!?」
なにか聞き返す前に、ウェスが吹き飛ばされた。そしてカイルの目の前には昆虫のような風貌の人型のモンスターが立っていた。
「紅桜!!」
《マジンケン》
衝撃波が人型のモンスターに襲い掛かるが、まるで消えるかのようなスピードで人型昆虫が消えた。
「ッ…!!」
「あなたの相手は私よ」
消えた人型昆虫がいた場所を睨んでいたカイルに少女はそう言って銃を構えた。
―避難所―
「…どういう状況なのよ、これ」
直葉と慧雷の2人を連れたティアナは避難所となってるホールへとやってきた。もしかするとパニックが起こってるのかもしれないという危惧を持って扉を開けるとそこには――
「まだまだいくぜぇ!!」
「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」
「「「……………」」」
なぜかコンサートをやっていた。
よく避難の恐怖を和らげるために歌を歌ったりなにかゲームをするのは聞く話だが、これはそれよりもライブという言葉がにあってるものだった。その現状にティアナも2人も呆然としていた。
「…………あ」
ふと目に入ったのは小さい子供達の面倒を見ていたユイだった。彼女しかいないということはキリトとアスナは現場に向かったのだろう。
「ユイ」
「あ、ティアナさん!」
声をかけられて振り返ったユイ。取り敢えず、ティアナは今の避難所の状況が気になっていた。
「これどういうこと?」
「えっとですね…クロスさん、あの人が混乱していた皆さんを落ち着かせるために曲を流してたんです」
曲を流すというよりもライブを行うと言ったほうが似合ってる状況だなとティアナはため息をついた。今度はユイがティアナが連れてきた2人を見て目を丸くしていた。
「あ、この2人は」
「リーファさん…?」
説明をする前に口ずさんだ言葉に直葉の方は「え?」というようにユイを見て慧雷の方は「は?」というように直葉を見た。
「ユイちゃん…?え、な、なんで!?」
「直葉…お前、リーファだったの?」
「何、知り合いなの?」
「なんでここに…いるんですか?」
「「「「え?」」」」
4人とも、疑問の言葉を口にした。
―中央広場外れ―
「クッ…!!」
《……………》
パワーグリフォンを構え、そしてその銃口の先には先程から対峙している人型昆虫が立っていた。
だが、ウェスが銃を放つよりも早く動くため、攻撃が当たらないのだ。
「(どうする…カイルの方も手一杯みたいだ。俺ひとりでやれるか…?)」
「ガリュー」
考えていると人型昆虫の背後に、おそらくカイルやシノンよりも幼い、先ほどあったキャロぐらいの年の少女が立っていた。
「(ガリュー…あれの名前か?)」
「楽しい?」
《…………》
少女の言葉に人型昆虫ことガリューは何も言わない。しかし「そう」と嬉しそうな少女を見ると会話というか意思疎通ができるようだ。
「けど、もうおしまい。帰ろう」
「(撤退…やっぱりこっちは時間稼ぎ…本命はカイルの方か…)」
そう考えてウェスはニヤリと口元を緩ませた。
そしてパワーグリフォンからレフトホークとライトレオンへと装備を変更させた。
「悪いが、逃すわけにはいかないからな」
「…………」
銃を少女に向けウェスはそう言い放つ。しかし、その間にガリューが立ちはだかった。
正直このままだと1VS2という流れになってしまう。
「ここにいて、いいの?」
「………カイルのことか?」
少女の質問にウェスはそう聞き返した。カイルの腕前は知ってるが、相手の少女はSAOのレッドプレイヤーで因縁の相手なのだろう。しかし、ウェスはそこには手を打っていた。
―中央広場―
「うっ――!!」
「ほらほら、どうしたのかなァ!」
GGOフォームで攻撃を仕掛ける少女。彼女はSAO生還者でありながらGGOもプレイしてるようで遠近両立できた戦い方をしていた。それはカイルの本来のスタイルだが、それはALOならの話だ。
今の彼は、SAOフォームしかできないためどうしても近接戦闘を強いられる。
「ふふ、じゃあ、お別れね――!!」
「ッ!!」
GGOフォームになった少女は銃剣を構えて接近を仕掛けた。一方のカイルは先ほど足に受けた麻痺毒の塗られた投剣でうまく動けず、肩も同様に麻痺毒でうまく紅桜を振ることができない。
そんな中で少女の銃剣を受け流すことも避けることもできない。
―――ガキィン―――
「「!!」」
カイルと銃剣の距離が数メートルと迫ったとき、その銃剣が弾き返された。そして、カイルの前には軍服の様なBJを来た青年が立っていた。
「…誰なのかしら?」
「一応、コイツの上司だ」
そう言って腕に嵌めたチェーンソーをガトリングへと換装させた――グスタフが少女を睨んでいた。
「グスタフさん…なんで……」
「お前がヤバイって聞いてな…居場所は、そこの嬢さんに」
そう言って振り返ったそこにはシリカが立っていた。急いできたためか、膝に手をついて肩で息をしていた。
「シリ、カ…」
「無茶、しないでよっ!!」
中央広場に通りかかったのは偶然だった。そこには見るからに危険そうな少女と戦うカイルがいた。だが、戦闘向きではないシリカが介入しても何もできないのはわかっていた。
そこで応援を呼ぼうとしたところウェスの連絡でカイルの捜索をしていたグスタフと合流したというわけだ。
「で、確かにやばいな、コイツは」
それはウェスが状況をグスタフに報告したからだ。彼はおそらくカイルが狙いだと理解していたため、時間稼ぎをされるこちらよりもカイルの方に向かわせたのだ。
そしてブレイクファングを構えたグスタフは少女を睨んだ。彼の経験として、この少女は危険だということは本能的に感じていた。
「…さすがにここで新手と戦うのは愚策ね。引かせてもらうわ」
「ギルティさん…」
撤退を開始しようとする少女――ギルティの名をカイルはつぶやくも、それが聞こえることなく転移魔法で姿が消えた。
「ブレイクファング、反応は?」
《反応ロスト》
その言葉に周囲の緊張感が溶けていくのがカイルはわかった。それと同時に彼は唇を噛み締めた。
SAOでは同等の実力だった彼女と、ここまでの差があるのだ。
「カイル、お前は避難所にいけ。その体で戦うのは無理だろ? シリカちゃんもついて行ってやってくれ」
「…は、い」
「分かりました」
誰よりもわかる自分の体の状態にカイルは頷くしかなかった。この体で邪神と戦っても逆に連携を乱すだけだった。
あの時と、何も変わってないと悔しさに唇を噛み締めたカイルにシリカは肩を貸して共に避難所へと歩き出した。
それを見届けたグスタフは現場へと向かった。
―中央広場外れ―
「…そう」
どこからかの念話に少女はそうつぶやくと残念そうにガリューを見た。
「ガリュー」
その呼びかけにガリューは頷くと、少女とともに転移魔法で消えた。
それを見届けて周囲の気配を探り、完全にそれがなくなったのを確認したウェスは二丁の銃をモードリリースした。
「レフトホーク、カイルは?」
《グスタフ様の援護が無事のようです》
その報告に満足したウェスは出入口へと駆け出した。
―避難所―
「…へぇ、キリトの妹さんね…」
ひとまず4人の疑問であったことを解決させることにした。そして判明したことは、直葉はキリトの妹で慧雷とはネットの中の知り合いだということがわかった。
「まさか…慧雷がライマだったなんて…」
「つか、リーファ…外見違いすぎだろ…」
「…まあ、取り敢えず2人はここにいて。私は現場に向かうわ」
「わ、私も行きます!」
現場に向かおうとしたティアナに直葉がそう申し出た。しかし、今彼女はデバイスを持っていない。
今まで聞いた報告だと飛ばされてきた漂流者はデバイスを持っているはずだった。
「…貴方たち、デバイスは持ってるのかしら?」
「デバイス…これのことですか?」
そう言って直葉が取り出したのは緑色の鳥の羽をモチーフにしたペンダントだった。
一方の慧雷の腕時計もデバイスを所持してるようだった。
《そうだ》
《私たちがあなたたちの剣です》
「………いいわ、付いてきなさい」
ユイ「また随分と間が空きましたね」
それに関しては理由があります…まず、本元で投稿していた『本来の第五話』に繋げるようにあれこれ考えていたんです。
ユイ「確か、セカンドアラートの話でしたね」
うん、だけど…まあ、無理、という結論に達しました。この『ミッド技術開発ホール』での話を一旦全て書き上げた結果絶対に書き直すことになることがわかりました。
理由としてはリーファですね。
ユイ「直葉さんですか?」
本来の予定ならホテル過ぎたあたりで登場予定だったんですけど、ライマを出すに当たりどうしても必要になったので…で、SAOのメインメンバーを六課に所属させてリーファだけ別部隊ってのもおかしな話かなと。
さて、長くなった言い訳を並べるのもアレなので作中説明とキャラ紹介です。
クロス・K
投稿者:影鴉さん
年齢:23歳
性別:男
デバイス名:???
VRMMO:SAO帰還者 ALO GGO
容姿:170センチほどの背丈に赤茶色の瞳、黒髪のオールバック
服装:比較的ラフな格好を好む
詳細説明:
もともとの世界では歌い手として活躍するアーティスト。
SAOでは吟遊詩人のように街から街、時にはフィールドで流しやコンサートをしてプレイヤーを元気づけていた。
また、ムードメーカーとしての役割もあり、空気を読むこともあれば意図して壊すこともある。
ALOの『音楽妖精族(プーカ)』というのに興味を持ち、参加した。その後ギルドのテーマソングなどを依頼されることも多く、コンサートをするとチケットが即日完売されるほどの人気ぶり。
GGOでも凄腕のプレイヤーとして知れ渡っており、また街の酒場などでよく歌を歌っている。それと戦闘中容赦のない殲滅を行うため、「鎮魂歌(レクイエム)」と呼ばれている。
小鳥のMobをテイムしており、彼の歌に合わせて鳥のさえずりなどを行ったりもする。
今回の一人目、避難所でアスナが避難者を落ち着かせてそのままキリトのもとへ行くという流れもあったけど、こっちのほうがきりっと決まったからこっちにした。
説明文の鳥さんとはまあ、作中に出てた小鳥ですね。彼のメインステージはまた今度ということに。
ユイ「…あの、前回も言ってましたけど…ライマさんは?」
…次回、美味しいところを持っていくということで許してください(´・ω・`)
レイ・N・クロフォード
投稿者:レイ・クロフォードさん
年齢:24歳
性別:男
デバイス名:イクシエール
・イクシエール 待機状態は髪留め。色は外装が黒で統一されており、コアの部分が紅色。殆どの力を武器状態へ使っているためバリアジャケットが展開されない。
所属:聖王騎士団
容姿:腰ほどの長さの白髪で深紅色の瞳。
服装:基本的にスーツを着こなす。また、マフラーで顔を少し隠す。左目には眼帯をしている。
詳細説明:基本黒一色のスーツを身に纏った麗人。
待機状態の髪留め(イクシエール)を使い、ポニーテールにしている。
一見すると女性にしか見えない容姿の為、真っ黒なマフラーを巻いている。
(そのせいで目立っている事に本人は気付いていない。)
聖王騎士団のエージェントでキョウを保護した人。彼の世話係兼相棒でもある。
ただその外見とキョウの守備範囲の関係で同性愛が囁かれていたが、否定している。
身内にはとても甘く、敵には厳しいというはっきりと分かれた思考をもつ為、自分の仲間(と思っている存在)が傷つけられると報復に行きそうになる。
尚、意外にも料理と裁縫が得意。
ユイ「レイさんは男の人なんですか?」
男なんです。男の娘なんです。次回はライマとレイがメインかな。
あ、「次回も出番がないんじゃないの?」というフリじゃないです。もう書き上げましたから。
ユイ「もう書いたんですか?」
もともとのスタイルで何話かストックを作ってやるって感じにしてるんだけどね…今回はストック予定の話も書き直しになったからバタバタしたんだよ…
残りはカイルと戦った少女だけど…彼女に関してはまだ先かな。
わかる人には誰かわかってると思うけど…
ユイ「けど、なぜウェスさんの名前まで…?」
ウェス本人は気づいてないけどね。なぜ彼女が知っていたのかとか。
ユイ「あとは…募集ですか?」
うん、アンケートとは別にね。実を言うとリーファのデバイスの名前が決定してないんですよね。候補はあるけど
ユイ「あの刀も正式名称はなかったかと…」
一応インフィニティモーメントで選ぼうかなと思ったんだけど、リーファ専用武器とかがわからなくてどうしようかなって。
まあ、作者が考えてもいんだけどそれならいっそのことブレイブハートみたいに募集しようかなって。
『アンケート2』で
ユイ「あれがもう『その他』の質問をしてるようにしか見えないです…」
あ、それとついでですが直葉/リーファの表記について質問ですが。
キリトたちはどちらかというとゲーム世界がメインだからプレイヤーネーム表記にしてますが…直葉に関してはどうしようかと思ってます。
ユイ「???」
簡単に言うと直葉のときの姿の描写でリーファって違和感があるかな?って。呼び方は直葉にしてるとは思いますけど説明の方も変えたほうがいいのかなって。
それか「スグ」っていう愛称を使ったほうがいいか…って感じです。
さて、長くなりましたがここら辺で…次回#8 シルフ・メテオ お楽しみに