テイトクガ、チャクニンイタシマシタ   作:まーながるむ

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第6話

「てーとくテートク提督ぅ! BigNewsをお届けネー!」

 

 パラオ鎮守府の、とある提督に割り当てられた執務室の扉が破壊されんばかりの勢いで開かれる。

 飛び込むように飛び込んできた少女は現状、実装されている戦艦の中では最高速誇る少女は洋上になくともその“速さ”と“打撃力”をいかんなく発揮する。

 

「ぅひゃぁ!? 金剛さん、いきなりなんですか!?」

 

 彼女風に言ってしまえばNonStopAttack――扉から提督までの距離など一足飛びで、途中にある執務机の上の書類や調度品までをもまき散らして抱きつくのであった。

 

「んー! 相変わらず提督は可愛いネ!」

「は~~な~~し~~て~~!!」

「私は抱きついたら離さないワ!」

 

 金剛が自分の服が乱れることも無視して力いっぱい抱きつき、頬ずりすらしているのは提督としてこのパラオ鎮守府に着任してから十数日というまだまだ新米提督にありながら主力艦隊の平均レベルが50を超え、なおかつ4つの艦隊を持つ型破りな少女。

 小柄で、先輩提督には新実装の艦娘なのではないかとさえ間違われる程、人間離れした愛らしさを持つ少女は、しかしそのプレイスタイルから『米帝少女』の渾名を(ほしいまま)にしていた。

 米帝、というのは本来一定時間ごとに貰える各種資材やアイテムをリアルマネーで買い上げ、それによって強力・稀少な艦娘を手に入れたり、艦娘の強化を効率よくするプレイスタイルを大戦中の米軍の資金力になぞらえて揶揄したものだ。

 しかし、彼女のプレイスタイルにおいてはその米帝プレイすら生易しいと実しやかに囁かれている。

 というのも、ここ連日の彼女の鎮守府滞在時間は一日当たり16時間。まさに生命維持に必要な時間以外は全て艦隊の指揮を執っているということになる。

 掲示板などの間接的な交流しかない他鎮守府までその名前は轟き、しかし実際に目にしていないプレイヤーがその全てを信じることができるわけも無く、一部では都市伝説(アイドル)としてカルト的な人気を呼んでいる。

 

「それで、ビッグニュースってなんですか?」

 

 いつの間にやら自分が座るべき椅子に座り、膝に自分を抱えて満足そうにしている金剛をジトリと睨め上げながら少女が尋ねる。

 

「Oh......そんなに睨んでも私のおっぱいは分けてあげられないデース」

「握り潰すことくらいなら出来ますけど?」

 

 ニコニコと、少女らしい笑顔で恐ろしいことを言われ金剛の顔が少し引き攣る。

 しかし、大人の余裕とばかりにすぐさまニヤリと笑い返した。

 

「What!? ……まだ明るい仕事場で……提督ぅー。時間と場所をわきまえなヨー!」

「へぇ……じゃあ、いつも通り“夜”に“人気のないところ”ならイイんですね?」

「め、目が据わってるネ……」

 

 ふん、と顔をそむける少女。

 実は金剛の突入直前まで整理していた書類を滅茶苦茶にされたというのが少女の怒りの大本なのだが金剛は気付かない。

 金剛もここに至ってようやく本当に怒ってるのかもしれないと思い当たってオロオロしだした。

 

「えと、提督? あのネ? 別に私も暇だったから提督の仕事のじゃましに来たわけじゃないのヨ?」

「……用件は?」

「その、キス島でえっと――」

「あぁ……Supplyは大切ネーて燃料と弾薬を満載にして行った挙句、その全てを使いきってしまったキス島ですか?」

「う、うー……事情があったんデース」

 

 ほとんど泣きだす寸前でようやく事情について触れることができたと金剛は希望を見出す。

 なにしろリアルマネーを使うことに戸惑わないこの少女提督にとって資材とはイコールお金なのだ。

 金剛たちがキス島近海程度で燃料・弾薬を空にして帰投した当日には話すら聞いてもらえなかったという経緯がある。

 そもそも、戦闘の様子を少女が確認していたらもっと話は早かったのだが。

 

「どうせ夕立さんに夜戦を体験させるという建前ではしゃぎ過ぎたんじゃないんですか?」

「ぅ」

 

 件の事件については違うのだが、これについても前科があるため金剛の口は閉ざされてしまう。

 

「それで?」

「えっとネ、信じてもらえないかもしれないけど――」

「前置きが長い」

 

 ピシャリと言われまたしても金剛がうつむく。

 

「うぅ……その、キス島で――――――――――――――ってことがあったのヨー」

「…………へ?」

 

 しどろもどろながら金剛がなんとか全てを伝えた時には少女はその“BigNews”の衝撃に自分が起こっていたことさえ忘れてぽかんとしてしまった。

 その表情を見て、何を思ったのか金剛は飴玉の封を開け、少女の口に押し込もうとする。

 

「金剛さん!」

「ひゃいっ!?」

 

 完全に自業自得なのだが金剛はビクビクビクゥ! っと跳ね退き、気をつけの姿勢をとる。

 

「偉いっ!」

「ふぇ?」

 

 普段ならまず出さないだろう妙な声を出した金剛がそのままの姿勢で止まる。

 しかし少女の方はそれを気にも留めず金剛が散らかした紙の裏に何かを書き連ねていく。

 

「金剛さん」

「えと……いきなりどうしたのヨー?」

「今晩のおしおきは無しですね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、金剛は喜び9割、寂しさ1割という器用な表情で、しかしやはり提督である少女に褒められたのが嬉しいのか段々と満面の笑顔に変わる。

 

「さて、行きますよ!」

「……Yes! 今度こそいいところ見せてあげるワ!」

 

 秘書艦である金剛以外の艦娘も内線で呼び出してから二人は執務室を出る。

 必要なものは何か、編成をどうするか、兵装はどうするか、そんなことを話し合いながら港への道を歩いていると少女にとって見知った提督とすれ違った。

 

「おっと、イリスちゃん、随伴出撃(おでかけ)かい?」

「ええ」

「こりゃ珍しいこともあるもんだ。どこいくんだ?」

 

 普段、少女――イリスが鎮守府から出ないことを知っているためにその提督はわざとらしく驚く。

 

「――ちょっと、鬼退治に」

 

 

 ■□■棲艦島■□■

 

「ハク、お願い……」

「……やだ、たちたくない」

「私も動きたくないー」

 

 キス島での件から数日後、海底鉱脈を求め棲艦島はさらに南の深海を進んでいた。

 ここで、アイリにとって最大の誤算が生まれた。

 燃料となる原油はともかく鉱物資源などは得てして火山運動によって地表近くに運ばれてくる。つまり鉱物資源が潤沢な鉱脈は自然と火山にも近いということになり――

 

「暑い~~! 死んじゃう~~! 冷房ぉ~~!」

 

 真夏もかくやというほど暑いのだ。

 ましてや海底ともなると自然風によって涼がとれないことに踏まえて湿気が酷く蒸し暑い。

 ハクによれば除湿冷房昨日も完備されているらしいのだが、残念ながらそのハクでさえ暑さにやられてしまっている。

 一瞬、窓の外に見える海で泳いだらどれだけ気持ちいいことかと妄想して、しかし深度1800メートル、水温80度という現実を思い出して更に心がひしゃげる。

 

「あぁ、もう……イノイチー!」

 

 最近、妙にハクが人間らしくなって逆に面倒なことが増えたと思いながら、アイリが非人型棲艦の中で唯一識別できるイノイチを呼び出す。

 ちなみに、今現在ハク以外の人型棲艦をアイリは見ていない。

 ちょっと寂しいなーと思っている間にイノイチが忠犬もかくやという勢いで空中を泳いでやってきた。

 

「イノイチぃ……冷房、お願いします……」

 

 その死にそうなご主人様の声にイノイチが急転進。

 数分後、ゴウンゴウンという換気音が響きだした。

 

「うぁー、ここが天国なんですね……!」

 

 アイリたちがいるのは施設内部メインフロア。

 イノイチが気を利かせたのか、それとも施設の構造上なのかサウナ風呂状態だった空間がすぐさま過ごし易い環境へと変わっていく。

 それぞれ思い思いの場所でへばっていた駆逐艦をはじめとする深海棲艦達も列をなしてユラユラフラフラと漂い集まり始めてきた。

 その中で一匹だけ俊敏に宙を切り、アイリの傍でごろごろし出したのはやはりイノイチだ。

 

「深海棲艦も何考えてるか分からないようで実は結構可愛いですねぇ」

 

 紅く輝く眼に巨大な顎からはみ出る牙、これを可愛いといえるのもアイリが良くも悪くも深海棲艦に慣れてきた証拠なのかもしれない。

 

「それに、一匹二匹いるとそこに他の深海棲艦達が集まって行くような姿も仔犬っぽくて……あれ?」

 

 もしかして、その習性は戦力集めに使えるんじゃないか、とアイリの脳裏によぎる。

 しかしどうにも考えがまとまらず、とりあえず今資材の回収に向かってる棲艦が戻ってきたら考えてみようと思考を放り投げた。

 

「……あ」

「んー?」

 

 そんなタイミングで、都合の悪いことを思い出した、というようなハクの声。

 しかしアイリは眠そうな声で応える。

 もともと床の冷たさに身を任せて寝転がって涼んでいたところに心地よい涼風である。眠くなっても仕方がない。

 

「レイボウ、つけちゃいけないんだった」

「どうしてですー?」

「えと――」

 

 最近の成長の証か、一瞬、言いにくそうに間を取るハク。

 

「――おそわれる」

 

 そして、その一言とほぼ同時に棲艦島全体が轟音とともに激しく揺れた。

 




棲艦島に激震……いったい何が!?
(まだあんまり詰めて考えてない

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