テイトクガ、チャクニンイタシマシタ   作:まーながるむ

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いやぁ・・・いつの間にかこんな時間がたっていたとはつゆ知らず

お待たせしました。第4話です


第4話

「むぅ……まさか深海棲艦を増やすのがこんなに手間だったとは……」

 

 当初、アイリは建造によって深海棲艦を増やそうと考えていた。攻撃を受けただけで、上陸はされていないのだから資源は残っているだろうと考えたからだ。

 その予想は“ほぼ”正解ではあったが、完答とは言えないものだった。

 

「建造が出来ないとは……」

 

 ゆくゆくは鎮守府として運用される予定の棲艦島。もちろん建造ドックは十分あった。

 ただし、こちらは今までの施設と違って正規提督しか扱えないようで封鎖されている。

 それでも、と抜け穴を探すアイリを止めたのはハクの一言。

 

「シンカイセイカンはケンゾウできない」

 

 では、どうして棲艦島に集まっているのかと聞けば、

 

「……イツのまにか?」

 

 と、頼りない返事が返ってきた。

 どうやら深海棲艦は他の艦に対する興味は薄いようだ。

 とにかく集めるというよりも集まるに近い状況だとアイリは現状を仮定して、その上で“集める”方法を考える。

 

「えーっと……じゃあハクはどうしてこの島に?」

「ウミのながれにはこばれた」

 

 しかし、具体的な例をヒントにしようかと質問してみても返ってくるのはそんな答えばかり。

 このままではらちが開かないと嘆息し、アイリは戦力充足という方針を一時的に他に置いて、一先ずは戦備を整えることにした。

 戦備、つまりは燃料や弾薬はもちろんのこと、修理や装備開発に必要な鋼材やボーキサイトなどの資材のことだ。

 そしてどうやら、これらは深海棲艦のみならず、敵方にあたる艦娘にとってもおやつのようなものらしい。

 事実、備蓄庫から零れ落ちたらしい鋼材をサメのようなフォルムのロ級駆逐艦が咥えていた。

 

「ん~、ここらへんだと何が採れるのかとか分かります?」

 

 攻略情報として各海域マップを予習したものの、本拠地である棲艦島が動いてしまうため、あまり意味はなかった。

 ただ、幸い深海棲艦たちは各々で協力体制――もとい共生関係を築いているようで、それら資材を確保する方法には困らない。

 

「ワからない。でもキタにキスとうがある」

「キス島……鋼材ですね。壊れた装備類も多いようですし修理のためにも集めておいた方がいいですね。ハク、動ける棲艦はどれくらいです?」

「イ・ロ級が20、ホ級が8、ワ級が3」

「駆逐艦、軽巡洋艦、補給艦ですか……3-2-1で3隊出したい所ですが、失うリスクも考えると……」

 

 駆逐艦や軽巡洋艦はまだしも補給艦を失うのは痛い。

 それというのも補給艦は他の艦と比べて数倍以上の積載量を誇る上、燃費もかなりいい。

 まだ島が攻撃を受けてから数日しか経っていないため、比較的珍しい補給艦の運用は慎重にならざるを得なかった。

 

「今の備蓄量は?」

「30ニチでビチクはきえる」

 

 ハクに聞いたところ、先の攻撃によって棲艦数が減ったため余裕はあるらしい。

 しかし今の規模でなら、という注釈つきだ。これから規模を拡大させることを視野に入れると少々心もとない。

 

「うーん、やっぱり最低限の哨戒艦以外はなるべく失いたくないですし、見てきてもらったことだけを聞いても想像するなんてできないし――」

「じゃあ、まだイかない?」

「……いえ、私とハクで行きましょうか?」

 

 駆逐艦に様子を見に行かせる、ということもアイリは考えたがキス島といえば経験値稼ぎに有効なエリアだと説明されていたことも踏まえてその案を捨てた。

 駆逐艦数隻なら運悪く正規提督の艦隊に見つけられてしまえば全滅は免れないだろう。

 それならば、現状もっとも強いであろうハクを連れて、自分の目で確かめに行くのが一番いいだろうという結論に達した。島にハクも自分もいないとうのは少々不安が残るが、今、棲艦島が漂っている海域はキス島よりもさらに南方だ。正規提督たちの拠点である鎮守府は近くに存在しない。

 戦闘が起きる可能性としては棲艦島よりもキス島の方が高いはずだ。

 

「でもテイトクのせたらコウザイもってかえれない」

 

 戦艦である彼女もなかなかの積載量を持っているのだが、さすがにアイリものせて資材ものせて、ということはできないようだ。

 

「いえ、私はそこの……鋼材ちょろまかしてるイ級駆逐艦に乗るので」

 

 機嫌よさそうに鋼材を咥え運んでいたイ級駆逐艦の身体がはねる。

 ロ級は見逃したのに、とハクが小さくつぶやいたがアイリは気にしない。

 そもそもちょうどそこにいたからという理由だけで選んだので彼(?)が不運だっただけである。

 

「でも、そのコ、エリートだからアンシン」

 

 サメの様な身体についた両目は確かに赤く光っている。

 これが旗艦(フラグシップ)になれるほど強くなると黄色く輝くらしい。

 

「イ級の中では一番なんですね……よし、あなたはイノイチです。いいですか?」

 

 急遽命名されたイ級駆逐艦――イノイチは空中で一度翻るとそのまま海に向かって泳いで行った。

 

「そういえば駆逐艦の子たちは空中を泳げるんですね」

「……ちょっとウラやましい」

 

 駆逐艦の数十倍の戦闘力を持つハクであっても空中を泳ぐことはできないらしい。

 もしかすると、戦艦であるハクのほうが重いからかも、とアイリはくだらないことを一瞬考えたが、ハクが自分を見つめていたのですぐにその思考を放棄した。女性に体重の話は禁句だ。

 もちろんハクにはそんな意図がなかった、どころか重いことが失礼であることすら分からないだろうが。

 

「じゃあ、この島に一回浮上してもらわないとですね」

 

 深海棲艦と違って生身のアイリがこのまま外に出たら水中で息ができないのはもちろん、それがなくても水圧でぺしゃんこになってしまう。

 そう、思ったのだが――

 

「ダイジョウブ、あれからソトにでれる」

「え?」

 

 ハクが指さした先を見てみると貨物搬入用リフト(エレベーター)があった。

 その扉のあたるところにはただ、上に向かう矢印しか描かれていないがハクによると海面行きらしい。

 もとから存在には気付いていたが、その至れり尽くせり思わずアイリは唖然とする。

 

「まぁ、便利な分には問題ありませんし、鎮守府となった後も潜行等を行うのであれば当然の機能だというのも納得できますが……」

「テイトク、ツまらないことキにするとハゲるらしい」

「ちょっとひどいですよ!?」

 

 アイリとハクがキャイキャイと普通の少女二人組(イノイチもいるが)のようにはしゃぎながらエレベーターに乗り込む。

 これから戦場ともなり得る海域に行くことなどその様子からは伺いようもないが、果たして二人は油断していなかった。

 アイリに至って後方から指示をする立場であるという固定観念にすら囚われず戦意満面。

 その結果――

 

「泊地棲鬼と……駆逐棲鬼なんて聞いたことないネー?」

 

 キス島付近の洋上で見事に誤解されていた。

 

 ■□■

 

 金剛型一番艦――ネームシップでもある金剛はそのおどけたような口調とは裏腹に困惑していた。

 そもそも泊地棲鬼ですらユニークボス、もしくはシークレットボスと言われ、限られた時期に運良く(もしくは運悪く)遭遇するような深海棲艦なのである。であるからして、レベル上げついでに鋼材も拾ってこい、などという指令に準じている時に出会うような相手ではないのである。

 しかも、その隣には人型をとる駆逐艦。艦艇部においてはイ級のものと酷似しているが人型である以上、今まで彼女が蹴散らしてきたどの駆逐艦よりも強いのだろう。

 

「これは知らんぷりしたいのネー……」

 

 こちらは自分と軽空母『翔鳳』、そしてまだ経験の少ない駆逐艦『夕立』の三艦。数の上では勝っているが、もし本当に敵艦がともに『鬼』と分類されるものであったなら最悪、全艦大破もありうる。

 許されるならばこのまま何も見なかったことにして鋼材を持ち帰りたいのだが……深海棲艦の二隻はどうやら自分達に向かってまっすぐ向かってきているらしい。

 それも泊地棲鬼の方に至っては艤装を全て顕わにしての進撃だった。

 

「むこうのやる気は十分のようデース……」

 

 

 ■□■

 

「ハク! 攻撃されるまでは何もしちゃ駄目ですからね?」

「カンムスは……テキ!」

「……」

 

 底冷えするようなハクの声に、深海棲艦は沈んだ艦娘たちのなれの果てだという話を思い出した。

 この、尋常ではない敵意は、もしかしたら何も知らない艦娘たちへの怒りなのかもしれない、と。

 

「……って今は私がいることも忘れないでください!」

 

 一瞬同情しかけたアイリだが、先の爆撃に次いで砲撃戦にまで巻き込まれてしまっては今度こそ命が危ないとアイリはヒヤヒヤする。

 アイリとて戦う気はあるものの、それは武力によるものではなく対話による論戦を望んでいた……のだが、どうやら泊地棲鬼とイ級駆逐艦がそれを許してくれそうにないと嘆息した。

 ハクもイノイチも艦娘の姿をその眼にとらえた途端、戦闘態勢に移り、隙あらば自分達から攻撃を仕掛ける算段だった。

 

「それとテイトク」

「なんですか?」

 

 自分の言うことを聞こうともしないハクに対し、拗ねたように聞き返すアイリだが相手はもとから人の心情について理解が乏しい深海棲艦。なんの手ごたえもないままにスルーされてしまう。

 そして、アイリにとって悔しいことに、ハクの言葉を彼女がスルーすることはできなかった。

 

「テイトクもぶきツカう?」

「は?」

 

 どうやらハクの中ではアイリも戦闘要員として数えられているようだった。

 

「いえいえ、私、提督ですよ!? ノット棲艦! 戦闘力なんて皆無ですし、被弾はおろか砲撃の反動だけで吹き飛びますって!」

「ダイジョウブ」

「大丈夫じゃないです!」

 

 涙まじりに否定するアイリ。

 その様子を見てもハクは目を詰むってやれやれと嘆息するだけであった。

 

「……イマは60ノットでイドウしてる」

「それが何か……?」

 

 本来の軍艦の速度は速いものでも40ノットに届かないらしい。

 それを大幅に上回る速度が出ているのはゲーム上の演出か、もしくは単純にゲーム世界の広さと遠征などにかかる時間の計算を合わせるためか。

 

「フウボウもないのにそんなスピードだしたらジンタイはタえられない」

 

 とにかく60ノット――アイリに馴染みの深い単位で言えば約時速110キロメートル――などというスピードで、ましてや自動二輪のように前傾姿勢を取っているのではなく、ただイ級に横乗りしているだけという条件ではアイリは間違いなく空気抵抗によって吹き飛ばされている。

 しかし実際にはアイリは涼しい顔でここまでやって来ていた。

 それが示すところは――

 

「テイトクはイマだけワタシとおソロい」

「……未だかつてこれ以上なく恐ろしいお揃いという単語の使われ方があったでしょうか……」

 

 いやない、と心の名でボヤキながら、周囲が『CAUTION』という赤い文字列によって区切られていくのを見ていた。

 海戦用限定戦闘域(バトルフィールド)――本ゲームにおける見どころの一つである砲雷撃戦を支える重要な要素であるそれは、一言で言うならば洋上に浮かぶ半透明・半球状のドームである。

 当初の戦闘は本来の開戦同様、遠くから攻撃し合うというシステムだったのだが人型をしているのに遠くから砲撃を繰り返すだけでは地味すぎる、という要望に応え用意されたシステムだ。

 この区切られたフィールド内で艦娘、および深海棲艦は格闘戦にも似た戦闘を繰り広げるのである。

 ちなみに戦闘の様子は遠く離れた鎮守府までリアルタイムで届けられるしようとなっている。

 

「へぇ……説明文ではよく理解できませんでしたが要するに海の上に立って殴り合いしろと……」

 

 アイリの乗っている駆逐艦が人型ではないためかアイリ達はフィールド内においても洋上を浮いていたが、ハクは既にその二本の足で立っていた。

 その巨大な艦艇部は霧のようにぼやけて消えたが。彼女の中に取り込まれたようにも見える。

 そして、それは相対する金剛たち三艦も同じであった。

 

「やー、イノイチ……私はどうすればいいんでしょうね?」

 

 どうせ返事はない、そう思っての呟きだったがアイリの意に反してイノイチの艦体は応えるように震え、光り、アイリが気付いた時には消えていた。

 そして、自分の腕や足、頬などに黒い装甲板が貼り付いてるのを確認したアイリは驚きやら恐れやら、様々なものがない交ぜになった感情によって、かえって冷静になり同時に納得する。

 どうやら自分はイノイチと同化してしまったらしい、と。

 

「いや、うん……ホント、私素人なんですけどねぇ」

 

 なんとなく心の中でイノイチが頑張れと言っているようなイメージが沸いたが嘆息によって返事をする。

 同化した影響か深海棲艦としての自分のステータスや装備などの情報が勝手に頭の中に浮かぶのを処理しながら同時に対応についても考える。

 

「さて、私。やるべきことを考えなさい」

 

 ――地形は海。

 波の表面がそのまま足場になるらしく、一歩でも間違えると転倒してしまいそうだが不思議と転びそうな不安感というものは感じられない。おそらくは自分がイノイチと同化したためだ。

 ――装備は二種類。

 5inch単装砲と21inch魚雷のみ。砲射程は18キロメートル程度、魚雷は海中を進んで敵直下で浮上・爆発。武器自体は立ち回りで使いこなすしかない。

 ――ステータス。

 前に見たハクのものよりも低い、が速力や雷撃値、については勝っている。回避の項が『--』となっているのはどういうことなのだろうか。一般的な駆逐艦よりは遥かに高い性能を持っているため戦闘に支障はないはず。

 

 ちら、とハクを見ればその紅い目に戦意をたたえながらも表情は余裕綽々と言ったもの。

 どうやら、アイリの指示通りに敵艦の攻撃を待っているようであった。

 ……無論、アイリとしては攻撃されることなど待ってもいないのだが。

 

「――さて、あなた方に選択肢をあげましょう」

「聞かせてみるネ」

 

 戦艦としての矜持か、敵方の金剛もハクと同じような顔で立っていた。

 それでも少しの驚きが見えるのは、満足に話せると思ってなかった深海棲艦に話しかけられたからか。

 

「ここで沈むか、私たちを見なかったことにして逃げ帰るか……私的には後者がお勧めですけどね?」

 

 ハクが隣にいる手前、提督としてのプライドもあって見逃して下さい、とは言えない。

 一縷の望みをかけて戦いを望んでいないということをアイリは示したかったのだが、返ってきた反応は各々が艤装を展開させるというもの。

 

(まぁ、私だって彼女らと同じ反応する自信ありますからね……)

 

「そう、ですか……余分な燃料と弾薬、ここらで手に入れた鋼材を渡せば無傷で帰ることができるのですよ?」

「あいにく、そんな命令はされていないのデース!」

 

 戦いの火蓋が、切って落とされた。

 


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