20xx年y月z日、煩雑としていたオンラインゲーム界にこれまでの常識を覆すゲームが現れた。
その名も『艦隊これくしょんVR』。通称“艦これ”である。
様々なゲーム開発会社が統合され一つとなったRtoV社が、技術の粋を集めて完成させた『仮想構築世界没入型
ゲーム内容自体は過去に存在したゲームとほぼ同一でありながら、仮想の世界に入り込み“まったく別の自分”として遊ぶことができるという新しい娯楽の形にゲーム好きの面々はのめり込んだ。
また、サービス開始当初こそこの革新的なシステムに対して「社会生活に影響が出るのでは」「万が一戻ってこれないということはないのか」などと様々な不安、非難が飛び交ったがサービス開始から1年を経て、この『仮想構築世界没入型育成シュミレーションゲーム』なるものは社会に受け入れられつつあった。
「ふむふむ、2-4の攻略法はひたすら頑張ること……いや、これは攻略法じゃなくて精神論ですって」
一人暮らしの部屋の片隅で画面にツッコミを入れているのは山口愛梨。
以前から興味はあったものの最近になって認められつつある艦これを始める前に下調べを行っている最中だが、VR内で攻略情報調べられないかもしれない、という危惧の元に攻略法まで調べてしまっている。
「うん、事前調査はこんなものでいいですかね。あんまり知り過ぎちゃっても面白味ないですし」
そう彼女が納得して仮想世界に没入するための特殊な筺体《ヘッドギア》をとりだしたのは5つ目の情報サイトを読み切ってからだった。
他に類を見ない機械も事前に使用方法を調べていたのか手を止めることなく操作していく。
声紋や網膜による生体認証登録やプレイヤー名登録、アバター登録などを滞りなく終え、そしてヘッドギア側頭部に備えられたゲーム開始のスイッチを入れる。
――提督がガ我ガ蛾ga……テイトクガ、チンジュフニ、チャクニンシマシタ――
(開発にかなり時間とお金をかけたのにずいぶんと音声環境が劣悪ですね……あれ、もしかして自分がなにか設定を間違えたのでしょうか?)
筺体に設けられた睡眠導入機構によってぼんやりとした頭でそんなことを考えながら愛梨は没入した。
――コレヨリ、カンタイノシキヲォォォォォォォォ…………プツン――
その直後、大規模なサーバーエラーによってゲームサーバーが一時的にメンテナンス状態に入ったことなど彼女には知る由もない。