二天龍が笑った   作:天ノ羽々斬

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世間話

「さぁきりきり歩いてくださいよ。彼方は待ちかねてるんですから」

「ホッホッ、そうキリキリするでない、ロスヴァイセよ。あやつに嫌われてしまうぞ?」

「オ、オーディン様、あの人は関係ありませんッ!」

「そうかい。しかしまぁ、サーゼクスの小僧め、いい顔つきをしておった」

「もう、はぐらかして……」

「やっと為政者が板についてきたと見える。これから面白くなるぞぃ。しかし蒼が頭を下げてきたのには驚いたのぉ……」

「か、からかわないでくださいよぉ!」

「万年処女のお前さんに男ができるとは……嬉しさ反面、複雑さ反面、じゃのう。なにせ“アレ”は……いや、今話す話ではなかろう。ホッホッホ……いやしかし、あやつが『この娘をくれ』などと……変わったのう……」

「ま、万年処女は余計ですぅ!」

「これ以上からかったらあやつにどやされてしまうのぅ。さぁ往くぞロスヴァイセ、冥界は近いッ!」

「……お言葉ですがオーディン様、ここは天界です」

「……ひょ?」

「先にミカエル様と会談をなさいましょう。幸いにも冥界訪問の予定時刻にはまだ一週間ほどあるでしょう」

「……あやつに出会ってからか……ワシもとうとうボケたんじゃ……」

「オーディン様がボケをかますのはいつもの事でしょう。さぁ行きますよ」

「ふぅ、冗談の通じん奴め」

「貴方のボケに一々反応してたら身が持ちません故に」

「もっと老人を優しくせんか」

「使えない老人など公害です」

「酷くない!? 儂、主神だよ!?」

「いいではありませんか。オーディン様はまだ使えますし」

「まだって、まだって何!? 儂怖い! この娘怖い!」

「はいはい、御託は後で聞きますからきりきり歩いてください。高天ヶ原にも顔を出さないといけないんですから」

「えっでも儂」

「いいから歩け。早く」

「アッハイ」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

「レーティングゲームの対戦相手は?」

「……ディオドラ・アスタロトよ」

「あらあら……なら容赦も情けも要りませんわね」

「逸っては駄目よ朱乃。ただ潰すのではあまりにも、あまりにもつまらないわ。油断を誘い、徐々に絶望させるの。烏が生きたままの猫の肉を啄むように……いいわね?」

「ええ。リアスもSが板についてきましたわね?」

「あくまで、敵限定よ」

「うふふ、わかっていますわ」

 

 

 

「――っていう話をしてたのよ」

リアスと朱乃さんこええええ!

烏が生きたままの猫の肉を啄むようにって例えが怖いよ!

まぁ、確かにあいつにはそのくらいがちょうどいいかもな。……そんな瑣末な事は、今はどうでも良かったのだ。

ある日の放課後、ディオドラ・アスタロトと対戦するとこが決まった。

開催日は十日後、なんでも他の神話の人達も顔を出しにくるんだとか。

「トップといえば……高天ヶ原が動いたのは意外ね。武神スサノオ様、それとクシナダヒメ様が来るそうよ」

スサノオ。日本神話における“三貴神”とされる神の内の一柱。とある事情で姉である天照大神を天之岩戸に引きこもらせた原因の神。

武神だけでなく、嵐神、破壊神、根の国の神、海神としての側面も持つ神である。

高天ヶ原を追い出された後は、霊妙を喰らう狂龍(ヴェノム・ブラッド・ドラゴン)八岐大蛇を天羽々斬(あめのはばきり)により討伐し、嫁まで娶った上に天叢剣(あめのむらくものつるぎ)を姉に貢いだお陰か、罪を赦され嫁共々高天ヶ原に舞い戻る等、大金星といえる人生……神生? を送っている。リア充じゃねーかしね。

「高天ヶ原も『テロには反対』としているわ。管理委任しているとはいえ、自分達の作った国が荒らされるのは腹が立つ、というのが高天ヶ原に住まう神々の見解ね」

「……成程」

と、ここでがちゃりと戸が空いて、万さんが入ってくる。

「最も、高天ヶ原の神々の殆どはその後に『旧魔王派撃破記念』と称して宴会をしたいだけなのよねぇ……」

「七海、やっときたのね」

「ええ、八坂のババァと北欧のジジィに絡まれてね」

や、八坂のババァって……たぶん、あの八坂さんだよな? んで、北欧のジジィ……オーディン様か?

「今日はね、万に聞いて欲しいことがあったのよ。日本神話に詳しいあなたならもしかして、と思ってね」

「……いいよ。グレモリーと繋がりを持つのも悪くない。いってみな?」

「……今、“鬼”達はどうしているのかしら?」

「……ふぅん。鬼と来たか。よく知ってるな」

「昔の文献を漁れば、ちょっとはね。それに、沖田さんから聞いたものばかりよ」

「……幕末のあのガキか。よくもまぁ立派になったもんだ。で、鬼だったな。極少数を除けば殆どは地獄で仕事をしているぞ。一部の小鬼達は地上で悪さをしてるがな」

「……それは聞いたわ。私が知りたいのは、その“極少数”よ。上手く利用できればテロ対策にも使えるじゃない?」

「……知ってるには知ってるが、どいつもこいつもそう簡単に卸せるような相手じゃないぞ。それに、私も二人ほどしか知らん」

「それでも、よ」

「……いいだろう。伊吹鬼は酒の飲み歩きと称して世界を飛び回っている。星熊童子は修行中毒だからな、霊山やら霊験あらたかな滝なんかにいると思うぞ。あとは……うーむ、この位か。酒呑童子はどこかで居酒屋を開いたと聞く」

「……ありがとう。それだけでも充分よ」

……ん? なんか話が終わってたな。

「用はこれだけかしら? なかなか私は多忙なのよ。用がないなら帰るわよ。おつかれー」

「今度は用件なしにゆっくりと茶でも呑みながら話しましょう」

「用意するなら酒になさい。極上の日本酒を頼むわ」

「はいはい」

他愛もなさそうな会話が終わり、万さんは帰っていこうとして……俺を見た。

「……へぇ、今は“紅”なんだ」

そう呟くと、去っていった。

あの言い回し……気づいているのか?

その問いに答えるものはいなかった。


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