二天龍が笑った   作:天ノ羽々斬

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決着

パシャリ、という小さな水音がする。

汗と多少混じったために効力を少しだけとはいえ失わせたものの、それの威力ははかり知れぬものだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

右腕が灼けるように熱い――いや、痛い。

くそ、痛みでどうにかなりそうだ……。

「はは……こういうの、趣味じゃねぇけど、せめて、このくらいは、な……」

由良さんはそう言いきると、がくりと気絶し転移の光に包まれる。

どうやら、フェニックスの涙を反転させて俺にかけたらしい。手元が狂ったのか、右手にしか当たらなかったのが幸い、か。匙との戦闘後でなければ普通に避けられるようなものだったが――魂鎧解除直後の数瞬の硬直時間を狙われたみたいだ。

『ソーナ・シトリー様の『戦車』、リタイア』

――ああ、してやられたよ。

慢心ゆえだ。ああ、くそっ!

一過性のためか、痛みはすぐに引いた。だがダメージを受けすぎた。

『イッセー、不味いぞ、今攻撃されれば――』

分かってる。――ガウェイン、体だけ動かせるか? ぐ、本陣に戻ればアーシアがいる。このダメージなら回復しねぇと……。

《できるよ、任せて。痛覚はそっちで頼むよ》

ああ。

覚束無い足取りで俺の体は動き出す。

ぐっ、いてぇ……

 

 

「……イッセー先輩」

「イッセー君なら大丈夫だよ」

確証もない言葉をはく僕。

「――! 敵ですぅ!」

「っ!」

ギャスパーくんの声に反応しそこを見ると――あれは巡さんか!

「くっ……このままでは分が悪いな……」

「逃がすものか!」

僕は彼女に素早く近づくが――

「そらっ!」

ぷしゅ、という軽い音と共に僕の目になにかが入る――

「うぐっ!?」

催涙スプレーか! こ、これはきつい! 痛い!

「お前たちと一人で戦うほど無謀ではない! 先を急がせてもらうよ!」

ぼやけた視界で、彼女が床になにかを叩きつけ、そこから煙が発生するのが見えた。

 

 

「……けほ、撒かれました」

「しかたない、各階をしらみ潰しにしていくしかないな……」

「はいぃ……取り敢えず近くにはもういません……」

……僕のせいか。彼処で催涙スプレーを避ければなんとか出来たものを……。まだまだ未熟ということだ。

と、ここで部長から通信が入る。

『皆、イッセーがダメージを負いすぎたみたいだから本陣に帰還するわ。イッセーが帰還次第、イッセーが戦列に加わるはずよ。だから――あなたたちはそのままシトリー本陣の捜索をお願いね』

これだけ伝えると、部長は通信を切断した。

――よかった、まだ大丈夫そうだ。

会長の残りの駒は三つ、なら――引きこもる位しかやることがないだろう。

じり貧だが、各個を集団で撃破すれば――となるはずだ。

「僕とギャスパーくん、小猫さんとゼノヴィアで別れて捜索しよう。これなら大丈夫な筈だ」

「……そうですね、わかりました」

「了解ですぅ」

「わかった。私たちは三階から四階を探そう。そちらは一階、二階を頼む」

「わかった」

……しかし、ここまで何もないと変だな。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

「――そう、リアスの眷属が本陣に? ええ。私は本陣へ強襲を行うわ」

 

待っていなさい、リアス――これで、最後よ!

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

ガウェインの強行軍によりなんとか本陣1Fにたどり着いた。もちろん、そこにはアーシアとリアスがいる。

「イッセーさん、こっちです!」

「……早めに頼む!」

アーシアが此方へ駆け寄ると、ぱぁ、と緑の輝きが俺に当たり、傷をみるみる癒していく。

「……駒は揃ったわ。そうでしょ――ソーナ」

カツ、カツ、という靴の音。

「ええ。よくわかったわね」

その方向へ向けば――ソーナ会長! どうしてここへ!?

「全く……賭けに近かったわ。流石はソーナね」

やれやれ、と肩を竦めるリアス。すげぇ、これが読み合い、ってやつか!?

「こちらも予定とはかけ離れてしまいました。リアスも力業だけでは無いということも身に染みましたわ」

「あら、それは次が怖いわね」

と、ここでアナウンスが入る。

『ソーナ・シトリー様の騎士一名、兵士一名、リタイアです』

……木場たちか! やってくれる!

「――――さて、もう言葉は無用ね」

「ええ。リアス、一騎討ちよ。貴女を――倒す!」

「来なさいっ!」

リアスは静かな滅びのオーラを、会長は様々な水で出来た生物を模したものを作り出していく。

二人の魔力は洗練され、なおかつデパートを破壊しない考慮がされていた。

俺達は邪魔にならないように移動しておいた。今のままでは闘うにも戦えないからな。

蒼の会長と紅の部長。水のように静かで変幻自在な会長と、滅びのように無慈悲で優しいリアス。

 

 

 

 

――それは衝突した。

 

 

 

 

激しく静かに攻め合う。余裕も油断も全部捨てて、自分の持てる手札を切って戦った。

 

 

 

 

そして――ついに。

リアスの一撃が彼女にあたり、それにより生じた隙を逃さず、会長へ魔力をいくつも撃ち込み戦闘不能になるまで会長を追い込んだ。そして――

 

 

 

 

『ソーナ・シトリー様の投了(リザイン)を確認。このゲーム、リアス・グレモリー様の勝利となります』

 

 

 

 

 

 

――闘いが、終わった。

 

 

 

 

 

 


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