「……妙だ」
「……先輩?」
俺たちは三階――婦人服売り場にいる。二階と一階を
――そう、全くだ。
これはおかしい。
戦車、女王、騎士1、兵士と僧侶2――これがシトリー眷属のすべてだ。
匙と由良さんは見た。他の眷属――というか、女王、騎士、戦車の三人は木場とゼノヴィアの方へ行った筈――まてよ、その由良さんと俺はあってるじゃねーか。
バランスブレイクに至っていない俺。変えられた策略。
――チッ、罠か!
嫌な予感がする。どうする?
……そうだ。
「小猫ちゃん、仙術の知覚範囲はどのくらい?」
「……直径10メートルくらいです」
「わかった。ギャスパー、お前の捜索範囲は?」
「20メートルが今のところ限界ですぅ」
それ以上離れられると不味いな。敵は待っちゃくれない。
相手が上手く距離をとりつつこちらが不利な場所に連れ込まれれば……やられる。
なら、考えるべき対策は――これしかない!
あえて通信で告げる。
『小猫ちゃん、ギャスパー。敵を探すフリをしてこのエリアの俺たちの戦いやすい場所に移動するぞ、多分遠距離でつけられてる』
『! 了解です』
『り、了解ですぅ』
狭いデパートで広い場所は――立体駐車場だ!
―○○○―
立体駐車場には、トラップが張り巡らされていた。嵌められた……。
小猫ちゃんの力で幻覚の類いだとわかる。
立体駐車場の中には車が存在していないように見えるが――恐らくある。
そして、どこからともなく魔力の攻撃が飛んでくる。一撃一撃は強くなく、弱いが……雷なのが不味い。気絶を狙った電圧の強いものだ。弾けない訳じゃないけど、このままではじり貧だな……
――どうする?
どうみても誘い込まれている。
わざわざ一ヶ所だけ攻撃が薄かったり濃かったりする。
……テクニックかカウンターか。
「どうする?」
小さく聞いてみると、小猫ちゃんが言う。
「……仙術を使います。ギャーくんが言うには視覚を惑わすだけのものらしいです。感覚をひとつ潰せば、少しですが距離が延びます」
ぴょこ、と猫耳が現れ、尻尾も生える。
そして、目を閉じる。
「……! 先輩!」
……っ、不味いな、まともに食らっちまった。いくら昇格しているとはいえ、非常に不味い。小猫ちゃんを庇ったのだ。
『小猫ちゃん、どこにいる?』
『……私から見て4時と10時の方向、12m程先に二人います』
了解。
距離予測……位置予測……よし。ビット展開。
――狙い撃て!
「スナイプ・ドラゴンショット」
俺のてのひらから飛び出した細い一撃はあらぬ方向へと飛ぶ。
そして――それをビットが弾いて方向を変える。かなりの速度で放たれたそれは彼女らへ向けて飛ぶ!
「きゃ!」
「ぐっ!?」
声が聞こえたとたん、幻覚が消えて二人と数台の車が現れる。
「今だ!」
「……はぁっ!」
「えいえいえいえい!」
俺の号令により猫のような素早さで近づいた小猫ちゃんがボディーブローをかまし、ギャスパーの呪詛連続攻撃が追撃する。というかギャスパーの呪詛がえげつない。幻覚により恐怖を見せているらしい。
呪詛とボディーブローにより気絶してしまった二人は光に包まれ、消える。
『ソーナ・シトリーさまの『僧侶』リアイア』
よし!
「よし、屋上を――ん?」
がしゃん!
頭上から――水の格子が降ってきた。
不味い――!
「逃げろ!」
俺の言葉に反応した二人は、即座に逃げ出す。
小猫ちゃんは猫のような素早さで、ギャスパーは霧になって逃げ出す。
俺は――今さらさっきの雷の反動が来ていた。
水の格子はゆるゆると蠢くと、俺を縛り上げた。
――これでは、行動ができない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『――ということです』
『――了解』
イッセーからの報告を聞いて、私は嘆息する。
――嵌められた。
幸い、ギャスパーと小猫が動ける。ならば――
『小猫、ギャスパー。イッセーを置いて一旦こちらに戻りなさい』
それと、と私はイッセーに向けて告げる。
『イッセー。貴方は魂鎧でそれを引きちぎって匙くんか真羅さん――女王を探しなさい。どちらかを潰せば攻略の幅は広がるわ』
『了解!』
『……了解です』
『り、了解ですぅ!』
私は落ち着くために珈琲を飲む。
「リアスお姉さま……」
「心配はいらないわアーシア。全部“予定通り”よ」
私は朱乃とゼノヴィアに通達する。
『朱乃。――駐車場側の入り口から攻めなさい。ゼノヴィア――祐斗と共に本陣付近のクリアリングを』
『了解ですわ』
『『了解』』
さぁ、ソーナに教えてあげましょう。
私がただの甘い愚凡では無くなったと言うことを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「遠つ神 笑み賜え 闇夜を照す輝き 月読命 降りましませ」
「……」
「『久しいな、紅い悪魔よ』」
「お久しぶりでございます、月読様」
「『よい。で、わざわざ7代を使って妾を
「ええ、私めの
「『そうか。よいぞ、異国のあやかしよ。神道は来るもの拒まぬ』」
「は、ありがとうございます」
「『……見えるぞ。ふむ、では妾から言を授けようぞ。……“紅い竜と夢幻竜、死の狭間にて出会いし時、運命の禊は彼の者を縛り上げる”』」
「それは」
「『“紅い竜の名、兵藤一誠。異形達の冥府の未来は彼の者が全てを巻き込む”』」