だめだ、筆が乗らない……
翌日。
「じゃあリアスたちに訓練メニューを伝えるぞ。まずはリアスからだ」
アザゼル先生が自分達に訓練メニューを考えてくれた。
俺はたぶんあの龍とおいかけっこなんだろうな。アハハ……
「リアス。お前はまず『王』の勉強だ。まだまだ未熟だが、磨けば光る。火力は充分だからな」
「……ええ、わかったわ。同時進行でやりたいこともできそうだし」
「何をやるんだ?」
「名付けるなら……
「ほう。並列思考による思考速度・判断力の上昇か。やってみろ」
むむ、リアスはなにかやるみたいだぞ?
「次は朱乃と小猫。お前らは自らの血を受け入れろ」
「っ!」
「……」
険しい顔の朱乃さんと苦しそうな顔の小猫ちゃん。やっぱり……悩んでるんだよなぁ。
小猫ちゃんは猫魈。朱乃さんは堕天使のハーフ。
小猫ちゃんは兎も角、朱乃さんは……うむむ。乳語翻訳なんて出来るアレじゃないしなぁ。
……よし。決めた。
「前のレーティングゲームの映像を見たが……なんだあれは。本来の力を出せば負けなかった筈だ」
「……私は、呪われた力など使わなくとも……っ!」
朱乃さんはそう言うが、それを無視せぬ者がいた。――リアスだ。
「そうもいってられないのよ、朱乃。これから戦いは激化していくわ。禍の団だけじゃない。他の神話体系が攻めこんでくるかもしれない――他でもない、駒王に……。無理にとは言わないわ。せめて、そのくらいの覚悟はもってちょうだい。他の皆もよ……私達が鼾をかいてのんびり出来るような状況じゃない。それだけは、ね」
リアスの言葉に皆押し黙り、小さく返事をした。
「……続けるぞ。木場は師の元へ行くんだったな?」
「はい。師匠の所で鍛え直してもらうつもりです」
「そうか。なら――聖魔剣の創造の持続時間を伸ばせ。最低一日はもつようにしろ」
「……これは、難しい注文だ。わかりました、やってみます」
ふむふむ、ここらへんは大体一緒だな。
「私はデュランダルの扱いを鍛え直すよ。聖剣と対話してみる」
「なるほど。アーシアは回復のオーラを飛ばす訓練だな」
「は、はい、がんばります!」
うむうむ。
「アザゼル先生、俺は?」
「おまえは――」
アザゼル先生がなにかを言おうとしたとたん、上から降ってくる……ドラゴン。
「――こいつとサバイバルだ」
そのドラゴンの名は、『
元龍王の、転生悪魔だ。
「アザ坊。赤龍帝を鍛えればいいんだな?」
「ああ。程々にな」
「わかった。生かさず殺さずだな」
「ああ」
俺はタンニーンのおっさんの方へ近づく。
「よろしくお願いします」
「任せろ。お前をいっぱしのドラゴンに鍛えてやる。乗れ!」
おっさん、やっぱ頼もしい!
俺は背に飛び乗ると、部員の面々をみて言う。
「皆も修行がんばってくれよ!」
それだけ言い残すと、俺はタンニーンのおっさんと共に大空(紫)へと羽ばたいていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「我、グレートレッド倒す」
『……チッ、駄目か。記憶がとんでいるな……』
「グレートレッド、独り言うるさい」
『……夢幻螺旋の彼方へ。前の世界から次の世界へ……。抜けられぬ蟻地獄……』
「グレートレッド、ポエム言ってる。痛い子?」
『ああもう、違うって』
「……?」
『その『えっ、違うの?』とでも言いたそうな目を向けるな』
「グレートレッド、痛い子じゃないの?」
『ああ、もう!』
「やっぱり、グレートレッド、痛い子。我、グレートレッド倒す」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
並列思考――言うには安し、やるには難き。
同時に複数の事柄を思考する。
将棋を口頭で打ちつつ普通にチェスをさす。
「76飛、王手」
「残念、同桂」
「ううっ……ナイトをFcでチェック。68歩、成って王手」
「キャスリング、チェック。同王」
「く、38王、クィーンDc」
「悪手だぜ。Daナイト、チェック。37歩、王手」
「あー…………詰みね……投了よ」
私はアザゼルとそれをやっていた。思っていた以上に難しい。
「おーし、次はこの参考文をだな……」
私の修行はまだまだ続く。
片手間で魔力操作訓練をしつつ参考文を読み始める、私だった。