俺達は瞬間的に飛び出す。
「破ァ!」
「んー、まだまだとどかんよー」
まずヴァーリが魔力弾を撃ち込む。が、それはなにかに阻まれる。これは予想の範疇だ!
「『疾っ!』」
次に俺が背後に回って一気に魔力砲をぶっぱなす。
「ぬぅん!? ぐぅ、もらっちまったか」
俺の魔砲で怯んだ隙に、そのまま殴る!
「…………!?」
くっ、この障壁みたいなのは物理攻撃も効かないのか!?
「くぅ、いいコンビネーションだ! まるで互いが繋がってるようじゃないか! いや、繋がってるんだな! いいぞ、もっと俺を燃えさせろぉぉぉぉ!!」
どぉん、と黒のオーラが爆発する!
くそ、強い!
「よぉし! こっちもこのままじゃじり貧だ、切り札切るぜぇ!」
黒のその言葉に聞き覚えのない制止の声が入る。
『斬ッ! これ以上は危険だ! お前の体は……!』
「っせぇな黙っとけリントヴルム! 俺の体だ、俺が一番わかってらぁ……!」
『斬……!』
この声は……? あの漆黒のオーラ、まさかとは思ったが……リントヴルム。
『
彼女は胸の辺りで人差し指と中指を出す。いわゆる刀印というやつだ。
「いくぞ赤、白ぉ! ……秘技『分身の術』」
すると、どうだ――彼女がぶれはじめ、別れはじめる!
本当に忍術を使ってんのか!?
『さぁ、やりあおうか!』
万事休すか?
いや、案ずることはないな。そうだろう? ヴァーリ。俺たちなら敵が千人居ようが吹き飛ばせる!
『6min』
しかし、もつのか……?
彼女が長い刀を逆手に持ち横に構える。
と、突然彼女の背後に一人の男が現れる。それにより彼女のぶれはおさまり、分身は消える。
「斬」
「アーサーよぅ。まだ時間は……」
「そうじゃない。ただ……私も混ぜてもらおう!」
「わーったよ……!」
アーサーは腰に差している一振りの剣を抜く。黄金の剣――カリバーンか!
そして、もうひとつの、腰にあるものは――
……!
りぃん、りぃん
俺のペンダントが共鳴している。
《来たね……! エクスカリバー、カリバーン、そしてもう一本の聖剣……『3つ』そろったんだ、目覚めの時さ。僕に続いて唱えて》
なんだかよくわからんが……こうなったらなるようになれ!
《湖の乙女に託されし太陽よ、我が声に応えよ》
「『湖の乙女に託されし太陽よ、我が声に応えよ』」
「っ、その祝詞は!」
狼狽えるアーサーを無視して俺達は続ける。
《太陽の騎士の名において命ず》
「『太陽の騎士の名において命ず』」
俺達は無意識のうちにペンダントを握りしめ、掲げる。
「『《我が呼び答えに応じ顕現せよ! 陽の権化ガラティーン!》』」
俺の手に、一振りの剣が現れる。
それは太陽のように煌めく、白い刀身をもつ片手剣。
「
ブツブツと何かを呟くと、アーサーはこちらに剣を向ける。
「さぁ、死合を頼もうか、陽剣の使い手よ!」
「『望むところだ、聖剣使い!』」
その言葉を皮切りに俺とアーサーは斬り合う。
剣と剣がぶつかり火花を起こす。
一方、ヴァーリと斬もぶつかりあいをしていた!
ぶつかり、弾け、斬り、殴る。
ガラティーンは目覚めたばかりな上に今は夜だ。本領を発揮していない。けれど、それでも聖剣の力は本物だ。空間ごと抉りとるカリバーンを相手に打ち合えている。
戦いは激化し、回りのはぐれ魔法使いたちも戦闘の余波で吹き飛んで行く。
『2min』
不味いな。残り時間が少ない――――っ!?
俺の視界に突如入ったもの、それは――
幾つものロケット弾。
「『ちぃ、ホーミング・ドラゴンショット!』」
俺の両方のてのひらから幾つもの小さなドラゴンショットが放たれる!
それらは寸分違わずロケット弾を撃ち落とす。
「っ!?」
そして、煙の晴れたその先には……黒い軍隊。
騎士団だとか、一個小隊だとか、そんなレベルじゃない。
軍隊。師団クラスの軍勢だ。およそ一万の無機質な兵隊たちがこちらに――いや、アーサーと斬に黒々とした銃口を向けている。
『斬、アーサー、撤退しろ。アース神族共のところへ行くそうだ』
合成音声だ。誰だ?
「……チッ、英雄派の差し金か!
悪態をつき動きを止める斬。というか禍の団じゃない?
「……これだけの軍勢を我々で相手取るのは今の状態では無理だ。帰るぞ」
「ちくしょー……ゲホ、ゲホァ! ……ちっ……」
斬は苦しそうに咳き込む。病気か何かなのか?
「んじゃ、ちょろっと心苦しいがばいならだ、赤に白。煙遁!」
彼女は地面に癇癪玉のようなものを叩きつけると、勢いよくあり得ない量の煙がそれから吐き出される。
「あー、そういえば最後にひとつ! 龍咲の子に伝言だー! 龍咲家は禍の団に入ってるからなー」
その言葉を聞くと、二対の黒い翼を生やした龍咲さんは舌打ちする。
「チッ……やはりか」
煙が晴れれば、そこにはきれいさっぱりなにもなかった。
取り敢えず、今回の襲撃の幕は降りた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ザ・バット!」
「俺は傭兵。命をカネにする火薬のにおい染み付く最低野郎さ。今回も英雄派の依頼を受けたに過ぎない」
「本当に火薬臭いな。むせる」
「……斬。そろそろお前の薬の切れる時間だな」
「……俺の病、か。ケホ、ケホッ……いつもこいつが邪魔をする」
「……水だ」
「……毒いれてねぇよな?」
「さぁな」
「食えねぇ野郎だ。アーモンド臭いよ」
「むせるか?」
「あぁ、むせるよ……自分で水汲んでくるわ」
「全くどうして、純粋で無垢だな……血で濡れた俺とは違う」
(でも、もし選択肢が違ったのなら、あのようにしていたのは俺だったのかもしれない……何故か、妙な焦燥が背中を駆け巡った)
禍の団の手を逃れた一誠を待っていたのは、また地獄だった。破壊の後に住み着いた欲望と暴力。百年戦争が生み出したピンク街。性欲と野心、頽廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは駒王町のゴモラ。
次回「ヴリトラ」。
来週も一誠とおっぱい地獄に付き合ってもらう。
無論、嘘予告だ。