二天龍が笑った   作:天ノ羽々斬

4 / 130
驚きの人物がイッセーと出会います。それは、彼と彼女の運命を大きく変えることになる……かも。


輝く赤と煤けた白

「イッセーくん、あそぼうよー」

おっすみんな、俺イッセー、五歳だぜ!

「ねー聞いてるのー?」

あれから殆ど変わらない日々を続けて、俺も晴れて幼稚園児だ。いやー、何だか長く感じたぜ。

「むー。無視するなら……えいっ!」

「ノーン!」

だ、大事な所が! キャン球が! ゴールデンボールが! 俺の金のたまがぁぁぁぁ!!

蹴りあげられたッ! 誰だ!?

……って、なんだイリナじゃねーか。

「イリナかい? 痛い、痛いよ」

「イッセーくんが無視するからでしょー! ほらほら、ヒーローごっこやろーよ!」

「こら、服引っ張んな、延びる」

「はやくはやくー!」

元気にはしゃぐ栗毛の幼女。彼女こそ、紫藤イリナである。

イリナにもこんな時期があったんだなぁ、と思う。

「イリナがひーろーで、イッセーくんは『かいじんおっぱいどらごん』ね! おっぱいを狙うわるーいドラゴンなのー!」

『またおっぱいどらごんか!? またおっぱいどらごんなのか!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!』

涙目のドライグが頭に浮かぶぜ……ごめんよドライグ。やっぱり俺はおっぱいドラゴンだったよ。

……オーディンのじいさんが『かわいそうなドラゴン』で童話が作れるとか言ってたけど、確かにそうかもしれない……そう思うと余計に申し訳ない。

「じゃあやるよー! でたなかいじんおっぱいどらごんめー! このイリナがせいばいしてくれるわー!」

おいおいノリノリだよ。しかもこれは辻斬り仮面ヨームじゃねーか。

しかたねぇ、乗ってやるか!

「でたな辻斬り仮面め! 貴様のおっぱいももみやすそうだなー!」

そういうと、イリナは木の棒を剣に見立てて構える。

「だまれ、あっきようまにとりつかれたあくにんめ! おれはおとこだ! がまんならん、たたっきる!」

あまり呂律回ってねぇなイリナ……そのうち舌、かむぞ。

「うぇあ!?」

って、あぶねぇえええ! イリナのやつ本気で当てに来てやがる!

「いくぞ、とどめだ! ちれ、あくにんめ! ひっさつのぉ、ささがきぃぃぃぃぃぃ!」

木の棒でささがきをかけるように俺を切る。あたってねぇけどさ。

「ゴボウのようにおろされたぜ……がくっ」

ちなみに、辻斬り仮面の必殺技は全てが包丁を使った切り方の名前である。半月切りとか、削ぎ切りとか、銀杏(いちょう)切りとか。どんなヒーロー物だよ、って話だが。

そしてイリナはびゅっ、と木の棒を振り、こういったのだった。

「切れぬものなど、それほどない!」

どこぞの庭師が頭のなかを掠めたが俺は言うのをやめた。

 

ー○●○ー

「あっ、そろそろかえらなきゃ! じゃーね、イッセーくん!」

「おう」

公園の時計を見ると、午後四時である。過保護だねぇ。俺んちは五時までだけどな。

さて、暇になってしまった……ここから家まで5分かからないしなぁ。ドライグ、なんか面白いことない?

『……おっぱいこわいよぉ……』

なんかドライグが最近可愛く見えてきたんだが……

こんな状態じゃあ暫くは無理だな――――ッッ!?

公園に突然魔方陣が現れる! なんだあれは!?

あの紋章、どこかで……ッッ!

思い出したぞ! レイヴェルに教えてもらったやつの一つだ。あれは……

 

 

 

旧ルシファーの紋章だっ!

俺は慌ててドライグを呼び起こす。ドライグ、ドライグッ! しっかりしろ! 旧ルシファーの紋章だッ! しかも、あの魔方陣の構成から見るに、強制転移の魔方陣だ! 何度も見たことがある。

『おっぱいこわいよぉ……って、なんだと!?』

何が来る!? まさか、初代ルシファーか!? 

それともヴァーリか!? 魔方陣が輝き、そこから出てきた存在に俺は驚いた。

 

くりくりとした可愛らしい、しかし虚ろな金の瞳。

 

白いワンピースを着ている。

 

そしてなにより、ヴァーリそっくりの特徴的な色合いの銀髪をもっている、

 

() ()

 

 

「きみだぁれ?」

 

俺は動揺を必死に押さえて少女に問う。

少女はその虚ろな瞳を俺に向け、こう言った。

 

「はじめまして、私、ヴァーリ・ルシファー。五歳です」

 

 

―――――――それは、変わり果てたライバルとの再会だった。

 

ー○●○ー

 

 

ヴァーリと名乗った少女。彼女は深い傷を負っていた。

ぽつりぽつりと独り言のように彼女が語ってくれた記憶、それは残酷だった。

……父親に、迫害されたという。穢れた血の上に、忌み嫌う力をもった忌み子だと。

そして、その迫害を促したのが、父親の父親。……名前は言わなかった。

そして、それに耐えきれなくなって人間界に飛び出してきたらしい。

俺は慟哭したよ。仮にもライバルがこんなことになってるなんて、さ。

しかも、さっきから左腕が疼きっぱなしだ。闇の思念が送ってくる。白龍皇と戦えー、憎き奴を殺せーってよ。

でも俺は徹底的に無視を決め込む。だって、こんな少女を殴れるわけないじゃないか。

……ドライグ、すまないがこいつらを抑えててくれるか?

『分かった。白いのの宿主は任せたぞ。あんな状態では戦うことすらままならん』

ありがとよ、ドライグ。

俺は少女の目をじっ、と見る。

「なぁ、ヴァーリ」

「……何?」

虚ろな瞳を俺に向け、首をかしげる。……見てらんねぇよ、こんなの。

「俺はさ、その……難しいことはよくわかんねー。でもさ、お前は……何をしたい?」

「何、を、したいか?」

虚ろな瞳に少し輝きが戻る。いいぞ、その調子だ。俺は必死に俺の気持ちをぶつけるだけだ。

「そうだ。たとえば、俺は――強くなりたい」

「なん、で?」

「……強い男になるためだ。そして……いつか現れるライバルとの決着をつけるため」

「……ッ」

少女は動揺を瞳に写す。俺は気にせず続ける。

「なぁ、ヴァーリ。お前は……何をしたい?」

少女は、瞳からぽろぽろと涙を流しながらこう言った。

 

「俺は……僕は…………私は……生きるッ! 私は、生きてッ! 戦いたいッ! いつか現れるライバル達と! そして……あなたの名前を知りたいっ!」

 

俺は笑顔でこう返した。

 

「俺は兵藤一誠! イッセーって呼んでくれ!」

「……イッセー! よろしくね!」

そういったあと、彼女は笑った。

その時のヴァーリの笑顔は、まるで花が咲いたようだった。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

俺は、心が死んだ。

常に俺に食らいついて、アルビオンの力すら飲み込んだ、俺のライバルになるはずだった男、兵藤一誠の死亡。

……いや、消滅。

俺の心は真っ白に消し飛んだ。

兵藤一誠、貴様はッ! 俺を倒すのではなかったのか!?

ふと、十字架に磔になっているサマエルを見る。

こいつか、こいつか、こいつか、こいつか、こいつかッ!!

「ぅぁああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

『やめろヴァーリッ!!』

俺は無我夢中で奴に攻撃をしかけ……あっさりと呪いにかかった。

闇のなかに落ちて行き、そして。

俺は消えたはずだった。

 

「貴女は今日からヴァーリ・ルシファーよ」

 

神が居たのなら、それはそれは残酷な運命だと思った。俺は女の赤子になっていた。

 

……目に写るもの全てが下らない。

俺は何にも関心を示さなかった。

それを気味悪がらずに育ててくれた母には、感謝する。しかし、それだけでは終わらなかった。

「この、忌み子め! 龍の力などを宿らせて!」

「うひゃひゃ、そうそう、そうすればいいのさ」

祖父に促された父が俺に暴行を加えるようになった。……こんなの、耐えられなかった。

俺はこっそり覚えた強制転移の魔法を使い、人間界に逃げ出した。

そして、人間界にたどり着くと、そこは公園だった。

そして、茶髪の、同じくらいの背の子供が、俺をじっ、と見つめてくる。

「きみだぁれ?」

「はじめまして、私、ヴァーリ・ルシファー。五歳です」

少年は、短パンに半袖という出で立ちだった。

ニカリ、と笑う姿がどことなく兵藤一誠に似ていた。

 

俺は気がつけば自身に起こったことを話していた。悪魔でもなんでもない、人間の少年に。

背中の神器の闇がざわつくが、正直どうでもいい。少年は、うーん、と考え込んだあと、俺に聞いた。

「なぁ、ヴァーリ」

「……何?」

「俺はさ、その……難しいことはよくわかんねー。でもさ、お前は……何をしたい?」

少年の言葉に俺は狼狽える。

「何、を、したいか?」

「そうだ。たとえば、俺は――強くなりたい」

少年は、少年らしからぬ決意を秘めた眼を向ける。

「なん、で?」

「……大事なものを守れるように強い男になるためだ。そして……いつか現れるライバルとの決着をつけるため」

「……ッ」

俺は絶句してしまう。こんな少年が、こんな生き生きとした眼をするのか!

「なぁ、ヴァーリ。お前は……何をしたい?」

 

俺のなかで何かが弾けた。

この少年に強く強く惹かれて行く。

「俺は……僕は…………私は……」

俺の……いや、私の真っ白で煤けた心を真っ赤な色で染め上げてきたこの少年に、私は素直に叫ぶ。

「生きるッ! 私は、生きてッ! 戦いたいッ! いつか現れるライバル達と! そして……あなたの名前を知りたいっ!」

私の叫びを聞いて、彼はニカリ、と笑い、こういった。

「俺は兵藤一誠! イッセーって呼んでくれ!」

なるほど、こいつこそが兵藤一誠だったのか! ……イッセー。名前を呼ぶだけで、心が踊った。

「……イッセー! よろしくね!」

この私のなかに産まれた想いは、根本的に私を塗り替えた。この、訳のわからない暖かな感情と共に。

 

運命(さだめ)とは、こんなにも優しくて、残酷なのか、と。

 

『ぐすん』

 

……アルビオンが泣いた気がした。




はいっ、というわけで、イッセーくんはヴァーリちゃんと出会いました。最近はドライグが可愛すぎて生きるのが辛い。何が辛いって、修学旅行の直後にテストがあるってことだよおおおお。

ほらほら、ちゃんとTSしてるでしょ?

え? ヴァーリが堕ちたって? 聞こえんな……

※誤字修正を行いました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。