朱乃さんに敵の女王を任せ、俺と小猫ちゃんは森を抜けるため走る。
『ライザー様の兵士、三名リタイア』
たぶん木場だな。流石だな……
……残るは戦車1、兵士2、騎士2、僧侶2、女王1。
こちらは、兵士8(一人)、戦車1、騎士1、僧侶1、女王1のフルメンバー。
……実力や駒の強さ等を鑑みても、下僕だけならば恐らく俺達の方に分があるだろう。回復役のアーシアがいるのが強い。
……ライザーは前回の戦いの時、直接本陣に乗り込んだ。だから一応の対処のためにアーシアにアレを渡しておいたんだが……
突然腕を捕まれる。……木場か。
案の定、森の闇から出てきたのは木場だった。
「やぁ。中々上手くいっているようだね」
「そんなでもねぇよ」
木場は褒めるが、俺の中では何一つとまではいかなくとも、上手くいってはいない。
「……イッセー先輩のお陰です」
「気にすんなって、な?」
「……はい」
小猫ちゃんとも会話を終え、俺達は足を早める。
……朱乃さんが負ける確率は大きい。実践経験も相手に比べて乏しく、堕天使の血を受け入れられてない朱乃さんは。それに、もし同じなら……あの女王はフェニックスの涙を有している。仮にリタイア寸前まで追い込んでも涙をつかわれて全て御破算、だ。
……くっ。今の俺では、あの女王を相手した後、ライザーと相手取れるかどうかといえば、答は当然だが「NO」だ。
籠手による出力は、あの時の……サマエルの時の1割にも満たない。
対ヴァーリ……ヴァーリのハーフディメンションにぶちギレた俺の恐らく最高であろうあのブーストに比べれば、今は14回のみ。……厳しいな。
時間の経過は焦りを産み、戦闘は体力を削る。
……不味いな。禁手用に取っておきたい体力が……もう、半分を切ろうか、というところだ。
だが……。
「……イッセー君」
「ああ、わかるぜ。囲まれてるな」
「……どうします?」
走る速度を落としながら、それでも歩みを止めず歩く。
そして、校庭にたどり着く。……やはり見られている。
「面倒だ……どうせ闇討ちになるくらいならば……よし。おいッ、俺達がここにいるのはわかってんだろ? とっとと出てこい
俺の声が木霊すると、一人の剣士らしき女が出てくる。
「貴様たちのような馬鹿がいるとは……私は嬉しいぞッ! 我が名はカーラマイン! グレモリーの騎士よ名乗れ!」
「……僕と君はどうやら同類のようだね。いいよ。僕はグレモリー眷属が騎士、木場祐斗だ!」
カーラマインと木場は互いに走りだし、斬りあいをはじめてしまう。
『Boost!!』
……浪費したくないんだけどなぁ。仕方ない。
「小猫ちゃんッ!」
「……はいっ!」
俺は小猫ちゃんの方に手を向ける。
『Transfer!!』
譲渡。その力を小猫ちゃんに送る!
そして影から残りのフルメンバーであろう連中がでてくる。レイヴェルもいるな。なつかしーっ。
そして優雅に茶をたしなんでいる。テーブルと椅子を態々持ち込んだのか?
『Boost!!』
うむむ。倍加が中々じれったい。
「全く、貴方達は熱血しか居ないのですか……? あちらの騎士も頭の中が剣で埋めつくされているし」
「その点に関しては本当すいません」
何となく謝っておく。
『Boost!!』
レイヴェルは戦わないんだっけか。
「……さて、無駄話はここまでにして、と。やりますか。小猫ちゃん!」
「……力が……いけます!」
『Boost!!』
小猫ちゃんは相手の戦車に突っ込んでいく。そして、俺の前には僧侶二人に騎士一人。
俺は迷わず騎士に向かってダッシュする。
『Boost!!』
……よし、もういいかな。
『Jet!』
背中の魔力噴出口から炎を吹かして突貫する!
「ふっとべよ」
「なッ」
相手の騎士が反応する前に、相手の懐に飛び込み掌低を撃ち込むように左手をつきだし。
『Explosion!!』
爆発的な倍加。……いくぜ!
「ドラゴンショットォ!」
「っっっぁぁぁあ!?」
赤い魔力が迸り、魔力の奔流に巻き込まれる騎士。
……どうだ、いったか?
『ライザー様の騎士一名、リタイアです』
ふぅ。やったな。
『Reset』
体から力が抜ける。不味いな……魔力を使いすぎたか?
「くっ、恐ろしい攻撃力ですわ」
戦くレイヴェル。
「やるか?」
「止めておきますわ」
そうか。ならやめよう。
「それに、貴方は急いだ方が良いですのよ? ――――ライザーが……御兄様が、動き出しましたの」
……そうだ、そうだったな。
しかし、まだ敵が残っている。……朱乃さんがまだ持っているのなら。
『リアスさまの女王、リタイア』
くっ、駄目か! ……ドライグ! 禁手の方は!?
『残り25秒、といったところだな。もうこれ以上の戦闘は危険だ。禁手化をするならさっさと行け』
……分かった。
俺は小猫ちゃんと木場の方を向く。
『Boost!!』
持ってくれよ……。
『Transfer!!』
木場と小猫ちゃんに譲渡。これで暫くはもつ筈だ。
「すまん、木場、小猫ちゃん! ここは任せてもらえるか!?」
「凄いね、これが赤龍帝の……分かった、時間稼ぎをしてみるよ」
「……大丈夫です」
『代償なしの禁手の残りは20秒だぞ相棒。どうする?』
急いで新校舎に向かい、アイツをぶっとばす。
『単純だが……ははっ、それがいい。行くぞ、相棒』
おう!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
旧校舎から、私はアーシアを連れて皆のいる校庭へと向かう。
「……あの」
「なにかしら? アーシア」
「……イッセーさん達は、大丈夫なのでしょうか?」
「……大丈夫よ、きっと……ッ!? ライザー!?」
ライザーが炎の翼をはためかせながら現れる。
「……リアスっ、ここで眷属を焼き尽くされたくなかったら新校舎に来い」
眷属を焼く……おそらく、ライザー個人でも易々とやってのけることができるのだろう。
「……嫌、といったら?」
「何、こうするだけさ」
ライザーはアーシアの方を向き、手をつきだしいきなり炎を撃つ。不味い、対応が!
「きゃぁっ!?」
アーシアが思わず身を屈める……すると、アーシアの首元が光る!
あれは!?
赤の優しい、しかし雄々しいオーラを放ちながら、
あの赤いオーラは、赤龍帝のもの。ということは、イッセーが?
イッセーがアーシアに渡していたときの会話を思い出す。
“アーシア、これをもっていてくれ。もしものとき、必ず守ってくれる”
そうか、あれはそういう……っ。イッセーの思慮深さに感銘を受ける。まさか、私と共にいるアーシアを狙うとは思ってもみなかった。イッセーはそれを予見していた?
「……チッ。どうするんだリアス? 大人しくついてくるのか? 一騎討ちの場面を与えてやろうというんだ。当然だよな?」
急かすライザー。……何に、怯えているのかしら?
「……ええ、勿論よ」
焦る私。いけない。
駄目よ、焦燥に駆られては。
落ち着きなさい。私はリアス・グレモリーよ。
王らしく、堂々としなければ。
――――兵藤一誠、代償なしの禁手残り時間、15秒。
因みに、残り秒数というのは、“なにもしていない状態”での残り秒数です。その他の行為を一切合切無視した状態ですので、実際はもっと少なく……