翌日。
一応、木場に昨日の事を話してみる。
「朱乃さんならなにか知っているんじゃないかい? 朱乃さんは部長の懐刀だから」
成る程、知っていた。
そんな漫才を心のなかでしていて、旧校舎に接近したとき。
――――この感じ、奴かッ!
いや、そんなの感じなんかないんだけどね。
本当はグレイフィアさんいるのを、知っているから。
そして、ずんずんと進んでいき、部室の目の前までたどり着く。すると、木場が突然立ち止まり、冷や汗をかく。
「まさか僕が、ここまで近づいてはじめて気がつくなんて……」
呟く木場。俺は無視する形で扉を開ける。
そこには、眷属の面々と、グレイフィアさんがいた。
俺と木場はソファーに座りながら部長の怒声を聞くことにする。いや、声に聞き入ってるのたぶん俺だけだと思うけどな。変態だって? 馬鹿言うんじゃない、俺はおっぱいが大好きなだけだ。基本紳士だから。おっぱいが欠乏してるけど。
「ハイスクールの間は手を出さない約束でしょ!?」
「今回は事が事です」
行き場のない怒り。人間で言うところの政略結婚ってやつだな。でも、今回は政略というよりは種の保存のため、かな。うーむ、あのときは知識丸抜けだったからあんな風に啖呵を切れた訳で……
「でも……! この紋章は」
リアスが更に反論しようとした所で、突如魔方陣が表れる。
「――――フェニックス」
誰がその言葉を吐いたのか。
その魔方陣から炎がうねりをあげて立ち上ぼり、部室を加熱する。暑いというか熱い。
「……ふぅ。人間界は久しぶりだな」
「……! ライザー!」
「ようリアス」
ライザー・フェニックス。炎を散らしながら現れた男。
俺に限りだが……ホスト被れ種撒き焼き鳥、再び。
―○●○―
「いやぁ、リアスの女王の淹れた紅茶は格別だな」
「ありがとうございます」
朱乃さんの顔が、顔が、笑顔で固定されてる……
怖いっす。目が悪意に満ちてます。
そしてリアスにいやらしい目線を送るライザー。あ、てめ、リアスの肩に手を回しやがって。
「……いい加減にして!」
ダンッ、と部長が机を叩く。そしてライザーの手を弾く。いいぞもっとやれ。
「……分かってくれないかリアス。純系を残すことは悪魔の未来のためにも重要な事なんだ」
「
「……俺は君の眷属すべてを焼き尽くしてでも君を連れて帰るぞ?」
ゴウ、と炎を展開するライザー。グレイフィアさんが話の間に割り込もうとする。だがそんなことはどうでもいい。
――――仲間を、焼く、だって?
「…………おいッ、お前、誰を、どうするって、言った?」
思わず漏れでた己の低い声。
己の物とは思えないほど、低く、暗い。
「……なんだ、お前は?」
驚くリアス、戦くライザー。何故戦く? 俺は……ただの、下級悪魔、だぜ?
俺も、落ち着け。あいつが言っているのは、比喩だ。
「……リアス・グレモリーさまの眷属が一人、『兵士』で、下級悪魔の、兵藤一誠だ」
俺の声色が普段のものになる。
「……そうか」
ライザーの足元に召喚魔方陣が生まれる。
そして、15人もの美女、美少女たち。それとライザーの実妹、レイヴェルが表れる。
「……フルメンバー、か」
「そうだ、羨ましいだろう?」
「……まぁ、な」
まるで、君のような下級悪魔君には真似出来ないだろう、という顔をしている。
「君のような下級悪魔君には絶対に真似出来ないだろう?」
ああ、そうだな。
「ああ、今は、な。俺は必ず上級悪魔まで登り詰めるからな」
「……ふん、その眼、気に入らないな……ミラ、やれ。力の差ってやつを教えてやれ」
「はーい」
ぶん、と棒を振ってくる美少女。俺は慌てずそれを捌く。
「えっ!?」
どうやら避けられると思っていなかったらしい。……その隙に。
「……お休み」
「えっ? ……っ」
トン、と首筋に手刀で一発。ミラとよばれた少女は気絶する。俺はその娘を抱えてライザーに渡す。
「……傷が残らないようにはした。女の子だからな」
「……ふん、少しはやるようだ……イザベラ、ミラをみていてくれ」
少女を受け取ったライザーは眷属の一人に看病を任せる。
「はい!」
俺はライザーを見る。自惚れた火の鳥。
自らの才能を過信し、努力を忘れた、心の強さを無くしてしまった火の鳥。
これでは、ただの種撒きの焼き鳥だ。
とても、勿体無い。本来ならば、死を恐れることもなく無限の命を宿す……そう、考えられるというのに。
グレイフィアさんが口を開く。
「……両家とも、こうなることは予想されていました。では、非公式ながらレーティングゲームで決着をつけることにします」
「レーティングゲーム? そう、お父様達は私の未来をゲームで決めさせようというのね。いいわ、受けてたとうじゃない」
と、威風堂々と宣言するリアス。まぁ、リアスにとっては唯一の逃げ道だからな、受けざるをえないだろう。
「……リアス、俺は成熟していてレーティングゲームでも何度も勝利を納めている。お前達の方が圧倒的に不利だ。善戦できるのは雷の巫女くらいだ。……それでもやるのか?」
ライザーからの意見。当然、リアスにはまだゲーム経験はなく、眷属も未熟者ばかり……そして、朱乃さんや小猫ちゃんはまだ吹っ切れてないし。言外に『やめておけ』といっている。
「やるわ」
「両者の同意が決定されました。では、レーティングゲームの日時を決めてください」
「……十日後、それが妥当だろう。今のままでは俺の眷属に太刀打ちできない」
「……悔しいけど、事実ね。わかったわ、それでおねがい」
こうして、レーティングゲームへ向けての、特訓が、始まった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……ふぅ」
私は一段落の仕事を終え、魔方陣にて、リアスお嬢様の元から帰る。
「あの、少年」
ライザー・フェニックスが仲間を焼く、と言ったとき。
『…………おいッ、お前、誰を、どうするって?』
……あの時。彼の背後には赤い竜が見えた。錯覚だと、信じたいが、確かに見た。
怒れる、赤龍帝を。
「今回の件……あれるわね」
赤い、赤い、ドラゴンによって。