「……部長!」
俺はそう声をあげる。
「イッセー、よく無事だったね」
「……はい、すいません……。でも、この娘……アーシアの神器が抜き取られてしまいました……」
アーシアは息こそしているものの、虫の息といっても過言ではないだろう。
「……そう」
部長がそう呟く。
「部長、もってきました」
も、もってきましたとは……あいかわらずアバウトというか、アグレッシブというか。
ズルズルと小猫ちゃんが引き摺ってきた堕天使を小猫ちゃんは部長の前に投げ捨てる。
「ぐっ……」
呻き声を上げながら目を冷ますミッテルト。
「お目覚め?」
「……はっ、最悪な目覚めだ」
「私はリアス・グレモリー。短い間だけど宜しく」
部長がそういうと、嘲笑を浮かべるミッテルト。
「……ハッ、そうかい。惨めな思いをしてまで生き長らえるなんて真っ平御免さね。さっさと殺せ」
諦めたように笑う彼女。その嘲笑は恐らく彼女自身へと向けられていた。
「そう。ならさよなら」
部長から滅びの魔力が放出され始める。
「……はは、せめて痛みもないように頼むな」
「おのぞみ通り消し飛ばしてあげる」
ゴッ、と魔力が放たれ、滅びの魔力の奔流に飲まれた堕天使は、文字通り消し飛んだ。
そして、堕天使がいた場所に緑色の光と共に指輪が現れる。
「……これがこの子の神器ね」
「はい」
部長は懐から……紅い駒を取り出す。血のように赤い色だ。駒の種類は「僧侶」。
「……部長?」
「今からこの子を転生させるわ、悪魔としてね。あなたが死んでいた所を悪魔の駒で転生させたのよ。この駒は『僧侶』の駒ね」
そういうと、部長は指輪を取りに行き、それをアーシアの胸の上に置く。そして、悪魔の駒も同様に置く。
「説明するのが遅れたけど、爵位もちの悪魔が手にできるのは『兵士』八つ、『騎士』『戦車』『僧侶』が二つずつ、『女王』が一つの計十五体からなるの。普通のチェスと同じね。『僧侶』の駒は一つ使ってしまっているけど、私にはもう一つだけ『僧侶』の駒があるわ。『僧侶』の力は眷属の悪魔をフォローすることよ。この子の神器『聖母の微笑』の回復能力は目を見張るものがあるわ。異例だけど、過去例がない訳じゃないわ。この子を『僧侶』として悪魔へと転生させる」
部長が紅い魔力を纏う。
「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ。今再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔と成れ。汝、我が『僧侶』として、新たな生に歓喜せよ!」
駒が紅い光を発しつつ、アーシアの胸へ神器と共に沈んで行く。沈み込むと同時に、呼吸する音が聞こえる。
むにゃむにゃと口を動かす姿に和まされた。
そして、ゆっくりと目を開けて……
「おはよぅございますぅ……」
「おはようアーシア。全部終わったよ」
今のところは、な。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……以上です」
「……分かった、その報告は確かなんだな? レイナーレ……いや、天野夕麻」
「はい」
「……堕ちきれなかった天使。お前の渾名だよ。……ルキ姉さんと同じ羽根。白と黒の。……まだ天使だった頃のルキ姉さんの忘れ形見」
「……母さんと、同じ羽根」
「そうだ」
「……総督。お願いがあります。私を鍛えてはくれませんか?」
「……俺から見ても、お前はそこそこ強いはずだが?」
「……理由は聞かないでください。ただののろけになりますから」
「……ハァ……どいつもこいつもリア充かよ……ふーんだ、俺だって女の一人や二人くらい……」
「総督?」
「……くそー、みんな身を固めやがって……なんだ、そんなブームか? ブームなのか!? バラキエルは死んだ嫁の事を未だに引きずってるし、シェムハザは嫁自慢ばかりしてくるし、コカビエルだって戦争以外興味ないとか言っときながら愛人を囲ってて……あのピエロのどこがいいんだか……くそー!!」
「アザゼル総督ー!?」
「おれがいちばん女をうまく扱えるんだ!」
「落ち着いてください総督、お気を確かに~!」