第八章 プロローグ
「おお、七海! 来ておったのか!」
伏見稲荷大社。
そこには一人の巫女と狐耳の幼女がいた。
巫女の方は七海だ。いつもとは違う仰々しい太刀を携えているが、相変わらずのんきな顔をしている。
「あら、九重じゃないの。今回はババァが煩いからきたのよ。態々、鹿島から
もう一人の幼女の名は九重。『裏京都』を仕切る御大将の八坂の娘である。
金色の髪と同じ色のかわいらしい狐耳が機嫌よさげにぴくぴくと動き、巫女服からでている九つの金色の尾がゆらゆらとこれまた機嫌よさげに揺らめいている。大きな目は程好く潤んでいてぱっちりと開いている。もっちりとした柔らかそうな頬は子供らしい高体温と、機嫌がよくなっているせいで少々赤みを帯びている。和服下駄で背丈が少し大きく見えるが、それでもやはり幼いという印象を与える。何処かの眼鏡がいきをあらげてしまうほどには、可愛らしかった。
「母上が?」
さらっと国宝を借りた事や自分の母親がババァよばわりされているのを九重が気にも止めず尾を揺らしているのは、恐らく常に七海がこんな調子なのか、単に気にしていないだけなのだろう。
「なんか嫌な予感がするらしいわ」
七海と九重は楽しげに談笑する。
「そーなのかー」
「……アレの真似? 全っ然似てないわよ」
「むぅー、母上は似てると褒めてくれたぞ?」
「……そろそろ年かしらねぇ、あのクソババァ」
「だれがクソババァじゃ、だれが」
やれやれといった雰囲気だが、艶かしい声が境内に響くと、九重は嬉しそうにほほを緩ませ、七海はうげ、と小さく漏らす。
「あ、母上!」
九重はその声の主を見ると、ぱたぱたと尾を振る。
「九重、留守番ありがとね」
「あら八坂のクソビ○チババァ、生きてたの」
その声の主は九尾の八坂、つまり九重の母親である。七海は京都の大妖怪をババァ呼ばわりである。聞く人が聞けば卒倒するだろう。
「当たり前じゃぁ! 娘の晴れ姿を見るまで死ねんわ」
ふんす、と胸を張る八坂。ぶるん、と大きな乳が揺れるのを見ると、七海はチッ、と小さく舌打ちした。
「クソビ○チには突っ込まないのね」
「若い頃は色々とやらかしたからの……平城京の皮も剥けぬ若い男共を踊り食い……懐かしい」
「うー? 七海はなぜ妾の耳を塞ぐのじゃ?」
「あんたにゃまだ早い」
七海はそう言うと、ハァ、とため息をついた。
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先が思いやられる。俺は思わずため息をついてしまう。
アジュカ様に駒を調整してもらったというのもあるが……問題は修学旅行の時に出てくるであろう
絶対襲ってくるよな、あの聖槍使い。つーか三国志の英雄が聖書の槍を使って良いのかよ。弁慶がクラウ・ソラスを振り回すようなもんだぞ。
神器の闇の話も溜め息の一因だ。
神器の深い部分に潜れば、そこでは黒い人影達が円卓に座り、何やら話し合っていた。
真剣な声色で、老いた男の声がする。
《……さあ、会議を始めるぞ》
その言葉を皮切りに老若男女入り交じってあーでもないこーでもないと討論が始まった。
《やはり大きい方がいいのでは?》
《いやいや、こう、形がよくなければ》
《肌の艶も重要なはずだ》
《私はこぶりなのも悪くないと思うよ》
《乳輪の色や乳首の大きさも忘れては困るな》
《柔らかさも考えないと》
《やはり包容力がなければ》
《私は尻の方が……》
《おい、誰かそこの
《な、何をする、貴様らー!》
……こいつら、本当に老若男女入り交じって真顔で乳議論してやがった……ッ!! 腹筋痛い。ちなみにエルシャさんは爆笑してた。
《あははははっっ! わらいすぎで、お腹痛い……あははっ!》
というかそんなことしてまで覇道に堕としたいのかコイツら。そのうち『YesおっぱいGoタッチ』とか言い出しそうで逆に怖い。
「一誠。班のメンバーは
「ああ。それより極夜、なんか顔色悪いな」
「……月のモノが来てたからな。心配ない、修学旅行の頃には収まる」
数日休んでたのはそのためか。
今、俺の家ではブレイン陣―リアス、ソーナさん、アザゼル先生―が会議を行っている。学校も公欠扱いにしてな。
修学旅行の目的のもう一つに、悪魔側が京妖怪と会談するのだが……。リアス達が考えうる最悪の想定をしている。俺が知っているのは『八坂さんが操られる』『英雄派』という未来予測に等しいものだ。しかし……斬、ヴァーリ、白夜、俺という不確定要素が存在する以上、俺が思う通りには進まないかもしれない。ロタンさんが出てきてロスヴァイセさんが眷属にならなかったんだ。それに、サイラオーグさんの元にいる少女――黒髪の
もう俺の知る未来はないかもしれない……それでもあまりあるアドバンテージだと思う。経験値が違う。知っていたことが間違いだと気づくことができるならば、その方法を相手がとってこないという自信もある。
それだとしても今回は八坂さんを使ってグレートレッドを呼ぼうとするだろう。その点については問題ない。大有りだけど、解決できないわけではない。
けれど、何故か俺の胸の中にはえもいわれぬような確信めいた不安が渦巻いていた。
物凄く、嫌なことが起きそうだ。
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これも、原作者様と読者の皆様のお陰です。今後とも稚作ではありますが応援よろしくお願いします!