――フェンリルが咆哮をあげた瞬間、その姿が消える。
ロキの傍へと向かったのだ。斬はすでにロキから離れている。
「さぁ、あの者共を倒そうぞフェンリルっ!」
フェンリルはロキの言葉に歓喜の遠吠えをする。
「クッ……! なんとしてももう一度グレイプニルで縛り上げるのよ! あれをどうにかしなければ、こちらがやられるわ! 黒歌、急いでグレイプニルを回収! 各員散開っ!」
リアスの号で一斉に皆が動き出す。
フェンリルはぐぐ、と身構えると、その場から消えたかのように錯覚するほどの速度で走る!
『ぐぉぉおおおお!!??』
次の瞬間、タンニーンのおっさんの血肉が飛ぶ。神速で何度も切り裂いているようだ。……く、不味いな。
ここで対抗できるのは……斬だけか?
いや、俺とヴァーリやウィザードタイプなら……。
『ぐぅぅぅ……』
おっさんはフェニックスの涙が入った器をくわえるとぱきゃん、と容器を噛み割ってそれを飲む。シュゥゥゥ、という音がしてみるみる傷が癒されていく。
……いけるか?
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
ドライグ、味方全員に譲渡っ!
『応っ!』
『Transfer!!』
俺の体から赤の波動が放たれ、それに触れた仲間はパワーアップしていく。
「……! 各員、フェンリルの気をそらして!」
リアスの号により一斉攻撃。息もつかぬ攻撃はフェンリルを足止めする程度はしていた。あ、胡椒食らって噎せてる。
更に――魔方陣!
そこから現れたのは黒い炎のドラゴン。
――匙か! いよっし、これでなんとかいける!
『赤龍帝殿。聞こえますか? シェムハザです』
『はい聞こえます。あれ、匙ですよね?』
『ええ。幸い目覚めたばかりではありますが暴走の兆しは少なく安定しています。匙君本人の意識もはっきりとしていますのでご心配なく』
『了解です!』
匙は現れたとたんに黒い炎を吐き出してフェンリルの動きを止めている。
よし……!
ミョルニルをとりだし、オーラを思いっきり流し込む。
ミョルニルはあり得ないほど巨大化するが、その重さは羽のような軽さだ。無論、雷は宿っている。
『Max Booster!!!!』
『
「なっ、ミョルニルだと!?」
ミョルニルに気をとられたロキ。その瞬間――
「秘剣、刹那一閃」
「ごはっ……ア、アクナギノ、ツルギ……」
斬に腹を切り裂かれて苦しそうにうめく。
よしっ!
「っおおおおおお!! 俺式ミョルニルゥゥ!」
『MaximumExplosion!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
素早く近づき寸分狂わず奴の懐へミョルニルを打ち込む!
「離れろ斬っ!」
「……ッッ!!」
キュィイ、と特殊な音を出しながら一瞬で視界から消える斬。
そして極大の雷が、ロキを襲う!
俺の手元から雷が轟音と閃光を伴って放たれる。
だから、目が眩んでしまう。
光が晴れて目がなれてくると、そこにはロキがいない。
どこだ!?
「フハハハハハ! 惜しかったな赤龍帝!」
声が……上か!
そこにはボロボロとはいえ、ロキが健在していた。
『
「ぐっ……」
くそ、力が抜ける……反動で体が動かねぇ。
ロキの声のせいで気をとられた皆は一瞬だけ攻撃を中断してしまう。
その隙をみてフェンリルは――ロスヴァイセさんに目をつけた。
フェンリルは北欧の生物ばかりを食していたようだから、本能的に狙うのだろう。
「ロスヴァイセさんッ!!」
俺は叫ぶけど……だめだッ、間に合わない……ッ!
くそ、動けよ俺の体! 動けってんだよ!
このままじゃ……ロスヴァイセさんがやられるッ……!!
「あ……」
ロスヴァイセさんがそう小さく声を漏らした瞬間。
フェンリルの動きが、ぴたりと止まった。
ロスヴァイセさんの距離まで僅か1メートルもない。
だというのに、フェンリルはまるで蛇に睨まれた蛙のように固まっている。冷や汗すらかいて怯えているようにも見えた。
フェンリルの視線の先には――銀の着流しの男が立っていた。
ロスヴァイセさんを護るように、フェンリルとロスヴァイセさんの間に立っていた。
「何故貴様がッ……」
静寂を破る声。ロキの声だ。皆、謎の男に警戒している――否。皆ではない。
銀の着流しが風に揺れる。身の丈すらこえる大太刀を携えた、偉丈夫。日焼けした身体は鍛え抜かれた筋肉をより強調する。
荒れ狂う大海原を思い起こすような美しくも雄々しい“蒼”のオーラが身体から滲み出ていた。
ロスヴァイセさんは感極まったのか、思いきり顔を綻ばせて男の名を呼ぶ。
「ロタンさんッ……!」
「カカッ! ……久しいな、ロセ」
特徴的な笑い声が、妙に耳に残った。
・最強蒼/ロタン
わかる人にはわかるあのおっさん。
お嬢、ありがとう!