「おい、聞こえるか? ……チッ、だめか」
ジャミングでもされてんのか? くそ、電波が届かねぇ。
俺――アザゼルは、観客席の旧魔王派を片付けて、現在フィールド内の建物の屋上にいる。近くには龍咲白夜がいる。
「……来るぞ」
龍咲がそう呟くと、目の前に魔方陣が現れる。
――この紋様、アスモデウスか!
その魔方陣から現れたのは、貴族風の男――。
「お初にお目にかかる、堕天使総督殿、そして龍咲の忌み子よ。私はクルゼレイ・アスモデウス。私は真なる魔王として決闘を申し込む!」
決闘、ねぇ。古くせぇ。
「旧魔王の一人、アスモデウスの末裔か」
そう龍咲が呟くや否や、激昂し魔力を噴出させるクルゼレイ。
「“旧”ではないッ! 真なる魔王だ! 倒すべき天使や堕天使と馴れ合いなどしている偽りの魔王から政権を取り戻すのだ!」
「フン、所詮は貴族のボンボンか。
「例え滅びようとも宿敵に矛を向けるのが我ら悪魔だ! それが
「もうその宿敵の中心だった神も魔王もいないだろッ!」
「まだ山ほど天使と堕天使が残っているではないか! 一匹残らず奴等を駆逐するまで、私達は戦いを止めない!」
「それで滅んだとしてもかァ! 罪の無い“子供”まで戦争に巻き込むのか!? それが王のすることかァァ!!」
……おいおい、俺の入る場所がないぜ。
クルゼレイは龍咲とオーラをぶつけ合いながら言い合いをしていた。
……ついに剣を抜く龍咲。
「うるさいッ! 王でない貴様が王を語るな! 力で制し、力で抑すのだ!」
「それはただの暴力だ!」
「ええい、ならその、貴様の言う暴力で貴様から消してやるッ!」
クルゼレイは蛇を飲むと、絶大なオーラを放ち始める!
くそ、なんてオーラだ!?
「そうだ、この力さえあれば、偽りの魔王など――」
高笑いしようとした瞬間、龍咲が先程とはうってかわって冷たい瞳を奴に向ける。
「そうかい。なら……本物の暴力というものを教えてあげよう」
刹那、
彼奴の瞳が、赤く染まる。
「『
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ディオドラ……来たぞ……!」
「おや、思ったより早かったね。アーシアに僕の素敵な話をする暇も無かったよ」
……よし、話してないのか……。アーシアを見ると、なんと気絶していた。
よし。こいつはただでは済まさねぇ。
「ふふ、君が無様に倒れる姿、アーシアが見たらきっと僕に――」
「黙れ」
俺もちょっと驚くほど底冷えした声が出た。
「お前が――アーシアの名前を容易く呼んでんじゃねーよ。殺すぞ」
「やれるものならやってみな! 僕は“彼”から得た蛇でパワーアップしてるんだ!」
……ドライグ。いくぞ。
『ああ、俺もこいつには苛立ちを感じていたところだ』
《おや奇遇ですね、僕もですよ……》
融合ッ!
『Welsh Dragon Soul Fusion!!!!!!!!!!!!!!』
『30min』『97%』
ほう、親和率高いな。恐らくだが――
《うん、僕たちがあいつに苛立ちを感じてるから》
だよな。
よし――。
「ふ、すごいオーラだね。でも僕もパワーアップしてるんだ!」
「『赤い龍を、ドラゴンをあまり舐めるな、ディオドラ・アスタロトォ!』」
さて、まずは。
「『ひとぉーつ』」
「僕に勝てるわけ……うぐぁッ!?」
まず、素早く近づくと腕を掴み、指を一本“抜いて”やった。
「く、この……っ!」
「『なかなか耐えるな。ふん!』」
なかなか耐えるので逃げないように足を踏み抜いてやる。
「うぐぁァ!?」
「『随分と柔い足だな。そら』」
めきりと太もも辺りに蹴りを入れ、両方の足を折り退路を潰す。
「『まだまだ足りねぇなぁ。ふたぁーつ』」
「グギャァァァ!?」
「『
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?」
「『よぉーっつ。いつぅーつ。めんどくせぇな、ほれ』」
右腕の指を抜ききったけど、面倒になったのでディオドラの両腕を“抜く”。
ぶちぶちと肉が引きちぎれる音がして、声になら無い悲鳴をあげ、鼻水と涙と血でぐしゃぐしゃだった。
「『まだ生きてるな……ほれよ』」
『Boost!!』
『Transfer!!』
“自然治癒力”を強化させてみた。ただでさえドライグの力のお陰で地力が増している俺達が、一度でも倍加をして自然治癒力を高めてやればどうなるか。悪魔は魔力で傷を癒すことが出来る。さらに、人間より遥かに高い治癒力をもつ。そう、その結果――
「ぁぁあがぁぁぁがが∀∇∂⌒♯♭%%&@∽∝Υαε@$δΨΤ%γΨ%ζγκεΤАГДМИψыэю@!!!!!!!」
最早、悪魔の翻訳能力をもってしても理解できない言葉を発しながら痛みにのたうち回るディオドラ。
そして数分後――完全に傷が直ったディオドラは……俺を見た途端にがたがたと震えだし、顔を青ざめていた。当然だろうな。
「『二度とアーシアに近寄るなッ!』」
そう言えば、やつは震えて頷くだけだ。
――終わったな。アーシアは……気絶したままか。良かった、あんなシーンをアーシアに見せたら教育に悪い。
後は……。
「『砕けよ』」
『Seal Braker!!』
俺の新技だ。
ドレスブレイクを応用して、“拘束具限定”で容赦なく破壊する技なのだが……拘束具の内側に俺の魔力があるのが前提でな。拘束されてるのが俺なら兎も角、俺以外だったら出来ない……というか、ただのドレスブレイクになってしまう。そこで、アクセサリー等の装飾品として俺の魔力を籠めたものを所持させて、拘束された瞬間、気づかれぬように拘束部分に俺の魔力が忍び込む。ここらへんはシールドビットの半オート機能を応用した。
んで、俺が外部から俺の魔力に干渉して、シールブレイクを放つって寸法だ。ぱきゃん、とアーシアを拘束していた枷と、俺の渡したネックレスが儚い音と共に砕けちった。
肩をがくりと落とし項垂れるディオドラをよそに、解放されたアーシアをお姫様だっこしてリアスの許へ向かう。
『Absorb……』
余力を残すため鎧も解除する。程よい倦怠感に包まれた。……まぁ今回、そんなに暴れてないしな。それに、シンクロ率も高かったし。
「部長、全部終わりましたよ?」
俺の声に我に帰るリアス。……あれだけ酷いことをディオドラにしていたのだ、他のメンバーも少し気持ち悪そう――にはしていなかった。えっ?
ゼノヴィアはアーシアをみて安堵、小猫ちゃんは我関せず……というよりはさっきから羨ましそうにチラチラと見ている。朱乃さんなんて恍惚とした笑みでこっちを見ていた。
男子組はというと……木場は平然としていた。そして心配だったギャスパーはどこにいるかと思ったら、催していたらしく戦いの間外で立ちションしていたらしい。外ではフリードとディオドラの『女王』がやりあってたって言うのに……。皆、俺よりも悪魔歴が長いということを忘れてた。そういうグロ耐性もあるのか?
存外逞しいグレモリー眷属の皆様です。
「……ええ、そうね。皆、早くここから――」
刹那、俺の視界が光に包まれた――。