仮面ライダー電王LYRICAL   作:(MINA)

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第三十話 「容疑者!?野上良太郎」

時空管理局執務官クロノ・ハラオウンは背後から聞こえてくる喧騒に対して、必死で自身の内に秘めるものを抑え込んでいた。

(穏便に、穏便に……。冷静に、冷静に……)

この者達は犯罪者ではないし、これからの捜査を行うためにはこの者達の証言は必要不可欠なのだ。

「ユーノ。オメェ、カメにいつの間にスケベを仕込まれたんだよ?俺は悲しいぜ」

モモタロスがしゃがみこんで一人の少年---本来の姿に戻ったユーノ・スクライアの右肩をつかんで嘆いていた。

「モモタロスさん?」

肩をつかまれたユーノは何を言っているのかわからなかった。

「あの、僕がどうしてウラタロスさんにその……えと……悪い遊びを仕込まれたと?」

「そうだよセンパイ。僕はユーノにそんなことを仕込んだ覚えはないよ」

ウラタロスも身に覚えのないことなので口を挟んだ。

「モモの字、どないしたんや?急にそんな事言い出して」

「モモタロスこそ、バカになったんじゃないの?」

キンタロスはモモタロスに説明を求め、リュウタロスは鋭い一言をぶつけた。

「オメェらこそバカになったんじゃねぇのか?思い出してみろよ。ユーノは今までフェレットだったんだぜ?」

「だから何なのさ?あ……」

ウラタロスはモモタロスが何を言いたいのかやっと理解した。

「カメの字?」

「カメちゃん?」

キンタロスとリュウタロスの視線がウラタロスに集まる。

「センパイ、いくらなんでもそれは僕に責任はないんじゃない?アレはどちらかというと、なのはちゃんに責任があるって」

「わ、わたしですか!?」

いきなり矛先を向けられた高町なのはは目を大きく開いて驚く。

野上良太郎はモモタロス達が何の話をしているのかわからないので、黙って聞いている。

「アレか!アレはカメの字に責任ないでぇ。ユーノにだってあらへんって」

キンタロスも何のことかわかったようだ。

「フェレット君がグッタリしてた時だぁ!」

リュウタロスの一言でなのはは何が言いたいのか思い出したようだ。

「え、あ、その、ふえええぇぇぇ!アレ、わたしの責任なんですかぁ!?」

顔を真っ赤にして、今にも煙でも出てきそうだ。

クロノの額に青筋が浮かび上がっていたが、誰も見えていない。

「あ、あの……。ユーノ君」

なのはが顔を赤くしながら俯いてユーノに声をかける。

「なのは。その、ごめんね。ええと……初めて出会った時にこの姿で自己紹介してれば、その……」

ユーノは自身にも責任を感じているのか、先になのはに謝罪した。

「ううん。ユーノ君は悪くないよ!あの時のことは、わたしの方が悪かったんだから!」

なのははあの時の事を思い出しながら、謝罪してくるユーノに頭を上げるように言う。

「なのは……。わかったよ」

ユーノは頭を上げた。

ひとまず一つの問題が片付いたとクロノは判断したので、口を開こうとする。

「あのぉ、よかったらでいいんだけどさ。みんな何の事話してたのか教えてくれる?」

先に良太郎が口を開いた。

「ユーノがなのはと一緒に温泉に入った話だ」

モモタロスが簡単に教えてくれた。

良太郎はユーノとなのはを見る。

そして、理解した。

『ユーノ・スクライア海鳴温泉覗き事件』の概要はこうなっている。

なのははユーノを『喋るフェレット』だと思っていた。

ユーノは自身が『人間の男』だという事を事前になのはに教えたと思っていた。

なのははユーノを『人間の男』だと知らずに、一緒に温泉に入った。(この時、ユーノは全身全霊を持って入浴拒否をしたが、なのはに強引に連れて行かれた)

ユーノは『人間の姿』を現した。

モモタロスはユーノが『人間の男』だと知り、もしかしてウラタロスに悪い遊び(スケベ)を教え込まれて温泉に入ったのではないかと思い、ユーノに訊ねた。(彼がこう考えたのはウラタロスがユーノに教え込むには十分な時間があったから)

「モモタロス。誰かが悪いわけじゃないよ。これは事故、みたいなものだよ」

良太郎は苦笑いを浮かべながら、大岡裁きならぬ良太郎裁きをした。

なのはとユーノの誤解、ウラタロスの素行、モモタロスの早とちりからなるこの事件はこうして幕を閉じた。

 

「君達!いい加減にしろぉ!!」

 

幕を閉じたと同時にクロノの堪忍袋も切れたらしい。

 

クロノの先導で一行は艦長室前へと到着した。

「艦長、失礼します」

自動ドアをくぐって、艦長室へと入る。

中に入ると、良太郎となのはは目を疑った。

たくさんの盆栽に、茶を点てるための道具(柄杓、茶釜、茶碗、茶筅)に赤い敷物(毛氈(もうせん))に室内用にこしらえたと思われる獅子おどしと『和』を感じさせるものばかりがあった。

そして、毛氈の上には一人の女性が正座しており、笑顔で待ち構えていた。

言う必要もないが、美人である。

「お疲れ様。まあみなさん。どうぞどうぞ。楽にしてぇ」

穏やかだが、断れない雰囲気が艦長室を支配した。

さすがに全員一列は多すぎるので、良太郎、なのは、ユーノが前列となって、後列にはイマジン四体という陣形を取った。

ちなみに全員正座している。

イマジン四体が何故正座ができるのかというと、最低限のマナーとしてコハナに叩き込まれたからである。

抹茶と羊羹が皆に出された。

女性の横にクロノが正座した。

こうして事情聴取が始まった。

 

「なるほど。そうですか。あのロストロギア---ジュエルシードを発掘したのは貴方だったんですね?」

女性---アースラ艦長であるリンディ・ハラオウンはユーノに確認していた。

ユーノは首を縦に振る。

「それで、僕が回収しようと……」

ユーノが申し訳なさそうに語る。

「立派だわ」

リンディはユーノの心意気を高く評価した。

「だけど、同時に無謀でもある!」

クロノがユーノの行動を認めつつも、非難した。

ユーノはしゅん、となった。

「あの、ロストロギアって何なんですか?」

なのははへこむユーノを気にしつつも、リンディに尋ねた。

リンディは困った顔をしながらも、質問に答え始めた。

「ああ、異質世界の遺産、ていってもわからないわね。ええと……。次元空間の中にはいくつもの世界があるの」

聞いている側の面々は頭の中でリンディの言葉を映像でイメージしている。

この時点でキンタロスは眠り始めていたりする。

「それぞれに生まれて育っていく世界、その中に極稀にだけど進化しすぎる世界があるの。技術や科学、進化しすぎたそれらはやがて自らの世界を滅ぼしてしまって、その後に取り残された『失われた世界の危険な技術の遺産』」

この時点でリュウタロスは飽きたのか、考える事を放棄している。

モモタロスは何とか頑張って頭の中に入れており、ウラタロスはすんなりと理解しているらしいのか、涼しい顔をしている。

「それらを総称して『ロストロギア』と呼ぶ」

クロノが続ける。

「使用法は不明だが、使い方次第で世界どころか次元空間さえ滅ぼすほどの力を持つ事もある危険な技術」

空気は深刻なものへとなっていることはその場にいる誰もが口に出さずとも理解していた。

リンディが口を開いて続ける。

良太郎は息の合ったコンビネーションだと感心したが、声には出さない。

「しかるべき手続きをもって、しかるべき場所に保管しなければならない品物……。あなた達が捜しているロストロギア---ジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体。いくつか集めて特定の方法で起動させれば空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合になると次元断層さえ引き起こす危険物なの」

「君と黒衣の魔導師がぶつかった際に発生した震動と爆発。あれが次元震だよ」

クロノはなのはを見てから身近で起こったことで説明してくれた。

なのははジュエルシードを挟んでレイジングハートとバルディッシュがぶつかったときに起こったことを思い出した。

体験した事なので理解は早かった。

クロノは更に続ける。

「たったひとつのジュエルシードの全威力の何万分の一の発動でもアレだけの威力があるんだ。複数個集まって動かしたときの影響は計り知れない」

それからクロノ、リンディはロストロギアが引き起こした災厄を語り始めた。

ユーノは話題についていけたが、魔法やロストロギアとは無縁の世界の住人であるなのはや別世界の良太郎やイマジン四体は全くついていけなかった。

昔語りが終わると、リンディは角砂糖を抹茶の中に入れてから一口飲んで、良太郎達を見回す。

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

リンディの一言に全員が目を丸くした。

今まで静かだった艦長室は騒がしくなった。

「おい、良太郎。どういうことだよ?」

「つまり、なのはちゃんや皆がやってるジュエルシード探しをこの人達、いや時空管理局が引き受けてくれるって事だよ」

モモタロスが訊ねてきたので、良太郎はわかりやすく答えた。

「君達は今回のことを忘れて、それぞれ元の世界に戻って暮らすといい」

クロノは穏やかな口調で今後の事を示唆した。

「それって、なのはちゃんやフェレット君は危なくならないってこと?」

「そうだね。ジュエルシードがあの人達が言ったとおりの代物なら個人で捜すより組織総出で捜すほうが安全でいいからね。」

リュウタロスの疑問にはウラタロスが答えてくれた。

「でも、なのはもユノ助もええ顔はしてへんで」

キンタロスが二人の顔を見て率直な感想を述べた。

全員が二人の顔を見る。

確かに面倒事から外れてほっとしたような表情はしていない。

どちらかというと、自分なりに取らなければならない責任を他者に取られて納得できない表情だった。

「え、でも……」

「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」

クロノは厳しい、いやこの手の事件に関わるプロの顔をして言った。

「でも!」

なのはは、それでも納得できなかった。

険悪な雰囲気になりつつあった。

「まあ、急に言われても気持ちの整理もつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて二人で話し合って、それから改めてお話をしましょう」

(民間人であるなのはちゃんに介入してもらいたくないのに何故……)

リンディの案に良太郎は疑問を感じた。

「送っていこう。元の場所でいいね?あと……」

クロノは立ち上がり、良太郎を見る。

 

「貴方の身柄を拘束します」

 

その一言にモモタロスがクロノの胸倉を掴もうとするが、ウラタロスとキンタロスに抑えられる。

「離せよ!カメ!クマ!」

「センパイ!落ち着きなって」

「そうや!気持ちはわかるけど落ち着け!」

それでもモモタロスはバタバタしている。

「オマエ!何で良太郎を捕まえるのさ!?」

リュウタロスがモモタロスの言葉を代弁するかのように抗議する。

「えと、その、あの皆さん?」

「と、とにかく落ち着いてください。皆さんって聞こえてないね」

なのはとユーノはどうしたらいいかわからないようだ。

 

「皆、待ってよ!」

 

良太郎の一声が騒ぎを治めた。

「「「「「「良太郎(さん)?」」」」」」

「彼の言い分も仕方ないよ。時空管理局としては逃亡した二人に関しての情報も欲しいはずだからね」

それでイマジン四体、なのは、ユーノは納得した。

黒衣の魔導師---フェイト・テスタロッサの情報を持っているのは良太郎だけだということを。

「大丈夫だよ。折角時間を貰ったんだから早く戻ってゆっくりしておいでよ」

笑顔を見せて、皆を安心させてから早く戻るように促した。

誰もが渋々とだが納得して、艦長室から出て行った。

艦長室に残ったのは良太郎とリンディの二人だけだった。

「ごめんなさいね。仕事上とはいえ……」

「いえ、仕方ありませんよ。ただ……大丈夫なんですか?」

「何がかしら?」

「イマジンのことです。全く触れてませんでしたよね?」

良太郎の言うようにイマジンのことについては今の話には全く出ていなかった。

「……そうね。できれば聞かせてもらえるかしら?」

良太郎はリンディにイマジンのことについて話した。

「まさか、ジュエルシードを狙っているなんて……」

リンディは深刻な表情になった。

「契約者は間違いなく、あなた達の世界の住人です」

「それが誰、という事は?」

「見当は付いていますが、確証はありません」

良太郎は確たる証拠を今持っているわけでもないないので、契約者の名は告げなかった。

「艦長。戻りました」

なのは達を送っていたクロノが艦長室へと戻ってきた。

「お帰りなさいクロノ。今、彼からイマジンの事を聞いていたところなの」

リンディがクロノに労いの言葉をかけた。

「そうですか。さて、貴方には聴きたいことが色々とあるのだが」

クロノが良太郎と向き合うかたちで座る。

「答えられることなら答えるけどね」

「ではまず、貴方は何者なんだ?」

電王になってイマジンを撃退した。魔導師が四苦八苦した相手をいとも簡単にだ。それだけでも彼等にしてみれば脅威となる材料だろう。

「まず、僕はこの世界の住人じゃないんです。正確にはこの世界の(・・・・・)この時間の(・・・・・)住人(・・)じゃないんです」

「「え?」」

良太郎の言い回しにリンディとクロノは混乱していたが、理解が早いらしく表情が見る見る平静へと変わっていった。

「では貴方は、別の世界のどの時間から来たんですか?」

リンディは良太郎に訊ねる。

「今から十年後の時間、です」

良太郎は即答した。

「タイムマシンにでも乗ってきたというのか?時空管理局(われわれ)の技術でもまだ開発のメドすら立っていないというのに……」

クロノは良太郎の言葉で自分が考えられる可能性を口に出し、ありえないと否定した。

ちなみに次元航行艦では『現代』のあらゆる次元世界は航行可能だが、『過去』や『未来』は不可能なのだ。

「貴方の世界ではタイムマシンが作れるほど高度な文明が発達しているのかしら?」

「いえ、僕がいる世界の文明はこの時間の海鳴市より若干進化した程度なんです。だからタイムマシンはもちろんの事、次元航行艦(こんなもの)すら作れません」

リンディの質問に良太郎は誤解を招かないように答えた。

いくら、自分が『時の列車』を当たり前のように利用しているとしても、それはあくまで『自分の周り』だけであって、決して自分と同じ時間に住んでいる人間が『時の列車』を利用しているわけではないのだから。

「だが、貴方はタイムマシンを上手く利用して、この世界に来たと言っている。矛盾しているではないか!」

クロノも出来る限り平静を保っていたかったのだが、矛盾な証言に苛立ちを露にしてしまった。

「僕もどう答えたらいいのか正直わからないんだ。何せ全部を知っているわけではないからね」

良太郎は『時の列車』を当たり前のように利用しているが、ソレがいつ出来たのか、何のために作られたのか、誰が作ったのかなんて事は知らない。

「では、質問を変える。貴方とあの黒衣の魔導師の関係は?」

これ以上のことは聞けないと判断したのかクロノは質問内容を変えたようだ。

「さっきも聞いてきたね。だから……」

「家主と居候、以外での関係を僕は聞いている」

クロノに先手を取られた。

「ジュエルシードを捜している仲間、かな」

良太郎は今回も『真実』を隠したが、『嘘』は言っていなかった。

 

 

海鳴市には夕方から夜へと向かう時間帯になっていた。

ソファに寝そべっているフェイト・テスタロッサをアルフは心配で心配で仕方がなかった。

とにかく、弱っている。

プレシア・テスタロッサから受けた折檻のダメージが若干残っているのか、それともろくに栄養を取っていないため、肉体が弱体化したのか、それとも精神的ストレスがピークに達しているのかわからないが、誰から見てもわかるように弱っていた。

「駄目だよ!良太郎は時空管理局に捕まっちまうし、どうしようもないよ!」

アルフは泣きそうな顔でフェイトに弱音を吐く。

「逃げようよ。どこかにさ……」

時空管理局対個人では竹槍で最新兵器に喧嘩をするようなものだ。結果は誰から見ても明らかなものだ。

フェイトはその言葉に反応したのか、アルフに顔を向ける。

「それは……、駄目だよ」

「だってさ……。時空管理局(あいつら)が本気で捜査なんてしてみなよ?ここだってバレるのも時間の問題だよ……」

アルフは励ますどころか弱音しか出てこない。

「それにあの女、アンタの母さんだってワケのわかんないことばっか言うし、フェイトにひどい事ばっかりするし……。それにジュエルシードを持ってる限りさ、イマジンだって襲いかかってくるんだ。もうどうしようもないよ……」

アルフにしてみれば自分達の周りには敵しかいない状態なのだ。

「……母さんの事は悪く言わないで」

「言うよ!だって、あたしフェイトの事が心配だ!フェイトが悲しんでいると、あたしの胸もはちきれそうで痛いんだ……。フェイトが泣くのも悲しいのもあたしは嫌なんだ!」

アルフはとうとう抑えていた涙腺を溢れさせた。

そして、なりふり構わず泣き始めた。

フェイトにとってはその気持ちは嬉しかった。

だが、母であるプレシア・テスタロッサの願いも叶えたいという気持ちも譲れないというのも本音だ。

フェイトは泣きじゃくるアルフの頭を撫でながら、ここにいない青年のことを思い出していた。

 

「良太郎。大丈夫……だよね?」

 

フェイトはアルフに聞こえない様に呟いた。




次回予告

第三十一話 「クライマックスへのダイア」


                発 表

モモタロス 「皆さん、重大発表です」


      「仮面ライダー電王LYRICAL」シリーズ


              第二部制作決定!!

タイトルは 「仮面ライダー電王LYRICAL A's」

(なお、この発表はにじファンで掲載していた時に使ったものです。すでに第二部は完結しております)

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