Muv-Luv Alternative ~take back the sky~   作:◯岳◯

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リクエストあったのでちょっと書いてみました。

……と軽い気持ちで書いてたらけっこうな量になっちまったよぃ!


おまけ : その後の宴会

遠い遠いどこかの世界。昔々に追いやられた平穏の世の中。そういえばあの離宮は箱根に近かったか、と武は遠い目で一人呟いていた。

 

まだ美琴が尊人だった時代。男女比など数える気にもならなかった、温泉旅館の一室で開かれた宴会を思い出した武は、同じように肩身が狭い中でグラスを掲げた。

 

「それじゃあ―――戦友に」

 

最初ぐらいは、と真面目な声で武が告げた。8人の女性の声が応え、静かに泡の入った麦酒が飲み干されていく。

 

「―――と、感傷に浸るのはここまでだ。あと、こっから先は無礼講! 階級とか背景とか一切忘れること! ちょうど同い年だし、タメ口……敬語なしで話すこと。これ命令だからな」

 

美味いものも用意したから、と武はコネと資金を総動員して手配したツマミ類を進めた

液体状のものは全て般若湯だという欺瞞も交えて。

 

女性陣はその嘘を飲み込みながら、般若湯をごくごくと飲んでいった。無礼講だという言葉もあり―――冥夜はやっぱり少しだけ気を使われながらも―――宴は進んでいった。

 

「おっ、やっぱりこの肉じゃがだな。すげえ旨い………って、純夏が手伝ったのに!?」

 

「いっ、いくら武ちゃんでも失礼すぎるよ! 私だってやればできるんだから!」

 

「お、おう。すまんすまん。でも、作業量的に言えばどんなもんだ?」

 

「………よ、4:6、かな?」

 

武はそれを聞いて思った―――3:7か2:8だろうと。それを苦笑して見守るあたり、唯依は優しいなあとも。その様子を見ていた面々は、色々と決意を固めた顔になっていた。具体的には下手に不味いものを出すよりは、という選択肢しか選べなかった自分を変えようという意志の元に漲るなにかだった。

 

そうして宴も酣になった時だ。8人の女性達の内の6人は、話があるとばかりに一斉に武に詰め寄った。

 

「な、なにかなぁきみたち。ほら、早く食べないと料理が冷めてしまうよ」

 

「もう冷めるものはないって。で、うさんくさい演技はやめてさぁ………タケルちゃん」

 

「なんだい、純夏くん」

 

これまた胡散臭い笑顔で答える武。対する純夏と他5名も、笑顔で応えた。ただし、眼は笑っていなかったが。武の背中に冷や汗が流れる。そして、次に出てきたのはある程度予想されていた言葉だった。

 

「ねえねえ、タケル? 任官のための、1対6なんだけどさ」

 

「すっごい難易度が高かったように思うんだよね~タケルさん」

 

「一歩間違ってたら、全滅してたよ。これってあんまりだよねタケルちゃん」

 

「あれだけ策を使ってようやく、だものね。でも、それも当たり前よね」

 

「クラッカー中隊、ベトナム義勇軍に、斯衛第16大隊……歴任と言っていいだろう」

 

「………それで、そろそろ限界だから聞くけど」

 

どれぐらいの難易度だったの、と。地獄の底のような声でコンマ数秒も狂わず、6人の声が揃った。武は冷や汗を流しながら、当事者ではない二人に助けを求めた。

 

だが、二人はドン引きをして顔を引きつらせるだけ。流石にそれは、と視線だけで応えると目の前のツマミを食べ始めた。

 

(これは……どうするべきか。でも、今まで言ってたし)

 

弱気になってどうする、と武は今までに乗り越えてきた苦境を胸に答えた。正直に。二秒後に、6人がグーで答えた。10秒後、武は拳の弾幕に屈し、テーブルに沈んだ。

 

「な……んで。ていうか、冥夜まで」

 

「裏の事情は紫藤少佐から聞かされた故に。流石に、私情での任官拒否に等しい処置は認められぬ」

 

「で、でも、強さに関するヒントはあったし」

 

「……誰がこんな所に世界最強の衛士が居るって思うの?」

 

「ここに居るぞ!」

 

武のたんこぶが更に一つ増えた。千鶴の眼鏡が怪しく光った。

 

「百歩譲って、居るとしましょう。でも―――訓練兵の卒業試験に出す難易度じゃないでしょう、常識的に考えて」

 

武を100人知る者が居れば100人は頷くであろう回答に、唯依と上総まで同意した。

 

「手加減もなかったもんね。最後らへんは本気だったし」

 

「いや……やっぱ、心配だったから、これぐらいやっとくかと」

 

「心配だから、の一言で極音速の弾丸を回避するの……? 今思い返してもおかしいとしか思えないよ」

 

「いや……まあ、練習すれば誰でもできるって、いずれ」

 

「あはは~。タケルは面白いこと言うね」

 

なら二人の意見も聞こうよ、と美琴は用意しておいた機材を準備し始めた。

 

「え……なにしてんだ、美琴」

 

「すぐに用意できるから。あ、宴会進めちゃってて」

 

噛み合っているようで噛み合っていない会話を武は不可思議に思うも、腹が空いたのは確かだし、と頷くと飲み食いし始めた。他の者達もそれに倣い、その3分後に用意が完了し、部屋の電気が一部分だけ消された。

 

「あ、これモニター……って、模擬戦の時の映像か!?」

 

用意周到すぎる、と武が戦慄した。唯依と上総は興味津々と、モニター映像をじっと眺める。

 

そして最後まで見終わった後、可哀想なものを見る眼になっていた。そのまま無言になる二人に、美琴が用意しておいたボードを渡す。二人は○と×が書かれたボードを見た後に頷き合うと、迷いなく×のボードを上げた。

 

視線が物語っていた。あれはない、と。

 

「……いやでも統計はもっと多くの人達から取るべきだし」

 

「ふん、そう言うと思ったわ」

 

千鶴は眼鏡を光らせながら、集計を告げた。結果は、×が15に○が0。歴史的大敗を受けた武がテーブルに突っ伏した。

 

「タケルちゃん……凹みたいのはこっちだよ。一度ボッコボコにしといて、最後にこれはないと思うんだけど」

 

「うっ」

 

「……私は抑えつけられて揉まれた」

 

「私は徹底的に罵倒されたわね」

 

ここぞとばかりに最大の被害者である慧と千鶴が訴えた。唯依の顔が赤くなり、上総の顔が驚愕に満ちていくも、ふと思い出したように告げた。

 

「そういえば、私も京都で揉まれた記憶が」

 

「え?! ちょっ、タケルちゃん、乙女に何してんのさ!」

 

「は? いや……あれは訓練の時の不慮の事故だぞ」

 

「……やっぱり胸なのかな、壬姫さん」

 

「そ、そんなことはないと思うよ美琴ちゃん」

 

二人の敗残兵が上総と唯依、慧の胸を見た。あれを敵と見なすのか、あれで決着はついていないのだからと奮起するのか、二人は迷いながらも上を向くことにした。

 

一方槍玉に挙げられている武は、この流れは拙いと考え、自己紹介タイムと大声で主張した。強引に流れを変え、それいけ委員長と千鶴を指定した。

 

「……いいけど。榊千鶴。誕生日は5月5日で、血液型はA型」

 

「そして融通が利かない堅物。あと眼鏡からビームが撃てる」

 

慧のツッコミに、千鶴は殺気で答えた。いきなりの喧嘩勃発に唯依が不安げな顔をするも、B分隊の皆が「はいはい慣れた慣れた」と顔で語っていたため、大したことはないのか、と安堵の息を吐いた。

 

「で、次……彩峰慧。血液型はB型で、9月27日生まれ。スリーサイズは―――」

 

「待て待て待て。誰もそこまで言えとは言ってない」

 

「……白銀はもうあますことなく触って、全て分かってるから?」

 

「ねえよ。まあ、純夏よりでかいのは見た目で分かるがっっ?!」

 

左で、一閃。頭頂部から煙を出す武の後ろから拳でエントリーを果たした赤毛の修羅は、鼻息も荒く自己紹介をした。

 

「鑑純夏、誕生日は七夕で、血液型はO型。武ちゃんとは家が隣の幼馴染で、家族同然の仲だよ」

 

「……まあ、否定はできないけどな、ってなんだこの空気は」

 

武は緊張感が高まった会場の空気の中で、首を右往左往した。なんていうか、「野郎ぶっこんできやがった」的な雰囲気の高まりを感じたからだった。

 

「そういえば、そうだったな。風守少佐が学校に訪問された日は七夕だった」

 

いきなり斯衛の重鎮をおばさん扱いするのは肝が冷えた、としみじみ唯依が語った。その顔は赤かった。完全無欠に酔っている証拠だった。

 

「おばさん、って……風守って、たしか斑鳩家の傍役だったと思うけど」

 

千鶴の呟きに武が答えた。複雑な背景は避けて、風守光が実母であることを明かす。そのいきなりの爆弾発言に、知らなかった千鶴、慧、美琴に壬姫が驚きに叫んだ。

 

その横で、顔を赤くした―――こちらも完全に酔っている―――純夏が唯依を見ながら言った。

 

「でも、唯依ちゃんは卑怯だと思う。こんなに綺麗で黒髪で胸まで大きくなってるし」

 

「あ……いや、その」

 

「ふむ、そういえば友達と言っていたな。どこで出会ったのか?」

 

「う~ん…………泣いてたところ?」

 

「ちょっ、ちょっと待って鑑さん!」

 

「純夏って言われなきゃ嫌ですぅ~。と、いうことで色々とバラすと――」

 

「やめんかバカタレ」

 

まあ色々あったという事で、と武が収拾をつけた。

 

「では、次はわたし~。珠瀬壬姫、2月29日生まれで血液型はA! ……ここ数ヶ月、無茶を要求されてちょっと疲れてます」

 

えへへ、と笑う壬姫を全員が総掛かりで撫でた。反論は許さないという勢いに呑まれた壬姫が、真っ赤になってテーブルに沈んだ。

 

「次は僕かな。鎧衣美琴、誕生日は4月1日で、血液型はO型だよ~」

 

「……Bじゃないのがすげー意外なんだが」

 

「いやでもおおらかのOって言うし」

 

「ていうか、この中で一番の早生まれか―――納得だな」

 

「どこ見てるのエロるちゃん、憲兵さん呼ぶよ?」

 

武と純夏はごにょごにょと話し合った結果、B寄りのOなんだろうという謎の結論に至った。武も少し酔いが周り始めていた。

 

「では……私だな。御剣冥夜。12月16日生まれの、血液型はABだ……武と一緒の日に生まれた」

 

「あー、そういえばそうだったよな……ってなんだよ、みんなしてその眼は」

 

羨ましそうな眼から一転、こいつやっぱり分かってねえな的な視線を受けた武はたじろいだものの、気を取り直して、という意味で柏手を打った。

 

「じゃあ、次―――どちらからでも」

 

「……それじゃあ、私から。山城上総、誕生日は9月18日で血液型はB型よ」

 

「わりと意地悪だから純朴組はからかわれないように注意しろよー」

 

「あら、心外ですわ。私はただ、可愛いものが好きなだけで」

 

「だ、そうだ。あと、最近の最前線ではちょっと名が売れてきているらしい」

 

「……第16大隊に比べればまだまだ、の範疇ですわ」

 

苦笑する上総は座り、代わりに唯依が立ち上がった。

 

「篁唯依。3月13日生まれで、血液型はA型だ。開発にも携わっていた事があるから、戦術機については何でも聞いてくれ」

 

「硬い、硬いって唯依。あ、でも戦術機の知識はマジで凄いから」

 

武の言葉に、純夏以外の皆が頷いた。篁祐唯の名前は、戦術機に関わる者とすれば知らない方がおかしいからだ。

 

「あと、初対面の一言はないすとぅーみーちゅー、って感じの下手な英語だった。あれはずっと忘れないだろうな……」

 

「尊い犠牲だったわ……ぷぷっ」

 

「ちょ、ちょっと、二人とも!」

 

その時の恥ずかしさを思い出した唯依の顔が赤くなった。その様子を見たB分隊の6人は、そういう事ねと色々と納得した。

 

それに気づかないバカは、これで終わりだなと8人の顔を見回した。

 

「それじゃあパーティーの続きを………って、なんだよ。え、俺の自己紹介がまだだって?」

 

視線で促された武は、今更だと思うんだけど、と呟きながらも立ち上がった。

 

「白銀武。鉄大和と名乗っていた事もあるし、風守武と名乗らざるを得なかった頃もあるな。最近では小碓四郎か。7つの名前を持つ男と言ってくれ。誕生日は冥夜と同じで、血液型はひ・み・つだ」

 

それだけを告げると、さっさと武は座るが、ブーイングの嵐が巻き起こった。

 

「なんだよ。なに、経歴でも話せって? いや……とは言われてもな。何時から、っていうか何から話せばいいのか分からねーし」

 

議論の結果から質問形式で答えていくことになった武は、明かせない部分以外は淡々と応えていった。その様子を面白く無いと思った一部の有志が集まり、相談し合うと部屋にあったビデオカメラを手に武に近寄った。

 

「それでは、インタビューを………白銀武中佐の軌跡の発表です!」

 

「かくし芸という奴だな。うむ、やってくれ」

 

「ちょっ、酔ってるなお前ら!?」

 

武は叫びつつも、まあいいかと説明を始めた。

 

「俺がインドに渡ったのは1993年だから、8年前だな。先にインドに渡って研究をしてた親父を追って、一人船に乗った」

 

開幕から常識的におかしい事をぶちまけるが、気づかない者が多数。気づいている者も置いて、話は続けられた。

 

「そこでなんやかんやあって、初陣に出た。死にかけて、作戦中に嘔吐。ここで応答と嘔吐をかけた一発ギャグを決めた訳だが」

 

「………そのなんやかんやも気になる。よし、ここはオブザーバーを用意するしか」

 

「誰だよ」

 

「サーシャさん! ……いや、教官殿だったっけ? まあどっちでもいいから招集!」

 

「招集って……誰が?」

 

「タケルちゃんが」

 

反論をするも眼力だけで封殺された武は、大人しくサーシャを呼んだ。数分後にサーシャが現れ、純夏が盛大に紹介をした。

 

「それでは! セカンドな幼馴染っぽい冷血教官こと、サーシャ・クズネツォワ………階級はどうでもいいけど、さん! です!」

 

顔赤く叫ぶ純夏。サーシャは周囲を見回し、事情を悟ると武に向かって告げた。

 

「当方にある事ないこと暴露する用意あり。さあ、次に行ってみよう」

 

裏切り者と叫ぶ武を置いて、解説のサーシャが加わった場は進行していった。武は視線で離脱を勧めたあちらでは狂犬がその顔を見せ始め、縋る視線を受けた武は「なら仕方ねえな」と頷いた。

 

そして、樹ほかA-01の無事を祈った。

 

「それで、どこから話せばいいのか………まあ、ターラー教官から促成栽培を受けた変態的天才が、父親の避難時間を稼ぐために若干11歳で出撃せざるを得なくなった、っていうだけ。でも体力足りないから作戦中に吐いて、命からがら逃げ帰ってきた」

 

「……色々とおかしい所があるけど、11歳?」

 

「間違いなく。純夏と文通してたって言うし――――」

 

「あ、本当だよ。その頃、ちょっと文面が尖ってたし、意味の分からない愚痴も書かれてた時があったし」

 

色々と驚愕の事実を暴露されるも、武は本当のことだから何も言えず。

 

「あと、武はけっこうなマザコン。あっちではお母さん的な役割だったターラー教官には、今でも逆らえない。純奈さんと同じ風に」

 

実母とは赤ん坊の頃に別れてるし、という情報を聞いた純夏以外のB分隊の面々は食堂での一件を思い出していた。

 

「あー、そういう……」

 

「あの殺気は、それが原因か」

 

「背筋が凍りついたね~」

 

「でも、当然だと思う」

 

それぞれの反応を聞きながらも、サーシャは撤退戦からアンダマン島のパルサ・キャンプについて話した。

 

「成る程……マナンダル少尉と出会ったのは、再訓練中だったのか」

 

「うん。ちなみにタリサのアホと私と武、あとはラム君っていう男の子が同室だった」

 

「………何か面白いエピソードは?」

 

慧の声に、サーシャは間髪入れずに答えた。

 

「タリサを年下扱いした上にボーイ、って呼んで激怒されてた」

 

暴露の声の後、サイテーという女性陣の声が唱和された。武は、そういう事もあったなあと自分を誤魔化すために酒量を増やした。

 

「で、隊に復帰した後に因縁つけられた。具体的にはアーサーとフランツ、樹と進退かけての模擬戦」

 

「え……紫藤教官と?」

 

「うん。要約すると、ガキが突撃前衛とか舐めた口聞いてんじゃねーぞ、的な」

 

「……そう、なんですか」

 

今の姿からは想像できない、と千鶴が呟くが、サーシャは首を傾げた。

 

「言っておくけど、あれはあれで他の隊員に負けず劣らずの開拓者精神を持つ直情タイプだよ? 斯衛辞めたの、陰湿な上官をぶん殴ったのが原因だから」

 

サーシャの暴露に、全員が絶句した。武はあったなあそういえば、と懐かしい顔で酒を飲んでいた。

 

「で、模擬戦だけど……真っ向から殴り合って和解した。直後に新メンバー入って、ようやく12人になった」

 

そこからはダッカの防衛線での戦闘に、タンガイルでの敗戦から新しい人員の配属。そこで、サーシャはユーリンに言及した。

 

「器用な万能選手。そして恐らくだけど、武が出会った女性の中では一番の巨乳持ち」

 

「……ですね。欧州勢を圧倒していました」

 

サーシャの言葉を、唯依が補足する。そして、他の面々はユーリンの名前がピックアップされたこと、唯依が語る口調を元に、“そういう事か”と色々と悟った。

 

その後は、マンダレー・ハイヴの攻略から義勇軍への入隊へ。そこからはサーシャは知らないので、武が引き継いで簡潔に説明していった。

 

「じゃあ、二人は京都で?」

 

「色々と罵倒されつつしごかれたわ。ためになったけれど、あの時の悪口は今思い出しても腹が立つわね……猪突盲信娘だったかしら」

 

「……自己反省イノシシ娘、か。あ、思い出したら怒りがまた湧いて……!」

 

「タケル………素人さんにいきなりクラッカー形式の教練をするのはどうかと思う」

 

サーシャの発言に興味津々になった面々は、どういう事かと尋ねる。サーシャは罵倒と悪意ある二つ名形式から罰ゲームにステップアップしてしまったという経緯の中から、人類の醜さを語った。

 

「言葉の殴り合いはいつだって虚しい―――けど、自分だけ負けて終われるか、っていう風な意地の張り合いに発展して」

 

「最後はひどかったな。女装した樹を襲う計画が基地内で立案されたし」

 

「タケルは女装しないでも襲われたよね」

 

「やめろばかおもいださせるな」

 

今でもトラウマが残っているのか、武は小刻みに震え始めた。女性陣はそんな様子を少し可愛いと思いながらも、サーシャの武への造詣の深さに戦慄していた。

 

誰ともなく視線を交わしながら、思う。

 

―――1歩か2歩かは分からないが、確実にリードされている、と。

 

そしてトラウマを払拭しようと酒を呑んだ武は、そのままゆっくりとテーブルに突っ伏して眠り始めた。その寝顔を見ながら、サーシャは告げた。

 

「―――で。まあ、色々と追加情報もあるんだけど、聞く?」

 

把握度なら私が一番だと思う、という言葉は謙遜でもなんでもない事実であり。女性陣はその差を認めつつも、提案を受け入れた。全てはここから始まる、とばかりに戦士の顔になって。

 

サーシャはその顔を見て、やっぱりかと頷くと、武に好意を持っているであろう人物を教えていった。

 

「まず、ユーリンは確実。ターラー教官とリーサ、インファンは家族的な意味だから恋愛感情はない。次に、崔亦菲とタリサ。こちらもほぼ確実。斯衛の方は………第16大隊の方は風守雨音、磐田朱莉の2名らしい。話を聞く限りは」

 

伏兵の存在に、全員が驚きを示した。サーシャはうんうんと頷きながら、ここからは未確定情報だけど、と前置いて続けた。

 

「ベルナデット・リヴィエール、っていうフランス人。あとは、ルナテレジア・ヴィッツレーベン、だったっけ。こちらは多分、知り合い程度。ちょっと印象深いっていうレベルかな……今はまだ侵食度は低い」

 

「……そう聞くと、新種のウイルスのようですわね」

 

「言い得て妙。あと、月詠の二人も怪しいと見てる」

 

「な……!」

 

驚く冥夜に、サーシャは少なくとも眼鏡かけてる方はそれっぽいと告げた。

 

「あとは………未確定情報だけど、煌武院悠陽殿下」

 

「……サーシャさん、それ以上は流石に」

 

「勘だけどお礼の口付けとかされてるっぽい」

 

「詳しく」

 

ちょっと止めようかと思っていた全員が雷に打たれたような表情になった後、サーシャに詰め寄った。冥夜だけは「やはり」という顔になっていたが。

 

「なーんか私の唇の方に視線が来てたから。そのあとに会話して、誘導して………引っかからなかったけど、収穫は得られた」

 

「……しかし、今回の1件だけで?」

 

訝しむ唯依に、サーシャは違うと答えた。

 

「子供の頃に1回、京都で2回、東北で1回。あと、明星作戦の前までは文通もしていたらしいし」

 

「……交換日記のようなものか」

 

そこから再会に、一緒に死線を潜り抜けて。不謹慎ではあるが、仲が深まる過程を順調に進んでいるようにも思えた女性陣は、いきなり出てきた更なる強敵の存在に、戸惑い戦慄していた。

 

その中で純夏は、怒りながらも仕方がないかな、という顔をしていた。

 

「あっちこっち飛び回ってたんだもんね。戦って、戦って……でも、昔より口が上手くなってるように思うんだけど」

 

「それはアルフレードっていうイタリア人のせい」

 

サーシャの情報提供を受けた全員が、次に会ったらその野郎をイワすと心に決めた。精神の乱れと共に酔いが回った証拠だった。

 

その後は、目の据わった9人で合同会議が開かれた。議題は白銀武の攻略方法について。だが誰も打開策を見いだせないまま、次第に愚痴大会になっていった。

 

武が目覚めたのはその30分後だった。いきなり水をかけられて起こされたのだ。一体何が、と当たりを見回すが、視界に映ったのは顔を赤くしてろれつの回らないのに無理して色々と話している推定女性達。武はその光景に、酷い既視感を覚えていた。

 

古くは、クラッカー中隊の。少し最近では、仙台で16大隊の一部と。平行世界では箱根の旅館で思い浮かべた単語があった。

 

「………酒は呑んでも呑まれるな、ってか」

 

ぼそりと呟いた声は妙に響いてしまい、それを聞いた女性陣は真っ赤な顔で武の周りに集まり、口々に愚痴ったり泣いたり文句を行ったりせがんだり殴ったり引っ張ったりした。

 

 

「でも、樹――――お前だけは生き残れよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、別室。A-01の宴会の跡地にて。

 

「ま、まりも? それ以上は……その、ね? 今日はお開きにした方が良いと思うんだけど」

 

「あによ~夕呼?」

 

「だから、って言葉だけじゃもう無駄なのね……まずいわ、悪酔いしてるパターンね」

 

伊隅と碓氷の援軍として呼ばれた夕呼は冷や汗を流した。まりもの横に、既に紫藤樹(犠牲者1号)の姿が横たわっていたからだ。

 

二号目になるものかと、夕呼は運命に抗うことにした。

 

「ほら、もうそろそろね? あんたの大好きな彼も昏倒しちゃってるし」

 

「あ~ん? あ、ほんろらー」

 

「だから、今日はここまでで。介抱する必要もあるし、心配でしょ?」

 

変化球で攻める夕呼。だが、それはよろしくない方向での指摘だった。

 

「んーーー、そうなの、心配なの。なのよ、でも彼はね、いい人は死んだひと達だけっていうから……」

 

まりもが不機嫌そうに呟く。夕呼は「だからってアルコールで殺すのはどうかと思うわ」とツッコミそうになったが、止めた。自分まで巻き込まれそうだと思ったからだ。

 

「仕方ないわ。犬も食わない喧嘩っぽい馬鹿騒ぎは終わりよ―――ピアティフ」

 

「はい」

 

夕呼の後ろから出てきたイリーナ・ピアティフが麻酔銃を構えた。直後、サイレンサーで発射された麻酔針がまりもの腕に飛び―――

 

「あぶなーい」

 

「瓶で!?」

 

かん、という音で酒瓶で弾かれた。反射した針が、横に居た者にぷすりと刺さった。悪酔いと麻酔の相乗作用で、被害者が痙攣し始める。

 

「――副司令」

 

「逃げても無駄よ、ここで決めるわ」

 

そうして、本日最後の死闘の幕が上がった。

 

決め手となったのは、残り1発となった後のピアティフの覚悟の深さ。

 

鼻提灯を膨らませているまりもの姿を横に、夕呼は感激に打ち震えながら逆転勝利を収めたピアティフの功績を讃えた。

 

 

一方でもはや手遅れになりそうな女顔の男が一人、テーブルの上で白い魂のようなものを吐いていたという。

 

 

 




細かい部分はスルー推奨!

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