私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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ある時、猫毛布に稲妻走る。
この身体焼き尽くす、と言葉を続けて分かる世代がいるかはわからないが、ともかく風呂場にいた猫毛布に稲妻が走った。
それが風呂という場面であるからか、はたまた玩具物語の曲を鼻歌で歌っていたからか、はたまた別の何かなのか。
ともかく稲妻が走った。
コイツずっと稲妻に打たれてんな。

ありえない未来として、ついでに絶望分の補給も兼ねて。
サブタイトルをつけるなら、
『魔王束END』
です。


xxx.ボツ話

 一夏の目の前で肉塊が倒れた。

 一夏にとってソレはただの肉塊ではない。意志を持ち、さらに言えばソレは自分を導いてくれる存在であった。

 恋をしていなかった、と言えば嘘になるが、それ以上に自分が彼女の事を愛していた事は自覚していた。

 その女が、倒れたのだ。

 

 一夏は奥歯を力一杯に押し付け、前を向いた。

 ソコにはウサミミを装着した女がいる。名前を篠ノ之束。束はキョトンとして一夏を見遣った。

 

「どうしたのかな? いっくん?」

「なんでだよ……どうしてなんだよ! 束さん!」

「だから何がなのかな? いくら私が天才であったとしても、人を推し量る事が出来ても、人を察し(さっし)諮る(はかる)事が出来ても、人の心を知る事は出来ないんだよねぇ」

「なんで……なんでルアナを」

「ああ、なるほど、なるほど。うんうん。いっくんの気持ちはよく分かるよ? そりゃぁ、もう、本当に」

 

 首を可愛らしく傾げながらそう口にした束。

 一夏は膝を着いて、赤に塗れた彼女を抱き締める。力無く、ダラリと腕が垂れた。

 

「うんうん。でもさ、コレは私の許容を遥かに越えたんだ。予想は超えてないよ? 予想の範囲内。けれども許せる範囲からは大きく逸脱しちゃったんだ」

「だからって殺す必要なんかないだろ!」

「? やだなー、いっくん。私は自分で作ったモノを壊しただけで……ああ、そっか、うんうん。なるほど」

 

 束は両手を合わせてようやく合点がいったと言わんばかりに満面の笑みを見せた。

 一夏の両腕から重みが消え去り、束の手に淡い緑色の玉が摘まれる。

 

「うんうん、さっすが私だよ。構成を壊す事も無く、ちゃーんと壊れているね」

「何を……」

「ほいっと」

 

 軽い、本当に何も思いなど詰まっていない声で緑色の玉が粒子を集めて形を再構成していく。

 そこには肌色があり、細身ながらもやや筋肉質な彼女の身体が現れた。紫銀の髪を揺らし、瞼を上げ深い青の瞳で世界を見つめる。

 

「あ、あぁ……」

「さてさて、君の名前はルアナだ。そしてソコにいる彼が君の御主人様だよ」

「――はい」

 

 一言、たった一言で少女は全てを理解したように、まるでソレが全てである様に一夏へと一歩踏み出した。

 機械的な無表情でしっかりと一夏を見つめていた少女は膝を折りの視線に合わせる。

 

「御主人様。わたしはルアナです。よろしくお願いいた――」

「違う! 違う! 束さん! 違うんだ! コレはルアナじゃない! 俺はそんな事を望んじゃいない!」

「そっか、ごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあ、君は廃棄処分だ」

 

 手を銃の形にした束の口から「ばーん」と可愛らしい銃声が吐き出された。

 言葉の銃弾は一夏の身体を貫通し、その後ろにいた『ソレ』を打ち抜いた。

 身体が膨れ、柔らかそうなお腹がその許容を超えて、破裂する。中から赤い液体を撒き散らせ、宙を踊る最中に緑色の粒子へと変換されて消えていく。まるでソコには何も無かったかのように。

 

「ッッ! 束さん!」

「やだなー。いらないものを処分しただけだよ。わぉ、至って人間的行動じゃぁないか。天才も落ちたものだね」

 

 クツクツと喉を震わせてみせた束に一夏は言葉を失い、けれど内に秘めた激情だけを奮わせる。

 

「束……束ェェェェェエエエエエエエエエエエエ!!」

「そう、いい感情の激流だ! それでこそいっくんだよ! その感情こそ私が望んでやまない感情だよ!」

「白式ィィィイイイ!」

 

 一夏が駆けるのと同時にその身体には白い鎧が着込まれた。全てを断つ為の剣が握られた。

 相手は一歩も動いていない単なる人間。自称も他称もテンサイである、幼馴染の姉。

 

「ああ、でもまだまだ足りないね」

「!?」

 

 受け止められたのは必殺の剣だ。一夏の冷静な部分が疑問を浮かべ、けれどもソレすら怒りで塗り潰されていく。

 

「うんうん。じゃあ、もっと、もぉっと、やる気を出させてあげるよ」

 

 剣を受け止めながらもう片方の手で何かを操作した束。そして彼女の身体の前に再度現れた紫銀のソレ。

 

「……ここは……?」

「ルアナ!?」

「一夏? ……何?」

 

 ジト目で一夏を見た彼女はまるでいつもの様な彼女であった。一夏も思わず表情を緩めてしまう。

 だからこそ、その緩みに毒が入りこんでしまった。

 

「『私ルアナ! 好きな事は食べる事だよ!』」

「え?」

「篠ノ之、束?」

「ふふ、私の声帯模写も素晴らしいモノだよね。フフ、『束博士……遊びも大概にしろ……』。そうだね。うん、人形はさっさとバラして片付けないと!」

「あ、ああぁぁぁあああああああ!」

「ルアナ!」

 

 ブチブチと音をたて引き千切られた腕。苦痛に喘ぐルアナとどうしてか身体の動かない一夏。

 

「ダメだよ、いっくん。今の白式は私がコントロールしてるんだし。尤も、コレを一回すると白式が私のアクセスを受け付けなくなるんだけど」

「ルアナ! ルアナ!」

「うんうん、いい目だね。ほら、もっともっと、私に絶望してみせてよ、いっくん」

「アァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ルアナァァァアアアアア!」

「アハハハハハハハハハ! 人形遊びなんて小さい頃も意味が分からなかったけれど、存外楽しいね!」

「束ぇぇぇぇええええええええええ!!」

「ああ! いいよ! いいよ! 私を恨んで。ほら、君の憎い相手はココにいるよ!? 君の切っ先は誰を斬る為のモノなんだい?」

 

 動けない一夏は束の動きを目で追う。

 嗤う束は手を人形の首へと這わせ、力を込めていく。人形が苦悶の表情を浮かべ、短い声が漏れる。

 残った腕を一夏へと伸ばした人形。天から垂らされた糸が切れる様に、その腕は力なく落ちた。

 

「束ぇぇ! 束! 殺してやる! 殺してやる!」

「うんうん。いいよ。私を殺してみせてよ。尤も、私の住処に乗り込んで来れたらね」

 

 嗤い声を残して束の姿は消えた。

 残ったのは白い騎士と力の無い人形が一つ。

 

 

 

 ここから後に勇者と呼ばれる男の戦いが始まった。




>>一夏の冒険はまだ始まったばかりだ!
 最期は力つきました。

>>勇者の旅路
 近場の町(IS学園)で幼馴染の剣士(魔王の妹)とチャイナ娘(平均ステ+武器まな板)を仲間に入れて出発。
 途中で喧嘩を売ってきたスナイパー(ですわ!)を自慢の剣(意味深)で撃ち落とし、さらに途中の村で商人の息子(実は男装美少女)を攻略上やむなく落とし、戦力の補給も兼ねて軍隊から一人引き抜く。
 一度町に戻ると最強を名乗る姉とその姉の後ろにいた妹が居て、ソレをなんとなく、気が向いたので落とした。
 勇者一夏の旅は続く。(小並感)

>>で、なんで書いたの?
 絶望が恋しかった。決して前回書いたアレのせいじゃない。
 あと精神的にヤバイらしい。

>>アトガキ
 三味線です。
 そろそろ今年も終わりだそうで、ツマラナイ人生もまた一つ死へと向かい歩いているそうです。
 いったいどんな精神状態なら風呂場でリラックスしているときに少女の解体とか思いつくんでしょうね。不思議で仕方ありません。
 そろそろ物語的にも最期に向かっていますので、こうして絶対に無いであろう未来を投稿した次第です。勇者一夏はねーよ。

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