私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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人物紹介は? って?
ISは形変わっただけだし、それ程変わってない事に気付いたからいいか、と自己完結しました。
決して面倒だったから、だとか。そういう事ではない。
そんな訳ナイジャナイカー


xxx.閑話

 少女は目を覚ました。

 目覚めた視界は何も映さず……いいや、真っ白い天井を映しこんだ。

 二度、少女は瞬きをしてベッドから降りる。顔を洗う為に洗面台へと向かい、蛇口を捻り、水を顔へと掛けていく。

 顎先に伝う水滴を拭いながら少女は備え付けられた鏡は紫銀の髪と深い青の瞳の少女を映した。

 鏡を前に喜怒哀楽の表情を確認して少女は息を吐き出した。

 鏡に後ろ姿を映して少女はベッド近くに散乱している服を拾い上げ着用していく。

 カーゴパンツを穿き、壁に吊るしていたホルスターを細い腰に回す。ホルスターの中のリボルバー式拳銃を抜き、シリンダーの中に一発だけ弾丸が入っている事を確認してからまた収める。

 ベッドがもぞりと動いた。

 真っ白い髪がシーツからはみ出て、少しだけ開いた瞼の間から真っ赤な瞳が見える。

 

「あれ? お姉様、お仕事ですか?」

「散歩よ」

「そーですか。ならもう少し眠ってます」

「ええ」

 

 二言ほどの会話を交わして少女はベッドに眠る美女を放置して部屋を出る。部屋を出た先は機械的な廊下が長く伸び、ずっと同じ景色が並んでいる。

 

 少しだけそんな景色を眺めながら歩けば、開けた空間に繋がる。

 機械的なソレではなく、自然的な広場だ。

 少女は瞼を下ろし、深呼吸をする。ホルスターの中に収まった銃を抜き、顎へと突きつける。

 祈る様にグリップを握り、親指を押し込む。

 打ち下ろされたハンマーをもう一度引き、トリガーを絞る。

 もう一度、

 

 もう一度、

 

 もう一度。

 

 もう一度、

 

 もう一度。

 

 ガチン、と鼓膜が揺れてから少女は瞼を上げる。シリンダーを取り出してみれば一番上に留まっている金色の弾丸。

 呆れた様に息を吐き出して、シリンダーを少しだけ戻して銃へと収める。

 生えていた木に照準を向け、ハンマーを引き、トリガーを絞る。

 腕に衝撃を感じ、盛大に音を鳴らし、銃口から煙が吐き出された。

 

「ま、いつも通りね」

 

 そう、いつも通りだ。

 銃口から立ち上る煙を吹き消し、少女は銃をホルスターへと戻した。

 

「……すごい」

「ッ!?」

 

 思わず、本当に思わず少女は銃を抜き振り向き様にハンマーを引いて声の主へと銃口を向けた。

 ソコには白い着物と真っ黒い髪の少女がいた。眉より少し上で一直線に断たれた髪型の少女だ。

 銃を向けられていても少女は動かずに、ニコリとも微笑まず、何処か気怠い瞳を銃を握る少女へとぶつけていた。

 

 

 

 これがまだ人形だった頃の彼女と人間である事を教えた彼女との出会いだ。

 

 

 

 

「まったく、よく食べるわね、アナタは」

「美味しいモノは美味しい」

「ふーん。私は食べれればそれでいいわ」

「もったいない」

 

 あぐあぐと料理を駆け込む黒髪の少女と対面に座った紫銀の少女は固形型のレーションを口に含んでいる。

 表情の乏しい黒髪の少女は珍しく満面の笑みで食べ物を口へと運んでいて、ソレを紫銀の少女は意味の分からないように見つめている。

 

「食事なんて所詮は栄養の補給でしょ? 欲求でもあるけれど、楽しくもなければ気持ちよくもない」

「……生きてる事は楽しい」

「生きている事に意味なんて無いわよ」

「……そう」

 

 紫銀の少女の言葉に対して黒髪の少女はソレだけを呟いて料理を口の中へと詰め込んでいく。

 それ程噛まずに飲み込んで、水で流し込んでから少女は立ち上がる。ソレを見て紫銀の少女も立ち上がった。

 

「さて、じゃあ、行きましょうか」

「……生きる為に行く」

 

 黒髪の少女は白い着物の裾から鞘に納まったナイフを取り出して後ろ腰の腰紐へと差し込む。

 紫銀の少女は色の濃いレインコートを羽織、身体の線を隠した。

 

「ツマラナイお仕事ね」

「……クヒッ」

「アナタはそうでもない様だけれど」

 

 少女は二人で歩いた。

 そして少女は二人で人を排除し続けた。赤い液体を撒き散らし、狂気に身を委ねる。

 

 

 

 

 

 

「どういう事なんですか!」

「五月蝿いわよ、"ブローバック"」

「お姉様! どうしてこんな女と寝てるんですか!? ワタクシというモノがありながら!」

「……誰?」

「私のスコア以下の妹分」

「そしてお姉様の恋人です。だから邪魔です、風穴開けてそこらで寝てください」

「……年上なのに?」

「ァァ! お姉様! こんな事言いやがる売女の何処がいいんですか!?」

「気が合うだけよ」

「つまり、身体の相性はワタクシの方がいいと! そういう事ですねそうに決まってるムッハぁー!」

「彼女の方が好みよ?」

god damn(ちくしょう)! いいえ、まだです。そうきっと強さなら」

「一応言うけれど、アナタよりも強いわよ?」

「――――」

「……倒れた」

「可愛いでしょ?」

「…………微妙」

「あら、残念。まあ、コレで戦闘狂だから余計にイイんだけれど」

「……へぇ」

「お姉様ぁ……慰めてくださいぃ……アハッ、フフ」

「弄らない、の」

「へぶぁ」

「……やっぱり面倒そう」

「黙りなさい泥棒猫! ちょっと殺しが出来るからって図に乗らない事ですね。そもそもワタクシ達は殺す為に生きているんですから殺せて当然です」

「……違う」

「そうね、違うわ」

「わたし達は、生きる為に殺す」

「生きてるから殺す、でしょ?」

「……ん?」

「あら?」

「はぁ? お姉様はイイとしても、手前は許せませんね」

「……別にどうでもいい」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 そこは白であった。

 紫銀の少女の靴からは温度を感じさせない、金属製であろうソコは冷たい事が容易に想像出来た。

 

「どうしてこうなったのかしら?」

「……知らない」

 

 黒髪の少女は素っ気無くそう呟いて後ろ手にナイフを抜く。知らない、と言いつつも口元は笑みで歪んでいる。

 

「……でも、御主人様の命令」

「そうね、カミサマの命令だわ」

 

 ナイフを構えた黒髪の少女。紫銀の少女は腕の力を抜いて、グリップの手前に置いた。

 お互い、殺したくはない。けれど、目の前の存在を殺す事に躊躇いなど無い。躊躇えば、死ぬ事を理解しているからこそ手を抜けない。

 そして、互いに殺し合いたいと思っていた。

 

 動き始めは同時であった。

 膝を使い、弾ける様に移動した黒髪の少女。

 ソレを正確に見抜き、銃を撃つ少女。

 接近されないように下がりながら撃つも、ナイフは止まらない。

 接近を許し、足元からナイフが喉を狙い振られる。

 顔を逸らして回避しつつ、銃口はナイフへと向き、トリガーは引かれる。

 一撃。回避される。ソレを追うように二撃目を撃ち、シリンダーを取り出す。

 左手に持たれたスピードローダーを差し込み、シリンダーを戻す。

 ナイフにしてみれば、その動作だけで十二分に時間はあった。

 

「クヒッ」

「ガッ」

 

 腹部へと吸い込まれるように蹴りが入る。衝撃に胃の中に収まった固形レーションが競り上がり、無理やり押し込む。

 蹴られた衝撃を食い縛り、浮いた身体を縮めて着地する。ナイフによる素早い連撃に備え前を向く。

 眼前に黒い瞳。瞳に自分の顔が映り込んだ。その顔は嗤っている。

 

 ああ、これほど殺しとは楽しいのだ。

 

 ああ! これほどに人との殺しは楽しいのだ!

 

 ああ!! ××との殺し合いは楽しい!!

 

 

 右手は自然とトリガーを引き絞っていた。

 ソレは生に執着などしていなかった少女にとって奇妙な出来事で同時に理解すべき出来事であった。

 この楽しいものを終わらせてはいけない。

 たったソレだけの為に少女は生にしがみ付いた。

 

「タノシイわぁ!! もっと! もっと逝きましょう!」

「ヒヒッ! 生きる為に殺すだけだ!」

「ええ! 生きる為に殺し合いましょう! 私が生きれるのはココだけよ!」

 

 イカれていた人形は、命令されて殺すだけの人形は、ようやく自分が生きている人間だという事を理解した。

 ハジメテの相手に媚びるように弾丸を放ち、ナイフの切っ先を肌へと掠らせる。

 

 

 弾丸がナイフの腹へと当たり、その刀身が折られた。

 折れた先が明かりを照り返す。その破片が落ちる前に黒髪の少女は動く。

 向けられた銃を奪い取り、ハンマーを下ろした。

 紫銀の少女は銃口を見つめて、やはり嗤う。生きている事が証明されて、そして死ぬのだ。

 けれど、生きている事を知った人形は自然と目から雫を落とした。

 

「……そう」

 

 黒髪の少女は銃を自分のコメカミへと当てる。

 

「……きっとわたしはこの為に生きていたんだ」

「何をして、」

「アナタにわたしをあげる。生きてほしいから、アナタに生きていてほしいから、生きる為に生きて」

 

 銃声が鼓膜を揺らした。

 赤いペンキが撒き散らされる。

 白い着物が赤く、黒く塗り潰されてしまう。

 

 

 

 

 

◆◇

 

 少女は目を覚ました。

 目の前には金色の髪の少女がいて、今まで見ていたモノが夢である事を理解した。

 幸せそうに眠る少女の事が少しだけ憎らしくて頬を優しく抓ってみれば身動ぎして背中を向けられてしまった。

 ソレが何処か可笑しくて笑ってしまう。

 

 欠伸を混ぜてベッドから降りる。

 粒子を集めて、左手にナイフを一本出現させて鞘から抜いた少女。

 ナイフの刀身には紫銀の髪に深い青色の瞳の少女の顔が映り込んでいる。顔は何処か自嘲気味な笑い。

 

「色々あったけれど、私は生きているわ。もうアナタの代わりのルアナじゃなくなったけど……それでも私は生きる事にするわ」

 

 ナイフに映った顔が微笑みに代わる。そんな様子にルアナは驚いて何度か瞬きして確認すれば、自分の自嘲めいた笑みが浮かんでいるだけ。

 少しだけ、ほんの少しだけルアナは笑みを深めてから鞘へとナイフを収める。

 自分の名前であり、彼女の名前になったかも知れない印字を優しく指で撫でながら。




>>××《彼女》
 ナイフの使い手で無表情娘。戦闘中はケタケタ笑いながら相手の首を刎ねたりするのが趣味。食べるの好き。
 生きる為に殺す、という信条を持っている殺し屋であり、殺す為に生きている"ブローバック"とは対極な存在。
 ルアナになる少女を生かすために自分の死を選らんだ末期な人でもある。
 年齢を言うなら、高校生程度の年齢であり、ルアナよりも年上だったりする。
 おっぱいは無い。

 書く事の無かった設定
 彼女は日本人であり、ちゃんとした名前もあった。
 書き手の都合で抹消されているが、どこぞの殺し屋一族の血筋だとか。
 『鬼』に狙われる因果があり、殺人『鬼』であるルアナに殺される事をどこか悟っていた。
 そんな因果で愛しい人に重荷を背負わす訳にはいかないという日本人らしい親切心で自ら因果を断ち切るも、結果はお察し。



>>なんで過去話?
 差し込むところが無くなったから。実際は"ブローバック"との戦闘中に回想とか入れようと思っていたけれど、思った以上に二人に入り込む余地がなかったので無くなった話。同時に亡くなった話でもある。
 閑話として、ちょうど合間があったのでぶち込んだ次第。

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