私が殺した彼女の話   作:猫毛布

82 / 103
次回あたりで人物紹介……だと想います。
上手く纏めれたらの話

この小説はケンゼンです。


82.私が殺した彼女

 積まれていく皿。無くなっていく料理。

 今しがた彼女の口の中へと消えていった挽き肉の塊が肉汁の残滓を皿に残し悲しみを表している。

 ケチャップソースを口の周りに盛大に付着させた彼女は最後のハンバーグを咀嚼して、名残惜しそうに飲み込んだ。

 近くにあるカップに口を付け、中に入っているホットチョコを飲み干し、ようやく一息。

 さて、シメはアッサリしたうどんと甘酢あんかけ、いいやレアチーズケーキでもいいかも知れない。

 

「全部頼めば問題ないわね」

「ちょっと待て」

 

 引き止められた彼女、ルアナ・バーネットはキラキラと食べ物に向けていた深い青の瞳をより一層深くして、更には瞼を少し落としてジト目になって襟首を掴んでいる男、織斑一夏へと向けた。

 その瞳に思わず息を飲み込んでしまった一夏。幸せいっぱいといった彼女を止めた彼の言い分も分かる。

 時間的には放課後にも関わらず、その手前には無人機との戦闘をした後であり、さらに言えばルアナが正式に戻ってきて数時間しか経っていないという事だ。

 色々と聞きたいこともある。あるが、バクバクと料理を口の中へと吸い込んでいく彼女の姿には何も言えなくなってしまった。最初の方は相変わらずである彼女に何も言わずに少しだけ感慨深い感情を表に出していたのだが、食べる量とその甘ったるい匂いに一夏は眉間を顰めた。

 その一夏を後ろから見守る六人の少女もまた疑問をぶつけたい気持ちが胸焼けによって蓋をされている状態だ。

 

 ハッキリ言えば、勘弁してくれ、だ。

 

「何? 私はこれからチーズケーキの世界へと溶け込むのよ」

「話が終わったら好きなだけ食べていいから、とにかく、一旦、食べるのをやめてくれ」

「…………ぶぅ」

 

 少しだけ可愛らしく頬を膨らませてみせたルアナに一夏は胸を締め付けられる。本当に俺の判断はあっていたのだろうか? ルアナに悲しい顔をさせる事が正しい事なのだろうか? 否、ソレは断じて否である!

 一夏はその両足を駆使し、食券販売機の方へと向かう!

 

「……一夏?」

 

 向かおうとした。

 頬に軽い風を感じて隣を見た。顔の横に青龍刀の刃が見える。鏡の様に反射した自分の顔は実に引き攣っていた。心臓が激しく音を鳴らし、一夏はなるべく平静を装って後ろへと振り向いた。

 腕だけに少しばかりボロボロのISを纏った鈴音がニッコリと素敵な笑顔を浮かべていた。口が動く。声は出てない。けれど一夏は分かった。ソレが長年の信頼関係からなのか、恐怖からかは分からなかったが、彼女が自分に座れと命令していることは骨の髄から理解した。

 一夏は壊れたブリキの玩具のように椅子に座った。その顔は青い。いつも通りだ。

 

「ルアナも、座りなさいよ?」

「鈴音の頼みなら仕方ないわね」

 

 一夏を何処かおかしそうにコロコロと笑って見ていたルアナは鈴音の言葉にも従う。

 

「よくそんなに甘いモノが食べれますわね」

「それほど食べてないでしょ? 前もこのぐらい食べていたと思うけれど」

「いいえ、量の問題ではなく。以前も確かに濃い味付けのモノが大量に……ええ、大量にありましたがそれほど甘いモノは無かった筈ですわ」

「そうかしら? 確かに今は甘いモノを好んで食べているから間違いではないけど」

「好みでも、変わった?」

「私の好みは変わってないわよ、簪。ただ肉体の復元をする時に戦闘に必要ないエネルギーを色々と省いたの」

 

 その内の一つが味覚ね、と呟きながら改めてココアを入れてきたルアナ。

 そんなルアナを見て首を傾げたのは箒であった。

 

「? ルアナ。性格が変わったか?」

「私の元々の性格はコッチよ。前は彼女の性格を模していただけ」

「彼女?」

「ええ。昔の女?」

「な、なんですとー!?」

 

 立ち上がって驚きを顕わにしたのはシャルロットだ。パクパクと口を動かして、目を見開き、顔を真っ青にしている。こちらはいつも通りではない。

 そんな様子にもルアナはクスクスと笑みを浮かべている。

 

「安心なさい、シャルロット。アナタが想っている様な所謂昼ドラ展開には決してなりはしないから」

「ソレは……よかった?」

「なんで疑問系なのよ……」

「嫁よ。昼ドラ展開とはなんだ?」

「……ラウラは知らなくていい事だ。決して部下達に聞いちゃいけない。お兄さんとの約束だ」

「ふむ、嫁との約束か……約束、やくそく……二人だけの……」

 

 思考の彼方へと向かったラウラを放置した混沌とした空間はあっさりとその幕が落とされる。

 

「だって、死人との寝取りあいなんて出来ないでしょう?」

 

 アッサリと、まるで何も無い様に言ったルアナ。カップに新しく入れられたココアを飲みながら、その甘さに口元を緩め、そのまま言葉を続ける。

 

「悲しい別れがなかった訳ではないけれど、突然の別れという訳ではなかったわ……第一、私が彼女を殺したのだから」

「……ど、どうして、殺した、の?」

「……さて、どうしてだったかしら。あの時は目的も無く殺しをしていたから、忘れてしまったわ。

 きっとカミサマが選んだのかしら。Eeny,meeny, miny,moe...(どちらにしようかな) なんてね」

 

 嘘だ。とは誰も言わなかった。

 そんな忘れてしまうような理由で忘れられない人を殺せるものだろうか。そんな事は無いだろう。

 けれど、ルアナが細めた瞳と憂いを帯びた息に誰もソレを追及する事は出来なかった。

 

「殺した後は自棄になって、組織を全部(ぜーんぶ)殺し尽くして……自分を否定して、彼女の死を否定して、人である事が嫌になって……

 そこで自殺でもすればいいのに、彼女が自殺をする訳もないから殺されることで完結させようとして……」

 

 ルアナはそこで言葉を止めて、溜め息を吐き出して「馬鹿らしい」と頭を振った。

 開いた視界には底の見えるカップ。甘かった茶色の液体は既に飲み干した後で、残念そうに、ルアナはもう一度その口から溜め息を吐き出す。

 

「ルアナ……」

「……ココアも無くなったし、私が殺した彼女の話はお終い。私は部屋に……いいえ、少し外に行くわ」

「は? なんで?」

「鈴音、止めてやるな」

 

 疑問を口に出した鈴音をラウラが止める。

 その顔は真剣そのものであり、鈴音はその口を噤む。心構えとしてラウラはルアナの痛みを知っている。痛みを味わった事が無くとも、ソレは想像に容易く、そして想像以上である事は想像に難くない。

 暗い空気になっている七人に対してルアナはキョトンとして、あぁなるほど、と思う。

 悲しみに暮れ、泣いてしまう。そんな弱さを見せない為に外に行くと思われたのか。

 ルアナはなるべく七人に見せない様に微笑む。心の奥底から愛おしさが溢れたけれど、ソレこそ自分らしくない。

 

 わざと音を出して、ルアナは椅子から立ち上がる。しっかりと靴を鳴らして歩き、シャルロットの肩を叩いた。

 

「さぁ、シャルロット。行きましょ」

「うぇ?」

「何よ、その声は。アナタを抱くのに態々外に行くのだから連れて行くのは当然でしょ? それともキチンと待ち合わせを――」

「ちょっと待て!」

 

 キョトンとしながらも頬を赤らめているシャルロットに微笑むルアナ。背景には綺麗に咲き誇る百合の花幻視される。

 そんな百合の花を壊したのはホモ、失礼、同性愛者疑惑が絶えない織斑一夏である。

 その一夏に声を掛けられ、目を細めたルアナ。

 

「何よ、一夏(ロリコン)

「悲しんでるんじゃないのかよ! あと俺はロリコンじゃない!」

「昔の話だと言ったでしょう。もう死んだ人間に想う事なんて無いわよ。 あと、その言葉は昔の私に……あー、ナニを血走らせてない人が言う言葉よ」

「そんな事実は……って、あの時の記憶もあるのか?」

「当然でしょ? アナタが私の頭を撫でてダラシナイ笑みを浮かべていた事も覚えているわ」

「一夏ァ!?」

「ちょ、まて、箒さん!? 違う。違うんだ、箒さんや。犯罪者予備軍では無いんだ。そんな事前処理をしようとしないでください!」

「言葉は閻魔様が聞いてくれるわよ」

「鈴音さん! ダメ! ISは死んじゃう! 俺死んじゃうから!」

 

 箒の二刀流の竹刀による連撃と鈴音の両腕の連撃を回避する一夏。三人を見ながらしみじみと成長したな、とか思うルアナ。

 そのルアナに声を掛けたのはセシリアである。

 

「その、覚えておいでなのですか?」

「ええ。だからこそ、セシリアはもう私と二人きりの模擬戦をしない方がいいわ」

「どうしてですの?」

「私として言うけれど、友達をあまりコチラ側に入れたくないの」

 

 少しだけルアナは自分の手を見つめて苦笑する。

 死と隣合わせの、相手を殺す為だけの世界になどいない方がいいのだ。

 どこか寂しそうな顔をしているルアナにセシリアは何も言葉が出なかった。シャルロットの腰を抱いているから出ないのかも知れないが……。

 

「それと、簪」

「ふぇ? む」

「――――」

 

 簪の近くに寄ったルアナは簪がその顔を上げるタイミングに合わせて唇を合わせた。

 驚く簪。絶句するシャルロット。その他唖然。

 

「好きよ。愛を囁く資格は無いけれど」

 

 ニコリと微笑んだルアナは踵を返して、口からエクトプラズマらしき何かを吐き出して、真っ白になっているシャルロットの腰を抱きながらその場を後にした。

 

 無表情のまま固まっていた簪。顔色も平静そのものだった。

 一秒、二秒、とパチクリと瞬きをした簪の顔が突然赤くなる。叫ぶこともなく、沈没した。数秒程前の出来事と今の姿を彼女の姉が見ていたならばどうなったであろうか。生徒会決定戦でも勃発しそうだが、周りを確認して事を起こした主犯の事など誰も分かる筈がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「る、ルアナ?」

 

 シャルロットはベッドに押し倒されていた。

 少し豪華な夕食に舌鼓を打ち、少ない会話で、アッサリとホテルの中へと連れ込まれた。

 押し倒した相手は妖艶に微笑んでベッド()の上に乗る彼女(料理)に唇を濡らす。

 心の準備というモノがあるのだ。

 確かに、ルアナとこうした行為をしたことのあるシャルロットであるが、決して何の準備も無しにという訳にもいかない。

 それこそ乙女らしい理由であり、同時に乙女としてかなり言葉にし難い理由が多数ある。

 

「そ、その、ほら、シャワーを浴びないと」

「大丈夫よ。シャルロットの匂いは好きよ」

「ほら、あ、汗とか」

「問題ないわ」

 

 首筋に顔を寄せられて生温く弾力のある感触が肌に触れる。抑えようと手を動かそうとすれば、手首を掴まれ頭の上へと移動させられる。

 このままでは状況に流されてしまう。ソレは、きっとイケナイ事だろう。いいや、イケる行為ではあるのだが。

 そんな中、シャルロットの頭の中で簪から借りたジャパニーズコミックの一文が思い出される。

 逆に考えるんだ、流されちゃってもいいさ、と考えるんだ。

 考えて、考えた結果、シャルロットは根本的なことに気がついた。流されてはいけないんじゃなかったっけ? と。以外に彼女は冷静なのかも知れない。

 

「まあ、抵抗が無い事はいい事だけれど、服を脱がされても反応がないと萎えるわね」

「え、わっ」

 

 自分の身体を見下ろすと肌色の山が見え、そして彼女を見れば今朝した筈のブラジャーに摘まれ、床に落とされた。

 思わず自分の胸元を隠したシャルロットにようやくか、と苦笑して溜め息を吐き出すルアナ。

 

「もう泣いていいのよ?」

「え?」

「アナタの事だから、どうせずっと溜め込んでたのでしょう? せっかく二人きりになったのだから、甘えても問題ないわよ」

 

 さも当然のように言われた言葉にシャルロットは瞼を動かして、ルアナの顔に触れる。

 頬に触れ、確かめる様に鼻筋を撫でる。ようやく、触れる事が出来た。ようやく、抱き締めてくれる。

 シャルロットの中で喪失していたモノが見つかり、虚無だった心が満たされていく。

 

「ルアナ……」

「ええ、私よ。ごめんなさい、アナタには色々と無理をさせたみたい」

「るあなぁ」

 

 抱き締められていたシャルロットはいつの間にかルアナを抱き締めていた。

 胸に顔を埋めて、瞳から溢れ出る水を彼女へと流した。そんなシャルロットにいやな顔もせずルアナは頭を撫で続ける。

 ようやく彼女は自分を支えていたものから解放された。自分を惨めにしていたモノを忘れる事が出来る。

 ソレは彼女だけのモノではない。二人に共有されるモノへとなったのだ。




>>で、情事は?
 想像力が 足りないよ ▼

>>昼ドラ展開
「キーッ! このドロボー猫!」
 みたいな展開。

>>ハーレム女、ルアナ
 彼女自身が性に開放的だから仕方ない。相当対価を払えばげふんげふん

>>ロリコン一夏
 称号が一つ増えました。

>>抱くために外に行く
 既に過去となってしまった壁ドンされる可能性があるのと、お互い同居人がいる為。
 巷の壁ドンされて喜ぶチョロインの集団がこの世界にいるらしい……。

>>「あー、ナニを血走らせて……」
 ルアナなりに一般常識と少女達の色々を鑑みて名称を隠した。意味はない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。