私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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書いてた時に多発した誤字

キャノンボール・フィスト
ロケットパンチかな?

無駄に文字数は多い。話は全く進んでない模様


71.予期出来る初手

 夢を見ていた。

 幸せな夢だ。自分の隣には誰かが居て、自分の手を誰かが取っている。

 笑顔で、幸せな香りのする。そんな夢。

 きっとソレは、やっぱり夢だったのだろう。

 自分の手は赤く染まっていて、鼻にこびり付いているのは硝煙と鉄錆に似た匂い。

 何も変わることは無い。

 夢のような、そんな世界ありえないのだ。

 だってアレは私の話ではない。

 だってアレは彼女の話。

 

 少女は息を吸い込んで、瞼を上げる。

 先ほどから頭は鈍器で叩かれたように鈍痛が走っている。ソレを忘れるかのように、少女は静かに持っていた拳銃をコメカミへと押し付ける。何の感情も持たない様に、何もかもを捨てる様に。

 少女はトリガーを引き絞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 ハッキリと、とても単純に、キッパリと言ってしまえば、織斑一夏……いいや、【白式】はキャノンボール・ファストという催し物には不向きな機体だ。

 まず第一に燃費が悪すぎるのだ。ゆっくりとしたペースでスタートからゴールまで進むのなら問題は何も無いのだが、残念ながらレースなのである。手を抜くにしてもバレない様にそれなりの速度が必要になり、乗り手である一夏は手を抜くなんて事は出来ない。抜く気も無い。手でヌく事は幾度がしているだろうが。

 次にトップスピードとアベレージスピードである。燃費の事を度外視して、【白式】は素晴らしいスピードを持っている。ソレはトップスピードに限った話であり、恒久的にスピードを出し続けなければならない状態ならば【白式】はそれほど速くは無い。

 瞬間的な加速は素晴らしい。0から100に、停止から最高速へと一瞬で至れる素晴らしい加速である。最高速を保てれば独走し、それこそ一夏は触れられる事なくレースに勝利するだろう。しかし、【白式】は常にソレを保てる設計にはなっていない。一夏が求めたのは『一瞬で相手に接近できる加速』だけである。『相手を追い回す速度』ではない。

 急激な加速で最高速へと昇った後はゆっくりとその速度は落ちていく。一夏が普段行っている訓練では常に急加速を続けて無理矢理最高速を保ち、移動を行っているだけなのだ。

 では、ソレをすれば問題はないのか? 否である。前述した燃費の問題が原因だ。例え燃費がよかろうが、そんな無茶な加速を繰り返せばエネルギーは尽きる。

 そして武装。現在の【白式】の武装は鞘も鍔も更には刃すらも失くした刀だ。刀を型成した形名とは一体なんだったのかと言わんばかりの単なる棒である。尤もこの棒、なんと驚くことに最高出力ならばISの装甲を両断する事が可能なのだ。バリアも込みの話である。

 零落白夜とも呼ばれる性能、自身のエネルギーを消費し相手のバリアをかき消して相手ISへと直接攻撃を可能にする。直接攻撃を防ごうとISは絶対防御というエネルギー効率なんて考えてない自衛能力が発動してしまう。コレによって相手のエネルギーを極端に消費させる事が可能。更に出力を上げればISの両断すら出来るのは一夏がIS学園に以前飛来した無人機で証明済みである。

 そして今の『雪片弐型・合口拵』は全てを圧縮しているのだ。刀の長さを保ち、刀の形を保ち、刀の切れ味を保った。一夏にとって扱いやすく、一夏にとって振りやすく、一夏の欲した物へと昇華させた。持っていた暴力を無理矢理押さえ込んで、ただ斬るという単純な事だけに向けた。結果的に一夏は自身の力を扱いきれず、触れたものを傷つけてしまう、振るえば文字通り必殺になってしまう。

 そんなモノを競技に使えるだろうか。否である。心優しい一夏はそんなモノを友達に向かい振るえる訳もない。

 例え振るえたとしても交戦になり、エネルギーを消費する一夏も落ちてしまう。

 

 

 以上をふまえて言う。【白式】は妨害ありのレースに向き過ぎているのだ。

 最後尾から出発し、一瞬の逢瀬で相手を落とす。コレを繰り返せば一人だけが完走する事が出来るのだ。

 

 けれども、コレはキャノンボール・ファストという催し物なのだ。決して生死を賭けたレースではない。和気藹々とはしていないが、それほどの必死さなど無い。

 故に、もう一度言うが、【白式】はキャノンボール・ファストに向いていない。

 

 そんな【白式】を身に纏った一夏は白い仮面の様に見える顔の装甲を展開せずに溜め息を吐き出した。

 前日にどうしてか部屋にいた更識のシスコン度合いが酷い方に「勝たなければ訓練増やす」という激励を受けたのだ。負ける訳にも行かず、けれど前述した『孤独レース』はその時に禁止を言い渡されてしまい、淡々と機体評価をした。

 した結果を【白式】と共に確認して頭が痛くなった。

 

 無理ゲーだろ。IS学園で無理ゲーだ無理ゲーだと何度も言った気もするが今度こそ無理だ。そして今回は訓練増加という罰も待ち受けている。

 

 それでも一夏はめげずに考えた。

 最後尾からスタートして、ラストスパートで全てを抜き去り一位へと成る事は可能なのだろうか。攻撃せずにである。

 無理だわ。ゴールまでの間にセシリアとシャルの弾幕に防がれた。

 

 次に最初から最後までトップで逃げ切る事は可能なのだろうか。 当然、攻撃せずにである。

 

 無理だわ。ラウラのAICで停止する。ソレを『雪片』で防いでも鈴と箒がいる。

 

 絶望的である。一夏に勝ちの望みなどない。

 いいや、一応ある。『孤独レース』では無くて、攻撃を解禁すればいいのだ。相手を落とさない程度の力で。

 

「……やるしかないよなぁ」

 

 出来るのか、と聞かれれば一夏は恐らく微妙な顔をするのだろうけれど、やるしかないのだ。

 これ以上過酷な訓練……は望む所だがあのお姉様はただ単にキツイ訓練を用意しそうなので勝たなくては勝たなければいけない。

 頭を軽く掻いて、息を吸い込む。吐き出した後は既に意志の固まった後である。

 

 

◇◇

 

「ふん、戦いは武器で決まる事ではないという事を教えてやろう」

 

 凰鈴音の高速機動用装備を見て篠ノ之箒が言った一言である。

 そんな一言に決して言葉には出さないけれど近くにいた笑顔のシャルロットは思った。

 

―お前が言うな!

 

 と。決して口にも出さないし、シャルロットの表情は崩れることはなかったけれど。

 心のどこかで篠ノ之箒にだけは前を走らせない事を誓いながらシャルロットはようやくやってきた一夏に視線を飛ばした。

 

「や、遅かったね」

「ああ、間に合ってるから問題は無いだろ?」

「勿論。けど、女の子を待たせるなんて最低だと思うけど?」

「ルアナに散々言われたから知ってるよ」

 

 言われた時を思い出したのか一夏はどこか懐かしいモノを思い出すような顔をして、途端に肩を落とした。果たして待ち合わせ場所に怒った顔でいたルアナにひたすら頭を下げたことを思い出したのか、デートだと嬉々としていたモノが説教になった事を思い出したのか、彼の思春期の一ページは中々に辛辣なのかもしれない。

 まあそんな一夏君の遍歴はどうでもいいのだけれど。

 

「みなさーん、揃いましたねー」

 

 少しだけ間の抜けた、のんびりとした声がピットに広がった。ソチラを向けば山田先生が相変わらずの笑顔を顔に浮かべながらひらひらと手を振っていた。

 その腰元にはバーネットがひょっこりと顔だけを出して全員を視界に入れている。

 それに気付いたシャルロットは笑いながら軽く手を振った。振った結果、バーネットは花を開くように綺麗な笑顔を浮かべて、シャルロットが有する【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】の記憶容量が少しだけ埋まった。

 

「シャル、戻ってきなさい」

「はっ!? 花畑かと思ったよ」

「アナタの頭の中の話ね」

 

 辛辣な鈴音の言葉にも負けずにシャルロットはニコニコとしながらバーネットを見つめている。バーネットは見つめられすぎて恥ずかしいのか、顔をすっぽりと山田先生の身体へと隠してしまった。

 その仕草すら愛らしいのだけれど。また記憶容量が埋まった。

 

「じゃあ、皆さんスタートポイントまで移動しますよー」

 

 仕切り直す様に、もしくは無視するように、真耶はのんびりとした声を出した。マーカー誘導に従い移動する全員に向かって、バーネットは少しだけ息を吸い込んで、なるべく大きな声を出す。

 

「みんな! 頑張ってね!」

「おうっ!」

「勝つから見ててね!」

「ほう、シャルロット。誰に勝つと言うのだ?」

「聞き捨てなりませんわね」

「はいはい、言い争うのはいいから。さっさと移動するわよー」

 

 シャルロットの言葉に過剰に反応した負けず嫌い二人を押し出す為に背中を押していく。当然シャルロットもソレに従っている。

 ふと、一夏が視線を後ろに持っていけば、停止して山田真耶とソレの腰に付いているバーネットを見ているラウラがいた。

 

「ラウラ、どうかしたのか?」

「いや……」

「何? アンタもバーネットの笑顔に、なんて言うんじゃないでしょうね?」

「ソレは言わないが……軍にいた頃をふと思い出した」

「? 何でだ?」

「あら、ラウラさん。緊張なさっているのかしら?」

「いや……そうだな。表彰台に立つと考えると少しだけ緊張する」

 

 ふっ、と息を漏らしたラウラが今まで言い争いをしていた二人の間を抜けた。ちゃっかりと勝つことを宣言したラウラの言葉を理解した武士娘と貴族娘と中華娘は負けん気に火がつく。

 結局ドコか姦しい状態へとなった事に一夏は溜め息を吐き出して、雪片を握り直す。

 

「ま、勝つのは俺だけどな」

 

 小さく呟いた言葉はしっかりと自分の心に刻まれた。

 

 

 

 割れんばかりの歓声を浴びながらスタート位置へと立った一夏。

 意識を集中させて次第に音が静まってくる。荒い鼓動だけが一夏の鼓膜を揺らして、ソレすらも煩く感じてしまう。

 早く、早く、そんな声が心の奥底から叫ばれているようで、一夏は前をしっかりと睨んだ。

 カウントダウンが始まる。

 一般的となったアラビア数字の『3』が写る。

 時間は常に一定の筈であるのに、その時の一夏にとってソレはとても遅く感じた。

 『3』から『2』へ変わる時も、そして『2』から『1』に成る時も。

 

 仲間への攻撃を極力避けたい一夏の狙いは自身がトップ、もしくはその近くをキープし、一刀で入れ替わりをする。

 妨害を防ぐ事を考えても、二位か三位程度の位置が丁度いいのである。後はゴール付近で考えればいい。

 

 『1』から別の文字に変わる瞬間、一夏は【白式】の命令を送る。主人の想いを極力再現する事の出来る【白式】は当然の様に命令に従い、そのエネルギーをバーニアへと送り込んだ。

 ブザーが響く。一夏の目の前に『GO』の文字が見え、バーニアが火を吹いた。

 

「すまんな、嫁」

 

 そんな声が聞こえた。

 隣を抜けていく銀髪。黒いIS。一夏の脳に叩きつけるようにAICという文字が駆ける。

 当然、【白式】の大きすぎる推進力で無理矢理動けば停止するのは一瞬である。

 たかが一瞬、されど一瞬。

 次々と一夏の横を抜けていく色とりどりの機体達。

 

 

 

 【白式】がキャノンボール・ファスト、いいや、レースに置いて勝つ望みが薄いのには最大の理由がある。

 操縦者が未熟である一夏だという事だ。

 

 

 

 

 とは言ったものの、【白式】のスッペクは素晴らしい物なのだ。前述したように、一瞬の加速と最高速ならかなりのモノなのだ。

 トップこそ変われど、レース序盤であること、そして各人が独走状態を許していないという事。

 集団で固まり、タイミングを見計らっている状態なのだ。故に、【白式】は加速する。一瞬で停止結界すらも振り切り、最高速へと至った。

 

「置いていくなんて酷いな」

 

 集団の最後尾であったシャルロットに掛けた声だ。酷く情けない言葉ではあるが、その声はしっかりと前を見据え、諦めなど感じさせない声であった。

 その声を聴きながらシャルロットは驚きを隠すように苦笑する。

 

「女の子は追いかけられる方が好きなんだよ?」

「それも、ルアナに聴いたさ!」

 

 決して追いつくことの出来ない彼女の陰を追っていた一夏は知っている。そんな一夏に対して呆れる様に言ってのけたのは彼女なのだ。

 シャルロットの心のどこかがイラいたが、瑣末な事と捨てる。

 スルリと横を抜けた一夏を見送りながら、シャルロットは息を吐き出した。

 どの道、そろそろカーブに差し掛かる。一夏の力量とスピードを鑑みても曲がりきる事は難しいだろう。例え曲がり切ったとしても大きく外へ振られてしまう。

 

 

 そんなシャルロットの思考は見事に裏切られる。

 一夏が直角に曲がったのだ。

 いや、ソレは可笑しいだろう。目を疑うどころか一夏が人間かどうかを疑ってしまった。

 急停止、急加速には多大な重力が掛かる。それこそ高速移動状態である今なら骨が折れる。臓器に問題が生じる。

 

 実際、一夏は正しく直角に曲がってはいない。

 カーブ半ばでターンしただけなのだ。

 決して停止せず、慣性を殺し切らず、スピードを乗せたまま、ターンした。

 急停止と急加速を繰り返している訓練時に更識楯無が溜め息を吐き捨てながら、どうにか矯正した一つだ。

 ダンスでも踊る様にクルリと横に回転する。たったコレだけなのだ。前に向いていたベクトルはその方向に背を向けた時に緩和させ、そして移動したい方向に向いた瞬間に加速をする。

 たったソレだけの事だが、高速下ですれば直角に曲がったように見えてしまう。

 

 そんな直角に曲がったように見えた一夏の行為に沸く歓声。そして舌打ちが二つ。

 シスコン師匠とブラコン教官が全く別の場所で同時にイラつく。そして一言、荒い、と呟いた。そして頭の中に愛のムチの内容が思いつき、ソレは翌日辺りに一夏に振られるのだ。果たして哀のムチなのだろうか。

 

 

 ともあれ、一夏が直角に曲がった事に参加者は驚きつつもスピードは落としていない。それどころか更にスピードを速めて顔には笑みが張り付いている。

 追いつかれた事の焦燥などない。あるのは好いている人物が自身を追いかけてくれる。そして好敵手として不足など無い事。そんな事がただ純粋に嬉しい。

 

「ようやく来たか、一夏」

「遅いわよ、一夏」

「随分重役出勤ではありませんか、一夏さん」

「あそこから追いつくとは流石嫁だな」

 

 尤も、そんな「一夏が来た! 嬉しい!」みたいな反応が出来るのならきっと本人は決して知らぬ争奪戦は案外早く決着がつくのだが。約一名に関しては普段の行いの結果である。

 そんな最早慣れてしまった罵りを盛大に受けつつ一夏は苦笑する。かなり予定は狂ってしまったが、追いついたのだ。ならば後は追い抜けばいい。

 抜き方なんて考えてはいない。成るようになるだろう、なんて事を考えている。

 

 故に、誰も気がつかなかった。

 空から一滴、ほんの一滴の液体が落ちてきている事に。

 自由落下していたソレは高速で動いていた集団の中へと落ち、セシリアの頬を叩き、こびり付いた。

 一瞬の痛みに、雨でも降ったかと空へ視線を飛ばしたセシリア。空は快晴。

 そんな快晴であった空に、二つ程影が出来ている。

 【ブルー・ティアーズ】が反応して、一つが学園祭の時に逃したBT二号機【サイレント・ゼフィルス】。ソレがコチラに銃口を向けていた。

 だから、セシリアは叫んだ。たった一人、状況に気付くことが出来たから。

 

「危ないッ!」

 

 その声はしっかりと響いた筈だった。

 音速と光速、もっというならレーザー兵器とセシリアの叫び声、そして反応速度。どちらが速いかなど論じる事も無駄である。

 一条の光は前を走行していたラウラの右肩を掠り、増設したスラスターへと当たった。

 バランスを崩しつつも、ラウラは墜落する事はなくスピードを落とす。後ろに控えていたシャルロットがソレを介抱し、落下は防がれた。

 

「アレは……」

 

 もう一つの影。下にいる自分達すら見ずに、ただ【サイレント・ゼフィルス】を向いている影。

 腕の装甲はある癖に手は生身。その癖頭をすっぽりと覆うようなの装甲と目元を隠すような淡い緑色のバイザー。けれども背面には何も装甲はなく、ISスーツと肌が見えている。

 ちぐはぐで、不恰好。けれどもソレはしっかりと存在していて、まるでソレが当然であるかの様に悠然と立っていた。

 

「……誰だ?」

 

 そんな疑問を吐き出したのは篠ノ之箒であった。同じくして織斑一夏も、凰鈴音すらもその影が誰かだなんて知りえない。口元しか見えていない顔。全体の色で見えるモノなど赤く汚れた装甲と肌色とISスーツだけなのだ。

 けれどもセシリアは知っていた。セシリアだけは……いいや、セシリアとシャルロットだけはソレの存在を知っていた。

 

 見紛う筈がない。自身が落ち込んだ時に、無茶を言った時に彼女自身に手渡されたソレをセシリアは忘れる訳が無かった。

 

 

『私のバイザー。と言っても戦闘用じゃない』

 

 

「ルアナ……さん?」




いったいあの影は誰なんだ……一体、ルナニ・ナーニットなんだ……。

バイザーの登場を回収。
キャノンボール・ファスト回は次回で終わる予定。

今の悩み事
五反田兄妹にバーネット説明をしなければいけないという事実の発覚。なお対処法は考えて無い模様。媚売っとけば問題ないな。



突っ込みを防ぐために。
液体が自由落下してソレに高速移動中のセッシーがブツカル確率
高速稼動のセッシーの柔肌に液体がぶつかったときの衝撃

だいたいISを理由にすれば問題なし。

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