printf(一夏弄りはx回目です);
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「わぁ! かわいいぃ!」
「この子、千冬様の親戚なんだって!?」
「すごーい! お人形さんみたぁい!」
シャルロットの後ろに隠れたバーネットを見ながらクラスの面々が口走る。
バーネットはバーネットでシャルロットの陰に隠れてチラリとその顔を覗かせ、そして圧倒されたのかまた後ろへと隠れた。
困ったような顔でクラスメイトを鎮めているシャルロット。
ソレを少し遠くで見ていた一夏は知っている。というか、察した。あー、内心は喜んでるんだろうなぁ。と。
実際にシャルロットの心の中を覗き見れば少女らしからぬ笑いが溢れているのだから仕方ない。同時に目の前のクラスメイト達に触れさせてなるものか、という心も持ち合わせている。
「なんだ、
「おはよう、箒」
「うむ。おはよう、一夏」
入学当時からまったく参加していなかった剣道部幽霊部員、篠ノ之箒が集まりを見ながら眉間に皺を寄せていた。
ルアナと戦ってから自分の根本的な未熟さを理解した箒は部活動に参加し始め、根元から自分を見つめ直す行動に至っている。今朝居なかったのも部活動の朝練というヤツである。
「……しかし、アレがよくバーネットだとバレないな」
「千冬姉が説明していたのと、ルアナが居候している仮説、ファミリーネームでルアナの妹か何かだと勘違いしてるんだろ」
「そういうものか?」
「あとはルアナだったとしてもギャップが凄いだろ」
「…………」
ふとあの場にバーネットではなくて、ルアナ・バーネットが存在していたならば、と箒は想像する。
冷たい視線を集まってきたクラスメイト達へと向けて不機嫌を顕わにしながら伸ばされた手を払い鼻で笑っているルアナ。口を開いていない分、幾分かマシなのかもしれないが、口を開けば確実に「触れるな」だとか吐き出しそうな彼女を思い浮かべて、箒は改めて現実を見た。
そこにはシャルロットの陰に隠れた愛らしい幼女がいるのだ。アレが育って毒吐き姫へと至るのだから、中々現実と言うモノは奇妙なモノである。
「お前ら、席に着け」
始業のチャイムと同時に入ってきた織斑千冬とその後ろでどうしてだか暗いドンヨリとした空気を纏った山田麻耶。
色恋沙汰に過敏である高校一年女子ともなれば、もしかして、という何かを感じてしまうのだが、そもそもこの落ち込んでいる副担任に彼氏が居るとは思えない。いや、確かにその乳房に釣られた愚かな男がいたかも知れないが、そんな存在が居たならばきっとこの副担任は緩んだ顔をしていただろう。いや、顔は普段から緩んでいたが。
「やまやー……男に振られたんだね」
「まあ、ほら、やまやが好きになりそうなのって、ダメ男っぽいし」
「あー……そんな男に振られたのね」
「振られてませんし、そもそも付き合ってません!」
コソコソと話していた女生徒達の声が聞こえていたのか、
千冬は千冬でその否定を言った真耶とは逆の方向を向いて肩を少し揺らしている。それに気付いた真耶は千冬の方を見るが、さも何もなかったかのように千冬はコホン、と咳を一つ入れて相変わらず凛とした声を出す。
「では、山田先生。よろしくお願いします」
「…………はい」
どうしてか落ち込んでいる真耶が一歩前に出て笑顔を作る。慣れている筈の表情が微妙に崩れているのはやはり失恋、いや、失礼。
「バーネットちゃん、私と向こうで遊びましょうか」
「うん! 遊ぶ!」
「えー! やまやだけズルい!」
「私達もバーネットちゃんと遊びたいー!」
手を上げて笑顔満面で元気よく返事をしたバーネット。そしてソレに不満を漏らし出す女生徒。
やんややんやと騒ぎ出す女生徒達に真耶は思わず笑顔を苦笑いへと変えた。事実を知らないというのはなんとも幸せな事なのだ。出来る事ならば代わってほしいという本心は決して見せずに苦笑いで押さえ込んだ真耶はチラリと千冬を見る。
「ほう、よほど私の授業が嫌いなんだな」
「いえ! 決してそんな事はありません! サー!」
「ならば黙ってソコに座っていろ」
睨みと少し低い声に圧倒された女生徒は背筋を伸ばして着席する。
そんな女生徒を決してみることもなく、バーネットは笑顔で真耶に連れられ教室の扉へと連れて行かれる。
「バイバイ!」
しっかり笑顔で手をブンブンと振った愛らしい天使が扉に隠れた事でクラスから溜め息が溢れた。
あれ程現実離れをした愛らしすぎる子供が現実にいるのだろうか。否、現実にいる訳がない。つまりココは幻想の世界なのだ。
「現実逃避をしている者。私が直々に現実だと教えてやるが?」
そんな言葉と一緒に現実へと舞い戻ってきた女生徒達。千冬の後ろに何か阿修羅的なモノが見えてしまう。
阿修羅を背負った千冬がツカツカと靴で床を叩きながら歩く。相変わらず現実に戻ってきていない金髪の少女の近くで停止し、そして手に持った出席簿が風を切った。
「みぎゃ!」
「次は無いぞ、デュノア」
「は、ハイ……」
頭を押さえながら涙目で返事をしたシャルロット。次はきっと、現実の世界に帰ってこれなくなってしまうのだろう。
しっかりとシャルロットを見下した千冬は溜め息を吐き出し、踵を返して教壇へと戻る。
「さて、今月末には『キャノンボール・ファスト』が開催される」
「キャノンボール・ふぁすと?」
「……オルコット、後でその阿呆に説明しておけ」
「っはい!」
少しだけ頭を押さえた千冬が溜め息を吐くのを我慢しつつ一夏への説明をセシリアへと託す。突然降りてきたチャンスにセシリアは驚きつつもしっかりと返事をした。
当然、それに対して面白くなさそうにラウラや箒が見ているのだが千冬の話は続くので糾弾は出来ない。
「専用機持ちは二日後から高機動調整へと入れ。ソレ以外の者も高機動には慣れていろ。知らない世界を知る事は人生において非常に有益だ」
達観したように漏れた千冬の言葉。
あくまで人生の先輩としての発言ではあったが、千冬とてそこまで年齢を積み重ねている訳でもなく、心の中では滑稽である、と自己評価をした言葉だ。
「まるで熟練教師みだッ」
「む、出席簿が飛んでいってしまったようだ。さて、授業を始める」
一直線に一夏の顔へと吸い込まれた出席簿。ソレを投げた筈の千冬はまるで出席簿が勝手に移動してしまったかの様に振る舞い、一夏への謝罪も無く淡々と授業を始める。
出席簿を顔に吸い込ませた一夏はあまりの痛さに声を上げることもせずに顔を抑えていた。ソレに対して哀れみの目線も向けられたが決して声を掛けられる事は無い。
女生徒達は思う。
自業自得である。
◆◆
「なるほど、つまり『キャノンボール・ファスト』ってのはISのレースって事か」
「そういう事ですわ」
「むしろどうして知らないんだ?」
「一夏お兄ちゃん、バカなの?」
「だ、ダメだよバーネットちゃん。本当の事言っちゃ」
「うん、簪さん。ソレが一番傷つくから」
昼休みになり疲れた様子の山田教諭と一緒に戻ってきたご満悦状態のバーネット。そんなバーネットを連れて簪と鈴音を含める専用機持ち達、所謂いつものメンバーで屋上へと集まった。
輪になるように座り、バーネットは簪とシャルロットの間に座っていて丁度対面に当たる一夏へどこか残念そうな顔で思わず言ってしまった。
その発言を慌てて訂正するように声を出した簪のお陰で余計な傷を負った一夏はどこか達観した言葉を吐き出す。
「ご、ごめんね。他意は、ないの」
「簪。ソレ悪意十割って事になるわよ?」
「ち、違うの。織斑君の事バカだとか、単純とか、そんな事は思って無いんだよ?」
「うん、真綿で首を絞められるってこんな気持ちなんだなって理解したからやめてくれ、やめてください」
「簪、もっとしてもいいってさ」
「あぅぅ……」
一夏に対して当たりの強いシャルロットがニッコリしながら簪を促せば簪は顔を俯かせて引き下がってしまう。
どこか遠くを見つめていた一夏が数秒ほどで戻ってきて何事もなかったかの様に昼食は再開される。
「簪お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん……大丈夫だよ」
俯いていた簪の顔を下から覗き見るバーネット。その顔は心配したように眉が垂れ下がっていた。そんな顔に対して簪はどうにか笑顔を作って対応する。
「よかった!」とニパッと笑顔に変わったバーネットを抱き締めたい欲求が湧き出たが、簪は我慢する。自分を抑制し、どうにか抱き締めるのは抑える。
そんな中、簪の中でアクマが囁く。「撫でるぐらい問題ないよ」と。続いて天使が現れて「せやな」と返す。
果たしてどうして天使が関西弁なのかは置いといて。簪はその手を自然とバーネットの頭の上に置いて髪を撫でる。
「あれ? 濡れてる?」
「遊んで汗かいたからシャワー浴びたの!」
「…………山田先生と浴びたのかな?」
「うん!」
「そっか……そっかぁ」
簪に撫でられながら髪が濡れている理由を話したバーネット。その事実を追求したシャルロットは笑顔でドス黒いオーラを纏い始める。
「人って笑顔で怒れますのね……」
「俺は何度か経験してるけどな」
「そうでしょうね」
「どうしてお二人とも
キョトンとして視線の意味を理解していないセシリア。視線を向けていた
まあ、元を辿れば大体一夏が悪く、悪くなかったとしても大体一夏の責任にしていれば問題は無いのだが。
「ほら、バーネット。唐揚げはいるか?」
「食べる!」
自身のお弁当箱に納まった唐揚げを一つ箸で抓みあげ寄ってきたバーネットの口の中へと収める箒。モッキュモッキュとしっかり口を動かし、喉を動かしたバーネットはやっぱり笑顔になる。
「美味しい!」
「そ、そうか」
一直線な褒め言葉に思わず照れてしまう。元々褒められなれていない箒からすれば、元がルアナであるバーネットからの言葉は非常に嬉しい物だ。
「ありがとう! 箒お姉ちゃん!」
「ッ……」
満面の笑み。箒はバーネットの顔の周りに花を幻視した。同時に鼻の奥の方が熱くなり、心が締め付けられる。そんな激情を抑えて、頭の中で剣道の型一式を思い返しながら箒は呼吸を整える。
そんな箒の一連の動作と心の中を察したのか鈴音が瞼を少しだけ下げてジト目になる。
「箒。頼むからこれ以上私への負担を増やさないでよね」
「あ、あぁ」
心からの言葉である。
箒は思考を改めて、今度姉に連絡を入れた時にでも「お姉ちゃん」と呼んでみようか。なんて考えた。
同時に携帯電話が震え、箒は少しだけその振動を感じながら停止する。少しだけ考えて、画面を見ることもなく通信を遮断して溜め息を吐き出した。
一体どうして自分の思考が読まれたのか。ソレとも単なる勘なのか。そんな事どちらでも構わないのだが箒は思う。
やっぱりやめよう。
どこかのとある研究所で
>>剣道部朝練
時間ギリギリまで行われてるから登場遅れ。決して前回忘れていた訳ではない。
>>山田真耶の恋愛趣味
ダメ男に尽くしそう。偏見
>>千冬「山田君に押し付けるから問題無い」
巨乳先生は犠牲となったのだ。
>>熟練教師みたい
思わず一夏が呟いてしまった言葉。出席簿アタックにより全文も言えてない
>>出席簿アタック
出席簿が自然と動き、対象の顔面へと直撃する技。千冬が本気を出すとめり込む。ドコに、とは言わない。いえない。
>>毒舌簪
私の業界ではご褒美です
>>「撫でるぐらい問題ないよ」
>>「せやな」
せやろ?
>>お姉ちゃん!
幼女に言われると嬉しい。
>>謎察知
箒ちゃんの事で分からない事なんてないよ! と容疑者が言ってました。