私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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IF(現実==妄想);

そういえば日間ランキングの順位が上がってました。
幼女を出すと上がるって事は、あ……。


67.もし現実が妄想なら

 シャルロットは自身がシャルロット・デュノアだった過去を最初から思い出していた。

 母が一人で育ててくれた自分。心地よかった日々。ソレに終わりを告げるように死んでしまった母。そして父と呼ばなくてはいけない男が自分を引き取り、継母には叩かれた。

 こうして思い出してみれば随分と散々な日々を過ごしていたと思ってしまう。それこそ、自分は認めてほしいという一心で国家代表候補生になったし、IS学園に入学するときも社の意向に従った。

 

 そこから先なんてものは、脅されたり、人権を無視して買われたり、人には決して言えない様な事をされたり。

 

 シャルロットがそんな過去を思い出しているには理由がある。

 目の前に紫銀の髪と健やかな寝顔があるのだ。小さすぎる寝息を吐き出す桜色の小さな唇。細い眉に長い睫毛。こうして直視すればよく分かるが顔のパーツが綺麗に整っている。

 

 いや、そうじゃなくて。

 とシャルロットは頭痛を感じながら瞼を下げて現実逃避を再開する。

 

 眠る少し前の話。バーネットと一緒にお風呂に入ることに成功したシャルロットは緩んだ顔でバーネットの髪を乾かしていた。

 既に眠かったのか、それとも心地よかったのか、それはどうあれバーネットは欠伸をして眠そうに目を擦った。

 

「先に言うが、バーネットは私のベッドで寝かすぞ」

 

 ラウラの放ったその言葉にシャルロットは驚く訳もなく、さも当然の様に受け取った。それもその筈、シャルロット自身この天使をどうにかしたくて堪らない気持ちだった。

 理性ってスゴイなぁ、なんて感心しつつ、しっかりとラウラとバーネットが布団に入る姿を記憶に納めてシャルロットは自分の布団の中へと入った。

 

 よし、ここまで正確に覚えているぞ。とシャルロットは昨晩の出来事を思い出した。もしかすると自分が夢遊病か何かでラウラにバレないようにバーネットを自分の布団に入れたかもしない。シャルロットの中で一番可能性の高いモノがソレなのだから始末に負えない。

 けれど、自分がラウラの布団からバーネットをバレずに取り出すことが出来るだろうか。答えは否だ。決して、とは言い切れないが自分の力では無理だろう。

 

 ならば、いや、けれど、もしかして、しかし。

 

 幾つかの可能性が脳に浮かんでは泡沫のように消えていく。果たして何が現実で、何が妄想なのだろうか。今の状況が妄想であるのが一番現実的なのだけれど、現実なのである。

 シャルロットは息を飲み込んで、今一度現実を確認する為に瞼を上げる。

 

 ぼんやりと開いた深い青の瞳に自分の顔が映り込んでいる。

 そのままへにゃりとした笑顔に変わり、その顔が自分へと近付いてくる。

 閉じられた瞼が近い。真っ白い肌に僅かに生える産毛まで見えてしまう。唇が何かに触れて、すぐに離れた。

 離れたバーネットがまたへにゃりと笑い、眠そうに欠伸をしてから、青の瞳が瞼に隠れてしまった。

 

 頭の中が真っ白になったシャルロットは目を何度かパチクリと瞬かせ、現実は実は妄想である事を発見した。コレは世紀の大発見かも知れない。現実は妄想で、妄想は現実で、現実は……。

 

 

 そんな思考が飛んでしまったシャルロットがラウラに怒られる事になるのはもう少し時間が経ってからの出来事である。

 

 

 

 

 

◆◆

 

「それで、シャルロットは怒られた訳ね」

「本当にボクはバーネットちゃんを連れ込んでないのに、ヒドイよ」

「目を血走らせてソイツを見てれば誰だって勘違いするだろう」

「バーネットちゃん、何もされなかった?」

「うん! よく寝れたよ!」

「天使がココにいるよ……」

「あぁ、血走ってるわね」

「ほら、シャルロット。後ろが詰まっているんだ、さっさと歩け」

 

 先日から幾分も酷くなってしまったシャルロットの脳内。それに比例するようにラウラからの扱いも酷くなっているのだが、当たり前の事である。

 そんな残念とも言えるシャルロットを呆れたように見ている鈴音と空笑いをしている簪。

 

 さっさと歩けと、まるで罪人を牢屋にぶち込んでいる言葉だが、場所は食堂で、シャルロットの両手は手枷を填められているのではなくてトレイを持ち上げているのだ。

 その集団の少し横でバーネットが楽しそうに四人を見上げながら笑っている。

 

 空いている席を適当に見つけた四人はそこへと座り、簪とシャルロットに挟まれる席にはバーネットを座らせた。

 シャルロットが持っていたトレイをバーネットの前に置き、その上に乗っていたハンバーグをバーネットはキョトンとした顔で見つめた。小首を傾げ、シャルロットを見てから、もう一度ハンバーグを見つめる。

 

 食券を購入するときに朝から、と頭を悩ましたがルアナだった頃を思い出せばこの程度、と思ってしまい購入してしまったハンバーグ。

 シャルロットは失敗したか、と思いつつも簪へと視線を送った。簪もどうやら同じ感想だったようで不安そうな顔でシャルロットを見た。

 

「なに? コレ?」

「えっと、ハンバーグ、っていう料理だよ」

「料理? 食べ物? 食べるの? 栄養剤とパンだけで十分なのに?」

 

 その言葉にシャルロット達の時間が停止してしまう。例え記憶と記録が混同していてもバーネットはルアナの幼少期で間違いは無い筈である。

 ソレが至極当たり前の事を言った様に先ほどの言葉を吐き出したのだ。つまりは、ソレが当然で、ソレが彼女が歩いてきた過去なのだ。

 逸早く思考を取り戻したシャルロットはフォークを器用に使いハンバーグを一口大に割り、ソレを刺した。

 

「ほら、あーん」

「ぁー……ん」

 

 フォークを抜き去り、ハンバーグは彼女の口の中に置き去りになってしまう。

 デミグラスソースが舌を撫でて、熱い肉汁が口の中で溢れる。咀嚼すればするほど溢れる肉汁とソースの甘みが混ざり、舌の上で踊り楽しませる。

 ゴクリと喉が動いたのと同時にバーネットの顔は喜色満面に変わり、キラキラと周りが輝いている様だ。

 

「美味しい! スゴイ、美味しい!」

「あはは、よかったよ」

「もっと! もっとぉ!」

 

 まるで雛鳥が親鳥に餌を求めるように、口を開いて待つバーネット。親鳥はその口の中を見ながら歯並び綺麗だなぁ、とか、キレイなピンク色だなぁ、やや変態的な思考をしながらもハンバーグを捧げていく。その度にバーネットは頬を緩めながらハンバーグを咀嚼していく。

 

「シャルロット、現実に戻ってきなさい」

「はっ! パラディ(らくえん)かと思った……」

「残念、学園(がくえん)よ」

 

 どうしてか頭痛のする頭を支えながら鈴音は溜め息を吐き出した。

 バーネットは飲み物を飲もうとトレイの上に乗っていたグラスへと手を伸ばす。伸びた手でグラスをしっかりと掴んだ。

 

 そして、グラスは音を立てて割れてしまう。

 

「え?」

 

 一連の動作を見ていた簪は少しだけ呆気に取られて、グラス片で切れたバーネットの手を見つめてしまう。

 

「だ、大丈夫!?」

「…………クヒッ」

 

 声を掛けられたバーネットは自分の手の平を、切り口をジィと見つめて、少しだけ口角を吊り上げる。

 そのまま手を口元へと持ってきて傷口の中身を舌でなぞる。チリチリとした痛みが手から響き、舌に水で薄められた鉄錆の味が広がる。

 一層口角を吊り上げて、またマジマジと傷口を見つめる。

 二秒程見つめて、ニッコリと笑顔を作り上げたバーネット。

 

「大丈夫!」

 

 瞬間に緑色の粒子が手から吹き出て、ソレが晴れる頃には傷など元から無かったみたいにキレイな手が顕わになる。

 水浸しの机とその上に残った割れたグラスだけが事実として残っているだけ。

 

「ん? 何かあったのか?」

「おはよう、一夏」

「おはよう。それでル、あー……バーネット。バーネットに何かあったのか?」

「何でもない!」

 

 騒ぎを聞きつけたのか一夏が心配そうな声と自身の朝食を持って現れる。ルアナだと言いそうになりつつもしっかりといい直した一夏の問いにバーネットは笑顔で何事も無かったと伝えた。

 そしてその隣では非常に冷たい視線を織斑一夏へと向けているシャルロットの姿がある。

 

「何かな? 織斑君。席ならアッチが空いてるよ?」

「シャルロット、めっ!」

「うぇへへ」

 

 その瞳もスグに崩れて、少女としてどうかと思う笑いを出してしまうシャルロット。もうどうにでも成ればいい。

 一夏は口をへの字に変えてちゃっかり隣を空けていた鈴音に導かれてソコへ座る。対面に座ったシャルロットの、こう、見てはいけないような笑顔を見ながら恐る恐る口を開く。

 

「大丈夫なのか? アレ」

「大丈夫よ。何も問題は無い。いいわね?」

「お、おう」

「嫁からすればオカシイかも知れないが、アレでシャルロットは通常だ」

「アレで通常だと日常生活に支障出るだろ」

「今まで出た事は無いが?」

「今までもなのかよ……」

 

 シャルロットの知らない面を見た一夏は出来る事なら知りたくなかったと心で思った。

 近くにいる女性としてかなりマシな部類であったシャルロット。その実態は変態である。なんてショックにも程がある。

 一夏は頭の中で崩れるマシな女性をどうにか立て直して、頭を下げる。

 

「シャル、悪かった」

「…………」

「シャルロット! けんか、メッ!」

「えへへぇ」

「あ、俺餌にされてる」

 

 目の前のマシだった女性が実は好きな幼女に「メッ!」されたいだけだと気付いた一夏は心底落ち込んだ。

 何だ? コレをされたいが為に許されなかったの? 俺。

 そうならかなり悲惨である。

 落ち込んでいる一夏を見たシャルロットは溜め息を吐き出して、口を開く。

 

「反省した?」

「ああ……殴って悪かった、ソレにあんな事を言って……」

「別にいいよ」

 

 けろっ返した。

 一夏はあまりの呆気無さに「は?」と口を開けてしまっていて、それを見たシャルロットはクスクスと笑ってしまった。

 

「厳重注意。女の子にあんな事言っちゃダメだよ? 殴るのなんてもってのほか」

「わかってる。わかってたけど、あの時は冷静じゃなかった」

「激情に駆られてたら何をしてもいい、って聞こえるよ?」

「いや、違う」

「分かってるよ。言いたい事は冷静でいろっていう事。少しだけ余裕を持って行動する事」

 

 ピッ、と指を立てて真剣な顔つきで言うシャルロット。先ほどまで少女としてどうかと思う笑声を出していた本人には思えない。

 

「わかった」

「なら大丈夫かな? ほら、バーネットちゃん、仲直りしたよ!」

「シャルロット、えらい!」

「うぇへへ、撫でていい? 撫でていいよね?」

「あ、俺また餌にされた?」

 

 バーネットの髪なクシャクシャと撫でながらシャルロットはご満悦。バーネットはバーネットで撫でられていることが気持ちいいのか目を細めて頭を手へと押し付けている。

 対して一夏はどこか釈然としない気持ちになり、背中をぽんっと叩いた鈴音のお陰で余計にその気持ちが強くなった。




>>一夏との仲直り
 仲直り、というより一歩前に進めた感じ。普通の知り合い程度の扱いに格上げです
 早くない? とも思うかもしれませんが、構成力が無いから仕方ないね。

>>ばーねっとちゃん
 きっと忘れていると思うので擬似ISである、という事を印象付ける為に色々してます。
 あと、組織の人間って事も印象付け。

>>シャルロット・ヘンタイ
 何を今更。

>>パラディ
 パラダイス、楽園

>>予定が狂った作者
 時系列がバラバラになっていた事が判明して今更四苦八苦している二次作者のクズ。キャノンボールが先で次がタッグ戦だったんですね。すっかりタッグ戦事件の構成を頭でしてました……。
 うーん…………ま、先に進めば思いつくでしょう。
 どうにかなる、どうにかなる、どうにでもなーれ。

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