私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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彼の世界。
守る為に人らしさを捨てている彼の為に、人としての抜き方の訓練

短め。というか、書く予定ではなかったけれど、切りも良く、少し向こうはお休みしなければいけなかったので。間繋ぎ。


60.一夏デイズ

「はい、じゃあ、もう一本いってみましょうか」

 

 更識楯無は笑顔を添えてそう言葉を吐き出した。

 吐かれた先には、真っ白い仮面にも見紛うフェイスバイザーを着用した織斑一夏がいる。

 表情こそはソレで隠れているが、肌の見えている首元辺りからは汗が流れ落ち、一夏の疲労が窺える。

 

「ほらほらぁ、その程度も出来ないとまた(・・)私に負けちゃうぞっ」

「くっ」

 

 【白式】のバーニアを吹かせて上空へ。アリーナ上に浮かんでいる赤と青に分かれた二色のバルーン。

 一夏は深呼吸をして、バイザー越しにそのバルーン達を睨みつけ、柄だけの刀を握った。

 

 頭の中で何度もシミュレートして、少しだけ息を吸い込み、呼吸を止める。

 【白式】が反応して、一度視界から色が消え去り、白とグレー、そして黒の世界へと変化した。同時に【白式】のバーニアが光を撒き散らす。

 瞬間的に最高速へと至り、主の行動を理解していた【白式】は一夏の瞳から色を取り上げた。取り上げた事により一夏に掛かる負担は軽減されている。同時に一夏へと伝わる情報も制限されているが、敵を倒すに至り、色など関係は無い。

 目の前は全て、敵だ。

 ソレが今の【白式】である。

 

 一つ目のバルーン。色は白。実際は赤色なのだが、一夏はソレが白に見えてしまう。

 記憶していた色をソコに当てはめ、一夏は記憶上、赤であるバルーンを回避した。触れる事もせずにただ避ける。

 

 避ける行為で遅くなってしまった速度を取り戻し、一夏は更に加速する。

 次に見えたバルーンは、やはり白色だ。

 一夏は柄を握り締め、集中してソレを振るった。真っ白い刀身がバルーンの周りに発生していたバリアを削り取り、真っ二つに割れる。

 

「はーい、速度が落ちてるわよ。あと攻撃にソコまでのエネルギーはいらないわ」

 

 入ってきた通信を素直に聞き入れ、速度を取り戻し、柄を強く握る。

 次のバルーンが見えてきた。

 次は、赤? 青?

 味方? それとも……。

 

 一夏は刀を振るう。もしかして、なんて物を消し去るように。

 刀身がバルーンに触れ、バリアを消し去る。同時に一夏の視界が白一色へと染められ、熱が一夏を包み込んだ。

 

「はい、残念。ソレは赤でしたー」

 

 爆発音と爆煙に包まれた一夏を見ながら楯無は溜め息を吐き出す。

 コレで何度目だろうか。という呆れの溜め息ではなく、どれ程集中すれば色彩を消した世界へと突入できるのだろうか、という呆れを通り越した感嘆である。

 

 そもそも、楯無は織斑一夏という存在を見誤っていた事から始まる。

 ルアナの話を無視した前評判は随分と普通の男の子であった。それこそ、努力もするし、勝ちを望むし、負けるのは嫌い、といった極々予想出来る範囲の男の子といえた。

 ルアナの話は狂った少年の話であり、まるで箇条書きの様に、格闘戦は少し仕込んだ、対処方法を教えた、まだ弱い、といったモノだけ。更に言ってしまえば楯無自身少なからずソレを親類の色眼鏡で見ていると判断した。

 そして、楯無は織斑一夏と初めて出会い、そして師事させるに至って、ようやく理解し始める。

 なるほど、歪だ。

 一夏は何度も悔んで、何度も後悔して、何度も自分を恨んだ。だからこそ、たが愚直に教えられた事を反復練習し、自らへと仕込んだ。

 執念にも似た集中力をその時に得たのだろう。

 その集中力を得たからこそ、一夏は愚直すぎた。自分を犠牲にする速度を得て、全てをソレで補おうとしている。

 

 ソレは、実に愚かしい事である。

 

「何回も言ってるけれど、少しは力を抜きなさい。常に全力であることは好ましいけれど、自分が壊れちゃうわよー」

 

 当然返事は無い。楯無は溜め息を吐き出してまた速度を上げていく白い機体を見上げる。

 

 速度で全てを補おうとしている一夏に対して、楯無は基礎技術を叩き込もうとした。

 速度が上がり、強引に曲がっていれば相応の重力も掛かり、ISが処理をするにあたってエネルギーを消費してしまう。更に言えば、無駄なく曲がれば速度も乗せやすい。

 その訓練をした楯無は思わず頭を抱えた。規格外、という言葉が頭に浮かんで同時に頭痛がした。

 エネルギー消費は相応にあったものの、予想していた基礎技術での速度よりも【白式】が強引に曲がった速度の方が速かったからだ。

 溜め息を吐き出しながら一夏に色々と聞いてやれば、「ISでもブラックアウトとかあるんですね」なんて暢気に口走りやがったから楯無お姉ちゃんは更に頭を抱えることになる。そこでようやく一夏の異常が発覚するのだが。

 

 一夏の異常な集中力に呼応して、一夏の脳に負担を掛けない様に色彩を消した。

 なるほど、規格外だ。

 また中空で響いた爆発音を聞きながら、楯無は溜め息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

「さて、一夏くん反省会です」

「いや、楯無さん。反省会なのはいいんですけど、何でYシャツだけなんですか?」

「眼福でしょ?」

 

 確かに、とは一夏は声には出さなかった。

 プロポーションから見て、更識楯無という女体は実に整った肢体であった。Yシャツ越しからでも分かるバストと引き締まったウエスト。そして丸みを帯びたヒップ、そこから続く足はしなやかでいて触れば筋肉と脂肪がベストな状態であることも分かるだろう。

 そんな姿を自室で、二人っきりという状況で見ながら、織斑一夏は決して鼻血も出さずに、顔も赤くせずに、溜め息を出した。

 その溜め息にむぅ、なんて可愛げに漏らした楯無はうりうりと一夏の頬を指で押してみせる。

 

「もう、可愛くないぞ、後輩君」

「別に興味は無いんで」

「そう真正面から興味なしって言われると流石に落ち込むんだけど?」

「いや……えっと、楯無さんに興味がない訳じゃなくて」

「わかった。つまり、男の子にしか興味が無い体になってしまったのね……」

「何でそうなるんですか! 男の体になんて興味無いですよ!」

 

 思わず反論した一夏に対して「いやん、怒鳴られちゃった」なんて言ってる楯無お姉ちゃん。

 一夏は頭を掻きながらそんな楯無に溜め息を吐き出して呆れを示す。楯無は楯無でそんな一夏をクスクスと笑っているのだけれど。

 

「一夏くんは真面目ね」

「まぁ……頑張らないと皆に追い付けもしませんからね」

「真面目過ぎるわよ。少しぐらい抜けてたほうが可愛いわよ?」

「男で可愛いとかって……」

 

 はぁ、と分かりやすく溜め息を吐き出した一夏。楯無は苦笑をしながらベッドにうつ伏せになる。シャツが捲りあがりその瑞々しいヒップがショーツに隠れつつも顕わになり、一夏は思わず息を飲み込んだ。

 いやいや、落ち着け。と一夏は心に言い聞かせる。この程度、なんだと言うのだ。落ち着け、織斑一夏。散々にルアナに迫られて、それこそ人に言えない様な事もされたではないか。

 けれど良く見ろ、織斑一夏。ソコにあるのはルアナとはまったく別方向の美女だ。人形らしく整いすぎたルアナに対して、そこには人間らしく整った美女がいるのだ。しかも、姉系という君にとって素晴らしい属性持ちではないか。

 

 いやいや、落ち着け、落ち着くんだ織斑一夏。

 いやいや、良く見ろ、良く見るんだ織斑一夏。

 

「ねぇ、一夏君」

「は、はい!」

「マッサージ、してくれない?」

 

 ガシャガシャ、と何かが一夏の頭の中で回転して、高いベルの音を鳴らしてソレが停止した。

 少しばかり色気を漂わせて声を出してみせた楯無は心の中で悪戯成功なんてクスクス笑っている。そして一夏を見た瞬間にソレは払拭された。

 色気とかに惑わされた狼さんにでもなればなんとも揶揄できるだろうけど、一夏の顔を見ればそんな事も吹き飛んでしまった。賢者タイムというか完全に仕事をする瞳である。

 

「ホント、真面目さんだなぁ」

 

 そんな呟きを漏らしつつも、やっぱりマッサージは受けたかったのか、しっかりと揉み解してもらう事を選んだ楯無お姉ちゃん。

 

 そんな楯無お姉ちゃんのお尻をむにゅん、と揉んでる最中の一夏の頭の中ではIS理論が一から構築され始めて、ソレを待機状態の【白式】自ら補助するように計算式を解いてるのだが、正直、書くには至らない瑣末な事である。




>>『また』負ける
 IS無しでの戦闘でボコボコにされてます。ちな、ラッキースケベ有り

>>守る為、殺す為
 守る為に強くなって、ルアナを殺す力を得ている一夏。そもそもあの戦闘狂、というか戦闘嬌に勝つという目的がオカシイ

>>簪ちゃんとか、ルアナは?
 休み。

>>楯無おねーちゃん
 姉属性。外はね水色髪。唐紅瞳。ムッフッフ、なんて笑いの似合う人をたらし込むのが上手い人。妹には甘々。

>>むにゅん
 ムニュンではなく、むにゅん。むにゅん

>>人には言えない事
 一夏の感性的には絶対にいえない様な、エロス。ちなみにルアナからすればペラペラ吐き出される瑣事。

>>ルアナとは別方向美人
 肉が程ほどにしか付いておらず身長の低い表情乏しい美少女と程よく肉の付いた
そこそこの身長で表情のコロコロ変わる年上美少女。
 一夏の知らない所で言えば、女王様とお嬢様。どちらがどちらかは言わないけれど。

>>枯れてない一夏
 元々、ルアナによるハニートラップ対策に色々されて耐性を持っていただけ。全裸で迫るとか、相応に色気があれば反応する。 

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