私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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更新遅れました。風邪が原因です。イイネ?


59.無表情感情論

 ルアナ・バーネットは頭を抱えていた。

 それこそ、彼女の本性を理解し、同じ料理部に所属したシャルロットからすれば珍しいとも言える程度には悩んでいた。

 きっと、今日の夕飯メニューを決めている時より悩んでいるのは確かである。とシャルロットは思考の端で思ったけれど、そもそもメニューで悩むぐらいなら全部頼む、というのがルアナであるので、そもそも悩んですらいなかった。

 

「どうしたの? ルアナ」

「……ん」

 

 頭を抱えていたルアナに声を掛ければ、一枚の紙を渡された。一番上には食べたい、という文字に訂正線が引かれ少し大きめに『喫茶店で出すケーキ』という文字。

 そこから下に書かれたケーキの種類にシャルロットは思わずうわぁ、と声を出してしまった。

 並べられるのはショートケーキやガトーショコラといった一般的なモノから、季節の果物のタルトなどの明らかに無理難題なモノ、フォンダンショコラなどの作成が面倒なモノまで羅列されている。

 作れるか、否か、という質問をされれば作成は可能だ。ソレこそ季節の果物のタルトなども材料さえあれば可能である。

 可能であるのだけれど、その材料も無ければ、学園祭の喫茶店というある程度作りおきしておきたい状況だ。加えてルアナとしては即時作れるモノ以外は作り置きにして教室に作った簡易料理場に居るつもりであった。

 

「…………えっと、ごめん?」

「シャルロットの所為じゃない……」

「私も何か手伝える事があれば」

「問題ない……見返すだけ」

「え?」

「全部試作して、材料費とどれだけ無理なのか、説明してやる……!」

 

 シャルロットはこれほどやる気のあるルアナを見たことがなかった。いや、見た目的には相変わらずやる気の欠片も見えない目で愛らしい西洋人形がグッと拳を握っているだけなのだが。

 心意気的な問題で、シャルロットはこんなルアナを見たことがなかった。

 まるで魔女のようにヒッヒッヒッなんて嗤いながらケーキを調理しているルアナなんて見たくなかった、と言うべきなのか。

 ともかくとして、そんな壊れているルアナをそっとしておく、という選択をとったシャルロット。料理部の面々はとりあえず壊れたルアナの機嫌を取るために美味しい料理を作らなければ、と変に気合が入っている。その辺り、料理部はルアナという存在の舵の取り方を重々に理解しているといえるだろう。

 

「……その、失礼いたしますわ」

「あれ? セシリア、どうかしたの」

 

 ちょっとどころかかなり空気の悪い調理室に長い金髪を揺らしながら扉を開いたのはセシリア・オルコットであった。どうやら扉越しにまるで魔女の様な笑い声が聞こえたのか、その入り方は随分と消極的である。

 級友であるシャルロットは扉を開いた人物にいち早く反応し、他の料理部員達に応対させない様に前に出た。

 

「あのシャルロットさん……ルアナさんは」

「あー……」

 

 言葉尻を少しだけ下げて、シャルロットは料理する魔女を見た。魔女はやっぱり何処かネジが壊れたように料理をしていて、入ってきたセシリアの事なんて見てもいなかった。

 その姿を確認してセシリアは眉を寄せて、申し訳無さそうな顔をしてしまう。

 

「お忙しい様でしたら……後で訪ねたい、とだけお伝えくださいまし」

「うん、わかったよ」

「別に今で構わない」

「うわっ、びっくりしたぁ」

 

 ボウルの中身を混ぜながら登場したルアナに驚きを口にするシャルロット。驚きを口にしただけで、実際驚いていたかは微妙な所である。

 そんな彼女とは対象的に声にも出せずに驚いていたセシリアは自分の胸を抑えて少し荒くなった息を整えていた。

 

「き、気付いてましたのね」

「ハイパーセンサーは常時稼動してる」

「それは国際協定に触れませんこと?」

「扱いはラウラの『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』と同等」

「そう……ですの」

「そもそも擬似ISだから、フル稼働させない限り問題は無い」

 

 いや、それは黒に近いグレーである。とはシャルロットは言わなかった。言ったところで論破される自信があるし、あまり御主人様に抵抗すると絶対に仕返しがあるのだ。いや、それもまた素敵ではあるのだけれど。部屋にはラウラや簪もいるし、つまりお仕置きは人気の無い校舎になるかも知れない。ソレは避けなくてはいけない。そう、避けなくてはいけないのだ。

 例え、校舎内でソレこそ人には決していえないようなイケナイ行為をしていたとしても声を出してはいけない。けれども自分を容赦なく責め立てる御主人様。

 あぁ! いけない、そんな事!

 

「その、シャルロットさんはよろしくて?」

「問題ない、いつもの発作」

 

 そんなシャルロットを放置して早々に御主人様は来客の手を引いてケーキを作っていた机へと戻った。シャルロットへのお仕置きは避けられた様だ。御預け、とも言うかも知れないが。

 

 ともかく、ケーキ作りをしている机の近くに椅子を置き、ソコにセシリアを座らせたルアナは淡々とケーキ作りに専念している。

 そんな様子をジィ、っと見つめながらセシリアは何を言おうかと言葉を探し出す。

 

「その……ルアナさん」

「何? 料理ならまた別の機会にして」

「それは、ハイ……いえ、そうではなくて」

 

 何処か言葉を迷っていたセシリアは目を伏せて、ようやく決心したように声を出した。

 

「私にナイフ戦闘を教えてくださいまし」

 

 セシリアは言葉と同時に頭を下げた。

 

 セシリアにとって、その言動はどれ程屈辱な事なのだろうか。プライドの高いセシリアが誰かに教えを請うなどと、セシリアを知る人物から言えば驚く内容だ。それほどにセシリアはプライドが高い。

 だからこそ、セシリアは黒星続きの一夏との戦闘をどうにか好転させたかった。

 エネルギー兵器を扱う【ブルー・ティアーズ】とエネルギー攻撃を無効化する【白式】とは相性が悪すぎるのだ。

 故に、エネルギー刃ではないナイフを持ち、ソレの扱いに長けたルアナへとこうして頭を下げた。

 同じくナイフ技術に長けたラウラはライバルだ。ライバルであるからこそ、彼女にも勝ちたい。その気持ちで、セシリアはルアナへと頭を下げる。

 下げた頭を見ることなく、ルアナは口を開く。

 

「嫌」

 

 ソレは非常にも、一言で。そしてセシリアの意志を断つには十二分の言葉であった。

 唇を噛み締めるセシリアが顔を上げ、激情した心を落ち着けながら言葉を吐き出す。

 

「何故、とお聞きしてもよろしくて?」

「私が今のセシリアが好きだから」

「…………は?」

 

 呆気。

 涙を溜め込んだ瞳と口が思わず開き、何か拍子抜けしたようにポカンとしてしまった。

 そんなセシリアを見ることもせずにルアナは作っていた生地をオーブンの中へと入れていく。全て入れてから、溜め息を吐いてセシリアの前へと座る。

 

「セシリア・オルコットがナイフ技術を磨いた所で織斑一夏には勝てない」

「ッ」

 

 深い青の瞳が真っ直ぐセシリアを貫く。当たり前の様に言われた言葉にセシリアはまた唇を噛み締める。

 

「そもそも【ブルー・ティアーズ】がナイフ戦闘を主にした格闘機では無いのが原因」

「ソレは……そうですが。けれど、接近されて手出しも出来ずに落とされるのも嫌なのですわ」

「なら接近されない様に戦えばいい」

「そこまでの速度があればこんな相談もしてませんわ……」

「…………速度があれば逃げ切れる?」

「それは、まあ」

 

 その言葉にふむ、と一つ唸ったルアナは虚空から淡い緑色のバイザーを取り出した。

 

「それは?」

「私のバイザー。と言っても戦闘用じゃない」

 

 そう言いつつセシリアへとソレを渡したルアナは着ける様に指示を出す。訝しげにも、一応指示には従うセシリア。

 世界が淡い緑色にフィルターが掛かり、なんとも変な世界である。その世界が、一変。何もない虚空へと変化した。

 

「え? え?」

「ハイパーセンサーを流用した、プログラム空間。【ブルー・ティアーズ】と【打鉄】を出す」

 

 その一言でセシリアの世界には【ブルー・ティアーズ】を装着したどうしてか自信満々の自分。何の悪意があるのか「オーッホッホッ」なんて高笑いをしている。

 対して【打鉄】に乗っているのはルアナだ。コチラもコチラで悪意があるのか「殺す殺すコロスコロス」だなんて恐ろしい呪詛を吐き出している。

 そして表れたのはお互いのスペック表。速度や攻撃力、防御力と随分簡単に割り出されたスペック表は圧倒的に【ブルー・ティアーズ】が有利だ。防御力という一点だけは【打鉄】が僅かに勝っていたけれど。

 

「そのスペックは私がセシリア自身と対峙して割り出してる。だいたい、という意味では合ってると思う」

 

 そんなルアナの言葉なんてもう既に耳には入っていない。セシリアは目の前で起こっている戦闘に魅入ってしまっている。

 プログラム上の空間。ちょっとした虚無空間は制限が無いらしく、自由に動く【ブルー・ティアーズ】とソレを追う【打鉄】。

 直線に置いては【ブルー・ティアーズ】の方が圧倒的に速い。けれど、どうしてだか【打鉄】はソレに容易く追いつき、刀を【ブルー・ティアーズ】に向けて振りかざしている。

 

「どうして、ですの?」

「セシリアの動きが綺麗過ぎる」

「…………」

「否定している訳じゃない。その技術は誇ってもいい物。けれど、同時に最適化されてない」

「最適化?」

「一つ一つの技術は凄い。けど繋ぎ目は甘い」

 

 故にスペック上劣る【打鉄】に追いつかれている。

 その事を理解しながら、セシリアは戦闘に噛り付く。どうすればルアナの言う最適化が出来るのか。

 そう考えれば、画面の向こうにいたセシリアが笑い、接近してきたルアナの攻撃を回避し、その勢いのまま体をターンさせて綺麗に後ろを抜けた。

 

「コレが一つ目。出来るなら抜けると同時に瞬時加速をすれば距離を稼げる筈」

「なるほど……」

「ただし」

 

 とルアナが付け加える様に言えば【打鉄】が変化して淡い緑色の装甲の【ルアナ・バーネット】が現れる。同時に変化したスペック表。速度だけが【ブルー・ティアーズ】を越えている、なんとも素敵なスペック表だ。

 その【ルアナ・バーネット】はナイフを片手に持ち、【ブルー・ティアーズ】へと接近。【ブルー・ティアーズ】はソレを先ほどの様にターンして事なきを得ようとする。瞬時加速までして、徹底して距離を開けようとした。

 けれど、その瞬時加速と同等の速度で【ルアナ・バーネット】が並走している。ニタリと悪役よろしくな笑顔を浮かべたルアナにセシリアは「いやぁーん」なんて声を上げてナイフの攻撃に晒された。

 セシリアの目の前には「ゆぁーるーず」と平仮名で書かれた文字が点滅している。

 

「速度が自分よりも速い相手、一度技を見せた人間には通用しないと覚えて置いた方がいい」

「ではどうしろというんですの?」

「求めるだけで答えが出るなら努力は要らない」

「…………他の技も覚えろ、というんですのね」

「それも一つ。セシリアはBT兵器を使いこなせてない」

「それは……まあ、そうですわね。偏向制御射撃(フレキシブル)も使えてませんし」

「ふれきしぶる? なにそれ?」

「【ブルー・ティアーズ】が最大稼動時ではビーム自体も自在に操れるらしいですわ」

 

 机上の理論ですが、と付け加えたセシリアは不貞腐れた様にバイザーを外した。目の前には色とりどりのケーキが並べられている。近くには実にいい匂いの紅茶が一つ。

 恐らく淹れたであろうルアナを見てやれば、キョトンとした表情でセシリアを見つめている。

 ケーキの驚きもそうだったが、セシリアはルアナを見て驚いてしまう。どうしてキョトンとしているのだ? BT兵器を使いこなせていない、と言ったのは彼女ではないか。 偏向制御射撃ではない?

 

「セシリアは機動しながらBT兵器を扱える?」

「BT兵器には相応の集中力が必要で」

「なら、そこも克服すればいい」

「……私にどうしろといいますの?」

「そういうセシリアの努力家な所も好き」

「冗談はいいですわ」

 

 溜め息を吐き出してセシリアはカップに口を付けた。甘い紅茶の香りが鼻腔を擽り、舌に僅かな渋みを残して喉を通り抜けた。

 

「並列処理できる頭があれば焦ることもなく、BT兵器を運用できる……かも」

「確実性はありませんのね」

「BT兵器を持ってないから」

 

 それもそうか。とセシリアは紅茶をもう一度飲み込む。少し温めに出された紅茶が実に飲みやすく美味しい。

 

「ありがとうございます。これで、悩みから一歩進んだかも知れません」

「ん。 模擬戦なら手伝える」

「……いいえ、ルアナさんはお忙しいでしょうし。鈴さんにでも相手をしてもらいますわ」

 

 ソレは実に素晴らしい、という言葉を飲み込んだルアナは笑顔をどうにか作り、セシリアが出て行くのを見送った。

 実際の所、セシリアがどれ程技術を覚えたとしても一対一なら脅威にはならない、とルアナは考えていた。ソレは単純に近付けるという事と、ソレで落とす自信があるからだ。

 けれど、鈴音と一緒ならば、とルアナは考えてゾクゾクとしてしまう。何かと言って面倒見のいい鈴音はセシリアと戦う内に癖なども知るだろうし、ソレを伝えるだろう。加えて二人が仲良くなれば共闘という形を取る事も多い筈だ。

 近中距離で安定して戦え、衝撃砲という牽制を持つ鈴音。そして遠距離で正確に射撃することの出来るセシリア。

 そんな事を想像するだけで下腹部がゾクゾクと震えてしまう。実に甘美で、素晴らしい殺し合いになることだろう。

 

「ルアナ。顔が凄いことになってるよ?」

「だって、素敵じゃない? きっと楽しい戦いになるわ。きっと素晴らしい戦闘よ。クヒッ、あぁ、ステキ、早く美味しくならないかしら」

「私は本気で二人の未来が心配でならないよ」

「あら? 自分の未来はいいのかしら?」

「ルアナの隣にいるし、問題ないんじゃないかなぁ」

 

 あらそう、ツマラナイ。なんてルアナは呟いて作り終わったケーキを見つめる。

 分かっていた事ではある。いいや、気分が乗って、というよりは邪悪な何かに支配されたという理由が幾つか浮かんで、ルアナは頭を振った。

 

「それにしても、多すぎね」

「どうするの?」

「注文は届けるわ。そして、食べてもらう」

「…………あ、なるほど。鬼だ」

 

 時間的にも考えて、今から食べると恐らく夕食は食べれないだろう。加えて、全員に届けるとなるとそれなりの時間も掛かってしまう。

 夕食を終えて、ケーキを食べること自体は恐らく可能だ。尤も、それで対象が肥えてしまう、という事は度外視しているけれど。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 一部女性にとって悪夢の様な甘い復讐を終らせたルアナは何処かやり遂げた顔で部屋へと戻ってきた。

 手に持っているのはケーキを届ける為の紙箱。当然中身は空である。

 手に着いた甘い蜜を舐め取り、箱を持っている手を器用に使い、指だけでドアノブを回す。

 

「ただいま」

 

 とルアナが声を出した所で、何かがオカシイ事に気付いた。同室である簪は自分よりも帰るのが早い筈で、毎日のように返されていた「おかえり」という言葉が無い。

 数秒ほど思考して、どうせアニメでも見ているのだろう、と適当に当たりをつけたルアナはそのまま足を進める。

 

 どうやら予想は当たっていたようで、アニメの映されたテレビの前に盛り上っている布団がある。あれほど自分に不摂生だのを説教している相手が、である。

 ルアナは溜め息を吐き出して、布団を捲ってやる。水色の髪と布団が捲られた事でようやく帰室に気付いたのか、ルアナを映しこんだ姉に似た唐紅色の瞳。

 

「…………」

「ただいま、簪」

 

 ルアナの言葉が聞こえたのか、それともルアナを見てなのか、唐紅の瞳が揺れる。

 揺れた瞳を疑問に思い、ルアナは軽く首を傾げてみせた。

 

「ルアナは……」

「ん?」

「ルアナにとって、私はいったい何なの?」

 

 何、と言われればルアナとしての簪は何でもない。それこそ、機械的なことを言えば生じるであろう一夏との溝を埋める為の友人関係でしかない。

 

「友達」

 

 そんなルアナの一言に対して、簪は思わず唇を噛み締めて感情が溢れてくる。

 溢れた感情が言葉になって、喉を振るわせる。

 

「私は、私はルアナの特別になりたいよ……シャルロットより、織斑君よりも!」

「…………」

 

 まるで縋る様に、手を伸ばし、ルアナの袖を掴んだ簪。簪は掴んだルアナを見上げて何かを求めるように口を開く。

 

「例え、ルアナが殺し屋でも、ISでも、私は気にしない! 私はルアナを受け入れてあげれる。私は織斑君よりも」

「簪」

「だって、だって」

「ッ」

 

 乾いた音が部屋に響いた。

 ヒリヒリと熱くなる頬に手を置いた簪が唖然として、ジクジクと熱くなる振り切った手がルアナを現実へと戻していく。

 テレビから特撮ヒロインが攫われたのか、悲鳴が聞こえ、ルアナがバツの悪そうな顔をして簪から顔を背ける。

 

「……ごめん」

「やっぱり、ルアナは私より、織斑君が大切なんだね」

「――……」

 

 ルアナは睨むように簪を睨み、そして簪も自身を睨んでいることに気がついた。

 出そうになった言葉は飲み込まれ、ルアナは奥歯を噛み締める。

 

「私は、一夏の為に作られた擬似IS……ソレだけ」

 

 まるで何かを断ち切る様に、ルアナは淡々と言葉を吐き出して立ち上がり部屋から静かに出た。

 出てから、誰かのすすり泣く様な声がしたが、ソレもルアナを苛立たせるには十二分の声で、歯をかみ締めて、ルアナは部屋からスグに離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルアナじゃない? どうかしたの?」

「泊めて」

「は?」

 

 Tシャツにショートパンツという随分ラフな格好で扉から出てきた鈴音に無表情に淡々と呟いたルアナ。

 鈴音は訝しげに思いながら部屋に招きいれる。ルームメイトであるティナ・ハミルトンは突然現れた訪問者に驚きながら鈴音へと視線を飛ばした。飛ばした結果「あー、」と困った顔をした鈴音はコッチで面倒を見るから、迷惑だったら教えて、と伝えた。

 玄関先で立ったままの美少女を邪魔扱いできる程ティナ・ハミルトンは鬼でもなく、しかも無表情すぎる事と鈴音がどこか心配そうにそのジト目美少女を見ているモノだからなるべく触れない事を心がけることにした。

 

 そんなティナに心の中でお礼を言いつつ、鈴音は改めてルアナを見た。

 見た目はそれほど変わらないのだけれど、確かに何処かオカシイのだ。ソレは本当に小さな変化で、初めてルアナと会った時の様だ。

 

「で、どうしたのよ」

「簪と喧嘩した」

「………………」

 

 実際は喧嘩というには些か語弊があるモノなのだけれど、それでもルアナにはハッキリ何がなんだか良く分からなかった。少しだけ泣きそうな顔をして鈴音を見て、そして持ち直すように無表情を作り直す。

 

「あー…………」

 

 この時点で鈴音はこの事態の危険さを察知した。こうして長い間友人関係をしているという自負がある自分がそう思うだから、きっと一夏が見たら、いや、一夏相手ならルアナは隠し通すだろう。

 少なからず、演技をしている事を知った鈴音からすれば、こうしてルアナが喧嘩をしたという事も聞いたことはないし、大凡の事はルアナ自身が解決していただろう。

 

 それが、今はどうだ。

 揺らせばそのまま倒れてしまいそうな程、ルアナが焦燥としている。泣くことすらしていないし、表情を見れば変わらない。

 

「うん、とにかく、寝なさい」

「うん……ありがとう」

「いいえ。詳しい事も聞かないわよ。私を頼ってくれるのは嬉しいし」

「……ん」

 

 それだけを漏らしてルアナは鈴音のベッドの中へ潜り込んだ。そのまま体を丸めて、一切身動きをとらずに静かになった。

 ソレを見てから鈴音は溜め息を吐き出す。さて、どうしたモノか。半分程部外者であるが、自分から更識簪に何か言うべきなのだろうか。

 鈴音はそう考えたがスグに否定。どうなっているか分からないが、自分が口を出しても状況は変わらないかもしれない。

 そもそも、珍しく、なんて言葉以上に、言ってしまえば奇跡的にルアナが感情的なのだ。当然、いつもの食欲を露見している彼女が演技であれば、という話なのだけれど。

 

「えっと、(りん)?」

「あー、大丈夫よ。猫が迷い込んで私のベッドで寝てるみたいなもんだから」

「そういうモノなの?」

「そういう物よ。迷惑は掛けないわよ」

「別に私は大丈夫よ。ソレよりもベッドが占領されてるけど?」

「別に一緒に寝たらいいだけでしょ? 何言ってるのよ」

「誰と、誰が?」

「私とルアナが」

 

 自分とベッドの丸まりを指差して鈴音がそう告げる。ティナは数瞬ほど頭を抑えて何かを思いついたように指を立てる。

 

「写真とかとってもいいかな?」

「なんでそうなった」

 

 珍しくボケをかましてくるルームメイトに溜め息を吐き出せば、ティナはハハハ、なんて笑ってしっかりとボケた空気を流した。

 鈴音はその流れた空気に苦笑して、ベッドへと腰掛けて丸まりに軽く手を置く。

 

「ホント……どうしてこうなったんでしょうね」

 

 こんなに泣きそうになってるルアナなんて、見るとは思わなかった。と鈴音は喉に押し込めて、布団の丸まりを軽く撫でて息を吐き出した。




>>ルアナのバイザー
 目を覆うだけの淡い緑のバイザー。【ルアナ】とリンクしており、視界に映像を出せたりする。

>>ぎ、擬似ISだから(震え声
 ISとしての機能をOFFにするとルアナは漏れなく行動出来なくなります。法律的にはISとして認められていない状態であり、ルアナ自身も自重しているので問題発生には至っていない。

>>ナイフ戦闘
 セッシーに近接教えても無理そう。というか、ある程度の近接対処教えて、BT兵器で逃げの助力と接近の阻害した方が便利そう。
 【白式】相手なら近づかれずに攻撃無効化させてエネルギー切れ狙うのが一番かなぁ……

>>今のセッシーが好きだよ
 お尻とか、太ももとか、いや、そうじゃなくて、戦闘方法ね

>>鈴音とセッシーのペア
 鈴音の性格と機体、セッシーの機体と攻め方の都合上、相性はいいと思う。速度で負けても衝撃砲でセッシーへの接近を妨害できるし、セッシーからの射撃援護でそれなりに技術で負けててもいけそう。
 金髪娘と中華娘が合わさり最強に見える

>>感情論
 ルアナだったら適当に簪を言いくるめていたと思う。ソレをしなかった辺りお察し。

>>ヤンザシさん
 私だけがルアナをわかってあげれる! 私が一番ルアナの事を受け入れれる!
 それは【ルアナ】を肯定しているので、どちらかと言えばダメなルート。

>>脳内ピンク・シャルロット!
 どこの企画だろうネ、ブローネ。


>>部屋入った時にテレビの音しなかったの?
 へ、ヘッドフォンしてたから(震え声

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