私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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イイかい? 文法間違いだなんていうんじゃないぞ? 決してだ!
文章が乱雑すぎて申し訳ないです。

ちょっとグロ注意


54.I killed She

 天気は良かった。

 快晴と言っても過言ではない、真っ青な空が広がり、雲一つ無い空がまるで無限に広がっているような。

 

「おぉ……すげぇ」

 

 思わず出てしまった言葉を俺は抑えることが出来なかった。

 IS世界大会第二回モンドグロッソ、その会場にあたるその場所を見上げて、俺は呆気に取られながらも口に笑みを浮かべていた。

 俺、織斑一夏の姉、千冬姉がこの場所で戦い、そして勝利している。

 俺にしてみれば千冬姉が負けている姿も思いつかず、けれども世界の枠といわれれば純粋にその凄さも理解できる。

 けれど、やっぱり千冬姉が負けるところなんて想像が付かない。だってあの千冬姉なのだ。

 負けるとすれば絶対対戦相手が人間ではないのだ。ドラゴンとか、オーガとか、とにかく人間よりも優れた生物な筈だ。いや、別に千冬姉のことを人間扱いしてない訳じゃない。

 

 ともあれ、外国なのである。

 ここに呼ばれるにあたり少しは勉強したこの国の言葉もさっぱりだ。

 幸いなことに会場は日本語で書かれているが、他はサッパリ分からない。この国のお金も分からなければ、隣にいるオッサンの言葉も何を言っているか分からない。

 

「ま、入っちまえばいいか」

 

 ポケットに入っているチケットを取り出して入場口を確かめる。まあ確かめた所で周りは大人達の壁でさっぱり分からない訳だけど。

 時間を確認すればまだ余裕はある。そもそも千冬姉の試合しか興味が無いし、チケットを渡してくれた千冬姉自身も「決勝だけで問題ない」と豪語していたのだ。

 つまるところ、千冬姉は勝つのである。

 例え何が相手であろうと、千冬姉は勝つのだ。

 

「うわっ」

「っ」

 

 大人達の体を擦り抜けてきたのか、勢い良く俺にぶつかった子供。

 胸に飛び込んできた子供を抱きとめて、見てしまう。

 銀色に紫を数滴落としたような綺麗な髪。可愛い顔、そして深くて青い二つの瞳が俺を見上げた。

 

「……大丈夫か?」

 

 俺は少しだけソレに見蕩れていて、当たり前の言葉が少しだけ遅れて出てきてしまった。

 俺の経験則から言えばこの少女はきっと「何触ってんのよ!この変態!」とか言って俺を叩いてどこかに行くのだろう。災難でしかない。

 

「▲■@&#●?」

 

 それ以前の問題だった。

 やばい言葉が分からない。どうしよう。

 迷っている俺を見ていた少女はキョトンとした顔で目を何度か瞬きさせ、ニッコリと笑ってみせた。

 

「えっと、ニホンゴでだいじょうブ?」

「お、よかった。日本語が通じるんだな」

「すこシ。あんまりうまクない」

 

 どこかイントネーションがオカシイけれど、十分に聞き取れるし、問題は無い。

 俺が問題ないと言えば、彼女はふわりと俺の胸から離れて首を傾げる。

 

「キミも、このシあいに?」

「おお。千冬姉……あー、姉が出てるんだ」

「アね?」

「えっと、シスター? マイ、シスター」

「sister そう」

「君は?」

「わたシはwork……シゴと?」

 

 俺よりも小さいのに随分とちゃんとした子だ。というかこんな歳から働いてもいいのか?日本と法律が違うからいいのか。

 彼女も彼女で当たり前の様に言ってるから、きっとソレが普通なんだろう。

 

「ヨければ、あんない? スル」

「それは助かるけど、仕事は大丈夫なのか?」

「だいじょうブ。 あんなイ、もシゴト」

 

 なら大丈夫なのか。

 彼女はニッコリと笑って俺の腕を掴んだ。笑顔のまま俺を連れて行く。

 俺もどうしてか楽しくなって、笑いが浮かんできて、この子と一緒に歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アっさり」

「そうだな」

 

 子供だけだったというのに、随分と簡単に会場へと入ることが出来た。

 チケットがあったからだろうけど。問題は無いんだろうか。彼女を見れば、肩を竦めてみせているし。

 

「ン……」

「どうかしたのか?」

「……もんダいない」

 

 鋭くなった瞳であたりを見渡して、彼女はすぐに笑顔へと変わった。

 俺も釣られて周りを見渡したが、何も無い。ソレこそ観覧客しかいないのだけれど。

 

「…………セキは?」

「ん、えっと」

「……コレだと、むこウ」

 

 また腕を掴まれる。この子、見た目は細いのに意外に力があるんだな。

 あと歩く姿が物凄く綺麗だ。いや、容姿の話ではなくて歩き方の話。姿勢がいいというか、腕を引かれて分かるけど歩くのに一切の無駄が無い。

 前を歩いている彼女に連れられていると、人の間を容易く抜けれるからスピードがあまり落ちない。

 

「ははっ……すげぇ」

「?」

 

 こうして人の間を抜けるのが慣れているのか。それでも、コレは凄いことだ。

 会場の中だというのに、人に当たることなく移動できるなんて。

 

 思わず笑ってしまう。その顔を見た彼女は訝しげにしていたけれど、スグに前を向いてその足を進めている。

 

 

 

 

 

 少し進んだ所で、彼女は停止した。どうやら目的地に着いたらしい。チケットを確認してみれば、確かに席番号と近い。

 

「ありがとう」

「キにしてない、ワタしもこの近くの席」

「そうなのか?」

「ん」

 

 ヒラリと彼女が見せたチケット。そこには自分の隣の番号が書かれていた。なんとも、運命的である。

 

「おお、隣じゃねぇか」

「?」

 

 彼女は分かっていないようで、俺が手に持っていたチケットへと顔を寄せる。同時にソレは俺の顔が近くなると言うことで。

 乳製品のような甘い匂いがふわりと鼻の中へと入ってきた。女の子ってこんないい匂いしてたっけ。

 

「ホんと」

 

 チケットから俺へと視線を向けた彼女はまたニッコリと笑う。

 顔が熱くなってしまう。きっと今の俺の顔は赤いことだろう。

 顔でも洗って落ち着こう。

 俺が踵を返してトイレへと向かおうとすれば彼女も吊られて動く。

 

「? どうしタ?」

「いや、ちょっとトイレに」

「トイレはこっち」

「一人で行けるよ!」

「…………そう」

 

 少しだけションボリした彼女は俺の腕から手を離して両手を宙で握った。それでも彼女は笑顔を浮かべて見せて、俺を見送った。

 

 

「あぁ、緊張した」

 

 胸辺りを手で押さえてみればまだバクバクと心臓が脈打っている。

 新造した心臓……なんてシャレにもならないな。保留。

 

「あぁ、少年。少しいいかね?」

「ん?」

 

 俺を呼び止めたのは重そうなスーツケースを持ったおじさん。俺は脚を止めておじさんの方へと向かった。

 

「どうしたんだ?」

「いや、荷物が重くてね。少し手伝ってはくれないか?」

「いいぜ。コレを持っていけばいいのか?」

「ああ、重いから気をつけてくれたまえ」

 

 スーツケースの取っ手を持ち、重さの確認の為に持ち上げよとしてみる。

 そうすればヒョイと軽々と持ち上がったスーツケース。

 

「? コレ、すげぇ軽いけど」

「ああ、今から重くなるのさ」

「え?」

 

 途端に腹に衝撃。俺が最後に見たのは嫌に笑う男の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 ぼんやりと、目が覚めた。

 顔が床に擦れて、痛みで目が覚めた。ココは、どこだ?

 

「メがさめた?」

「え?」

 

 近くにいたのは一緒にいた彼女であった。銀色に紫色を混ぜた髪を揺らして、俺を心配そうに見ている。

 体はロープで縛られていた。

 俺も、身じろぎすてようやく縛られていることに気がついた。

 

「ココは」

「ドコかの廃工場」

「なんで、俺が……というかキミもどうして」

「キミが攫われるのを見たかラ」

 

 俺が攫われたのを見たから、彼女が攫われたのか……。俺が、どうして俺が攫われた?

 

「マ、起きたなら、イコう」

「行くって、縛られてるんだぞ」

「うん。だから、切る」

 

 よっ、なんて簡単そうな声をだして、彼女の縄はまるで彼女を嫌うかのようにすんなりと解けた。

 立ち上がった彼女の手には一本のナイフが握られていて、先ほどまでの彼女とのギャップがありすぎて追いつけない。

 

「イチカ・オリムラ。ワタしの最期のエモノ」

 

 彼女はナイフを改めて握り直して、ソレを俺へと伸ばす。

 エモノ? 最期? というか、どうして俺の名前を知ってるんだ?

 

「……チッ」

 

 舌打ちをして彼女は俺に背中を見せる。ふわりと浮いた上着の端からナイフの柄が見えた。

 腰元に着けられたソレには『RUANA』という文字。

 

「少し、ここにイて」

「え、あ、おい」

 

 『RUANA』は俺を置いて廃工場を歩く。歩く度に鳴るはずの足音が極端に小さい。

 無い訳ではない。けれどソレこそ小石を蹴飛ばして鳴っている程度なのだ。

 

 積まれた荷物の間に隠れた『RUANA』。そして、静寂が少しの間続く。

 途端に何かを破裂させた様な音が聞こえた。

 映画とかで良く聴く、銃声。ソレが今、俺の耳に直接聞こえている。

 

「なんだよ……何なんだよ」

 

 どれだけ頭を動かしてもさっぱり分からない。なんだ? 『RUANA』は何処かのエージェントで俺を攫った人間を倒しにきたのか? 俺と一緒に攫われたのに?

 

「モどった」

「ッ」

 

 そこには髪を真っ赤に汚した彼女がいた。

 顔の端々に血痕を付着させ、ナイフからは赤い液体が落ちている。

 

「キミは……いったい」

「イミの無い質問」

 

 彼女は仕切り直しのように俺にナイフを向ける。赤い液体がポタリ、ポタリと地面に落ちていく。

 そして、ナイフを振り下ろせば、俺を縛っていたロープが切れて落ちた。

 

「ニげる」

「え?」

「まだ、イる」

「オイ、オイオイ! コイツはどういう事なんだ!!」

 

 『RUANA』の言葉とほぼ同時に声が廃工場に響く。『RUANA』は目を鋭く細めて声の方向を向いた。

 ソコには、男の頭を掴んだ女がケラケラと笑って立っていた。

 男の頭、だけを持っているのだ。

 

「どういう事だ、説明してくれよぉ。

 いつの間にか、首だけになってました。許してください。

 あぁ、私の心は広いからねぇ、許してやるさ。ただテメェら揃いも揃ってガキに負けてんじゃねぇよ!」

 

 女は俺達に向かって頭を投げてくる。投げられたソレを『RUANA』は手で防ぎ、別の方向へと投げ飛ばす。

 俺の後ろでグシャリと音が響いた。

 

「クソツマンネェ仕事だと思ったらどうだい? 随分とおもしれぇ事になってんじゃねぇか」

「…………」

「喋れよ。私だってこのツマンネェ仕事で鬱憤が溜まってんだ。いつもならテメェが誰の差し金でソイツを狙ったのか聞いてる所だがどうでもいい」

「……イチカ、にゲろ」

 

 『RUANA』は確かにそう呟いた。

 そして時間は稼ぐといわんばかりに、一歩前に出る。

 

 けれど、どうしてだろう。

 チラリと見えた彼女の顔が嗤っていたのは。

 

「コレだけの芸当が出来んだ。私を楽しませてくれるんだろう?」

「カッテにタノしめ。それで、死ね」

「ああ、楽しんで殺してやるよ!!」

 

 女の叫びが開幕だったようで二人が弾かれたように動き出す。

 『RUANA』はナイフ一本。そして女は腕に装甲を出現させニタリと嗤っている。

 

 合流すると同時に、金属音。

 

「ハ、ハハっ!! スゲェな! ISの一撃を高々ナイフ如きで止めれるなんざ思いもしなかったぜ!」

「……」

「ダンマリかよ!」

 

 『RUANA』は弾き飛ばされ、俺の近くまで転がってきた。

 

「大丈夫か!?」

「大丈夫に見えるのかい?」

 

 『RUANA』に手を出せば、その手を弾かれる。彼女はニヒリと笑っていて立ち上がる。

 

「オイオイ、テメェ生身なんだろ? どうして立ちあがんだよ」

「……」

「……あぁ、そうかい。ダンマリか。 まあいいさ。どうせ邪魔は消すだけさ」

「……くふっ、ヒヒッ!」

 

 『RUANA』が声を出す。引き攣った様な嗤い。ナイフを構え直し、その切っ先を女へと向ける。

 

「邪魔なのはお前……コレは私の獲物」

 

 狂ったように嗤った彼女とソレを鋭く睨んだ女。

 『RUANA』はまた足を動かして、女へと突進する。女はソレを正しく睨みつけながら、背中から八本の鋭い何かを伸ばした。

 

「ああ、そうか。じゃあ死ね」

 

 鋭く尖ったソレらが『RUANA』へと向かう。

 一本目、ナイフで弾く。

 二本目、徒手だった左手で反らされた。

 三本目、彼女の背中から生えた(・・・)

 四本目、彼女の背中から生えた(・・・)

 五本目、彼女の背中から生えた(・・・)

 六本目、彼女の背中から生えた(・・・)

 七本目、彼女の背中から生えた(・・・)

 八本目、彼女の背中から生えた(・・・)

 

 女は勢い良くソレを抜いた。俺はソレを見てしまった。

 彼女は身を呈して、俺を守ったんだ。

 引き抜かれ、両足で立っていた彼女はドサリと地面へと崩れた。

 

「……チッ」

 

 女は舌打ちをして頬を拭う。そこには赤い線は入っていて、タラリと血が流れている。

 

「ISの防御を貫くだ? 化け物かよ」

 

 女は彼女を蹴り飛ばし、彼女は床を転がって俺の方向へと飛んでくる。

 流れる血液。腹はグジュグジュで、赤とどこか黄色の混ざった白が見えている。

 

「ん……おお、終ったか。じゃあ、こっちも退避する。 ん? 機嫌がいい? 化け物退治をしたんだよ。勇者みてぇって切られてるよ」

 

 女はフワリと浮かんだ。俺はそれを睨みつける。

 女はソレに気付いた様で俺の方を向いたが、溜め息を吐き出してみせた。

 

「オイオイ、ソイツがそうなったのは私がしたけど、お前にも少なからず責任があるんだぜ?」

「俺に?」

「あったりまえだろ? 元々ソレは攫うつもりはなかったんだ。結果的に言えば、ソレが死んだのはお前の責任でもある」

 

 ま、どうでもいいけどな。そう言い残して女は飛び去った。

 

 つまり、この血塗れの彼女は俺のせいで死んだのか。こうしてだんだんと冷たくなっていく彼女は、俺が殺したのか。

 

 

 

 

 

「一夏!」

 

 少しして、と言ってもたぶん二分ぐらいで聞きなれた姉の声が聞こえた。

 千冬姉は驚いた顔で俺を見て、俺が抱き締めているソレを見つめた。

 

「千冬姉……彼女を……ルアナを助けてあげて」

 

 そこで、俺の意識は落ちてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたのは病院で、俺の前には心配そうな顔をした千冬姉が居た。

 俺は周りを見渡して、彼女が居ないことを確認してしまう。

 

「あの子……ルアナは!?」

「……」

 

 千冬姉は黙って首を横に振る。

 あれほどの傷を負ったのだから、生きているなんて思わなかった。

 思わなかったけれど、それでも、と考えてしまった。

 

「俺の……俺のせいで」

「一夏の責任ではない……」

 

 俺の頭を抱き締めて千冬姉はそう呟いた。袖を掴んで、目頭が熱くなり、気がついたら、俺は涙を流していた。

 

 

 数分程して、俺の病室にノックが響く。

 千冬姉の許可と一緒に扉は開かれ、ヒョコリとウサミミが現れる。

 

「やぁやぁ、いっくん」

 

 まるで一人で不思議の国を体現したような、そんな束さん。

 ニッコリと笑った束さんは両手を大きく広げて口を開く。

 

「私が、君のお願いを叶えてあげようか?」

「え?」

「だからぁ、私が彼女を直してあげよう」

 

 出来る、のだろうか。瀕死の人間を。

 

「おやおやぁ、いっくん。私を誰だと思っているんだい? 誰かからは神様から最も近いっていわれてるんだよ?」

「でも……」

「いっくんは私に願えばいいんだよ。彼女を生き返らせてください、ってね」

 

 そんな簡単に言えることなのだろうか。

 でも、生き返るなら。そっちの方がいいに決まっている。

 生きているなら、生きていることこそが、一番いいに決まっているのだ。

 

「束さん」

「はいさぁ!」

「お願いします」

「うんうん、わかったよいっくん。君の願いは十全に叶えてしんぜよう」

 

 だからこそ、俺は彼女に恨まれることになるのだ。




>>ベタぁ……
 せやな。
 モンドグロッソ二回目で彼女と一夏は出会いました。なんて運命的なんでしょう!! 笑いが出ますね。

>>『RUANA』
 そういう名前のナイフ。正確にはブランド。

>>どうして一夏は『RUANA』を見てルアナと名前を?
 ほら、よく小さい頃に言われたでしょう?
 自分の持ち物には名前を書いておきなさいって。

>>過去は二面性がある
 一夏の視点で語るのはココまで。
 あとは蘇らせて、うわー、みたいな事は次に書きます。

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